それは声高に宣言された。
それは普通の行為だった。
そしてそれは全てを蹂躙した。
「儂は自分フィールドの"森のメルフィーズ"、"ネフティスの繋ぎ手"、"旧神ヌトス"、"ゼラの天使"を除外して"創星神
ついさっき召喚された創星神によって霊使の全てが一気に壊滅。霊使は手札0、フィールドのカード0、墓地も0という凄まじい状況に追い込まれてしまった。これが、狙いだったのだ。おまけに除外された"ゼラの天使"は次のターンのスタンバイフェイズに帰還する。その攻撃力は除外されている相手のカード一枚につき100上がるという効果だ。どうしようもない。
(除外されているのは…ウィン、エリア、フルルドリス、エクレシア、アディン、精霊術の使い手、連携、覚醒、解放、一輪。それに天底の使徒とバスタード…この12枚か…。つまり帰ってくる"ゼラの天使"の攻撃力は4000…。クソゲーも甚だしいな。)
"創星神sophia"の攻撃は必ず成功するから実質的な残りライフは4400。どう足掻いても次のターンを生き残らなければならない。ならないのだが、それができるビジョンがほとほと見えない。
ああそうだ。
この状況は既にそう簡単にひっくり返るような状況ではないのだ。
自分は残り28枚のデッキの中からその一枚を引き当てなければ負けるだけ。
分が悪いなんてレベルじゃない賭けに勝たなくては世界に平和は訪れないのだ。
「…まずは俺の体が持ってくれるか、だな。」
だが、まずは神の一撃をこの身に受けてまだ命を繋いでいられるかの方が問題だ。少なくともそんな余裕は全然なさそうだし、どんな健常者でも恐らく気を失うだけの衝撃と痛みがやってくる。
それで霊使が耐えることができるかという決闘云々以前の問題が横たわるのだ。こんな体になってしまった自分にほんの少しだけ頭を抱えながらそれでもあきらめないという事だけを考える。
「"創星神sophia"で攻撃。」
彼の神が持つ二つの宝玉が黒と白、二色の光を纏う。その二つの玉からsophia自身にエネルギーが注がれていき、気づけば大気が震えるほどのエネルギーを彼の神は手に入れていたのだ。
本能的に"マズイ"と悟った霊使であった。が、一言で言えば手遅れだったのだ。握り締められた拳が霊使へと襲い掛かり、そして霊使の意識は光の中へと溶けていった。
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ここは何処なのか。
あの一撃で精神が滅んでしまったのか。
それとも文字通りの意味で死んだのか。
「―――使…霊使?」
(…頭、回らない…誰、呼んでる…?)
今の霊使にはそれを考えるという行為すら面倒くさいと思えた。精一杯やったからいいじゃないか。勝てなかったんだ、仕方が無いよ。そんな声が聞こえてくる。
それは自分の負の面を見ているようで、凄く嫌な気分にさせられた。
「…霊使…霊使…朝だよ、起きて?」
「…朝…?」
そんな夢にうなされていると、誰かに体を揺さぶられた。
ゆっくりと目を開けて体を起こすと、そこは見慣れた場所だった。
声の主―――ウィンは心配そうに霊使の顔を覗き込んでいる。迷惑を掛けたと笑顔を返せば、ウィンは大丈夫かな?とほほ笑みを返して、霊使の体にダイブする。
「ぐほぉ!?」
鳩尾にウィンの頭が直撃して霊使は苦悶の声を上げた。さすがに
「行こ、朝ご飯、出来てるよ。」
「そうだな、行くか。」
いつも通りの日常だ。何も変わらない家の中にウィンやエリアヒータ、アウスそれにライナもダルクも、マスカレーナもクルヌギアスもいる。本当に何気ない日常だ。
「今日はどんな教科があるんだっけ…。」
「国数理英社の基本の五教科。全部座学だって…これはボクに死ねと申してるのか?」
「あー…ヒータ、座学苦手だもんなぁ。すぐ寝落ちするし。」
何気ない朝の会話を交わして、全員で制服に着替えて、そして全員で学校に向かう。これがいつもの光景のはずだ。少なくともこの記憶はそう言っている。
それなのにどうして胸の中にはぬぐえない大きな違和感があった。
今の霊使がみている世界は、霊使自身にとって
「…おかしい。」
「…?」
何もおかしくないはずなのに、何かがおかしい。それがぽろっと口からこぼれてしまったようでウィンに首を傾げられた。
「…いや、なんでもないよ。」
