「相棒」   作:ダンちゃん1号

115 / 209
切っても結び合う因縁

 

克喜と結はただひたすらに走っていた。走る事で霊使の事に気づけなかった自分達への怒りを発散していた。もちろん霊使のことでの怒りもあるし、何よりも今まで霊使の異変に何一つ気づけなかった自分への怒りがあった。

 

「友人だってのに…。俺はあいつの異常を何一つ見抜いてやれなかった…。」

「それは…見抜けていたら対処できたかもって事?」

「…一緒に手伝う事ぐらいはできた筈だ。」

 

そういうふうに嘆く克喜を結はただ眺めていた。というよりも結は何も言う事が出来なかったし、今の克喜に何かものをいう資格なんてないとさえ考えていた。そもそもの理由がキスキル達の暴走による物の所為だったから。つまり、責任の一端はきっちり二人の手綱を握れ無かった自分にあるのだ。そんな自分が恨めしく思えてしまう。自身に最も信頼を寄せるキスキル達だからこそ、あの暴走に至ってしまったのであって、だが、結局の所あの行動が無ければ自分は死んでいたかもしれないのだ。

 

「…そう。私は霊使君の件についての一端を担ってしまったわけだけど…。」

「ありゃ事故みたいなモノだろ。決闘(デュエル)を終えて、それですべて丸く収めた…って霊使は思ったはずだ。キスキル達だってそこは同じだろ。…ま、二人は「やっと止めてくれた」って思ってそうではあるがな。」

「…エスパーか何か?」

「ちげぇよ…。ただまぁ、キスキル達は余り責めてやるな。俺だって同じ立場だったらやらかしていたかもしれない訳だしな。」

 

克喜は一度も結の方を見ずにそう言った。それはどうしてもキスキル達は悪くないと言っているように聞こえて、それが少し嬉しかった。この間キスキル達は自分達のやらかしもあッ一言もしゃべらなかった。それに関して結はフォローするつもりはないのでぼうっそうした結果招いたことだと追いに反省してほしいところだ。

 

「まさか、殺しに来てるなんて考える奴の方が少ないだろ?」

「確かに…。」

「…そんなに結が背負い込むことじゃねーよ。でももし、それでも責任の一端は自分にあるって思ってるなら、良かったな。贖罪は丁度今からできるぞ」

「やれやれまた暴徒、か…。」

 

そうこう言っているうちに克喜と結の前に複数人の男が現れる。手には鉄パイプやら金属製のバットやらを持っていてこちらを害する気が満々だった。

 

「便乗した馬鹿どもか…。はぁ。しょうがねぇ、片すぞ、結!」

「もちろん!…霊使君の邪魔はさせない!」

 

そうして片っ端から暴徒の鎮圧の図る克喜と結。何人かなぎ倒したところで、不意に結の動きが止まる。

 

「元気そうじゃねぇか?おい?」

「なんで…お前が…。」

 

結の前には小太り気味の男が一人。その男は、結を見つけるや否や醜悪な笑顔で彼女に忍び寄る。結はその男が一歩近づく度に一歩後退りしてしまう。

 

「…大丈夫…大丈夫…。」

 

克喜にはまるで結がその男に一生消えない何かを刻みつけられていたように見えた。これは明らかに普通じゃない。克喜はすぐさまキスキルに問いかけた。

 

「キスキルゥ!そいつは誰だ!」

「アイツは…結の父親だ。虐待とか…色々な事を強制されてた。」

 

キスキルから聞いた答えと、二人の過去はまるで親子とは言えないような、歪んだ関係性だった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

白百合結にとって今回の事件における暴徒には心の底からの嫌悪と、少しばかりの恐怖を抱いていた。自分をいいようにしていた父がちょうどそんな人物だったからだ。

蹴る殴るは当たり前の事だったし、性的暴行を加えられたこともざらにあった。

結はそんな環境で生きていく中で少しずつ()()()のだと考えている。

キスキル達と出会う前までですっかり性的暴行をされても何も感じなくなったし、蹴られても殴られても何も感じなくなった。監禁されるのは慣れっこだ。

擦れる少し前は窓から逃げようとしたが、窓の外の鉄格子が結を逃がさないという意思を表しているようだった。

父親の顔色をうかがう生活を送り、何とか暴力にさらされない様に保身をし続けた。ずっと自身に「大丈夫」と言い聞かせて。

そんな結の唯一の癒しは「ライブツインチャンネル」という動画サイトに存在している一つのチャンネルだった。彼女たちの動画が結を現世に繋ぎ止めていたのだ。これは結の父親が通話できず、ブラウザしか使えないようにしたパソコンで見ていたものだ。それに関して、父が何かを言うことは無かった。

