「相棒」   作:ダンちゃん1号

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急転直下/

 

「エリアル…痛いよ…っ!」

「馬鹿!馬鹿!みんなどれだけ心配したか分かってる!?僕だって不安で一杯だったんだから―――!」

「ごめんね―――で、ありがとう、エリアル。」

 

エリアルが無意識に首の関節を極めているせいで少々苦しかったが、それは心配をかけた罰として受け取っておく。ともかく、今ウィンダにとって重要なのは生きて親友たるエリアルと再会できた―――この一点のみだ。

その一点だけが今のウィンダにとって最もうれしい事だった。

勿論颯人が無事なのも嬉しいが、それは自分が守っているというこの状況では「当たり前」なのだ。当たり前にこなせるところをこなしたところでそんなに、というのがウィンダの心情だ。逆に守れなかったら守れなかったで正気を保っていられるわけ無いのだが。

 

「さて、と。ここからどう脱出するかも考えなくちゃね。」

「そうだね。颯人君、なんか出入口っぽいのはあった?」

 

エリアルがウィンダに泣きついている間に男衆はさっさと脱出口を探し始める。勿論感動の再会自体は喜ばしい事だと分かっているため、無粋な事は言わない。

もし何かを口に出す存在が居ればここに居る全員から袋叩きにあった事だろう。

 

「…所で霊使は?」

「あー…実は…。」

 

そして、霊使が創と戦っていること、創は霊使に任せて自分達は颯人を探しに来たことを告げた。それを聞いた途端ウィンダの顔がみるみる青ざめる。

それは当然の事だった。何故なら、霊使が戦うという事はつまり、ウィンが戦うという事と同じなのだから。

流石にそれは辛い。もし、自分を助けに来たせいでウィンが犠牲になったらと考えると、ウィンダは平静を保つことが出来なかった。

だが、ウィンダの心配は彼女自身が一番予想していない形で終わることになったのだ。

 

「ィィイィィヤッホォォォォオオォウ!」

「本日二回めぇぇぇッ!?」

 

―――霊使が、白目を剥いたまま、マスカレーナに連行されてくるという形で。霊使はその口から泡を吹きながらよく分からないうわごとを叫ぶばかり。そうやら精神が参ってしまったらしい。

その姿を一日に二回も見るはめになった水樹と奈楽は頭を抱えていた。どこからか「天丼」という言葉が聞こえてきたが気のせいだろう。そう思わなければやっていられない。

 

「―――は?」

「俺は一体どうしたらいいんだ…?」

 

一方でその光景を始めてみた二人―――颯人とウィンダはそのマスカレーナの破天荒かつ、無茶苦茶な突入方法に困惑を示すばかりだ。ウィンダは、あの地獄にウィンが実体化していないんい安心感を覚えながらも、霊使に対しては心の中で手を合わした。

 

(南無)

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

負けた。

自分の計画は失敗した。それでも彼らの中に光を見た。

彼らは心の底から決闘(デュエル)が好きだった。―――デュエルモンスターズが好きだった。そんな彼らの心が自分の復讐心を、デュエルモンスターズへの憎しみを溶かし尽くしてくれた。

今までの人生を誇ることはできないのかもしれないけれど、それでも、今まで生きてきた道に後悔などない、はずだった。

 

(彼らの創る明日を見ていたいなぁ…。)

 

視たい、と思ってしまったのだ。

これから彼らが作るであろう未来の姿を、その明日を。彼らは本気でデュエルモンスターズが好きだから、きっとこの世界を変えようとするだろう。自分の意見を通すにはデュエルが手っ取り早いからきっとデュエルで考えを伝えていくはずだ。

「デュエルは人を不幸にするためにあるのではない」、と。

そこに、ほんの少しだけ力添えをしてこの世界を変えることができたなら、どれほどいいだろう。

そう思わせてくれた少年はいきなりバイクで連れ去られてしまったけれど。

 

(まずは、四道をどうにかしなくちゃ、か。)

 

