「相棒」   作:ダンちゃん1号

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家族の結末

 

「大ピンチってやつ…?」

 

結は端的に今の状況を言い当てていた。相手の場には予想外のデルタアクセルシンクロモンスター。しかもまだ攻撃を迎えていない。

それに対して結のフィールドにはキスキルとリィラ、それに開闢の三体だ。効果こそ優秀であるが、攻撃力4000であるスターダスト・シフルには絶妙に届かない。

だからこそ、結は自身の状況を言葉にして、飲み込もうとした。追い込まれているという状況を楽しんでいる自分に驚きながら。

 

「バトルだ!"聖珖神竜スターダスト・シフル"で"カオス・ソルジャー‐開闢の使者"を攻撃!喰らえ、聖珖波動(レイ・オブ・シルフ)!」

 

普通ならばここで終わりだ。しかし、男は自身の切り札を出せたことに安堵したのかすっかり結の伏せカードの事を忘れてしまっているようであった。

確かに破壊耐性付与は厄介な効果だ。しかしながらそれは手札に戻す効果―――バウンスの対抗手段とはなりえない。

 

「地雷にご注意!罠発動"神風(しんぷう)のバリア -エア・フォース-"発動!全員手札に帰れぇ!」

「…あ。」

 

そもそもこの極限状態で伏せのケアのミスは致命的な隙だ。大ピンチから一気に好機へと状況はめまぐるしく移り変わる。それでもドッペル・ウォリアーがある限り油断というのもは一切できないが。

それでも今まで追い詰められたと思っていた重苦しい空気は離散してしまう。伏せ除去もツインツイスターみたいなカードも詰んでいたので今は完全な手札事故みたいなものと思われる。

 

「…一枚伏せてターンエンド。」

「え…?」

「動けねぇんだから仕方ねぇだろうが。…俺も天運に見放されたか…。」

 

結の父親 LP8000 手札二枚

伏せ×1

 

男は今までの暴徒とは違いちゃんと潔く散るつもりのようだ。結の父親は人間的にどれだけクズであったとしても自分で決めたルールー―――決闘(デュエル)には従うつもりらしい。そのほんの少しだけ残ったそれを自分に向けてくれたらこんなことにはならなかったのかのかもしれないのに。結はそう思わずにはいられなかった、

 

「私のターン。ドロー。私は墓地の"トラブル・サニー"の効果発動。デッキから"Evil★Twins キスキル・リィラ"を墓地に送りこのカードを除外することで伏せカードを墓地送りに。」

「…対抗カードは無し。」

 

結の父親は何一つ抵抗しない。自分が変わっていたことに気づかなかったか、それとも結の強さに心が折れたのか。あの頃から痩せて、見た目が変わった程度のものだと思っていて。

ただ、内面がほんの少しだけ変わっていて。

それでも結は父親の事が大嫌いだ。

 

「"Evil★Twins キスキル・リィラ"は自分フィールド上のリンクモンスター二体を墓地に送って手札、墓地から特殊召喚できる。…墓地から"Evil★Twins キスキル・リィラ"を特殊召喚。…バトル。」

 

結は今まで父親を超えるべき壁だと思っていた。だがその壁は余りにも脆く崩れ去り、彼女に残ったのはやり場のない怒り。もやっとしたものを抱えながらもまずはこのデュエルに終止符を打つため攻撃の宣言を行う。まずはモンスター破壊時に続けて攻撃できる"開闢の使者"。このカードで相手のフィールドをガラ空きにしにかかる。

 

「"カオス・ソルジャー -開闢の使者-"の攻撃宣言時に罠発動。"Evil★Twin チャレンジ"。墓地から"Evil★Twin キスキル"を蘇生。」

 

ついでに、といわんばかりに墓地からキスキルを蘇生した。"キスキル・リィラ"は"リィラ"モンスターであるためワンドローのおまけつきだ。

カオスソルジャーの攻撃が通ったことで相手ライフは5000。逆に自分フィールドに居るモンスターの攻撃力は5500。攻撃の宣言をして、そしてそれはいとも簡単に通った。

 

父親 LP8000→5000→3900→0

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

なんだかとてもあっけなく、そして容易く終わってしまった決闘(デュエル)

結はこの何とも言えない気持ちのわだかまりが気持ち悪く感じられた。なんというか、こう、すっきりしないというか、何とも言えない気分になっていた。

結は父親の事が嫌いだ。それは過去に色々な事をされたからであって、その経験が結にそう思わせていた。しかし、その元凶はこうして、身動き一つとることなく座り込んでいる。

 

その姿を見ているとふつふつと心の底から何かが湧き上がって来た。

 

「そういうふうにしてれば、許されると思ってるの―――!?」

 

今まで散々殴られた。今まで散々痛めつけられた。今まで散々道具として使いつぶされた。

これが怒りか。結は初めて心の底から怒りを抱いた。目の前の存在に人生をめちゃくちゃにされたこと。目の前の存在の所為で失ったものがたくさんある事。

その全てが、結の怒りに変わり、結の手足を動かす原動機になる。

 

「あんたがッ!あんたがッ!私をこんなふうにしなければぁ!」

 

気付けば、かつて目の前の男にそうされたように蹴り飛ばして、目の前の男がそうしたように馬乗りになって、目の前の男がそうしたように目の前の存在の顔面を殴っていた。それも一度、二度では飽き足らず何度も何度も殴った。腕が痛んでも、拳が痛んでも、口から血が流れてきても、それでも殴り続けた。

今までの感じた痛みのほんの数千分の一の痛みでも返したくて。

自分と同じ目に誰かにあって欲しくて。

色々な思いがない交ぜになった結はもはや自分でその拳を止める事が出来なくなった。

 

