「相棒」   作:ダンちゃん1号

105 / 209
世界を憎んだ男

 

「ついた…!」

「長いよ…!」

 

明らかに時間稼ぎだけが目的のような余りにも長い通路。ようやくその終わりが見えてきた。

 

「でりゃ!」

 

水樹がタックルで鉄製の扉に体当たりする。それは重厚そうな見た目とは裏腹に驚くほど簡単に開いた。水樹は勢い余って扉の向こうへと倒れてしまう。

一瞬、水樹の全身に悪寒が走った。何か嫌な予感もしたが、それ以上にウィンダの所に向かわなければならないため、そんな事は気にする余裕もなかったのだ。

 

「…見かけだけ…みたいだね。」

 

地面に倒れたままの水樹に不器用に手を差し出す少女―――エリアル。水樹はエリアルが心配しているだろうことを受けて早めにその手を取った。

 

「水樹、行ける?」

「勿論。今度は僕らがエリアルの望みをかなえる番だ。」

 

エリアルが水樹の様子を確認する。どうやらどこにも怪我は負っていないようだった。安堵のため息を漏らすエリアル。

 

「じゃあ、行こうか。」

「そうだね―――ん?」

 

扉の向こうにはタイミングよく出て来た奈楽の姿が。エリアルのすぐ近く、閉ざされた扉ががたがたと揺れる。しばらくするとひときわ強い音と共に扉が勢いよく開いた。そこから出てきたのは―――

 

「奈楽!」

「水樹君…!」

 

奈楽であった。奈楽の傍にいるフレシアは何か鉄製の物を花に与えていた。アレが何だったのかは考えない方がお得だろう。

 

「無事だったんだね!」

「そうだね。…所で霊使君は?」

 

奈楽に駆け寄り互いの無事を喜び合う水樹。その会話の中で水樹は霊使がここに居ないことに気づく。奈楽も言われてみればという感じで辺りを見回していた。が、霊使の所在に関しての情報は何も出てこなかった。

まさか負けたのか―――。

そんな嫌な予感がふと、二人の脳裏に過った。

 

「探さない、と?」

 

だが、二人の間に気まずい沈黙が流れたとき、どこかから異音が聞こえた。水樹から見て一番奥の扉から聞こえる何かで扉を叩く音。その音は少しづつ近づいてきているようにも聞こえる。

そして扉から飛び出して来たのは―――

 

「ィィイィィヤッホォォォォオオォウ!」

「「なにやってんの!?」」

 

バイクに乗った霊使とドライバーズハイとでもいうべき状態に片足突っ込んでいるマスカレーナの姿だった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「まもなくここにくる…か。」

 

創はモニターを通じて自分の失策を認めていた。世界でも使われているデッキをもとに警備ロボットんデッキを調整したのだが、あんな力押しで乗り越えて来るとは思いもしなかったのだ。

 

「…完全に予定外だったようだな。」

「全く持って、その通りだ。おかしいくらいだよ。」

 

そう言って星神創は頭を抱えた。警備ロボット一台では足止めすらできないという事なのだろうか。それとも彼らの実力がぶっ飛んでいるか。どちらにしても大きく予定が狂ったのは確かだった。

 

「…私が直々に足止めするしかない、か。」

 

創の目的は飽くまでデュエルモンスターズの消去だ。別に誰がそれを為すかなんて創には関係ない。この世界の歪みを消して、元ある形に―――デュエルだけで全てが決まってしまうディストピアから脱却するために彼は動くのだ。たとえそれが幾人から疎まれる行為であろうと、自分の命が消えるような愚行であったとしても。

 

「…止まれないんだよ、私は…!」

 

デュエルで苦しむ人がいるから。デュエルで虐げられる人がいるから、その上に立って甘い蜜をすすり続ける者たちが居るから。この世界から苦しみが無くならないから。だからデュエルモンスターズを消すのだ。

恨まれてもいい。憎まれてもいい。殺されてもいい。

それでも、この世界に生きる人々の苦しみの元を少しでも取り除けたら、それでいい。

 