創は考えを霊使達の未来をどのように支えていくか、今はその事を考えることができる。霊使達がそうさせてくれた。もう一度自分に「信じさせてくれた」。

十分だ。

もう十分すぎるくらい霊使達からたくさんのモノを貰った。

たった一瞬のやり取りだったけれど、それでも彼のお陰で自分の中の原点を思い出せたのだ。

未来は見たいけれど、自分の役目はここまでというのも分かっている。これから先の未来はもう、自分の手から離れていて、それを決めるのは他でもない霊使達であるという事も。

創はゆっくりと歩く。まずは、彼らに謝罪すると決めて、それから―――

そんな事を考えているうちに、不意にその時は訪れた。

地下に作り上げたこの施設全体が大きく揺れる。それと同時に全身を悪寒が駆け抜ける。この感覚はまさに、ついさっきまで自分が望んでいたものが降臨したかのような、()()()()()()()()かのような感覚。

 

「どう…して…ッ!?」

 

四道にこの施設の事は伝えていない。ならば、どうやって彼の存在を復活させたのか。少なくともあの子たちが復活させたのではないというのだけは分かる。

何はともあれ、創星神が復活したというのであればウィンダやウィン―――それに彼女たちのマスターでもある颯人や霊使の命が危ない。

 

「行くしかない、か…ッ!」

 

星神創は走り出す。これから先に何が待ち構えていようとも構わず、この世界に生まれ落ちた希望を守るために。星神創はただただ死に物狂いで走り続け、到着したその場所で、見た。

 

「なっ…。」

 

地面に倒れ伏している一人の緑髪の少女を。もう二度と動かないであろうその少女の亡骸に縋り付く二人の少女の姿を。そしてそれを愉快そうに眺める爺とその取り巻きを。

星神創は激怒した。そして、それと同じくらいに自分の無力さが嫌になった。

間に合わなかった。救えなかった。その事実だけが創の胸の中に渦巻いている。

 

「うおおぉぉおおぉぉおお!」

 

気付けば、自分の体は動いていた。計画に加担しておいてなんだが、目の前の爺を一発殴ってやらないと気が済まない。元から気に入らない存在ではあったが、こうまでして創星神の力を欲するのは何かが許せない。以前の自分はきっとこう考えることもなかったんだろうと自虐しながらも、目の前に居る元協力者―――四道安雁に拳を振り上げた。

 

「一発殴らせろ!この糞爺がッ!」

「全く…理性の無い獣はこれだから。…もっと早くに処理しておくべきだったが、逆にこやつが居なくてはこうも楽に我らが母を復活させることは叶わなかったのも事実。だが、まぁ。」

 

その拳が振り下ろされる直前に四道安雁はその口端をめくれ上がらせて、不気味な笑みを作った。それにどうにも嫌な予感を感じたが、それでも、まっすぐ向かって行く。

 

「用済み、か。」

「!?」

 

振り上げたこぶしは届くことなく、何か―――光のようなものに阻まれた。発生源は何処だ、と探るまでもなく、上を見上げて、気づいた。そこには異形な何かが存在していることに。

創は頭上に存在する異形を見てそう漏らす事しかできなかった。何故なら頭上に存在しているのは明らかにこの地に封印されていた―――体の一部が人間界へと散らばっていた創星神だったのだから。

 

「…消えろ。」

 

だが創の疑問は解決されることは無かった。それ以前に彼の何かがふき飛んだのだから。

この星を産んだものからの自らへの裁定はどうやら死であったらしい。

辛うじて持っていかれたのが右腕だけで済んだものの、余り状況はよろしくない。というか、右腕を一本吹っ飛ばされてよく死ななかったものだと思う。周りの少年たちは―――

 

「…彼女たちを連れて行くんだ、奈楽。」

 

どうせここで消える命ならせめて、希望を未来に繋げよう。何も残せなかったけれど、少年のたった一言に心が動くくらいには追い詰められていたけれど、それでもきっと。この死にかけの体でも何かができるはずだと。

 

「…俺も、残る。」

 

皆が自分に頭を下げてこの場を後にする。―――たった一人、風見颯人を残して。

どうやら、霊使達に先に行かせたようだ。

 

「ここに残るってことは―――」

「ああ、分かっている。俺は多分ここで死ぬだろう。―――そして、ここから逃げたところでそれは変わらない。」

 

