「相棒」   作:ダンちゃん1号

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消失へのカウントダウン

 

水樹と霊使、そしてエリアルとウィンは必死に走る。自分達の大切な仲間が切り開いてくれた道を走る。

もう既に各地の戦場はみんなに託したのだから心配するだけ野暮だと分かっているのだ。

だから霊使も水樹も「みんな大丈夫」というようなことを口にしなかった。

きっとみんななら大丈夫だと信じているから、霊使と水樹は言われたとおりに前を目指す。

振り返る暇は無いし、そもそも周りを心配しているほどの余裕はない。

 

「…霊使君…大丈夫?」

「…なんとか、な。咲姫の応援があったおかげか少しマシになったような気がする。」

「受け答えができるくらいには回復するっていったいどうなってるの?」

「さぁねぇ。少なくとも魂なんて概念的なものが存在していたことがびっくりだから。」

「確かに!」

 

受け答えができるようになった霊使は水樹と会話を交わしながら前へと走る。これが決戦前の最後の会話に、つまりは休息になると分かっていたから。

 

「…ねえ、霊使君。…つまらないこと聞いていい?」

「んぇ?」

 

水樹は一旦足を止めて、霊使もそれに倣って一度足を止めて水樹の方を見る。水樹は至って真剣な様子で霊使の方を見つめていた。

その目を見てこれはただならない問答になると感づいた霊使は水樹の目を見たまま、頷いた。

 

「…怖く、ないの?」

「怖いかどうか、か…。」

 

水樹からこの戦いへの恐怖は無いのかと聞かれる。果たしてどうなのだろうと考えながらも、その答えは既に自分の中にあった。

 

「…生憎俺はガンギマリじゃないんでね。…怖いに決まってるだろ。」

「あ、あはは…。」

 

そう、霊使も怖いのだ。この戦いが、この戦いの背後に潜む人間の欲望が、簡単に人を傷つける判断が出来てしまう自分自身が。この戦いで変わっていく未来が。

見知った誰かが死ぬのも、見知らぬ誰かが傷つくのも、大好きな場所が壊されるのも、全部ひっくるめて怖い。

 

「でも怖いのと動かないというのは話が別だ。…ここで動かなければ俺はきっと後悔すると思うんだ。」

「…うん、良かったよ。正直言って僕もものすごく怖いんだ。…颯人君を救えなかったのもあるし、何よりもエリアルが傷つくことが怖いと思っているんだ。」

 

そうだ、誰かが傷つくのが、命をかけることが怖い―――それを思う事の何が悪いというのだろうか。誰だって恐怖は抱くものだし、それがどれほど重くのしかかってくるものなのかも理解しているつもりだ。

 

「…でもそれは僕だけが抱えている物ではなかったんだね。」

「あたりまえだ。そもそも命を賭けるることが怖くない人間は大体狂信者だ。」

「言えてる。」

 

それが苦にならない人間というのは大体碌なものではないだろう。霊使はたとえそこに別の信念があったとしても人間として破綻してるのではと考えている。

 

「…その怖さを知ってそれでもなお立ち上がった人たちがきっと英雄って呼ばれるんだろうな。」

「そう、かもね。…じゃあ君は英雄だ。」

「…俺はそんな柄じゃないよ。」

 

首を横に振って水樹の言葉を否定する霊使。だが、その霊使の言葉に異を唱える者がいた。

 

「…そんな柄じゃなくても英雄だよ。君の行動に突き動かされて、どれだけの人が動かされたか。」

 

その人物はエリアルだ。今まで二人の会話には聞くに徹していて余り本格的には参入してはこなかったエリアルだが、霊使の言葉を聞いてとうとう会話に入って来た。

曰く、霊使の行動が皆を動かしている。それを英雄といわずに何というというのが彼女の主張のようだ。

だが、霊使はエリアルの言葉に対して首を横に振ることができた。

 

「…なら、それこそ、克喜の方が向いてるだろ。」

「彼も君に動かされたんだよ。…君の強い思いに、みんな引っ張られてたんだ。…颯人君が命を賭けて君を逃したのがいい証拠だよ。もちろん、僕もね。」

「エリアル…もし俺が本当にそうなんだったら俺は颯人を助けられただろうな。」

「そう感じる人もいるって事。」

 

