「相棒」   作:ダンちゃん1号

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とある儀式屋と巫女の備忘録

 

エリアルは頭を悩ませていた。もちろん水樹との生活をどう送るかについて、である。だって流石にこの家で生活を送り続けることはできないだろう。ガスは既に止まっていて、届いている書状を見るに、そう遠くないうちに水道も止まるようだ。

最悪水は自身が生み出せばいいだけの話だが、流石に水でのシャワーやその他もろもろは完全に風邪をひいてしまう。こんな状況で病気になんてなったらそれこそ即アウト。栄養状態の整っていない水樹はいとも容易く病気に負けて死んでしまう。

 

「ねぇ水樹。なんかこの辺に孤児院みたいなところってない?」

「こじいん?」

「そう、水樹みたいな早くに親が遠くへ行っちゃった子を預かってくれる施設。」

「…わかんない。」

 

エリアルは取り敢えず、水樹に似たような境遇の子供たちが集まっている場所がないか聞いた。その結果は芳しくないものだったが。

 

「僕は、この家でいいよ?お姉ちゃんと二人きりなら…。」

「…死ぬ気?」

「分からない。でも、おかあさんが居る所にいけるのならって…。」

 

それに水樹は母親の影を追って死ぬ気だった。といっても、本人にはその行為が「母と同じ所に行ける」行為くらいの認識しかなかったが。

 

「お姉ちゃんを置いていくの…?」

 

エリアルは若干の呆れと、それ以上のむなしさを覚えて水樹に聞いた。だが、それも水樹の持ち前の純粋さの前には何も意味を為さなかった。

 

「…え?お姉ちゃんも付いてきてくれるんじゃないの?」

 

彼はどうやら自分を家族に紹介したいご様子。だが、それが不可能な行為であることを教えてやらねばならない。そしてどうやってでも水樹が前を向けるようにする事もこれから必要になってくるだろう。エリアルは水樹の顔を両手で挟むと自分と向かい合わせた。

 

「いい?よく聞いて?」

「どうしたの、お姉ちゃん。」

「君のやろうとしていることではきっと君のお母さんに会う事は出来ない。」

「なんで…?」

「君たちのお母さんは良い事をした人たちが行ける場所に居るんだよ。でも、君は自分をい詰めてそこに行こうとしている。…でもね、それはとても悪い事なんだ。」

 

もし、死後の世界なんてものがあるのなら、という仮定でだが。彼の親は家の書類とかを見る限りではまっとうな人間だ。その魂はきっと天国に召し上げられている事だろう。だが、自ら命を絶った者―――つまりは自殺を行ったものは地獄で木になってその体から生えてくる新芽を貪られ続けるらしい。

もし、魂となった体でも痛みを感じるのならばそれはきっと、死んだ方がマシになるレベルの苦痛だ。

 

「じゃあ、どうすればそこに行けるの…?」

「生ききるんだよ。生ききって、そして悪い事さえしなければきっと君のお母さんの所に行けるよ。」

「そう…なの…?」

「うん。だからその時まで、僕が君を支えてあげる。君の姉として、家族として。」

 

自分に依存させてでもいい。何とかして水樹を生かす事がエリアルの目標になっていった。だって、水樹に自分を重ねてしまったのだ。もう、水樹の事を他人事だとは思えなかった。もう、水樹を生かす事しかエリアルの頭にはない。それこそ自分と因縁のある少女の事なんてとっくに意識の外だ。気づけば、昔に二言三言交わしただけの少女の事などすっかりと忘れていたのだった。

 

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エリアルが何とかして水樹を生かそうと決意してからすでに幾日が経過した。だが、どこに行っても孤児院はおろか、子ども食堂さえ存在しない。だが、子供向けの大会でも普通に賞金10万円とかが出るようで、しかもそんな大会が毎日どこかで開かれているようだった。

 

「まさか、何処まで行っても決闘(デュエル)優先…。」

 

どうやらこの世界では生きていくのには決闘(デュエル)の腕が必要なようだ。逆に言えば両親を喪った子供でも決闘(デュエル)さえ強ければ食べていくのに困らない程度にはお金を稼いでいけるらしい。