見れば、彼の体は既に白く既にタイムリミットがわずかしかないことをその荒くなった呼吸が告げていた。

 

「さっきのアンタと違って、今のアンタは信用できそうだ。」

「…それはいい。どうせならここで斃してしまおうか。」

「ああ。―――あいつらに未来を残しておかないと、な。」

 

少女の泣き声が少しずつ遠ざかっていく中で二人は襲い来る絶望に立ち向かった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

ほんの一瞬だった。エリアルとウィンダが再会の喜びを分かち合っている瞬間―――誰もが気を緩めたその一瞬で、エリアルの目の前でウィンダの体は崩れ落ちた。

それと同時に颯人の体から何かがものすごい勢いで抜けていく。どうやら地面も揺れ始めているらしい。

それが少しずつ抜けていくたびに颯人の意識がどこか遠くなっていくのを感じた。

何があった、何が起きた。例えここが祭壇であったとしても、ウィンダはまだ祈りを捧げていない―――少しずつ力が抜けていく中で颯人は必死に思考を巡らせた。一体何が起きているのか、と。

少しずつ狭くなる視界の端。そこに捉えたのは青白く光る月だった。あったはずの天井がぶち抜かれて、月光が今この場を照らしていた。

 

(…な、に…?)

 

あり得ない―――なんてことはあり得ないとは誰のセリフだったか。とにかく、颯人は今、理解の範疇を超えた衝撃を味わっていた。何故ここが分かっただとか、そんな事よりももっと奇妙な事があったのだ。

 

(ウィンダ、は…ど、う…!?)

 

ウィンダの姿が当たりに無い。それはつまり―――

 

(ま、さか…!)

 

最悪の予感が的中してしまった。視界の真ん中にウィンダを捉えて、そして真っ白を通り越して黄土色になった、明らかに生気のないその肌を見て気づいてしまった。―――ガスタの巫女 ウィンダという存在はもう既にここにはない。颯人はウィンダを守ることが出来なかった。そしてウィンダに襲い掛かったものと同じものがどうやら自分に牙を剥いているらしい。ウィンダと違い元が人間で、なにかこう、オカルトチック的な何かではないからか、自分の中から吸い上げられている「何か」はウィンダよりも残っているみたいではある。ただ、それでも―――自分達が「創星神」復活の生贄にされたことだけは良く分かった。

空に浮かぶのは

それでも同じようなものだろう。現に目の前に自分に対して下卑た笑みを浮かべて見下している存在―――四道が居るのにぶん殴れないのは少し――否、かなり悔しいが。

力は入らないし、物凄く寒い。それに呼吸も心なしか浅いし、何よりも心臓の鼓動が明らかに遅くなっている。これはいわゆる「衰弱死」の前兆だろうか。

いつの間にか地面の揺れも収まった。それに気づかないあたり相当自分は衰弱しているらしい。

何とか時間をかけて立ち上がると、霊使が心配して自分に近づいてくる。

 

(霊使か…。…俺を置いて先に行ってくれ。俺もそう長くはない。)

(…何を言ってるんだよ?)

(時間が無いから手短に言うぞ。…ウィンダはもう居ない。それに、今の「俺」もこの体に微かに残った「俺」の残りカスでしかない。)

(だから、何を…!?)

(いいから。俺がアイツらに奇襲でデュエルを挑む。…恐らくは斃せないだろうが、それでもお前たちがここから逃げるには十分な時間は稼いで見せる。)

(全員で帰―――)

 

霊使は自分の既に死んでいる宣言に頭が追い付いていないようだ。それに、すでに死人である自分は霊使達の後について行っても足手纏いになるだけだ。

 

(―――悪い、お前には色々苦労を掛けるけど、多分これで最後だ。俺を置いて行ってくれ。)

 

最後の力を込めて、霊使をそっと押し出す。その会話をしている間に。星神創がやってきていて、気づかないうちに接近していた四道たちに殴り掛かった。

 

(…やっぱお前になら未来を託せる。)

(俺に未来は重いよ…。でも、お前の望みをかなえてやることくらいはできる。)

 

