「相棒」   作:ダンちゃん1号

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覇王顕現

四遊霊使、二重原水樹、四道咲姫の三人は地下道を突っ走っていた。

その原因は無論、二人の死体の回収と創星神の破壊、もしくは制圧である。

相手がこんな大胆に動けるのには何か理由があるから―――そう考えた克喜はこの地点の制圧に最も多くの人員を割いた。

といっても割けるのは多くて三人だったようでそこにぶち込んでくれたのは僥倖というかなんというか、運が良かった。

 

「これでようやく、あの人たちをぶん殴れる…!」

「…あの日の事、ですか。」

「…。あの日に命を奪われた名前も知らないあの人を殺して、ようやく完全に別離できたよ。忌々しい家から…なんてことの無い家族ごっこから。」

 

ワルキューレを使っていたあの人は結局どうなったんだろうか。生きているのか、死んでいるのか。それさえも分からないけれどそれでも少なくとも彼女は四道に殺された。

自分がこんな場所の一員だと考えると今更ながらに反吐が出る。

それでも、一生背負っていくと決めた名前でもあるから、苗字の事はこの際置いておく。

 

「…咲姫ちゃん、大丈夫かい?」

「兄さんが運動能力人外だったの忘れてた…。」

 

それはそれとして結は今、クーリアに背負われていた。理由は単純で、体力切れだ。まさか一時間ノンストップでかつ、最高速で走り続けるとは思いもしなかった。

インドア派の咲姫にとってそんな運動量をこなすこと、というのは何よりも難しいことで、気づけば息も絶え絶えになってしまっていたのだ。その後はクーリアにお姫様抱っこしてもらう事で何とか進んでいるが何となく気恥ずかしくなってしまう。

 

(…これ、終わったらちゃんとクーリアに気持ち伝えたほうが良いのかなぁ…。)

 

咲姫は霊使と違って自分の感情をきちんと自覚できる方だ。

とにもかくにもこの気持ちは一旦余所に置いておいて、今は目の前の戦いに集中することにした。

そうでなければまともな顔をしていないだろうから。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

霊使にとって、この戦いは世界を救う戦いであると同時に乗り越えるための戦いでもある。霊使は一度不完全ながらも創星神の力の一端を用いた安雁に完膚なきまでに叩きのめされた。

それが今の霊使に恐怖となって襲い掛かってくるのだ。

 

(…対策は、できてるけどな…。)

 

そんな事を言ってもびびってなんかいられないし、尻込みしたところで待っているのは破滅だ。

なら怖くても前に進むしかない。怖がっていられない。

きっとそう遠くないうちに自分は死ぬのだろうが、それでも残せるものはある。それこそ平和な世界とか、普通のデュエルだとか。

それを残すために霊使は必死になって駆けている。

目を閉じればこの場に倒れそうだし、軽く小突かれただけでも死んでしまいそうだ。

それでも駆ける理由があるから、前に行かなければならない理由があるから少年は走り続ける。それが自分の役目で、ここで足を止めることはその役目を違える事と同じだから。

ふと、色を失った霊使の視界に一人の人間が立ちはだかっている光景が入って来た。

 

「兄さん、行って!」

 

きっと近くにいるであろう咲姫が自分にギリギリ聞こえるレベルの声を張り上げる。

その声を信じて霊使は目の前にいる人間の脇をすり抜けてさらに前へと走る。

自分が自分でなくなる前に。

自分が自分でいられるうちに。

この戦いに終止符を打つために、少年は自身の限界を大きく超えて走り続ける。

 

「勝って、兄さん!―――ウィンちゃん!兄さんを頼んだよ!」

「任せろ、咲姫!」

「…分かってる!」

 

この声が先に届いたかは分からない。隣にいる相棒(ウィン)達がどんなやり取りをしたかさえ分からない。

それでも、やり遂げるべきことをやり遂げるだけの元気は貰えた。

ほんの少しだけ色が戻った世界の中で、霊使は大きく息を吸って走り続ける。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

四道咲姫は四道真子と対峙していた。なんてことはない、咲姫にとっても真子にとって相手は障害なのだから、それを取り除こうとしているだけだ。

咲姫は今までの兄への仕打ちと自分の記憶を弄られたという屈辱、そして無関係の人間にの命を易々と奪ってしまえるその精神に怒りを抱いて。

真子は家族を裏切り、存在する価値のない弱者側に付いた咲姫に侮蔑と嘲笑を抱いて。

目的が反する二人だからこそ何も言わずに相対していた。

 