だって助ける事が出来なかったから。颯人を、創を、たくさんの人を助ける事が出来なかったから。もし英雄たりえるのであればもう少し犠牲を少なくすることもできただろう。

霊使は自分の周りの、手の届く範囲の人間しか助けられない事を自覚している。そんな人間は英雄たりえないと感じているのだ。

 

「…俺は英雄じゃない。…生き足掻く一般人で十分だ。」

「それでいいなら、それでいいよ。」

(…そもそも英雄じゃないなら誰かを命かけて救ったりはしないんだけど…黙っておこうか。)

 

エリアルやその他の人間にとって四遊霊使という人間は英雄であるのだが。その事を胸にしまってエリアルは静かに微笑みを浮かべた。

 

「…行こう、霊使、皆。」

「…そうだな。行こうか、ウィン、水樹、エリアル。」

 

その声に従って三人は走り出す。負けられない理由もある。託された物もある。何よりも守りたいものが傍にある。それが恐怖を塗りつぶしてくれるから。だからもう、霊使達がその足を止めることは無かった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

ほんの数時間前まではただの無機質な部屋だった。確かにそう記憶している。

だが今は、歪みに歪んで配管が円形に露出してリングのような箇所が作られていたり、切断された配線から火花が散っていたり、地面に巨大な穴が開いていたりとほんの数時間目と違い非常に混沌とした風景が広がっていた。

 

「…なぁにこれぇ?」

「…どういう…ことだ…?」

 

その光景は霊使達にとって信じられるものでは無くて、それこそ何か大きな、予想できないような力が働いているとしか考えられなかった。

 

「……おいおいおい。」

 

これだけの力の持ち主と相対するのが怖いか怖くないかなど聞くまでもないだろう。現にウィンはその光景に腰をぬかしそうになっているし、水樹もエリアルに引っ付いている。

 

「それだけすごい力を持っているって事かよ…?」

 

霊使は一人冷静に周囲の探索を行う。どこかに道があるはずだと思って壁に手を当てたとき、その壁が後ろに倒れたのだ。人間は全体重をかけた支えが無くなるとその方向に倒れてしまう。それに今の霊使が抗えるはずもなく、ものの見事に転んでしまった。

 

「…なんつー古典的な…。」

「でも、先にすすめそうだよ?」

「…そうだな。」

 

怪我の功名というものだろうか。とにもかくにも先へ進む道を見つけた霊使達はその奥へと進むことにした。奥に続いている道はこれまでの無機質な人工物の道とは違い厳かな雰囲気で満ちている。だが、道の奥から感じられるのは歪に歪められたかのような強い力だけだ。少なくともこの歪んた空気には似つかわしくない。

 

「こりゃ奥に居るね。…今行くよ。」

「…だね。行こうか、皆。」

 

余りに異様な雰囲気がする道を進んでいく。この先にあるのは未来か、それとも破滅か。それを知る術はここにあるわけもなく、ただただ決意を固める事しかできなかった。

 

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「…そう言えば、颯人やウィンダの遺体…無かったな。」

「…うん。穴に落ちちゃったのかな…。」

 

岩窟を進みながらウィンと霊使は二人の遺体について話していた。確かにあの場所で別れたのはしっかりと覚えているのだ。あそこで斃れてしまったウィンダの冷たくなった体をゆすったこともはっきりと覚えているから。

そしてウィンダの遺体が張ったと思われる箇所には大きな穴が開いていた。もしかしたらウィンダの遺体はそこに落ちてしまったのかもしれない。

そう考えると心が苦しくなった。

 

「…今は考えない様にしよう。」

「そうだね。捜索は…私達じゃ無理だし。」

 

だが、今だけは二人の事を後回しにせざるを得ない。

それが今の自分達の実力なのだ。世界崩壊のタイムリミットを前に恩人の遺体でさえ探せない実力、それが今の状況を作ってしまったのだ。その種を撒いたのは自分で、ならばその目を刈り取るのも自分達でなくてはならないのだ。