 

「とんだディストピアじゃない…。」

 

エリアルは思わず呟いてしまった。自分が決闘(デュエル)をしてしまえば必ず相手に何かしらの危害を加えてしまう「闇の決闘」になってしまう。だから自分が決闘するわけにはいかない。

 

「…どうしようかな…。」

 

少なくともまだ、水樹は自分達"リチュア"をまともには回せないだろう。それでも、二人で生き抜くためにはやるしかないこともエリアルは分かっている。

 

「水樹、大会に出るよ!」

「え…?なんで…?」

「お金稼ぎのため!」

「…勝てるかなぁ?」

「僕が後ろでサポートしてあげるから!―――こっそりね。」

 

だから、エリアルは全力で少年をサポートすることにした。エリアルからしてみればデッキトップを弄るなんてお茶の子さいさいだ。勝てる手札か、もしくは動ける手札にする。もちろん傍から見ればデッキの構築がいいだとか、切り札を引き寄せる確率がちょっと高いだとか、そんな感じにみられるはずだ。流石に精霊の仕業だとは思うまい。

 

(…さすがに、精霊連れの子が居たらバレるけど…ありえないでしょ。)

 

エリアルは何とか大丈夫だと自分を鼓舞して水樹を連れて外出していく。二人は日銭を稼ぐためにお小遣い目当ての少年達の心をへし折りに出かけたのであった。

 

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「バトル!"リチュアル・ウェポン"を装備した"イビリチュア・マインドオーガス"で"ブラック・マジシャン"を攻撃だよ!」

「うわぁぁぁぁ!」

 

なんやかんやで水樹とエリアルは今、子供向けの大会の中で"リチュア"を用いることによって優勝賞金を乱獲していた。その額すでに百万近くになる。

 

(今回はワンキルしないの?)

(おバカ!毎度毎度やっていたら疑われるよ!)

(それもそっか…。)

 

実はリチュアには後攻ワンターンキル―――ワンショットキルを行う動きがあるのだ。それに失敗しても普段のリチュアはアドバンテージの回収効率が異常なため、パワー至上主義の側面がより強い子供相手では苦戦する要素もなかった。最高火力も"リチュアル・ウェポン"を装備した"イビリチュア・マインドオーガス"の4000と非常に高く相手をした子供は尽くその心をへし折られて泣いて親に縋り付いていた。

水樹はそれを複雑な表情で眺める。自分にも両親が居ればあんな風に甘えられたんだろうか、と。

 

(後でたっくさん、ほめてあげる。今は、目の前の戦いに集中して。)

(うん、そうだね。)

 

だが、水樹の考えを見抜いているエリアルにはその葛藤は無意味に等しい物だった。水樹の家族として自分が居るのだから、後で好きなだけ甘えさせてやればいい。

 

(今は生活できるだけ稼がないと…!)

 

この世界に来て即餓死だけは勘弁被りたいところだし、水樹を一人にしたらそれこそ簡単にその命を捨ててしまうだろう。だから、ここで優勝して取り敢えず溜まったガス代電気代を払ってしまいたいところだ。

そうは言っても二か月分。この大会で勝とうと負けようと問題ない額は稼いでいるが。

 

『それでは子供の部の決勝戦を始めます。―――両者、前へ。』

「はい!」

「はい!」

 

水樹とその相手はアナウンスに従って堂々と向かい合う。これから始まるのは一方的な蹂躙劇だというのに、相手の少年は何処か自信に満ちていた。

 

『決勝戦を開始してください。』

 

その機械的なアナウンスに従い二人は向き合った。

 

「俺のね先攻だ!…えーと、俺は、"ガスタ・ヴェズル"を召喚。効果でデッキから"ガスタ・ガルド"を墓地に送って手札から"ガスタの神裔 ピリカ"を特殊召喚するよ。えーと…そしたら"ガスタの神裔 ピリカ"の効果で墓地から"ガスタ・ガルド"を特殊召喚するね。」

(あっ…。)

(え?エリアルお姉ちゃんどうしたの…?)

