「相棒」   作:ダンちゃん1号

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「私」の答え

 

「―――私が答えるよ。」

 

どうやって償えばいいのか答えが出ないと嘆く霊使。その霊使の何かに縋るような声に答えたのはウィンだった。彼女は霊使が創に投げかけた言葉を知っているからこそ、今、この場に立っている。

そしてウィンの口から出た言葉は、確かな衝撃を持って霊使の胸に突き刺さった。

 

「答えは生きる事。生きていくしかないよ。」

「…は?」

 

霊使はウィンの口から出た言葉が信じられなかった。生きていくしかない―――その意味がさっぱり分からない。自分は二人を見殺しにしたも同然で、しかも彼女の姉も救えなかった無力で罪を犯した子供でしかないというのに。どうして彼女はそんなに強く言い切れるのだろうか。

 

「私だって二人が死んだことに思う事が無いわけじゃない。それに霊使は今回の作戦でも要だったから、目の前で二人を喪って、ウィンダも助けられず―――ってことが許せないんだよね?」

「ああ。…そんな風にしかできなかった自分に腹が立つ」

「でもね、それでウィンダや颯人君が霊使を責めると思う?」

 

こてん、と首を傾げながらウィンは霊使に問いかける。あの二人の器はそんなに狭いのかと。あの二人が自分を犠牲にして生かした相手に何か恨み言を言うのか、と。

 

「…そんなの、分からない。」

「うん、だと思った。ぶっちゃけ私もそうだから。」

「オイオイオイオイ!?」

 

ウィンのぶっちゃけに思わずツッコミを入れてしまう克喜。普通そこは「分かる」だとかそんな感じの慰めの言葉を掛けるのが普通ではないだろうか。

 

「…克喜君は少し黙って。」

「サーセン。」

 

真面目な話の腰を折られそうになったものだから、ウィンは威嚇するように低い声を出した。余りの迫力に克喜は思わず謝罪の言葉を漏らす。呆れたようなため息を一つ付くとウィンは話を戻した。

 

「とにかく、ウィンダ―――お姉ちゃんの気持ちはお姉ちゃんにしか分からないし、颯人君や創―――さんの気持ちだってその二人にしか分からないわけだ。これは言っていいのかなって思っちゃうけど…【死人に口なし】ってやつだよ。ものすっごくアレ―――不謹慎だけど。」

「不謹慎が過ぎる…。」

「結局の所さ、霊使はあの三人から恨まれているんじゃないか…助けられなかったせいで霊使の事を憎んでないかって、怖いだけでしょ?そんなのどうだっていいんだよ。…霊使が信じた彼らの事だし、笑ってるよ、きっと。」

 

ウィンの言っている事はきっとそうなのだろう。少なくとも颯人やウィンダはそうそう誰かを恨んだりはしない。あの世で再会して二人で笑い合っているまである。

なんでだろうか、むしろそうとしか思えない。

 

「…いいんだよ。霊使は償いの為に死ぬんじゃなく、君が生きたいと願ったとおりに生きて…君にはその資格があるんだから。」

 

ウィンは優しく霊使を抱きしめる。若干顔が赤くなっていることからそれは本人にとっても相当恥ずかしい行為なのは確かなのだろう。

でも、多少の恥で霊使が救えるというのならば喜んで恥をかく。ウィンという少女にとって最も悲しいのは自身が愛した霊使という少年を喪う事なのだから。流石にそれは耐えられない。ウィンにとってそんな事が起こってしまうという事自体あってはならない事だった。

だから、自分の恥程度で良いのならばいくらでも恥をかいてやる。恥をかいて、それで霊使を救ってやる。

 

「ウィン…。」

「大丈夫。…いいんだよ。だから、ね?一緒に生きよう?

