「相棒」   作:ダンちゃん1号

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大馬鹿野郎

 

「は、負けた、か。」

「もう一度、たっぷりと言わせてもらう。俺の、勝ちだ。」

 

空也と克己はともすれば手が届きそうなほど近く、それでも絶対に手が届かない場所で座り込んでいた。それはまるで喧嘩して疲れ果てた末に互いに座り込んだ奇妙な距離で。

克己は空也に奇妙な何かを感じていた。友情とはまた違う何かを感じて、どうすれば分からないという風に接する態度を決めかねていた。

 

「さっさと拷問なりなんなりして情報をはかせればいいだろ。」

「んなことするかよ、ばぁか。」

「甘いな。…思えばそれが俺とお前達の違いっだたのかもしれないな。」

 

自分に足りなかったのはその「甘さ」だったのかもしれないと皮肉気に笑う空也。克喜はその言葉には何も返すことなく、ただただ空也を見つめていた。煽った時に見せた激情はかけらもなく、そこにあるのは幾分か冷静になった空也だ。それを見た克喜は空也に背を向けてゆっくりと歩きだす。

 

「…九条、克喜。少し、話を聞いてくれないか…。」

「あ?」

 

克喜は空也から目を逸らした時に声を掛けられて少々びっくりしてしまった。その動揺は語気を強めることでごまかして、それで頭だけで空也の方を見る。

 

「誘いには乗らねぇぞ?」

「ただただお前と話したい、では駄目か?」

「…ったく。わぁーったよ。…ここでの俺の戦いは終わったしな。」

 

そういい克喜は空也の傍に行って座り込む。それを見た空也は倒れたままで奇妙な物を見る顔をした。

 

「驚いた…。断られると思っていたが…。それに、ここでの戦いは終わったとはどういうことだ?」

「『託した』ってやつだ。アイツが負けるなんて微塵も思ってないしな。…結、わりぃが奈楽達の援護へ行ってくれないか?」

「…ん。いいよ。」

 

結は克喜が何をしたいのか分かったのか、克喜の提案を二つ返事で飲んでくれた。その事に感謝をしながら空也を見続ける。

 

「で、話って?」

「…俺はさっき言ったな。霊使の強さを認めないとか…。」

「…ああ、言ってたな。」

 

それで克喜は激昂したのだ。自分を怒らせたセリフぐらい覚えているに決まっている。そんな感情を読み取ったのか空也はまあ怒ってるだろうな、と一言付け加えた。

 

「なあ…九条克喜、お前はなんで霊使に託したんだ…?」

 

四道空也にとって四道霊使という人間は眼中にない存在であった。それよりももっと見るべきものが多かったし、何より父に道具と教えられてきて、その役目を果たせないものなどいらないと思っていたからだ。

そして空也にとって霊使は弱虫で泣き言中利を漏らす軟弱な人に見えた。

今、思い返してみればそれは、霊使の中にある何かを認めたくなかっただけなのかもしれない。

そして、きっとそこに自分を打ち負かすだけの力を持った九条克喜が託すに至った理由があると考えていた。

 

「アイツはただ強いだけじゃないからだ。酸いも甘いも味わって、苦しいことも悲しいことも乗り越えて、たくさんのものを抱えて、それでも折れずにめげすに走り続けた。…確かにあいつは弱音を吐いていたんだろう。…でもさ、俺は辛い、苦しいってことを周りに伝えるってことも勇気がいると思うぜ。」

 

苦しみを伝えるにも勇気が必要―――そんな事も知らなかったのか、と克喜は呆れたように言い放つ。でも確かに知らなかった。そんなものはただの言い訳にもならなかったから。

 

「…俺達に足りなかったのは勇気、とかそんなちゃちなものなのかもな。」

「ま、お前らは助けを求める手を思いきり斬り飛ばした。…その時点でこうなることは決まってんだよ。だって、あいつは、心を、感情を、お前らにはない強さがあるんだから。」

「…俺達にはない、強さか…。」

 

今の空也になら霊使の強さがほんの少しだけ分かる。それはきっと「本能的な強さ」ではなく、「心の強さ」なのだと。霊使はすでに遥か上の高みへと至っていた。思いは不要だと断じた自分達を、思いでつながった仲間たちと共にまさに打ち倒さんとしているのだから。

 

「…こうなるのも、必然だったってわけだな。―――九条克喜。霊使に伝えておいてくれ。…俺みたいになるな、とな。」

「…分かってるだろ、あいつは。」

「…かもな。」

 

空也は未だに寝たままだ。こちらを害するつもりはないのだろうが、それでも警戒に越したことは無い。それでも今なら大丈夫―――そう考えたところで、空也が血を吐いた。

 

「…割と、早かったな。」

「おまえ、まさか…。」

「喀血するとは聞いてないが…まぁ楽な気分ではある。…毒だよ。自殺用の、な。」

 