「そっか。…ならいいんだけど。」
取り敢えず、今はこの日常を享受しようと思った。幸せで、何もかもが満ち足りたそんな日々を。
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「…死んだか。」
霊使は創星神の一撃を耐えることができず、ライフよりも先に命の方が尽きたようだ。どのみち決闘はもう続行不可能という事は誰の目から見ても明らかだ。つまりは、安雁の勝ちである。
これで安雁を邪魔する存在はもう居なくなったのだ。
ようやくだ。
ようやく新しい世界を作る事が出来る。人間をあるべき姿へと変革させることができる。
「…これで、ようやく世界を縛るクソッたれなルールを破壊できる…。」
安雁は人間があるがままに生きれる世を望んでいた。欲望のままに過ごし、欲望のままに人を殺し、欲望のままに人を弄ぶ。そんな行為でさえまかり通るような世界を望んでいたのだ。
だってそれが人のあるべき姿なのだから。それが人という自然の一部があるべき姿だから。
法に縛られた存在ではなく、自然のままに人は生きるべきなのだ。
だから、この世界を一度壊して新しく作り直すのだ。
人が何にも縛られず、自然と同じように生きれるように。文明ではなく、人間自身の牙でこの弱肉強食の世界を生き抜けるように。
「…叶えに行こう…って顔してるけど、まだ僕が居るんだ…!」
安雁の前には一人の男が立ち塞がる。あの光景を見せられて戦意喪失しないのはさすがと言えるし、そもそも目の前の男も、新しい世界に生きるべき側の人間だ。
故に、安雁は
それなのにどうしてそれを理解してくれないのだろうか。今のままではいずれ人間は自然に駆逐されてしまうというのに。
自分の行為はその淘汰の回避だけだというのに、そんなに滅びたいというのだろうか。
今、後ろに斃れている男―――四遊霊使を見てつくづくそう思う。
この男はより強い牙ではなく、今までのものを使い続けた。―――故に淘汰される側になったのだ。
こっちに付けばこうなることもなかっただろう―――安雁はそんな溜め息を吐きながら、霊使に背を向け歩き出す。しかしその背中に声を掛ける存在が居た。
「…それに、まだそのディスクはデュエルを続けてる…。離れれば負けるのはそっちだ。」
「む…。」
目の前の少年の指摘通りだ。確かにまだ形式上のデュエルは続いている。忌々しいを通り越して今すぐその首をはねてしまいたい衝動に駆られた。
だが、すでに死んでいる身に何をしたってそれは憂さ晴らし以上の何物でもないのだ。そんな低俗な事はしないと心に決めていた安雁は大人しくその時が―――霊使の時間切れが来るのを待つことにした。
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何気ない一日を過ごして、そして何気ない会話の中に霊使はずっと違和感を感じていた。
最初は押し黙ろうとも思っていたが、どうにもそういう訳にはいかないようだ。その違和感はある一つの形となって霊使の前に現れたのだ。
「…いい夢は見れた?」
「趣味悪いぞ…ウィンダ。」
「だってそうでもしなきゃ君はこの世界から退場していたでしょう?」
「…まぁ、死にかけではあるからな。」
その違和感が形を取った瞬間、霊使の中にあった違和感は確信に変わった。何もかも都合がよすぎる何tことを考えていたが、それはそうだ。
これはいわゆる臨死体験という奴だろうから。
その中で出てきた相手がウィンダというのだからなんというか、趣味の悪い話だ。
「…あまり時間はないみたいだね。君の体も今の一撃で完全に壊れた。…この先にあるのは死だけだよ?」
「そんな事はとっくに知ってる。」
今まで過ごしていた風景がドロリと溶ける。それが夢想だと分かったせいなのかどうかは知らないが、霊使とウィンダの周囲は文字通りの"黒"に塗りつぶされた。
そんな中でウィンダは霊使に問うてきた。この先に何が待っているのか分かっているのかと。霊使はその質問の意図をちゃんとわかって、その上で答えた。「知ってる」と。
「…そうだね。…じゃあ一発殴っていい?」
「…あー…。一応理由を聞いても?」
「ウィンや他の子達を泣かせることが確定してるから。」
