その手を血で真っ赤に染めながらも霊使はデッキの一番上のカードを掴んで大声を上げる。
「ドロォォォォォォッ!」
霊使は自身の心に従って、デッキの上から一枚のカードを引いた。今までの展開で相手のデッキはおおよそ把握できた。
デッキに一枚だけ入れたあのカードを引けるかどうかでこの勝負が決まるといっても過言ではない。だが、霊使には不思議とそのカードが「引けている」という確信があった。
「"ゼラの天使"の効果…!除外された次のターンのスタンバイフェイズにこのカードを特殊召喚できる…!」
安雁のフィールドに"ゼラの天使"が帰還する。だがそれでも構わず霊使はプレイを続ける。負ければ破滅があるのみだ。
ならばここで後悔しないように出し切るしかない。
「…俺は、手札から"
そう、これこそが霊使の狙っていたカードである"妖精伝姫-カグヤ"だ。デッキ編成の都合上でデッキに一枚しか入れる事の出来なかったカードである。そしてこのカードの効果は今、この状況を生き残るのに最適な効果を持っていた。
「…"カグヤの効果"を!俺は"ゼラの天使"を対象にして発動!…この効果はデッキ、EXデッキから同名のカードを墓地に送ることで無効にできる…が。もしなければ
…"ゼラの天使"は手札に―――EXデッキに戻ってもらう。」
霊使はこれまでの相手の展開から安雁のデッキの性質を何となくで予想立てしていた。そのデッキの本質は切り札である"創星神sophia"をいかに素早く出すかにかかっている。その為のカードは多く入れてあるはずだし、ある程度どんな手札でも動けるようなデッキ構成をしているはずだ。
それに"sophia"の特殊召喚のために相手は儀式、融合、シンクロ、エクシーズの四種のモンスターを除外しなければならない。同レベルで召喚できるエクシーズはともかく、シンクロと融合は中々にレベルや素材といった縛りも多い。
だからこそ、この結論にたどり着けのだ。ほんの少しでも召喚を早めるため、恐らく各カードは一枚ずつきりのいわゆる"ハイランダー"かそれに近いデッキだと予想したのだ。
恐らくはカード名が異なる相互互換のカードを含めることでデッキのの回転率を高めたもの。それが安雁のデッキの正体だ。
「…ま、俺の予想じゃ、アンタのデッキはハイランダーだ…。切り札はともかく…他のカードが二枚入っているか…と言われればアンタは首を振るだろうさ。」
「…いいだろう。"カグヤ"の効果を受け付ける。従って"ゼラの天使"はEXデッキに戻る。―――だが同時に"カグヤ"も手札に戻る。ここで儂がモンスターカードを引けば負けるのは貴様だぞ?」
これで次のターンも耐えることができる。そんな妙な安心感と確信が霊使いあったのだ。だからその言葉に対して霊使はこう返した。
「ターン、エンドだ。やって、みろよ。アンタ如きにそのデッキが応えてくれるならな…!」
「この…糞餓鬼が…ッ!」
今まで下に見ていたものに煽られるという屈辱を一度ならず二度までも受けた安雁はひたいに青筋を浮かべながら霊使を睨む。
だが、睨んだところで帰ってくるのは自分以上に鋭い視線だけだ。
その視線を見ているとどうにも体が震えてしまう。
(…馬鹿な…。この儂が、震えている、というのか…?)
それがどうしても安雁は許せない。何故、弱いままでいる事を選んだ男にここまで気圧されるのか、弱さを取った男の一言一言に声を荒げたくなってしまうのか。
そんな事を考えてしまう自分が許せない。
霊使 LP4400 手札二枚
フィールド 無し
「儂のターン…。ドロー…!」
たった一枚のモンスターを引けば勝ちなのだ。攻撃力800以上のモンスターを引ければ、それでこのデュエルは終わるのだ。それなのに、安雁は―――
「…なん…だと…?」
モンスターカードを引くことが出来なかった。正確に言えばモンスターカードを引くことはできたが、それはコンボ用のカードである"ネフティスの語り手"。攻撃力は300しかなく、当然このモンスター一体でリンク召喚できるカードを入れているはずもない。
「…"ネフティスの語り手"を召喚…。バトルだ。"創星神sophia"でダイレクトアタック!」
「…ぐ、うっ…!」
霊使 LP4400→800
「続いて"ネフティスの語り手"で攻撃!」
霊使 LP800→500
従ってバトルしてライフを削ることは出来ても、霊使のライフを0にするには遠い。安雁はたった500のライフを削ることができず、手札もないため、これ以上の追撃を行う事も出来ない。
安雁は自らのモンスターの効果で追い詰められたのだ。その事にさえ気づけないまま、ターンは霊使にへと移行する。
安雁 LP8000 手札0枚
モンスターゾーン 創星神sophia
ネフティスの語り手
今のところ、安雁のフィールドには攻撃力3600の"創星神sophia"がいる。しかしいくら高い攻撃力のモンスターが居ようと、霊使の前には無駄でしかないのだ。