 

そして目の前の相手がデッキを回し始める。その様子を眺めてエリアルは思わず(念話)をこぼした。その様子を不審に思ったかどうかは分からないが水樹がエリアルを心配しているようだ。

 

(あー…ちょっと、ここに来る前に、ね…。)

 

エリアルは急に表れた少女(ウィンダ)の精霊を連れているらしき少年に頭を抱えた。まさかこんな糞広い世界の中で、こんなに早く出会うとは思いもしなかったからだ。

 

(うわー…会いたくないなぁ…。)

 

エリアルは水樹にも聞こえないような小さな声で独り言ちると決闘の方へと意識を戻したのであった。

 

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あの後、ウィンダは少年を連れて交番に駆け込み、事情を説明。その際に自分が精霊であることを明かしたため少し騒ぎになった。が、それも自分のマスターが抱える問題に比べれば些細な問題だったのだ。

 

「え…?戸籍が無い!?」

「ああ…。だから今までサンドバッグにされていても誰も気づかなかったんだろうな。だって戸籍があればが子供に学校とか行かせてない時点で俺らが動くからな。」

「…そんな…。」

 

少年には戸籍が無かった。こっちの世界に来るにあたって、人間の世界の基本的なシステムは一通り頭に叩き込んだ。だからウィンダは知っているのだ。戸籍が無いとはどういうことかを。名前は無く、公的には存在しない少年に対して何をやられても抵抗できなかったのだろう。だからこそ、ウィンダは彼を救えた事を心の底から喜んで、彼の戸籍が無い事を心から悲しんだ。

 

「…君の願いに応えて正解、だったね。私の名前はウィンダ。もし私で良ければ、君に名前を贈ってあげる。そして、この命尽きるまで君と一緒に居るよ。」

 

だが、哀れむだけではこの少年は救われない。あからウィンダは少年に名前と、自分という家族を贈ることにした。

 

「あれは…。」

 

少年の名前を考える中でウィンダの目に飛び込んできたのはくるくると回る鳥の形をした置物であった。屋根に取り付けられたそれはウィンダもよく知っていた。

 

「風見鶏…。」

 

風見鶏、ガスタの里などでは魔除けとして使われるそれは、彼の名前にピッタリな物だと思った。それはさっと吹く風に揺られて役目を果たし続けている。

 

「あ、そうそう。今日みたいな風を"颯"って呼ぶらしいぞ。」

「颯…颯の人…颯人…。」

 

ウィンダは少年に「風見颯人」の名前を贈る。これから先の未来はきっと風見鶏の魔よけの加護がありますように。ウィンダはそう願わざるをえなかった。

 

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ウィンダはとんでもない儀式使いが居るという噂を聞きつけ、颯人と共にその子供が参加する大会への参加を決めていた。

 

「よし、取り敢えず"クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン"は立てれた…!」

(うんうん、いい感じ!)

 

ウィンダは颯人と共にガスタのデッキを作り上げるとその人物が参加するという大会へと参加することにした。

 

『ああ、ここら辺の決闘大会優勝すれば普通に金出るから』

 

警察官との別れ際にそう言われたことをよく覚えている。だから、この大会に参加することを選んだのだ。そしてひょいひょいと決勝まで勝ち上がって―――

 

「ぼ、僕のターン、ドロー!僕は、手札から"サンダー・ボルト"を発動!"クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン"を破壊!そして僕は手札から"シャドウ・リチュア"を捨てて効果発動!デッキから”リチュアの儀水鏡"を手札に!」

 

相手の少年の使うデッキに思わず気を失いそうになってしまった。

 

(リ、リ、リ、リチュア!?)

 

ウィンダとエリアル―――二人の少女の再会はすぐそこまで迫ってきているらしい。相手のデッキでそれに気づいたウィンダは思わず素っ頓狂な声を上げそうになってしまったのであった。




登場人物紹介

・エリアル
現水樹の姉。未来ではその内…?

・水樹
エリアルを姉だと妄信し心のよりどころにしている

・ウィンダ
颯人に名前を贈った

・少年/風見颯人
名前はウィンダからの贈り物

もうちょっとだけ過去編が続くんじゃ…。

次回もお楽しみに

水樹君のデッキ強化

  • ネクロス
  • リチュア
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