「さて、と行こうか。」

 

星神創の目的に賛同するのは誰も居ない。彼にとっては孤独な戦いかもしれない。それでも彼は戦う事を選んだ。この理不尽に満ちた世界を憎んだから。

 

「私は…この世界から決闘(デュエル)を消す。そうだ、それで良いはずなんだ…帆夏。」

 

創は誰にも聞こえない様に小さく呟いた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

かつて創には妹が居た。

幼い頃、災害で両親を亡くし、それからずっと二人で支え合って生きてきた。

星神帆夏。明朗快活で人当たりも良く、そして絶世の美少女と噂されるほどには美しかった。

創はそんな帆夏を守り、幸せにする事こそ、自分の人生のタスクだと信じていた。

だが、そんな夢想は一本の電話によって突き崩されることになる。

 

『星神帆夏さんが―――亡くなりました。犯人は既に確保してあります。』

「―――は?」

 

淡々とした声で告げられたその事実に思考が、言葉が纏まらなくなっていく。

幸せにして見せると誓った彼女は何も言わずに、自分の前からその姿を消した。

帆夏と創は年子で同じ学校に通い続けて、同じ時間をずっと過ごしてきた。

彼女の事は何でも―――は過言かもしれないがそれなりの事は知っているのだ。

だからまず自殺の線は頭から消し飛んでいた。あの明朗快活で世界に希望を持っていた彼女が自分からその命を絶つはずがない。

そうしてその電話の主の次の言葉を待ちながら、帆夏の試飲に頭を巡らせる。

その中で生まれたたくさんの疑問は次の一言で打ち崩された。

 

『―――余りこういうこと言いたくはないのですが、彼女は死ぬ間際まで―――されていたようです。』

「―――ッ!」

 

つまりは、だ。最愛の妹は人としての尊厳を奪われた挙句、使い捨てられたという事になる。

怒りが心を支配する。きっと今の自分ではまともな思考は出来ないだろう。

 

「事の経緯は?」

『―――あまり聞かない方がよろしいかと。』

「聞かせてください。」

『脅迫によって一方的な賭け決闘(デュエル)を強いたそうです。そして負けた後は"罰ゲーム"と称して、薬を盛られて後は一方的に―――複数人に嬲られていました。』

 

この経緯を聞いてどうしようもなく犯人を殺したくなった。

帆夏は決闘が大好きだった。コミュニケーションツールとしても、ただ強い相手と戦う事も、彼女は決闘の全てを心から愛していた。負ける時があっても笑顔で相手を褒め称え、決闘中でも常に笑みを崩さなかった。それだけ帆夏は決闘を愛していたのだ。

 

「―――分かりました。犯人には厳罰を。」

『はい。出来る限り考えうる最大の刑を―――は?すいません、少し、席を外させていただきます…。』

 

そんな妹が愛した決闘(デュエル)で妹の名誉を傷つけ、あまつさえ殺した。それが創の中の犯人たちへの殺意を燃え上がらせる。だが、同時に頭の冷静な部分では「それでは向こうの屑野郎共と同じになる」、と叫んでいた。だから、この時までは彼女が愛して、そして彼女を奪った決闘(デュエル)を何とか敵視しないで済むと思っていた。

 

『―――このままでは、彼女の事件が無かったことにされそうです…。』

「は…?」

 

その言葉の意味が分からなかった。

告げられた言葉は事件ではなく事故として処理をするというものだった。

それを告げた電話の主も悔しそうな声音をしていたことからそれが不本意な物であると知る。

 

『どうやら、今年の世界大会準優勝者が今回の凶行を行い、それで、才能を潰すことを恐れた上層部は"ただの一般人の娘よりも世界大会準優勝者の方が大事"という結論を下して―――』

 

そしてそんな理不尽な裁定が下された理由―――それもまた決闘(デュエル)がらみの理由だった。

決闘(デュエル)は妹の命を奪い、そして決闘(デュエル)は犯人への正当な裁きを行う理由すら奪った。

 

