「相棒」   作:ダンちゃん1号

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今日に続く日

霊体化を解いたエリアルと水樹は手を繋いで二人帰途に着いていた。エリアルの懐には今回の決闘大会の賞金である15万が丁寧に収められている。

計、115万。これが今の二人の全財産だった。

 

「危なかったね…。」

「積んでて良かった列車エクシーズ。」

 

結論から言うとエリアルと水樹はガスタ使いの少年から勝利をもぎ取っていた。二人は予防策として儀式モンスターでも突破できないような攻撃力のモンスターが登場した場合の"列車"エクシーズモンスターをEXデッキに搭載していたのだ。

相手の少年は最初は"強欲で金満な壺"のコストと勘違いしていたらしいが。

 

 

「いやー…本当に勝てて良かった。」

「本当に、ね。」

 

そんな事もあってか"ギガスギガスグスタフスペリオルオラァ"が見事に決まり水樹は後攻1キルかつオーバーキルを達成。そして怒涛の勢いで少年の部への参加禁止を言い渡されてしまった。確かに散々大会を嵐に荒らしてたので当然と言えば当然なのだが。

 

「…でもお金稼げなくなっちゃった…。」

 

だが、一番の問題はそれなのだ。ぶっちゃけ水樹は年齢とかそういったものの都合上大人の大会に出ることはできない。後一年早く生まれていたらこんなことにはならなかっただろう。一応、出ようと思えば出る事の出来る大会もあるのだろうが、だいたいそれは非合法な大会だ。負けたら何があるか分からない。

 

「一般の部門だと僕たちには手堅い"灰流うらら"やら"屋敷わらし"やら"原始生命態ニビル"やら"ディメンジョン・アトラクター"やら"虚無空間(ヴァニティスペース)"やらが飛んできそうだからね…。」

「…お姉ちゃんたちでも勝てないの?」

「僕らだって完璧じゃないんだ。流石に対策されたらキツいよ。」

 

そう言ってエリアルは苦笑する。一方の水樹はエリアルも完璧じゃない事を知って何処か安心していた。

水樹に取ってエリアルは勝ち筋を教えてくれる先生でもあり願いを共有した相棒でもあり、共に過ごす家族でもあった。そんな彼女に見劣りしないだけの何かが自分にあるのだろうか―――そんな事を考えていた。

が、その5歳児らしからぬ思考はある少女の大声によってかき消されることになる。

 

「エェェェェリアァァァルゥッ!」

「げっ!ウィンダ!」

 

大声を上げながらこっちに走ってくる一組の少年少女を見てエリアルはあからさまに嫌そうな顔をした。

 

「エリアルお姉ちゃんの知り合い…?」

「知り合いというか殺し合った仲というか…。」

 

エリアルは彼に自分達がしでかしたことをどう伝えようか。ウィンダから視線を外さずにそればかりを考えていた。

 

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ウィンダは少年の隣に居る少女を見たとき、今まで押さえつけていた何かが壊れた音がした気がした。敵対部族とはいえ急に何も言わずに姿を消した彼女に何か言ってやらねば気が済まなかったのだ。そんな時にエリアルの姿を認めてしまえば―――感情は爆発する。

 

「エェェェェリアァァァルゥッ!」

 

気付けば颯人を引っ張って全速力でエリアルの元へと走っていた。エリアルが明らかに嫌そうな顔をしているが知ったことではない。敵対部族の自分が言うのもなんだが心配したのだ。否、物凄く心配したのだ。駆け寄って一発ぶん殴る位は許されるはずだ。

そんな事は颯人の教育に悪いのでやらないしやる気もしないのだが。

 

「…何?ウィンダ。」

「こっちに来てるなら一言位誰かに告げときなさいよ!」

「…ウィンダ。僕と君は敵対してたんだ。伝えるなんてするはずがないでしょ。」

 

ウィンダのツッコミにそっけない声で答えるエリアル。それはそれとして一つ気になるのが―――

 

「エリアルお姉ちゃん、前見れない。」

「その子にとってアタシは毒なの!?」

 

エリアルが彼女が連れている少年の目を両手で覆っているのだ。何というかこれでは自分が相対的にヤバい奴に見えてしまうではないか。

 

「…取り敢えず今のアンタの恰好見せたげようか。」

 

思わずそんなに変な見た目になっているかエリアルに確認を取る。エリアルはそれに頷くと自身が儀式に使う鏡を差し出した。

 

「…え!?あたしもしかしてずっとこれだっの!?」

「そうだよ。」

 