空也はあっけからんといった感じで自分に毒を投与したことを言い放った。勿論そのまま死なせるほど克喜は歪んではいない。克喜は空也に慌てて近寄ると、肩に腕を通して起き上がらせ、空也を背負う。そして、治療ができるるであろう病院目掛けて歩を進めた。

 

「…無駄だ。これはフグ毒をベースに作られたものでな。フグ毒よりも毒性は低くなったが血中に毒物は残らない代物だ。…本来なら割と苦しい筈なんだがな…。」

 

苦笑しながら毒の詳細を語る空也。一方の克喜はそんな終わらせ方をさせやしないと言わんばかりに何とかして空也を救おうとする。

 

「無駄だと分かってても…助けようとする。…それは、何故だ…?」

「テメェがやったことを償わせるためだよ、四道空也。今こうやって俺とお前は話しているけど、別に俺はお前を許したわけじゃないしこれから許すつもりも毛頭ない。」

 

それならなおさら、そう言いかけたところで、克喜が次の言葉を発した。

 

「…だから生かさねぇといけないんだよ。償わせるためにも、本当のお前を探させるためにも。」

「だから、死ぬな、とでも…?」

「これこそ綺麗事だろうけどな。」

 

それはもはや狂気にも似た執念であるように感じた。誰も死なせない、死なせたくないという思いが少し強く見えてしまう。だが、克喜がそのような思いを抱くのも当然なのだろう。

彼はもう誰かが死ぬところを、見知った誰かが死んだという事を受け入れたくなかったのだから。

 

「…そんなに、風見颯人のことを、思い返している、のか…。」

「…ああ。」

 

少しずつ意識が遠のいていく空也。この時、初めて自分が招いた惨状をまじまじと見た気がする。周囲には少しも動かなくなった骸の山があった。その骸の中の一体と光の無い目線同士をぶつけ合う。

その目からはただ「生きたい」という強い思いの残滓が感じられた。

それ以外にも似たような思いの残滓が宿った目を何回も見た。

 

「は、ははは…生きて償うには…重すぎ、る…。」

 

生きて償うには重すぎる。空也はそれだけの罪を背負ってしまったのだから。確かにその罪は一生をかけても贖えないものだ。それは克喜だってそう思っている。だが、だからこそ、四道空也は生きなければならないとも。

 

「そうかい、じゃあ背負って生きろ。」

「…矛盾、してるな…」

「…今はお前がやらかした罪をその目でしっかりと見ろ。」

 

克喜は突き放すように言った。空也が殺した命と、空也の命。命の価値に貴賤はないだろう。それでも克喜にとっての価値は空也という人間に殺された人たちの方がよっぽど高かった。それでもそれは目の前で消えそうな命を助けない理由にはなりえない。

 

「…案外、と。心地いいな、こうして、誰かと話すのは…。…九条克喜……霊使にもう一言言伝を、それに、ウィンに、も、一言…。すまん、と伝えておいて、くれ…。」

「…お前が伝えるんだ…。」

「まさか。そんな、資格、俺には…ない、だろう…。…人生の、最後は、実に、あっけないものだったが…。」

(ようやく自分と向き合えた気がする。…俺がこれまで傷つけ、奪い、殺した、全てに…いの、ろう。)

 

そして空也は目を閉じた。

克喜はほんの少しだけ背中にのしかかる空也の体が軽くなったかのように感じて。

振り返ってみればそこにはもう物言わぬ死体が一つあるだけだった。

 

「…あの糞爺に殉じやがって、…大馬鹿野郎」

 

結局四道空也は己の罪を雪ぐことなく、家族と敵対する自分に情報を渡すことなく死んでいった。

世界に名を遺すことになる殺人犯の最期の顔は後悔と喜びを混ぜ合わせたような死に顔だったという。

 

(もし、もっと俺がお前を変えられていたら、あるいは…)

 

風に揺られて、木の葉が一枚舞った。

 




登場人物紹介

・四道空也
死ぬ直前になって本当の強さを知った。彼はきっとあの世で裁きを受けるだろう。それでも彼はその裁きを受け入れるはずだ。思いの強さを知って、自分のしでかした事の重大さに気づけたのだから。だからもう大丈夫。
毒を仕込んで自殺したのは情報を渡さないため。彼は最期まで家族に尽くすことを選んだ。
提案自体は安雁のものなので実質彼が安雁を殺した。
もう少しだけ早く自分の中にある何かを信じていれば霊使度に寝返っていただろう存在。
彼は確かにクズだが、救われる芽もあった。

・九条克喜
空也を変えることができた人間。ただし死ぬことは許可していないので毒を仕込んだ安雁ぜってぇ許さねぇ状態になりました。

次回もお楽しみに

水樹君のデッキ強化

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