「相棒」   作:ダンちゃん1号

101 / 209
とある巫女の備忘録 その①

ウィンダは、エリアルが自分を救出しに来てくれたことがとても嬉しかった。互いの部族が戦争を行って、ウィンダとエリアルは何度も殺し合った。

もちろん互いに互いの仲間を傷つけ、時には物言わぬ骸に変えてきた

最終的に戦争こそ有耶無耶になったが、それでも互いに傷つけあったという事実は変わらない。

だからこそエリアルが助けに来てくれたことが、ウィンダには嬉しかった。

 

「本当にあの頃から変わらないよね、エリアルは。」

 

今では唯一無二の親友である、エリアルとの出会いは、「最悪」なんて言葉じゃ足りないほどに最悪だった。

だって、二人は殺し殺されが常の戦場で出会ったから。

それでもウィンダはその過去を懐かしむように思い出す。二人の全ての始まりはそこにあったのだから―――。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

ガスタの巫女 ウィンダにとってリチュア・エリアルという少女は不倶戴天の仇でもあり、だが、それ以上に放ってはおけない、危うげな少女だった。

彼女とは戦地で何度も戦ったし、いつも決着は着かなかった。エリアルとウィンダは何度も何度も戦い合って、それでも互いの事なんてよく知らなかった。

でも、これから先もきっと理解し合う事なんてできないし、する必要もない。ウィンダはそう考えていた。何故なら彼女はガスタに侵略を行うリチュアの一員だったのだから。

あの時、あんな目をしたエリアルと出会うまではそう考えていた。

ウィンダが彼女の事を知るきっかけになったのは、ひょんなことから平時の彼女と出会ったからだ。

その日は珍しくリチュアからの侵略活動が無く、次の戦いに備えている日だった。そんな中、ウィンダはミストバレー湿地帯でエリアルと遭遇する。

 

「アンタは…。」

「リチュア・エリアル…!?」

 

ウィンダは無意識的に戦闘態勢を取っていた。いつでも自分の使い魔であるガスタ・ガルドの力を引き出せるように警戒して、少しだけ距離を取った。ウィンダとガルドは今までにたくさんのリチュアの戦士を倒していることから、最近はリチュアの軍勢に最優先で狙われている。それも相まって、この場で戦闘が起きるという最悪の事態を考えた。だが、エリアルは攻撃せずにその様子を見守るばかりだった。

 

「攻撃、しないの?」

「こんな所で戦闘したら流石に僕がガスタの戦士に殺されるって。例えアンタを殺したとしてもね、ガスタの巫女 ウィンダ。」

 

エリアルは呆れた様子でそう話した。そのまま彼女はウィンダの様子を気にせずに言葉を続ける。

 

「そもそも今日の僕は食料を取りに来ただけ。知ってるでしょ、リチュアの資源の無さくらいは。」

 

そんな事を言いながら釣り糸を垂らし始めたエリアル。ウィンダというガスタの大将格がすぐそこに居るというのに呑気なものだ、とウィンダは思った。だが、エリアルの次の言葉にウィンダは思わず耳を疑う事になる。

 

「だからと言って侵略するなんて間違っていると思うんだけどな。」

 

その言葉を聞いたとき、ウィンダは弾かれるようにエリアルの方を向いた。彼女も自分が何を呟いたのか、今になってはっきりとわかったようで、口元に手を当てている。それこそ、「自分は何を言っているんだ」と困惑しているようでもあった。

 

「…僕は、何を…?」

 

彼女は侵略者だ。ミストバレーと呼ばれる地にある豊富な資源を狙ってガスタを支配しようとするリチュアは侵略者で自分達の敵。

 

(でも、本当にそれでいいの…?)

 

だが、目の前の少女の光の無い瞳を見て、本当にそれが正しいのかさえウィンダは分からなくなっていた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

リチュア・エリアルにとってガスタの巫女 ウィンダという少女は何処か甘さを捨てきれない少女であった。あの日、ミストバレー湿地帯付近の湖で食料集めをしていたら彼女に遭遇した。いきなりの仇敵の登場にエリアルはかなり焦ったが、当時、持っていたのはたった一本の釣り竿だけ。だから、なんとか戦闘を回避し、食料集めに戻れたのは僥倖だった。

だが、釣りをしている最中、自分でも思ってみなかった言葉がその口から洩れだしたのだ。

 

「侵略するなんて間違っている。」

 

その言葉をリチュアの集落内で呟いたならば、恐らくは"儀式の実験"と称して殺されてしまうだろう。

幸い、その言葉を聞いているリチュア側の孫差しが居なくてよかったといったところか。

そして、そんな事を漏らしてしまってから、数日。再び、ガスタ侵攻の時がやって来た。

今の自分はただの冷酷な簒奪者。使えるものは何でも使い、奪えるものは何でも奪う。それは、敵対するガスタの戦士たちだってそう。生け捕り出来れば拷問して情報を吐かせたのちに儀式の実験体として使って処理してしまえばいいし、生け捕り出来なければ戦場に転がる屍になるだけだ。

 

「これで良いんだ…これで。きっとガスタを侵略すれば母さんも正気に戻ってくれるんだ…!」

 

きっと、エリアルは急に侵略戦争を始めたノエリアに対して何かおかしくなってしまったと感じていた。でも、それはきっと資源の無さからくる焦りの中で生まれたモノで―――資源が潤沢になれば優しかったあの頃に戻ってくれると本気で信じていた。

 

「だから、今ここで、アンタを殺さなくちゃいけないんだ…!」

 