もちろん、助けを呼ぶ手段なんて知らなかったから、それはただただ癒しの為の機械として使っていただけなのだが。とにもかくにも、ライブツインチャンネルが存在していなかったらきっと結はこの世界には居なかっただろう。

環境が劣悪な中でただ一人忍耐を続けてきた結。

そんな中で、結にたった一枚のチャンスが舞い降りる。それはURLと何かのパスワードが書かれた一切れの紙だった。弾かれるようにしてその紙に書かれたURLを検索して、紙に書かれたパスワードを入力。そして結の目の前に広がったのは、ただ「何を盗んで欲しいか」とだけ書かれたシンプルなページだった。何かの冗談だろうと思いながら「自分を盗んで欲しい」と無意識に打ち込んでいた。

 

「…くるはず、ないよね…」

 

所詮はただの遊び、おふざけだと思いながら、おふざけで良いから助けてくれとも思っていた。この時、結は初めて「我慢」と「気にならない」の違いを知ったのだ。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

白百合結の急変から少し後、九条克喜の問いかけに応えるためにキスキルは結との出会いを振り返っていた。

暴徒鎮圧に向けて駆ける結を見ながら「大きくなったなぁ」とキスキル達は考えながらも克喜に伝えるべき情報を組み立てていく。

 

彼女との出会いは最も強烈で、そして怪盗としての活動の中でもっとも無価値で、だが最も有意義な「誘拐」だったと思う。

彼女の事を知ることになったのは、自分達の裏のサイト―――つまりは、盗みの依頼を受ける闇サイトに書き込まれた一つの依頼だった。それは余りにも短く、それ故に余りにも切実な気持ちが籠っていることが伝わってくる。

 

「私を盗んで欲しい」

 

たったそれだけの文章が、キスキル達を動かしたのだ。元々、弱き者の為に身銭を切って始めた怪盗稼業だ。助けを求められて行かなければ自分達の何かが変わってしまう。

 

「…行くよ、リィラ。」

「了解。…場所は?」

「そもそもが依頼人を調べるための裏サイトだろ?…ここに接続したIPアドレスからプロパイダ情報を引っこ抜く。接続ログやらを調べればそこから発生地点を突き止めることも不可能じゃないはず。」

「了解。」

 

もしこの書き込みがばれたらこの子はどんな仕打ちを受けるのだろうか。きっと死ぬよりも残酷で「死んだ方がマシだ」と思うような、そんな最悪の未来が待っているのかもしれない。

そう思うと「何とかして盗まなくては(すくわなくては)」としか考えられなくなっていく。

 

「やっぱこういう、自分の原点を思い出させてくれるような仕事は良いねぇ…!」

「そうだね。…よし、ハック成功。…データ、出るわ。」

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「うわぁ…。これは完全に監禁の現行犯だねぇ…。」

 

キスキル達が得た住所に向かうとそこには全ての窓に格子が打ち付けられた異様な家があった。それはもはや家の形をした監獄と言っても差し支えないくらいには、何かを閉じ込めることに特化していた。

 

「…私達もアウトサイダーだけど、さすがにこれは…。」

 

流石にいつもは冷静なリィラもこの家の異様さをみただけで完全に理解して、そして青ざめていた。

 

「えーと…依頼主は、と…。」

「…まっ昼間にカーテンを閉じてる部屋があるわ。まるで何かを隠してるみたいな…。」

 

リィラの指摘場所を見てみれば確かに何かを隠すようにカーテンがかかっている。確かにあそこに何かを隠しているのだろう。

 

「どれどれ…っと」

 

キスキルは軽い身のこなしで窓格子にワイヤーをひっかけると自身の体を引き上げるようにして窓格子の上に立った。

 