そこにあったのは走った衝撃で服がずり落ちたのか知らないが右肩から富貴が完全にずり落ちていて若干素肌が見えてしまっている。どうやら自分はこんな破廉恥な姿で疾走していたらしい。誰かとすれ違わなかったのが幸運だった。誰かとすれ違っていたらきっと、これら先の人生引き籠りになっていただろう。

 

「…エリアル。アタシを殴って。」

「マインドオーガスになろうか?」

「…多分そうしたらここが殺人現場に変わるんじゃないかなぁ…。」

 

そしてそんなガバを侵した自分を誰かに一発殴ってもらわなければ気が済まない。―――だから、ウィンダはエリアルに自分を殴ってくれと頼んで、エリアルはそれを了承した。

 

「じゃあ、歯を食いしばって―――せーのっ!」

 

その日、一人の少女が空を飛んでいたという噂が広まったとか広まっていないとか。ただ、少なくとも一つ言えるのはウィンダは綺麗に放物線を描いて飛んでいったという事位である

 

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あの劇的なウィンダとの再会から10年近くが経過した。あの後、ウィンダとエリアルは互いの事情を理解し、なるべく出る大会が被らない様にしてお金を稼いでいた。そして今から3年ほど前、エリアルと水樹はずっと水樹の事を探していたという叔父夫婦に出会い、水樹は普通に二人の養子になった。その際エリアルはもう用もないかと思って水樹のもとを去ろうとしたが、少し考えて踏みとどまった。何故だか、エリアルは水樹の傍に居たいと思ったから。もちろん大会に出る回数は激減したが。

 

(こっちは殺し合いがないぶん少しマシなんだよね…。)

 

エリアルはそんな理由でこちらの世界に残る事を決めたのだ

水樹の叔父夫婦はエリアルの事も快く受け入れてくれた。水樹の命の恩人なのだから断る理由がない、と胸を張って見せた。

 

「じゃあ、なんで今まで来れなかったの…?」

 

だからこそ、エリアルは気になるのだ。なんで今頃になって水樹を迎え入れたのか、と。もっと早く来ることだってできたのではないか、と。

エリアルはここでの返答によってはこの家から出ていくことも考えていたが―――

 

「…私の勤めている会社が超グローバル企業でね。日本に戻ってこれるのは10年に一度くらいなんだ。それに、私達は基本的に外交があまり活発ではない国へと行っていることが多くてね。私達は国外の情報を知る手立てが無かった。だから、驚いたよ、日本に帰ってきたら急に弟が居なくなってるんだからさ。―――君には本当に感謝している。弟の忘れ形見を―――水樹を守ってくれて本当にありがとう。」

 

しかし、帰ってきた答えはどうしようもない物だった。情報が入ってこなければ水樹の両親が死んだことにも気づけなかっただろう。事実、水樹の叔父の顔は悔恨に満ちた顔をしていた。

 

「…それで?」

 

だが、理解と―――それを許すのはまた別だ。

エリアルは家族がどれだけ大切か知っているから。

 

「…私達はまた海外へ行かなくてはならなくなった。食べていくのに困らない程度のお金は置いていくけれど―――お願いだ。これからもあの子の家族でいてあげて欲しい。」

「…なんで、それを僕に…。」

「君なんだよ。今の水樹にとって一番大切な家族は君なんだ。」

「でも、僕は精霊で―――」

 

種族の違いだとかそういったものでこれから先、彼を苦しめることになるかもしれない。エリアルはそれがとことん嫌になっていた。

何故かはわからない。確かに自分達は家族だけれど、それは仮の物でしかないから。いつか彼に対して愛想をつかしてしまうんじゃないかと、不安になる。

 

「きっと彼には関係ないんだよ。君がどんな存在か、だなんて。」

「そんなの…。」

「だから、これからも君が水樹を支えてやってくれ。」

「…分かった。」

 

そうだ。これからも自分は彼と一緒に居たい。だからその義父の提案を少しもためらう事もなく受けた。

エリアルは自分の底に眠るよく分からない感情に蓋をして、水樹の家族であることを受け入れた。

 

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そして水樹が高校に入学してから数日、数年ぶりにウィンダと再会することになった。相変わらず姿の変わらないウィンダを前にしてようやくゆっくり話せる時が来たと感じた。

数年前に出会った時は色々と手の回らない状況だったのでたいした話は出来なかったが。

 

「エリアルに呼ばれて、屋上に来たわけだけど…。」

「…来てくれたみたいだね。」

 

エリアルはウィンダと対峙する。二人の間には剣呑な雰囲気が流れていた。先のウィンダールがエリアルを敵視する発言で大っぴらには会えなくなった二人。それに敵対部族でもある二人は本来なら会敵即殺し合いが常だった。でもエリアルはウィンダと殺し合う気はさらさら無い。今のエリアルにはウィンダと話したいという気持ちしかなかった。