「…そこをどいてくれない?」

「…答えは勿論…分かっているでしょ?」

「…だよね。」

 

もう互いに引くことができないから。

もう、袂を分かったから。

会話なんてものは既に不要だ。例えそれが家族で会った間柄だとしても。

もう二人の間には争って勝者を決めるしか道は無いのだから。

人の世を壊すことを選んだ姉と、人の世を守ることを選んだ妹。もう既に戻れない間柄の二人の決闘の幕は、今上がる。

 

「私のターン…私は魔法カード"竜の霊廟"発動。効果で"オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン"を墓地に。この効果で通常モンスターを墓地に送ったためドラゴン族である"覇王眷竜ダークヴルム"を墓地に。」

「…天使族じゃないの?」

「容赦しないよ。…クーリアと、ミューゼシアと、みんなと作り上げたこのデッキで、勝つから。…"覇王眷竜ダークヴルム"の効果発動。このカードが墓地に存在して自分フィールド上にモンスターが居ない場合このカードを特殊召喚できる。」

 

咲姫のデッキは天使族を主体にして、そこにほんの少しだけ覇王系統のカードが入っていたはずだ。少なくとも"竜の霊廟"というカードは真子の記憶の中には存在していない。

 

「…さらに"ダークヴルム"の召喚時効果発動。デッキから"覇王門零"を手札に。さらに"レドレミコード・クーリア"と"覇王門零"をペンデュラムスケールにセッティング!そして"ドドレミコード・キューティア"を召喚!」

 

真子の困惑を置いて咲姫はどんどんデッキを回していく。真子は相対している相手が四道咲姫の皮を被った何かのような気がして、すでに平静さを失っていた。

 

「"キューティア"の効果で"シドレミコード・ビューティア"を手札に。さらに"キューティア"と"ダークヴルム"で"ヘビーメタモルフォーゼ・エレクトラム"をリンク召喚。"エレクトラム"の効果でデッキから"アストログラフ・マジシャン"をEXデッキに表向きで加える。」

 

どんどん覇王よりの動きになっていく咲姫のデッキ。もしかしたら、この後に出てくるモンスターは―――と嫌な予感がした。真子はその嫌な予感を振り払うように咲姫の動きを見ている。

 

「"エレクトラム"の効果発動。私のPゾーンの"クーリア"を破壊してEXデッキから"アストログラフ・マジシャン"を手札に。さらに"エレクトラム"の効果発動。そしてその効果にチェーンして"アストログラフ・マジシャン"の効果発動。自分フィールドのカードが、戦闘もしくは効果で破壊されたときこのカードを特殊召喚する。その後デッキからこのターン破壊されたモンスターと同名モンスターを一枚―――"ドドレミコード・クーリア"を手札に加える。…"エレクトラム"の効果でデッキから一枚ドロー。」

 

真子は未だかつてない展開に頭がどうにかなりそうであった。ここまで展開しておいてまだ咲姫はペンデュラム召喚を行っていないのだから。この状態でペンデュラム召喚を行われたらと思うと背筋がゾッとする。

 

「手札から"ドレミコード・ハルモニア"を発動。効果で"ドドレミコード・クーリア"のPスケールを9にする。描け旋律のアーク。揺れろ、音階のペンデュラム。…P(ペンデュラム)召喚!EXデッキより"覇王眷竜ダークヴルム"と"ドドレミコード・クーリア"、手札から"シドレミコード・ビューティア"を場に!カードを一枚伏せてターンエンド。」

 

咲姫 LP8000 手札一枚

EXモンスターゾーン(右) ヘビーメタモルフォーゼ・エレクトラム (リンクマーカー:右下、左下)

モンスターゾーン     ドドレミコード・クーリア(エレクトラムのリンク先:右下)

             シドレミコード・ビューティア

             覇王眷竜ダークヴルム(エレクトラムのリンク先:左下)

             アストログラフ・マジシャン

フィールド魔法      ドレミコード・ハルモニア

魔法・罠ゾーン      伏せ×1

Pゾーン         右:ドドレミコード・クーリア(Pスケール:1)

             左:覇王門零        (Pスケール:0)

 

これで咲姫の場には上級モンスター三体という状態になった。しかも伏せカードに関しては真子からは知りようがないものだ。覇王要素を多分に増やした結果がこのデッキなので一言で言えば、咲姫の本気とと怒り如実に表したデッキだともいえる。ちなみに一度だけ学校でこのデッキを使った事があるがその日以降咲姫は純ドレミコードしか使えなくなったといえばこのデッキの評価は察せるだろう。