「…全くウィンはズルいよなぁ…。そんなこと言われたら生きるしかないじゃんかよ…。」

 

そうだ。そう意味を込めてウィンは霊使に頷いた。それを見て霊使はようやく顔から憑き物が落ちたような―――そんないい顔になった。

 

「…それはそれとして、だ。これからどうする?」

 

けっきょっく霊使がいくらいい顔になったところで肝心の問題は何一つ解決していないのだが。その「どうする」という言葉がやけに重くのしかかっているように感じた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

風見颯人は最期の一瞬まで、全身全霊をかけて戦い抜いた。

 

「くあっ…ッはぁ…。」

 

息が苦しい、視界が明滅して足取りは覚束ない。それでも、それでも風見颯人は立っていた。まだ、終わっていないとでもいうように。

 

「俺の…ターン…。」

 

残りライフは残り僅か。それでも、なんとか逃がせるくらいの時間は稼げたか。颯人はここで死ぬ、それは変わることの無い事実だ。その事は颯人自身が一番良く分かっている。だからと言って、颯人は名にも残さず死ぬ気なんてさらさらなかった。

 

「ドロー…。」

 

ウィンダが逝ってしまった弊害で思うようにデッキを回すことができない颯人は、それでもなお、諦めずに時間を稼いでいた。別にここで倒してしまっても構わない相手なので思いっきり倒すくらいの野望は抱いているが、斃すよりも先にこちらの寿命が尽きそうだった。多分間に合いはしないだろうが、それでも一泡は吹かせられそうだ。

 

「…俺は、"SR 赤目のダイス"を通常召喚…!"赤目のダイス"の効果で"HSR コルク―10"のレベルを1にする…。」

 

颯人のフィールドにはレベル6のシンクロモンスターである"ダイガスタ・スフィア―ド"、レベル5のシンクロモンスターである"HSR チャンバライダー"、そしてレベル3のシンクロチューナーモンスターである"HSR コルク―10"が存在していた。そして"赤目のダイス"の効果で"コルク―10"のレベルは1となっている。

これまで"攻撃の無力化"や"和睦の使者"といったカードで守りを固めた結果が、今の颯人のフィールドだった。

 

「俺はレベル6の"ダイガスタ・スフィア―ド"とレベル5の"HSR(ハイスピードロイド) チャンバライダー"にレベル1となったシンクロチューナー"HSR(ハイスピードロイド) コルク―10"をチューニング…!」

 

目の前にはこの星の作り手たる"創星神"が存在している。あの厄介な効果はきっと、霊使が何とかしてくれると信じている。颯人のデッキはひたすらに展開する事に特化しているから何とかなったが、もしここに残っていたのが他の誰かだったらきっとこの効果の前に心が折れていたに違いない。

 

「二ターンも猶予があれば…ここまで持ってくることも可能なんだな…。集いし願いが空へと響き、宇宙(そら)よりそれは現れる。来たれ、破邪の銀翼!デルタアクセルシンクロォ!祈りの翼よ、降誕せよ!"コズミック・ブレイザー・ドラゴン"!」

「馬鹿な…!?」

 

どうやら目の前の四道安雁は"創星神"―――"創星神sophiaの効果を発動しておきながら現れた自分の真の"とっておき"―――"コズミック・ブレイザー・ドラゴン"の存在が信じられないようだ。ざまぁみやがれ、俺達はお前の予想を上回ってやったぞ―――。その言葉を出すことなく、前のめりに倒れる。

 

(時間…か。)

 

コズミック・ブレイザー・ドラゴンの攻撃力はその召喚難度の高さもあってか驚異の4000。攻撃力で見れば目の前の創星神を上回っている。それなのに、攻撃宣言ができない、というのは余りにも悔しい。

 

「…ぅげき…」

 

否、一泡吹かせるだけではもう足りない。せめて一撃、たとえどんなに苦しくても、一撃その鼻っ面に叩き込んでやりたい。

 

「コズミック………ぅげきぃ…!」

 

それがほんの一瞬だけ動けるような活力を颯人に与えた。

 

「"コズミック・ブレイザー・ドラゴン"で"創星神sophia"を攻撃ィィィィ!"コズミックゥッ!ブラスターァァァァァッ"!」

 

その絶叫するような声での攻撃宣言は、自らの主の最後の命令―――そう理解したコズミック・ブレイザー・ドラゴンは自らの全てをかけて創星神へと攻撃した。彼の龍が放つ銀河の力を秘めた咆哮は全てを塗りつぶしていく。最後の足搔きだ。みっともないもがきだ。傍から見ればただの醜い悪あがきだろう。それでも、颯人の"コズミック・ブレイザー・ドラゴン"の一撃は確かに気高さを備えていた。

 

「いっけぇぇぇぇええぇぇぇぇぇえぇえぇッ!」

 

醜く、それでも気高い、絶叫が響き渡る。

最後の最後まで声を絞り出して颯人の意識は安寧の闇の中に溶けていった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「バカ…な…。」