 

「…ウィンダ。まずはありがとう。あの時、僕を見逃してくれて。」

「―――それはお互い様じゃない?」

「それもそうだね。」

 

互いに一度は命を見逃したもの同士、ただそれだけの関係だった。

ウィンダは一歩踏み出してエリアルに問いかける。

 

「なんでリチュアはガスタに侵攻してきたの?」

 

その問いはエリアルが予想していたものだ。だってガスタからしてみれば自分達は何処まで言っても侵略者だ。

 

「ミストバレー湿地帯の豊富な資源が欲しかった。」

「…それ、は。私達がそれを独占していた、と?」

「…うん。少なくとも僕にはそう見えた。まともな土地じゃなかったからね、リチュアの里は。それに―――」

 

だからその問いに関する答えもちゃんと用意してあるのだ。確かにウィンダから見れば理不尽な理由なのかもしれない。

それでも、エリアルは一切を隠さずに伝える。

 

「母さんが、元の母さんに戻ってくれるって信じてたから。」

「…え?」

「母さんは行き場を亡くした僕の家族になってくれた。そこにあったのは純粋な気持ちだけ。母さんはただの孤児だった僕を本当の娘として扱ってくれた。」

「じゃあなんで戦争なんか―――。」

「母さんがそう言ったからだよッ!豹変した母さんが!急に言い出したんだ!」

 

エリアルは自分が言っていることがどれだけ荒唐無稽かという事は理解しているつもりだ。それでもある日母が狂って、ガスタへの侵略を指示してきたのだ。それがリチュアがガスタを襲った真相。

 

「そんなのって…。」

「僕だって戦争なんか大っ嫌いだ!何人も人を殺して!仲間がどんどん死んで行って…虚しいだけだよ!」

「じゃあ、なんで止めなかったの!?エリアルが止めてたらきっとリチュアの皆だって―――!」

「一人の意見で部族が止まるか!」

 

エリアルとウィンダは胸に溜まった思いをぶちまける。それは自らを縛る呪縛から自らを切り離しているようにも見える。

そしてその思いは全て目の前に居るお互いへと叩きつけられる。

言葉はいつの間にか殴り合いの大喧嘩に発展していた。

 

「僕はただ母さんと…優しかった母さんと一緒に居たかっただけなのに…。」

「じゃあやりなさいよ!」

「それが出来たら苦労はしない!」

 

ウィンダはエリアルの言葉を、今までひた隠しにしていた思いを聞いた。背景がどれだけ悲惨でも、彼女は数多くのガスタの同胞を傷つけ、命を奪ってきた。それは到底許されるべきではない。それを行ったという事実はこれからエリアルが一生沿い続けなければいけないものだ。それは他の誰にも背負わせてはいけないもの。―――でも、エリアルの気持ちを汲んで戦争を終わらせるための協力位なら出来そうであった。

リチュアとガスタの戦争を終わらせるという事はウィンダの願いでもあるのだから。

 

「エリアル…。本当に戦争を止めたい?」

「うん…。今頼れるのは貴方しかいない…。」

 

エリアルの絞り出すような声にウィンダは相当自体がひっ迫しているであろうことに気づく。なんせ十年も帰っていないのだ。戦線がどうなっているかなんて分からない。

 

「分かった。手伝ってあげる。」

「…ありがとう、ウィンダ。」

 

二人の少女は嘗て振り払った手を今度はがっちりと握る。

殺し合って、子供を守って再会して、思いの丈をぶつけ合った二人は妙なシンパシーを感じていた。家族だとかそういったものは真逆の二人のはずなのに、どこかで通じ合っていた。

もう、二人の間に部族間の抗争は関係なく、わだかまりもない。

殺し合う関係から二人は友人という関係にまでこぎつけたのだ。

 

「―――よろしくね、エリアル。」

「うん。よろしく、ウィンダ。」

 

笑いあう二人の少女を祝福するように、桜の花びらが二人を包んで―――二人はまた笑い合うのだった。




登場人物紹介

・エリアル
一言で言えば水樹に絆された。水樹と出会ってなかったら本心を自覚することもなかっただろうしウィンダと和解することもなかった。

・ウィンダ
割と甘い人。ガスタを侵略したリチュアのことは許せないけれどエリアルの事は信じていい気がした。

過 去 編 終 了

独自設定もりもりの過去編をお送りしました。次回からは元の時間軸に戻ります。
次回もお楽しみに

水樹君のデッキ強化

  • ネクロス
  • リチュア
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