もう、稼げる時間もあまりない。ここは星神創と協力して、霊使達を逃すしかない。ウィンダの命を喰らって復活した神になど、信心など存在するべくもない。

 

(行ったか…)

 

喉元までせりあがって来た鉄臭い何かを吐き出すのを我慢して颯人は走り去っていく霊使を見送った。

そして、颯人は最期の時を迎える時まで、ここであの悪魔たちを食い止めることを決意した。ついさっきまで敵対していた者に背中を預けるのは、少しおかしいかもしれないが、目的が一致しているのであれば悪くはない。

取り敢えずは「今の創は信用できる」とだけ伝えて、互いに背中を預ける。

 

「よくもウィンダを殺してくれたな…!この、野郎ォオォォォッ!」

 

そして、いの一番にウィンダを犠牲にすることしかできなかった自分へ一喝して―――目の前の敵へと躍りかかった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

颯人の最後の願いを聞いて霊使は即座に行動し始めた。今はもうピクリとも動かないウィンダの体に縋り泣き続ける二人―――ウィンとエリアルには申し訳ないが二人も連れてこの場から脱出しなければならない。

そこで、霊使がとった方法は至ってシンプルだった。

 

「フレシア!二人を!」

「…ウィンダさんは…?」

「―――置いていく。」

 

それはウィンダの亡骸を置いて、ウィンとエリアルの二人を引きはがす事。今の霊使達にはウィンダを安全地帯まで運べるような輸送能力はない。

できれば、ウィンダだけでも連れて行ってやりたい、というのが霊使の偽らざる本音だ。

 

「…分かりました。―――奈楽、水樹さんを。」

「うん…。」

 

フレシアもそれを分かっているのか、多くを語らず、ただその言葉にうなずくのみだった。

そのまま自前の能力で蔓を伸ばすとエリアルとウィンの腰にそれを巻きつかせるとそのまま霊使達の方へと放り投げる。

 

「…ウィンダは!?」

 

エリアルが悲痛な声を上げる。ウィンもそれに追従するようにウィンダに手を伸ばし続ける。だが、霊使はここでウィン達にその事を告げなければならない。

 

「…置いて、行くしかない…ッ!」

「…そんな!?」

「…本当に、それしか、ないの?」

 

ウィンは縋るような声で霊使に泣きついた。それだけ、ウィンの中でウィンダは大事な人だから。だから、彼女をあそこに置いていくなんてことをできるはずもない。

それでもウィンは霊使なら何とかしてくれる、と思っていた。

 

「それしか…ないんだ…ッ!」

 

ウィンは霊使のその、悔しさを滲ませた声色からそれしか生き残る道は無いのだと悟る。それでもそれが信じられなくて、認めたくなくて霊使に抱えられたまま、ウィンは手をウィンダへと伸ばし続けた。

 

「そんな、嫌だ…!お姉ちゃんを置いていくなんて…嫌だ。」

「…恨んでくれても構わない。―――行こう。二人が稼いでくれる時間を一秒たりとも無駄には出来ない。」

 

霊使は一度振り返って創に頭を下げてから、その場から駆け出す。

ウィンは少しずつ離れていくウィンダの亡骸に必死に手を伸ばし続ける。

霊使達がそこに出るまでの間、ウィンとエリアルはウィンダの名前を呼び続けていた。




登場人物紹介

・風見颯人
創星神の復活の生贄にウィンダが選ばれたことで一緒に色々と吸われた。かすかに残った命を霊使のために燃やすことに。

・星神創
殴ろうとして右腕が吹っ飛んだ。失血量から命はないと判断し、自ら足止めを買って出る。

・ウィンダ
創星神の復活の際に間近に居たためにその余波で死んでしまった。

・四遊霊使
恨まれるのを覚悟でウィン達を連れ出す


というわけでこの章も完結です。…プロット上この話はどう足掻いても避けられない話であったのでやらせていただきました。特に特定の事件を意識したというわけではございませんので御了承ください。
それはそれとして今回は少し説明というか地の文が多くなった気がします。これからは読みやすいお話を作れるように精進してまいります。
次回もお楽しみに

水樹君のデッキ強化

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