 

四道安雁は少なくない敗北感を味わっていた。創星神の生贄となった人間の残りカスが神にあだなすどころか、猛烈な反撃を残していったからだ。完璧だった、何もかも全てが。それなのに、与えられた少ない猶予で斃れた少年は再展開し、あまつさえ反撃をして見せた。

 

「ありえない…。」

「うそ…でしょ…?」

「おいおいぃ…。異常すぎるだろ…?」

 

それは本来ならばあり得ない事だった。それだけ彼の男の執念が強かったとも言えるが。

 

「…まぁいい。多少手傷は負ったが、まだ創星神は起動したままだ。」

「このまま攻め上がり、この町を掌握するのかしら?」

「うむ…。さあ、作り上げよう、決闘が全てを支配する我らが理想郷を。」

 

―――ならば、この妙な敗北を受け入れよう。男の執念を褒め称えよう。あの男は新世界生きるべき人間であったと伝え続けよう。

それが四道安雁なりの男に対する「敬意」であった。

それこそ、霊使側などではなく正真正銘の「こちら側」であるべき人間であった。それが四遊霊使という凡骨以下ののみにすら満たない存在を逃がすための囮となって死んだ。

 

(人間は弱者と関わると弱くなる―――ならば人間は強者側だけでいい。弱者など獣畜生にも劣る存在でしかないものは強者の奴隷であればよい。)

 

この男は友情など信じない。

この男は生まれながらに狂っている。

故に強者が弱者のために命を捨てる事を良しとしなかった。

 

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「克喜…相当無理してましたよね…?」

 

ウィッチクラフトの超技術で霊使の家の内部面積を引き延ばすこと二回目。致しても気づかれないような防音がなされた個人の部屋で克喜はハイネに問い詰められていた。

無理とは無論、霊使を無理矢理立ち上がらせようとしたあの件である。

最後の美味しい場面こそウィンに譲ったが、必要最低限は果たせたのではないかという感触が克喜にはあった。

だが、あの時に泣き言を言えなかったせいで、皆の前で泣き言を漏らす事を克喜は無意識的に封じた。

故に精神に相当負担がかかったのだろう。それぞれに与えられた部屋に着くや否や克喜は頭を抱えて倒れこんでしまったのだから。

 

「…やっぱ分かるか…。」

「あたりまえ。」

 

どうやら人生経験がそれなりに豊富なハイネだけでなく若干9歳のヴェールにも見抜かれていたようだ。変に気を張っていたせいか今は彼女たちの言葉が甘く感じられた。

 

「正直言うととても辛い。」

「でしょうね。」

「未だに死んだことが信じられない。」

「…うん、そうだね。」

 

ぽつりぽつりと漏れ出した悲しみは堰を切ったように溢れ出した。それは霊使への呪詛の言葉ではなく、親しい友人が理不尽にも命を奪われた怒りと悲しみのこもった絶叫であった。

 

「うわぁああああぁぁぁぁああぁぁぁ!」

 

とうとう声にならない声を上げる克喜。だが、それを受け入れるようにハイネは克喜を抱きしめた。

 

「辛かったですよね…苦しかったですよね。いいんですよ、私達の前では正直になって。だって私達は貴方の、克喜の相棒、だから。」

 

その言葉に克喜の理性は崩壊した。流れる涙を止めることもできず、大声で泣き続ける。ハイネとヴェールは何も言わずにただ傍にいた。

そこには三人だけの時間がゆっくりと流れていて、それを邪魔するものは誰も居なかったのだった。




登場人物紹介

・四遊霊使
背負いすぎなくはなったがそれなりに重い物を背負っている。

・ウィン
どんな霊使も好きだけど、背負いすぎてつぶれるのは見逃せない

・風見颯人
真のとっておきである「コズミック・ブレイザー・ドラゴン」をとうとう出した。攻撃名は「コズミックブラスター」。
彼は死ぬまで殿を果たし続けた。

。九条克喜
15歳の少年に仲間の死を乗り越えろとか言う方が鬼畜じゃん?

・ウィッチクラフト
そりゃつぶれそうになったら助けるよ

えー来週ですがテストが近いのでいつもよりボリュームの無い幕間になるかもしれません。間に合ったら本編を投稿します。
次回もお楽しみに!

水樹君のデッキ強化

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