「俺のターン。ドロー…。俺は速攻魔法"精霊術の使い手"を発動。手札の"憑依装着―ウィン"をコストにデッキから"憑依連携"を手札に加えて"憑依覚醒"をセット。そのまま"憑依覚醒"を発動。そんでもって手札から"妖精伝姫-カグヤ"を召喚。攻撃力1850のモンスターが登場したためデッキから一枚ドロー。その後、デッキから攻撃力1850のモンスター―――"憑依装着-アウス"を手札に。」
だっていくら創星神といえどもカードテキストの書かれた効果は得られないのだから。そう、創星神はその重い召喚条件に釣り合うだけの効果を持っているが、霊使を相手取るなら絶対に忘れてはならないものがある。それは、"効果破壊耐性"だ。霊使のデッキの核となる戦術は"メタビート"。つまるところ相手の行動を阻害しながら少しずつ自分の有利を押し広げていく―――そんな戦い方が霊使の戦法だ。
そして"効果破壊"ももちろんメタビートの特徴であるので、それを読み切れなかったという時点で半分ほど安雁は負けている。
「運のいい事に今引いたカードは"
流れは今完全に霊使の手中にある。
この流れを変えるには、すでにこのデュエルに勝つしかないという事を安雁はその肌で感じ取っていた。そして、この状況でそれが可能かどうかと言われれば首を横に振るしかないだろう。
「バトルだ!"妖精伝姫-カグヤ"で"ネフティスの語り手"を攻撃!」
「ぐおっ…!?」
安雁 LP8000→5850
もう既に勝敗は決した。
神の地下あをもってしても弱いままである男を斃す事は出来なかった。
なんで、どうして。
たくさんの「?」で安雁の頭の中が埋め尽くされる。
次のターン、霊使は確実に"創星神"を破壊するだろう。それを防ぐ手立てはもうこのデッキにはない。
だから安雁はここの時点で既に"詰んだ"ことを察していた。
「俺はこれでターンエンド。」
霊使 LP500 手札0枚
モンスターゾーン 憑依装着-アウス
妖精伝姫-カグヤ
魔法・罠カード 憑依覚醒
妖精の伝姫
伏せ×1
たったの一枚からここまでリソースを回復させることに成功した霊使。
この時初めて本当の意味で「デッキが応える」という現象を目の当たりにした気がした。それだけ、霊使自身もこの展開に驚いているのだ。
「…儂のターン…ドロー…!…バトルフェイズ…"創星神sophia"で"憑依装着-アウス"を攻撃…!」
「…おい、じゃあメインフェイズは終了って事でいいんだな?…ならそのタイミングで罠発動"憑依連携"!」
安雁はみっともなくメインフェイズの宣言を行わずにそのままバトルフェイズに移行しようとするも、そこは当然霊使の"憑依連携"の使用宣言に阻まれる。
「俺は墓地から…"憑依装着-ウィン"を特殊召喚!その後自分フィールド上に属性が二種類以上あれば相手フィールド上の表側表示のカード一枚を破壊できる!俺が破壊するのは―――」
一度ここで言葉を切る。
そうして安雁のフィールド上の佇む創星神を指さして声高に宣言した。
これが自分達の答えだというように。
「俺達が破壊するのは"創星神sophia"!」
確かに攻撃力は劣るのかもしれない。それこそ彼の神にとっては自分達の一撃は塵同然なのかもしれない。
だが塵も積もれば山となるというように、彼女の一撃もこの状況に限り、この星を作った神を撃破できるだけの思いが込められていた。
「もし、この世界を壊すのが神の望みだっていうなら…、そんな神は、俺達がぶっ殺してやる!この世界を壊す者がいるなら生き返ってでも…この世界を守ってやる!ウィンが!克喜が!みんなが生きる世界を…壊させない!」
霊使の言葉に呼応するようにウィンも力を高めていく。
ウィンの杖の先に集う風はいつの間にか大きな嵐を小さく閉じ込めたかのような形をとっていた。
ウィンは杖をsophiaへと向ける。
「いっけぇぇぇぇぇッ!」
ウィンの杖から放たれる暴風がsophiaの体を少しずつ塵に変えていく。さしもの神も全身が風化するような純粋なエネルギーの塊をもとにした風には耐えることが出来なかったようだ。
「ば、かな…!?た、ターンエンド…。」
覚醒の効果で一枚ドローする霊使を尻目に、安雁は愕然とした様子でターンエンドを宣言。確かに自慢げに出した切り札がいとも容易く処理されたら愕然とするだろう。
安雁 LP5850 手札1枚
フィールド なし
安雁の手札には一枚のカード。そして、フィールド、伏せ共になし。
霊使にとって非常に―――というよりも絶対的な優位があるこの状況。これで、ターンを手放すという選択肢しか出てこなかった以上あのカードは今は使えない何かしらであることは分かる。
「俺のターン…ドロー!俺は"ジゴバイト"を特殊召喚!そして、"ジゴバイト"と"妖精伝姫-カグヤ"で"清冽の水霊使いエリア"をリンク召喚!そして攻撃力1850のモンスターが登場したことにより"覚醒"の効果でデッキから一枚ドロー!そして"憑依装着-ヒータ"を通常召喚!」