「あんたのせいでッ!私はぁぁぁぁぁッ!」

 

筆舌にしがたいほどの苦痛に耐えてきた結。その鬱憤を晴らすかのように絶叫しながらひたすらに拳を振るう。それを見かねて止めたのは、キスキルとリィラだった。

 

「結!もう駄目だって!」

「離して!まだ、まだ…!私が受けた痛みはこんなんじゃない!こんなんじゃ足りない!」

「流石にこれ以上はまずいって、言ってるでしょ!」

 

結が振り上げ、振り下ろそうとする腕を二人は必死に押しとどめようとする。二人には結の気持ちが痛いほどによく分かる。だがらこそ、結を止めなくては、という気持ちがあった。怒りのままに腕を振るって、それで相手を殺してしまえばそれはもう暴徒と何も変わらない。

ただ、いたずらに力をぶちまけるだけの存在に成り下がってしまう。

 

「結!落ち着いて…!」

「こいつのせいで…私はッ…!全部めちゃくちゃにされて…!」

「…うん。」

「本当に、辛くて、でも助けてさえ言えなくて…!」

「…そうだね。」

「私の中にあいつが居ると思うだけで吐き気がしそうになってくる…!」

 

結は眼下の男を忌々しげに見て、それでも振り上げたこぶしを降ろした。

それでも息は荒く、怒りは収まっているように見えない。それでもキスキルとリィラは男から結を引きはがすことに成功した。

 

「…結、らしくなかったよ。」

「…そうかもね。でも、私はこいつだけは許せないんだ…。」

 

それもそうだ。この男に刻まれた心の傷は生半可なものではない。それこそ今まで普通に克喜や霊使達と接触していたのが奇跡と言えるくらいに。

結は分かっているのだ。世の中の全てがあの男みたいな誰かから平気で搾取できる人間の集まりならば世界はきっと今よりもっとひどいことになっていただろう、と。

 

「いいかい?たとえ父親じゃなくてもワタシ達が傍にいる。」

「辛くなったり、苦しくなったりしたときはもっと甘えていいんだよ。」

「…もう、ワタシにとって結は家族みたいなもんだ…。結は、ワタシ達の事をどう思ってる?」

 

結はその問いに落ち着いて答える事が出来た。

何でか、キスキルの声を聞いていると安心していられる気がするのだ。

 

「…家族、みたいなものだと思ってる。少なくとも、そこに転がっているあいつより、は。」

「うん。…そっか。」

 

キスキル達は結を家族みたいなものだと思っている。大切な人が誰かを傷つけようとすれば叱ってやるのが家族だ。たとえそれがどんなに人の在り方から逸脱した存在であったとしても。

 

「…ワタシ達がずっとついてる。大丈夫…。」

「一回深呼吸して、落ち着いて。」

 

駄々をこねる子供をあやすようにキスキルとリィラは結の背中を優しく叩く。

結は張り詰めた糸が切れたかのように結はその場に頽れた。

 

「…怖かったんだね。また、元に戻るのが。」

「…うん。」

 

力なく項垂れる結は、ただ自分を嘲るような笑みを浮かべていて、どうしようもなく彼女が救われてない事が見て取れる。

 

「…なにやってんだろ、私…。キスキルにも、リィラにも、皆にもたくさん迷惑を掛けて…。」

「結…。」

「結局は私もあいつと同じだったってことなのかな。ただ徒に暴力を振りまいて、誰かを傷つけて…。とんでもない屑じゃん、私。」

 

キスキルもリィラも何も言えなかった。その苦しみを知っているからこそ、何も言う事が出来なかった。結はそれだけ知らないうちに自分を追い込んでいて、ずっと我慢し続けていて。

 

「…こんなんじゃ、だめだよね。ごめん。」

 

それだけ言い残して結はキスキル達を振り払い駆けていってしまう。

克喜はそれを止めることはせず、一人でここの守りに専念することを決めた。

そして、キスキル達に結が走り去った方向を指さした。

 

「…結を、本当の意味で救ってくれ。俺じゃかける言葉も思い浮かばねぇ。とりあえずここは守ってやるから。利息はきっちり働いて返してもらうけどな!」

「…ああ。ごめんね、頼んだよ。」

 

キスキル達はそれだけ言い残すと結に向かって走っていく。

克喜をそれを見届けるや否や指の骨を鳴らして獰猛な笑みを浮かべた。

 

「さぁて、こっから先は一人も通さねぇよ!」

 

孤独な戦いが、幕を上げた。




登場人物紹介

・白百合結
完全にメンタルブレイク。自分が一番嫌いな人間と同じ行動をしてしまった事で、今までの自分が嘘だったかのように思えてしまった。本性が最も嫌いな奴と同じってそれはきつい奴だと思う。でもぶっちゃけやり過ぎ感は否めないけど怒りの理由そのものは割と真っ当。人生をめちゃくちゃにされてるし、やべーことになりかけてたし…。これバックボーンが完全に重い奴なんすよ。…これ本当の元がカードゲームなんですか?

・九条克喜
取り敢えず結の過去をキスキルから聞いたせいで止めようにも止められなかった人。復讐心を抱いてしまうのは良く分かるし多分自分も同じ立場だったらそうしちゃう。

・結の父親
フルボッコ。今回の件を交えてもまだこっちの方がやらかしてる。文字通りの人間の屑にして今作でも屈指の下種野郎。
デュエルの結果に従うだけ分別があるが、それはあくまで自分で決めたルールなのでそうしただけ。

みんな大好き美少女曇らせの時間ですよー。
俺は書いててめっちゃ心が苦しかったんですけどね…。
次回もお楽しみに。

水樹君のデッキ強化

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