「許せない…。」

 

帆夏はあれだけ愛していたのに、なんでその決闘(デュエル)で命を奪われなければいけないのか。

許せないを通り越して、もはや憎い。

 

決闘(デュエル)が無ければ、こんな事には―――!」

 

創はその日初めて決闘(デュエル)に―――デュエルモンスターズに憎悪を覚えた。こんなものがあったから妹は辱めを受け命を奪われ、その一方でその下手人は裁きを受ける事無くのうのうと暮らしていける。

こんな理不尽があってなるものか、否、あっていいはずがない。

 

「デュエルモンスターズさえなければ――――!」

 

この瞬間、男はデュエルモンスターズへの復讐を決意した。

だが、デュエルモンスターズの消し方なんてさっぱり分からずに、それでも醜く足掻き続けた。

そして、志を同じくする女性と出会い、結婚。

自分達の後継ぎとして、デュエルモンスターズを消滅させるものとして、奈楽を産んだ。

 

しかし、息子はデュエルモンスターズを愛し、そしてデュエルモンスターズに愛されていた。

結婚した女性ははやり病で死んでしまい、一時は塞ぎ込んだが、それでも奈楽を育て上げてみせると、決意した。

気付けば復讐は二の次になって、息子の成長を見るのが楽しみになっていた。

だが、そんな時に帆夏の夢を見た。

 

『忘れないで』

 

と。そう言った彼女の目からは涙がこぼれていて、それが、彼女の本心だったと悟る。ああ、そうだ。どうして忘れていたのだろうか。自分はデュエルモンスターズを滅ぼしたいほどに憎んでいたはずだ。

いつの間にか、それをできる地位は手に入っていた。ならばあとは実行に移すのみ。

そして、創はたった一人、「デュエルモンスターズ」を消すために戦い始めたのだ。それを為すためなら自身の命をも厭わないようになって、それでたどり着いたのは、この星の「再創星」だった。「再創星」を行うには"創星神"の力が必要らしい、それを蘇らせようとして、今度は息子が自分の目的を阻もうとしている。

だが、もう止まれない。愛する帆夏の魂の安らぎの為にも、星神創は自身の計画を止める事が出来なかった。

 

「…来たか。」

 

自身の計画の鍵となる少女を取り返しに来た子供たち。彼らは帆夏と違ってデュエルモンスターズに愛された。どうして、だとか、なんで、だとか、そんな言葉はもう必要ない。立ち塞がるなら全員敵で、たとえ息子だろうとそれは同じだ。

だが、そんな内面を悟られない様に創は静かに微笑むのだ。

 

「よく来たね。ようこそ、地獄の一丁目へ。」

 

これからきっと世界に自分の悪名が轟くだろう。でも、それで救われる人も少なからずいるはずだ。勝者が居れば敗者も居る。そしてこれからの行動は全て「這い上がれなかった者たち」の怒りを代弁するものだから。

だから戦おう。この世の理不尽全てと、デュエルモンスターズという悲劇の元凶に。

 

星神創の悲壮な決意は、少年たちによく伝わったようだ。全身に力が入ってるのが見て取れる。

 

「さあ、君たちは私の計画を止められるか?」

 

そして創は時間を稼ぐために仰々しい態度でそう叫んで見せた。




登場人物紹介

・星神創
アヴェンジャー。決闘絶対消すマン。妹をデュエルで失い、その犯人を裁く機会さえも一緒に奪われた可哀想を通り過ぎてヤバい人。いわゆる闇堕ち状態。でも光堕ちフラグもあるよ!

・星神帆夏
表向きの原因は事故死だが本当の理由は殺人。しかも無理矢理―――されて使い捨てられるように殺された。お兄ちゃん大好きだった。

・世界第二位さん
糞野郎


さっと決闘を消したい理由を明かす回になりました。
凄い難産で暑くて思考が溶けているので駄文ですがお許しください!
次回もお楽しみに

水樹君のデッキ強化

  • ネクロス
  • リチュア
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。