真子は自分は何に触れてしまったのか、という恐怖を抱きながらもデッキの一番上のカードに手を掛けた。

 

「私のターン…ドロー。…霊使といい、なんで、こう、離れると強くなるの…!?私は"呪眼の死徒サリエル"を召喚!フィールド魔法"呪眼領閾‐パレイドリア‐"を手札に加えるわ。さらに手札から"セレンの呪眼"を"呪眼の死徒サリエル"に装備して、"パレイドリア"発動!発動時効果で"呪眼の眷族バジリコック"を手札に。"セレンの呪眼"の効果発動。500LPをサリエルの力に――自分フィールドに"呪眼"モンスターが居る時に"バジリコック"は特殊召喚できる。"呪眼の死徒サリエル"の効果発動!相手フィールド上のモンスター一体を破壊する!」

「…罠発動"無限泡影"。その効果を無効にするよ。」

 

真子 LP8000→7500

サリエル ATK1600→2100

 

真子は咲姫の手札にまともなカードが無いことを確認して安心したのか、本腰を入れてそのデッキを回し始めた。

咲姫のとっておきを出すには必要最低限に被害はとどめなければならない事を知っているため、咲姫は最期の手札の使い時を待つことしかできない。でもそれでいいと思っている。

 

「私は魔法カード"喚起の呪眼"を発動。デッキから"呪眼の眷族バジリウス"を特殊召喚!"セレンの呪眼"の効果で私のLP500をサリエルの力に!」

 

真子 LP7500→7000

サリエル ATK2100→2600

 

咲姫はまだ相手(真子)の動きを見つめている。これが相手の悪い癖だと見抜いたから。相手の動きが無ければ自分が有利だと思い込むその精神が、自分が何よりも上だと慢心するその性根が、何よりも自分を追い詰めていると気が付いていないから。

 

「そしてフィールド上の三体で"呪眼の王 ザラキエル"をリンク召喚!攻撃力2600以上のモンスターを素材にした"ザラキエル"は二回攻撃ができるッ!」

「エフェクト・ヴェーラー!このターン中ザラキエルの効果を無効に!」

 

使い時はここしかないと感じた手札の最後のカードを切る。

こうすることでなんとかモンスターの破壊はエレクトラムのみに抑えることができた。

戦闘ダメージこそ受けてしまうがそれは必要経費というものだろう。

 

「っつぅ…。」

「1000ライフ払い墓地の"喚忌の呪眼"を除外して"セレンの呪眼"をセットし発動。装備先は"ザラキエル"よ。カードを一枚伏せてターンエンド。」

 

そうして真子はターンエンドを選択。

 

真子 LP 6000 手札二枚

EXモンスターゾーン(右) 呪眼の王 ザラキエル

フィールド魔法      呪眼領閾‐パレイドリア‐

魔法・罠ゾーン      セレンの呪眼(装備:ザラキエル)

             伏せ×1

 

破壊こそエレクトラム一枚に留めたが毎ターン除去が飛んでくるのは厄介が過ぎるというものだ。故に、咲姫はこのターンに勝負を仕掛けることにした。

 

「私のターン…ドロー!私は"ハルモニア"の効果発動。"クーリア"のPスケールを9に。そしてP召喚。EXデッキから"ドドレミコード・キューティア"を場に。そして"ダークヴルム"と"キューティア"をリリースしてアドバンス召喚!来て、"轟雷帝ザボルグ"!"ザボルグ"の効果発動!このカードがアドバンス召喚に成功した時、フィールド上のモンスター一体を破壊する!」

「無駄よ!"セレンの呪眼"の効果で"ザラキエル"は破壊されないもの!」

 

真子の言う通りザラキエルはセレンの呪眼のお陰で効果破壊されないとかいうふざけた効果を得ている。だが、咲姫にとっては、別に"ザラキエル"の除去を狙わなくても勝てる見込みがあるのだ。

 

「一体いつから"ザラキエル"狙いだと考えていた?…私が破壊するのは"轟雷帝ザボルグ"!」

「はぁ!?」

 

真子は先の宣言に耳を疑った。わざわざ二枚のコストを払って出した"ザボルグ"をたった今自分の手で破壊したのだ。まるで勝ちを放棄したかのような行動に、真子も思わず笑いがこぼれてしまう。

 