霊使にとってもその選択は避けたいものだった。誰だって大切な人との別離は経験したくないものだし、霊使はウィンにそんな経験を二度もさせてしまっている。それでも三度目を起こそうというのだから、ウィンダも盛大に怒る。
しかもそれが最低でも20人以上に涙を流させるというのだからそれはもう、三度までなら許す仏も全力で中指を立てるに違いない。というか現在進行形で立てている事だろう。
「というわけで…チェスト―ッ!」
「グワーッ!」
そんなわけでウィンダからいいのを一発貰った霊使。別に痛みとかは感じなかったがウィンダがすっきりした顔をしてるのでそれで良しとした。
二人の今までのやり取りはお決まりのおふざけだ。もうウィンダと霊使はこんなふうにバカして笑い合う事は出来ないし、それはこれからも変わらない。だってすでにウィンダは死んでいるのだから。
「…真面目な話に戻るよ。ワタシはこれから君を現実に送り返す。…きっちりと勝って来なさい。」
「了解した。ま、もしその前に死んだらそんときは笑って許して…はだめか?」
「ダメです!」
「知ってた。」
ウィンダは一方的に言いたいことを言って、そして霊使の中から消えようとしている。何というか忙しない邂逅ではあった。
「…さよならだね。…ウィンを、頼んだよ?」
「ああ。少なくとも俺が、俺達が守ろうとした世界は残してやるさ。」
「死ぬなってこと。」
「無理を仰りなさる。」
そんなバカげた会話をしながらゆっくりと風景が霞んでいく。気づけば真っ暗闇の中に、ポツンと、ドアが浮いていた。
『行っちゃうの?』
そして背後からはそんな声がする。たしかにこの不思議な場所に居れば苦痛を感じることは無いのだろう。それでも霊使は迷わずにドアに手を掛けた。
「ああ…。行ってきます、ウィン。」
『…うん。行ってらっしゃい。『私』によろしく。』
結局あのウィン達が何だったのかは分からずじまいだ。死の間際に見せた空想か妄想の類か、、それとも本当にウィン達だったのか。
だがそんな事はどうでもいい。ウィンの声を背にドアをあけ放ち、そして霊使は光に呑まれていった。
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「…何?」
安雁は背後で斃れているはずの霊使の変化を読み取っていた。確かに心臓の鼓動は止まっていたはずだし、呼吸もしていなかったはずだ。間違いなく死んでいた、それは確かな事だ。
だというのに、どうしてこんなにも命の息吹を感じるのか。
「…まさか…。」
「悪いな…まだこっちに来るなって言われたんだよ…!」
「そんな、ことが…?」
振り返ればそこには手を地面につけてそれを支えに立ち上がる霊使の姿があった。
全身から血を流し、来ている服も何色化判別不能なほどの出血を負いながらも、それでも立っていた。
「…俺の――――!」
もうそんな宣言でさえも辛いものがある。
霊使の一挙手一投足に合わせて鮮血が舞う。それに痛みを感じなくなったという事はいい事なのか悪い事なのか。それも今の霊使には判別することができない。そんな事を考えている暇なんて無いし、考える余裕もないからだ。
だから霊使は叫んだ。自分を、仲間を鼓舞するために。
まだここに「四遊霊使」はいるぞ、ということを示すために。
「
既に局面は終盤だ。たった一ターンでもすでに決着がつく瀬戸際まで来ている。序盤と終盤しかないがそんな事はどうだっていい。
「これが、俺達の"答え"だ…!ド、ロォォォォォォォッ!」
その一枚のカードが指し示すのは希望か、それとも絶望か。
それは退いた本人でさえも分からない事だろう。
ただ一つだけ言えるのはこの勝負はそう遠くないうちに決着がつくという事ぐらいだ。
どちらの意地が勝つか、どちらの思いの方が強いのか。
世界を真にに預けるに足る存在はどちらなのか。
神の御前にて、それがすべて決まる。そうして二人の最期の攻防が始まった。
登場人物紹介
・四遊霊使
死にかけ。というか死んでる。
死んでるけど生きてる。死んでたら世界を守れないし、ウィンも守れない。なら気合で起きるしかないだろ。
・四道安雁
人の思いの強さを知らない。
えー次回決着の予定です。
そろそろアンケートの方も締め切りますね。
次回もお楽しみに
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