そして今、エリアルはあの日に出会った少女―――ウィンダの命を狩る一歩手前だった。

二人は戦場で会敵してからというモノ、エリアルの蹂躙にウィンダが耐え続けているだけの状態だった。

ガスタの秘術で風を操るウィンダに対抗するようにエリアルも呪術を用いてウィンダの命を狙う。しかし、ウィンダはあの時のつぶやきが耳に残っているようで、エリアルに対してそこまで強く出る事は出来なかった。

だが、エリアルにとってウィンダは狂気に陥った母を正気に戻すための障害でしかないのだ。だから、容赦なくその命を刈りに行った。

ただ、自らに儀式を施し、"マインドオーガス"としての姿を露わにした後、背後からウィンダを強襲。エリアルの下半身が変じた獣の爪や牙でウィンダを嬲り、そしてウィンダに投降を薦めた。

だが、ウィンダはそれを蹴ったのだ。情報を漏らすわけにはいかない、と。

そしてエリアルは自身の下半身が変じた獣にウィンダの体を押さえつけさせる。

―――そして、何故か、そこから先の行為を行う事が出来なかった。いつもの通りに獣の牙でウィンダの喉笛を噛み千切ろうとしてその動きを、止めた。

 

「殺さないの…?」

「…うるさい。」

 

少しづつ頭が痛み始める。いつもやっている行為なのに、どうして、相手が彼女だととどめを渋ってしまうのか。友人というには二言、三言交わしただけで、そういう関係には程遠いというのに。

だから、躊躇する理由なんてないはずなのに。どうしてもウィンダに最後の一撃を加える事が出来なかった。

 

「…やっぱり。エリアルは優しすぎるよ。」

「うるさいッ!」

 

いつまでたっても最期が来ないウィンダにとうとう「優しすぎる」とまで言われてしまう。そんな言葉を掛けられてなお、エリアルはウィンダを離さなかった。

 

「貴様ァ!ウィンダから離れろォッ!」

「くっ・・ガスタの族長…ウィンダールか!」

 

ウィンダを殺すという決心が出来なかった。それだけで、戦況が不利になってしまう。現に、リチュアの精鋭数人で包囲していたはずのウィンダールが包囲を抜け出してエリアルにその敵意を向けていた。

 

「流石に分が悪い…。」

 

ウィンダを解放し、儀式を解き小回りの利くいつもの姿に戻ると、エリアルはその場から退散した。

どうしてか、妙に目が熱かった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

ウィンダはエリアルに押さえつけられたとき、自らの死を覚悟した。

だが結局彼女は自分を殺すことなく撤退していった。

それにあの時の彼女はなぜか投降を薦めてきた。結局情報をすっぱ抜かれる可能性があったためにその提案は蹴ったが。その時に見せた彼女の悲しそうな表情はきっと幻覚じゃない。

 

「エリアル…泣いてた…。」

「あいつが…泣いてた…、ねぇ。そりゃ当事者であるあんたにしか分からないこともあるだろうさ。」

「リーズさん…。」

 

それにあの時、エリアルは涙を流していた。たった二言三言しか交わしていない自分を殺そうとするときに涙を流していた。きっと、エリアルもあんな戦い本心では望んでいない。そうじゃなければあそこで涙を流すはずがないのだから。

 

「ま、あんまり相手に情を移すのはやめときな。…エリアルは私達の仲間を何人も殺してる。」

「…でも、エリアルにとっては自分が"それ"なんですよ。」

 

リーズはエリアルはガスタの同胞を何人も殺していることを指摘して、それで彼女に情を移すなと釘を刺してきた。ウィンダはその言葉に思わず、言葉を返してしまった。エリアルが何度もガスタの同胞を手にかけているように、ウィンダだって何人もリチュアの―――エリアルの同胞を殺してきた。

それが戦場だから、そうしなければ自分の身も、ガスタという自分の居場所も守れないから。

だから、正直に言えば自分はあの場所でエリアルに殺されていてもおかしくはなかっただろう。

否、エリアルが仇敵だとかそういうのに無頓着でなければ、もしくは彼女の性根が優しくなかったら、確実に殺されていた。こちらは戦力の中核の内の一人を失う事になるし、殺しておいた方が後々の戦況に有利に働くというのにわざわざ見逃すメリットがない。

 

「…やれやれ。本当にウィンダは甘ちゃんだねぇ。」

「ははは…すみません。」

 

呆れたようなため息を吐くリーズにあはは、と笑って返すウィンダ。だが、ウィンダにはあの時に自身の頬を濡らした何かがどうしても彼女の本心に思えて。

でもそれを心の奥底に封じ込めて、次の接敵時にはいつものように倒すだけ。

そう決心したウィンダは今はエリアルに嬲られた傷の治療に専念することにした。

 

だが、彼女がその傷を癒し終えて、再び戦場に立った時、もうそこにエリアルの姿は無かった。

彼女との再会は思いも寄らない土地で、思いも寄らない方法で急に訪れるのであった。




キャラ紹介

・ウィンダ
ガスタ族長ウィンダールの娘。この時点でウィンは里から出ていっている。ぶっちゃけ血なまぐさい世界にウィンを叩き込まずに済んだので心の底から安堵している。

・エリアル
リチュアのガスタ侵攻の主力メンバーの一人。性根はめちゃくちゃ優しいが、自衛のために既に何人ものガスタの戦士を殺してしまっている。


唐 突 に 始 ま る 過 去 編
はい。
すみません。
暫くは実習やらなんやらで忙しいのですよ。
なのでここは没にするはずだったエリアルとウィンダの過去を自分なりに解釈したものに加えて、この世界の設定に即した設定で二人の過去を書いていきます。
要するに―――

独自設定がもりもり出てきます。

というわけで次回もお楽しみに。

水樹君のデッキ強化

  • ネクロス
  • リチュア
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。