「さて…と…。」

 

キスキルはそのまま窓格子を外してカーテンの向こう側の様子を探る。

何かが無理矢理斃されたような音と、何かをびりびりに引き裂く音が聞こえて思わずキスキルは窓枠ごと窓を蹴り飛ばした。

 

「あんた、何やってるんだ!」

「あ?あんだテメェは!せっかくのお楽しみを邪魔しやがって!」

 

窓枠を蹴り飛ばしたキスキルが見たのは、服をカッターで引き裂かれて男に押し倒されている幼い少女とその上に馬乗りになっている小太りの男だった。

どうやらこれは明らかにヤバいやつだと認識したキスキルはすぐに行動に移す。

まずは少女の上に馬乗りになったまま固まっている男を蹴っ飛ばすと幼い少女を確保。そのまま蹴っ飛ばした窓から幼い少女を抱えたまま飛び降りてそのまま拠点へ。

こうして少女と怪盗は出会ったのだった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

キスキルが最後に「色々と略したけど」と付け足した声は果たして克喜に届いていたのだろうか。キスキルの話によると、あの男は結の父親らしい。

 

「親が子供にあんな感情向けるのかよ…?」

 

だが、その男が娘であるはずの結向ける視線に籠っているのは劣情や、怒り、支配欲―――まるで「自分の物」と所有物を見るような目だった。

それはおおよそ親が子供に向けるべき感情ではない。

 

「そういう反応するよね…。でも。」

「…結はあの変態野郎を乗り越えなければいけない、か?」

「いやー、流石にそれは酷だろうね。」

 

だからこそ、結は一歩ずつ後退ってしまっている。これまでに積み重なった恐怖心が彼女の体を無意識的に動かしてしまっているのだ。

 

「…こっちは手が離せそうにない!克喜君、結を頼んだ!」

 

結は気が動転しすぎていてキスキル達の事もすっかり忘れてしまっている様子だ。確かに目の前に恐怖の象徴が現れたら誰だってそうなってしまうのかもしれない。

それに加えキスキルもリィラも結から決闘(デュエル)を無理矢理引き継いだために動くことができない。

だから、キスキルは結を、信頼できる仲間に託した。

 

「この、変態糞親父がッ…!俺の友人から離れろォ!」

 

克喜はそんな暴言を吐きながらキスキルの信頼にこたえるために飛び蹴りを繰り出す。一瞬の隙に高所に上がった克喜の飛び蹴りは結の父親のどてっぱらに命中。結の父親は自分に何が起こったかを理解する前に瓦礫の山に頭から突っ込んだ。

一方の克喜は全力の跳躍の勢いを殺すために着地後に数十センチほど地面を滑走し、結の声を掛けた。

 

「結、大丈夫か!?」

「…ド派手な登場、だね。…キスキル、リィラも!もう大丈夫!サニーとルーナも呼んできて!」

 

余りに現実からかけ離れた光景を目の前で見せられて思考は完全に冷えた結。恐れる事無く自身の乗り越えるべき恐怖の象徴と対峙する。

隣には心を教えてくれた人たちがいること。友人が自分を守ろうとしてくれたこと。

この時結という少女は本当の意味で自分は孤独じゃないと知ることができた。

 

「私はもう、あなたなんかには負けない!」

 

それは真に守るべきものを、心から守りたいと願えるものを見つけた結の決意の表れだった。結の父親はそれを忌々しげに見つめるがもう結はそんな視線には怯まない。

 

そうして、悪魔から心を教えてもらった少女と人間の体に悪魔の心を宿したかのような男の戦いが、まるで正反対な二人の戦いが幕を開けた。




登場人物紹介

・白百合結
結サイド側の主観者。虐待や性的暴行を受けていたがキスキル達が居たからまっすぐ育った。めちゃくちゃいい子

・九条克喜
リアルライダーキックを放った男

・結の父親
人間として最底辺。多分この先黒幕やら以外でこいつ以上のド外道は現れないんじゃないかってレベル。ちなみに結はコイツの所為で大切なものを失いかけている。

台風にはお気をつけて。
それでは次回もお楽しみに!

水樹君のデッキ強化

  • ネクロス
  • リチュア
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。