「アドバンス召喚をしたモンスターを自分で破壊するとか…馬鹿じゃないの?おかしくってお腹痛くなりそうだわ…ッ!」

「…この効果で光属性モンスターを破壊した時そのモンスターのレベルかランク分互いのEXデッキからカードを墓地に送るといっても?」

「…は?」

「ザボルグのレベルは8!従って互いに8枚のカードをEXデッキから墓地へ!」

 

しかし真子の笑いは一瞬で止まることになる。何故なら真子のEXデッキにはほとんど呪眼系のカードしか積んでいないからだ。今、ザラキエルが場に出ているため残り5枚―――その全てが雷に打たれて墓地へと送られた。

だが、それでもだ。

それでも"ザラキエル"の効果を発動させない事には安心して責める事は出来まい。

そう高を括っていた真子は取り敢えずの処理に移ることにした。

 

「…ハルモニアの効果発動。EXデッキから"キューティア"を手札に」

「"ザラキエル"の効果発動!"クーリア"を破壊!」

「…ごめんね"クーリア"…。」

 

咲姫は自身のEXデッキからドレミコードの"キューティア"を回収。

しかしその効果にチェーンして発動されたザラキエルの効果でクーリアは呪われ、倒れ伏してしまう。

さらにセレンの呪眼が赤く光り、真子の体から生命力を吸い上げザラキエルの力を増させる。

相手からしてみれば絶望させるためのその一手だっただろうが、それが逆に咲姫にあるカードを使うことを決心させた。

 

真子 LP6000→5500

ザラキエル ATK2600→3100

 

「これで役に立たない天使も滅びたわねぇ!今の貴女のフィールドには攻撃力が足りない魔法使いただ一体!サレンダーするなら今のうちよ。そうしたら新しい世界に連れて行ってあげる…私の奴隷としてねぇ!」

「…そう。」

「…あなたの大事なエースが破壊されたのよ?…もう少し泣き喚きなさいよ。」

「…悪いけどあなたの期待には応えられそうにない。」

 

咲姫はザラキエルの効果の前に倒れたクーリアを嘲る真子に純粋な殺意を覚えた。自分の大切な人が馬鹿にされれば怒りを覚えるのは必然の事だ。さらに相手はこの世に地獄を生み出した張本人。今まで抱いていた怒りと相棒をバカにされた怒り。その二つは統合され、目の前の相手に対する殺意へと昇華されてしまったのだ。

ならばもう、その感情を止められる存在は誰も居ないのが道理だ。

 

「これから泣き叫ぶのは貴女だから。…墓地の"オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン"、"クリアウィング・シンクロ・ドラゴン"、"ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン"、"スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン"とこのカード(アストログラフ・マジシャン)を除外して"アストログラフ・マジシャン"の効果発動。"覇王龍ズァーク"を融合召喚扱いとしてEXデッキから特殊召喚する。」

「…は?」

「四の天を巡る者に分かたれたその体は一つに戻る。彼の龍の戒めは解き放たれ世界に再び覇を唱える…統合融合召喚―――!殲滅せよ、"覇王龍ズァーク"!」

 

現れるのは咲姫が扱うドレミコードの見た目からはかけ離れた黒く禍禍しい龍。低い唸り声をあげて今目の前に立つ愚か者を粉砕せんとするそれはザラキエルをもってしてでも止められないだろう。

真子にはわかる。あれは、自分に向ける咲姫のどす黒い感情が固まってできたものだと。

自分は一体何を起こしてしまったのか。真子は奇しくも零夜と同じ疑問を抱くことになった。

そして同様に、真子がその答えを知る時はこない。何故なら―――

 

「"覇王龍ズァーク"で攻撃。」

 

覇王たる龍の一撃をその身に受けて。

そんな事を考える暇もなく、真子の心は恐怖に埋め尽くされたのだから。




登場人物紹介

・四道咲姫
【覇王ドレミコード】の究極系を使用。
ちなみにクーリアの事をバカにされるともれなくズァークが飛んできます。自分の大切な相棒をバカにされたら誰だってキレるだろう。
彼女を止められるのはクーリアしかいない。

・四道真子
死で贖うしかない可哀想なお方。クーリアの事をバカにしたので残念ながら死ぬのは当然である。

えー、覇王ドレミコードからズァークが飛び出るというとんでもない状況が出来上がりました。どうすりゃいいんだこれ…。

次回もお楽しみに。

水樹君のデッキ強化

  • ネクロス
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