これで霊使の場にはこの戦いに身を投じた時からずっと支えてくれている四人が揃った。四人の攻撃力はそれぞれ3050。一斉攻撃なら例え安雁のライフがマックスだったとしても削り切ることができる。
「バトルだ!まずは"憑依装着‐アウス"で攻撃!」
安雁 LP5850→2800
相変わらず杖を魔法に使わないアウス。
走り寄る勢いそのままに思いっきり安雁を杖でぶっ叩いた。妙に質量感のある音を伴って安雁は地面に叩きつけられる。老人には優しくすることが多い霊使だが、このおt子に対して手心を加えるつもりは一切なかった。それを霊使を慕う者たちも同様だ。
「これで終わりだ!"憑依装着‐ウィン"でプレイヤーにダイレクトアタック!」
ウィンは再び杖の先に力を籠める。さっきの嵐よりも強く、そして鋭く力を籠める。そして先ほどの焼き直しのようにウィンは杖の先を安雁に向ける。
そのエネルギーを支えるために
安雁 LP2800→0
こうして一つの戦いが終わる。
だが物語の終わりがいつもハッピーエンドであるとは限らない。
安雁のライフが尽きるのと同時に、霊使は膝から頽れた。
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九条克喜がその場に着いたとき、まず視界に飛び込んできたのは荒れに荒れた一つの部屋だった。壁は抉れ、天上はねじれ、近くにはぽっかりと大きな穴が開き、月の光が光の無い闇の中を照らしている。
「…おい、嘘だろ…?」
「皆!来てくれたんだ!早く…こっちに!」
そんな中、月光の中心に誰かを抱きかかえて泣くウィンの姿を見た。
まさか霊使まで負けたのか、そんな「最悪」が克喜の頭に過る。
だが呼び寄せる水樹の焦りっぷりはそれが理由ではないらしい。
少し遠くには斃れている男と、まるで意識を失ったかのように機能を停止している創星神の精霊が居たからだ。
この事から少なくとも"負けた"わけでは無いのは分かった。
「…皆…俺、勝ったよ…。」
霊使は今にも消え入りそうな微かな声でその言葉を繰り返していた。
もうその必要最低限の言葉しか発せられる余裕が無いのかうわごとのように繰り返すだけになっていて見ている克喜の心を抉る。
あともう少し早く来てたら、こんなことにはならなかったのかもしれない。
そんな後悔の思いが首をもたげてくるのだ。
「ああ…ありがとうな、霊使…!」
それでも自分の無力感を隠すように克喜は言葉を絞り出す。
ここまでボロボロになってまで霊使は戦ってくれた。それを置いて自分の無力さを嘆くことを口にするのは霊使に対する侮辱だと思えたから。
「ああ…皆、無事なんだな…。良かった、良かった…。」
その言葉を残して霊使の体から力が抜けた。
それがどういう意味か克喜達は知っていて、だからこそそれを認めるわけにはいかなかった。
霊使が死んだなどと、信じたくもなかったのだ。
そんな時、創星神が不意に動き出す。
「チィッ!悲しむ暇さえ与えないってか!?クソッたれが!」
克喜は霊使を庇うようにして前に出る。全員がそれに倣うようにして霊使の前に出た。誰が何を言おうと霊使はもう英雄だ。この世界を救った英雄の死を辱められるなどあってはならない。
だが、創星神と戦うことは無く、彼の神はゆっくりとその体を光に変えていく。
『…この世界は、もう其方達の物。誇ると良い、人の子よ。其方達は神を打ち倒したのだ。』
その言葉を遺して神はその体を光に変えていく。
『私には為さなければならないことがある。…さらばだ。最後に其方達と出会えてよかった…。』
「何を言っている!どういうことだ!」
丸でその場にいない人間と会話しているかのような言葉に克喜は困惑を禁じ得ない。だが、克喜の疑問には答える事無く、彼の神は姿を消す。
「…おわった、のか…?」
創星神の体であっただろう光の粒が空へと昇っていく。
最後のそれが消えて当たりに静寂が戻った時、思わず克喜はそう呟いていた。
戦いの終幕は余りにもあっけなく、静かで、何とも言えないものだった。
登場人物紹介
・四遊霊使
もう何度目か分からない死にかけ状態。
それでも勝ったし、残す物は残せた。
心残りはたくさんある。けれどそれでも彼は満足した。
・四道安雁
取り敢えずこいつを吊るせば何とかなる。
一部の全ての元凶。創を唆したのもこいつ。
どうやら人間が自然の営みの中で過ごすだけの力を欲していた模様。
というわけで決着です。
アンケートを締め切ります。
次回もお楽しみに。
水樹君のデッキ強化
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ネクロス
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