 

「…行こう。」

 

それ以降会話らしい会話は無かった。気が抜けて勝てる相手ではないのを分かっているからか、誰もがもう口を開こうとしなかった。そうして無言の時間がしばらく続いて、四人の間に再び会話が生まれたのは開けた場所に出て来たからだった。

 

「…ここまで来おったか。若造共が。」

「ああ。来てやったぜ、老害が。」

 

その中心には四道安雁が居た。後ろに何かを控えさせているような雰囲気に思わず息をのんでしまう。だが、ここで尻込みしているような暇は無いし、そもそも目の前の相手相手に尻込みする必要もない。

 

「…お前を…斃す。私達はそれだけのためにここに来た。」

「ふん。そう焦るな小娘。どうせ死に行くのだ。せめて我が神の御尊顔を拝ませてやろうと思ってな。」

「なに…!?」

 

そう言い安雁は手を翳す。すると、周囲の地面は激しく鳴動して大気を震わせた。余りの想像外の出来事にさしもの霊使も狼狽えてしまう。

 

「…さあいまこそ、貴方様の道行きを邪魔する者を貴女様の力で滅してしまいましょうぞ!"創星神sophia(ソピア)"様!」

 

果たしてそれはそこに現れた。悪魔を思わせるような四つ目の顔に、両手にはそれぞれ強い力を感じる謎の玉、背中には光の翼のようなものが生え、何よりもその体躯は非常に大きいものであった。

 

「神、様…ってよりかは悪魔だろ…。冗談キツイぜ。」

「…我が悲願は為された!これより世界は再び作り上げられる!」

 

sophiaはそれに肯定するようにして声を上げた。その瞬間、光弾が霊使達を狙って飛んでくる。霊使はそれに反応することが出来なかったが、それは別の存在の手によって弾かれた。

 

「させぬわ!」

「ナイス、クルヌギアス!」

 

そう、霊使への攻撃をはじいたのは他でもないクルヌギアスだ。彼女は彼の神と因縁を持っている。だからこの場に出てきたのだろう。彼女はsophiaを見上げると中指を突き立てて叫んだ。

 

「貴様等への積年の恨みを晴らしに来た…地獄からな。」

「ふん。閉じた世界に堕とされた女神如きが。我らが理想郷への先導者にあだなすなどと!」

 

安雁はクルヌギアスを忌々し気に睨みながら叫ぶ。

だが、クルヌギアスに気を取られたのが安雁の運の尽きだったのだろう。何故なら、彼は―――

 

「一発ぶん殴らせろ!この老害がぁぁぁぁッ!」

 

怒りのボルテージが最高潮になった霊使の鉄拳を顔面に喰らったからである。そして安雁の前にはデュエルディスクが放り投げられた。

 

「…お前、決闘が全ての世界を作りたいんだって?」

「否、決闘こそが秩序であり法であり、力である世界を作るだけだ。」

「全てじゃないか。…まぁいい。殴り合いは趣味じゃない。…決闘の結果なら満足するんだろ?じゃあ―――」

 

霊使はとっくのとうに腹を決めている。もしかしたら負けるかもしれないが、それでも目の前の男はデュエルの結果しか認めない。ならばやるしかない。

だから霊使は自らの腕にデュエルディスクを装着してこう言い放った。

 

決闘(デュエル)で決めよう。」

「この、小童が…!」

「水樹…見届けてくれ。俺の、最期のデュエルを…!」

 

霊使は残り少ない命のろうそくを燃やして、遂に安雁に立ち向かう。世界に何かを残せると信じているから。

 

「さあ…始めようか!」

「…うん!やろう、霊使!」

 

そして、霊使とウィンにとっての最期のデュエルが、始まった。




登場人物紹介

・四遊霊使
立ち向かう。何かを残すために

・ウィン
立ち向かう。何かを残すために

・二重原水樹
見届ける。何かを伝えるために

・エリアル
見届ける。何かを守るために


というわけで最終決戦開始です。
次回もお楽しみに!

水樹君のデッキ強化

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