海斗は自分がカードに吸い込まれるという不思議体験をすることになるとは思いもしていなかった。いや、とある町ではなんか怪盗が居ると聞いたことがあるが、これはそれ以上の衝撃だ。
「…ペルレイノ…か。」
空は暗く、そして何故か円形の水の塊が浮いているようにも見える。何とも摩訶不思議な場所にたどり着いたものだと海斗は思う。
半ば拉致されるような形でこの世界に飛ばされたが、なかなかどうして、悪くない。
流れる水の音が、妙に心地よい。まるでこの場所で生まれたのではないかという心の安らぎさえ覚える。
「…でも広さの割には、なんか静かな気がする…。」
見渡す限りの視界には水と岩場が広がっている。この場所はどうやら地球以上に水の保有量が多いようだ。海斗は水に手を突っ込んでみる。その水は透明度が高く、ひんやりとしていてそのまま飲んでも大丈夫そうだという感覚を海斗に与える。
「…美味しいな…。」
町をぶらついている間一切の水を飲まずにいたせいか、ただの水でさえ美味しく感じられた。
いっそこの場所に住むのも悪くないな、とそんな感想を抱きながら周囲を散策する。
確かに水は美味しいが、それだけでは生きていくことはできない。
とにかく食料を探すために海斗は岩場を歩く。
「…。」
「水音…?魚、か?」
海斗の耳にはチャポンという何かが水に落ちたときのような音が聞こえて来た。魚がはねたのかと思い水音が聞こえた方向に行くも、その場所の水面には波紋が残っているだけ。
逃した魚は大きい―――かどうかは分からないが恐らくは魚かそれに準ずる生物はいるだろうと結論付ける海斗。
「…。」
そんなことをしているせいか、海斗はいつまでたっても水底にある監視の目に気づくことは無かった。
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「…What's time is it now?」
海斗はあれからというもの食料を探し求めてその辺をうろついていた。
まさか最初に居た魚と思われる生物以外まともな生物に出会えていない。歩いていても見つかるのは真珠らしき何かだけだ。
ただ、これを持っていると胸が締め付けられるような、心が痛くなるような、とにかく嫌な感じがした。多分これはまともな方法で作られたものではない、という事が嫌でも感じられる。
「…悍ましいね…。」
一体これを作るのにどれだけの人を傷つけたのかが想像できない。それだけ海斗の手の中にある真珠のような何かは憂いのような何かを帯びていた。
ところで、と海斗は拾い上げた真珠ののようなものをどうしようかと苦悩する。
まともな人間なら手放すことも考えたのだろうが、生憎と今の海斗は空腹でまともな判断ができない。
「誰かの落とし物かも」と半ば思考を放棄してズボンのポケットに突っ込む。
「…食べ物は無いかなー…。」
海斗は思考は食べ物を探すという事に戻すと、食料を求めてさまよう。
勿論食べ物を求めて散策しているのだから周囲を注意深く観察することになる。するとこの世界のちぐはぐさに気付いてきた。
「…妙に静かだ…。」
この場所は生命の息吹のような、生物の気配がほとんど感じられない。確かに水の流れは美しいが、ここまで何もいないと「寂しい場所」というイメージの方が強くなってくる。
更にここまでくると最初に居たと思われる魚と思われる生物もまた別の何かなのかと下手に勘ぐってしまう。
「まさか、生物がいない死の土地ってパターン?」
少しだけ声を大きくして周囲の反応を探ってみる。が、当然そんなものはない。
だが、もし海斗が今口にした通りの土地ならこのままでは非常に不味いという事になる。
人間は、3分空気が無いか、3日水が無いか、3週間食料が無いと死に至るという話をどこかで聞いた。先ほど口にした水は真水だったし、地上の空気は清涼な感じはするが、人間が呼吸するには十分過ぎるものだろう。
「どうするかな…。」
だが食料が無いというのは非常に不味い。食料が無ければ飢えをしのぐこともできないしそのうちまともな行動がとれなくなるだろう。
もしそれを見越して襲われたら―――多分魚か何かの餌になるんだろうか。
そんな変な考えが浮かんで、振り払うように頭を左右に振る。そしてもう一度これからについて考えることにした。
「…まずは拠点を見つけないとね。」
それに加えて、今の海斗にとってもう一つ重要な事がある。それは捕食者から身を守れるだけの拠点をどこかに拵えるという事だ。
拠点もできればそこで身を休めることもできるし、その付近で食料集めをすることもできる。
そうしてまた動き出そうとしたところで―――
「…むぅ…。」
「…ん?」
海斗の耳に幼い声が響く。その声がする方を見てみれば水面から明らかな人工物が出っ張っていた。どうやら浅瀬だったらしくて、全身が水に浸かることは無かったようだ。髪やら肌やらが水面の下に見えている。
どうやら頭についているティアラらしいなにかがが水面から出っ張っていたようだ。頭隠して頭頂隠さずとでもいえば良いのだろうか。とにかく海斗はティアラらしい人工物から目を逸らした。
ここは見て見ぬふりをするべきなのか考えて―――そしてもう一度、人の方を見てみる。
そこには水面から半分だけ顔をのぞかせている幼い少女の姿があった。腕や足の先が魚のひれのようになっているのを水面越しに見て取れる。
「…あ。」
二人の声が重なる。海斗はその顔にどこか見覚えがあるな、なんて思いつつ。
少女は顔を真っ赤にして水から飛び出してくる。半ばやけくそのような雰囲気を纏わせて少女は海斗へと躍りかかる。
「ああああああ!」
「…もしかして混乱してらっしゃる!?」
少女は奇声を上げながら、ハンマーのようなものを取り出して海斗目掛けて降ってくる。が、その動きは直線的で、速度もそこまで速いわけじゃない。だから、海斗は簡単にその一撃を避けた。
「ふぎゅ!」
そのまま少女は顔面から地面に激突。その衝撃でハンマーのようなものが少し低く放り出されて、そのまま少女の頭に落下。ぷるぷると震えた後―――大声で泣き始めた。
「ちょっと!?メイルゥ?どうしたの!?」
「…あの、これは違うんです!」
大声で泣き叫ばれれば流石にばれるわけで。
海斗は少女―――メイルゥという名の少女の連れと思われる人物に向かってそう言い訳せざるを得なかった。
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「うぎゅ…ぐす…。」
「よしよし…。で、つまり?貴方は「真珠のようなもの」を拾って…で?たまたまこの子…メイルゥと目が合って?混乱したメイルゥが襲い掛かってきて?」
「で、そこに貴女がきた。…としか言いようがないですよ。」
メイルゥを抱きかかえる少女―――シェイレーンは自分の名前だけ告げると、手早く両者から事情を聴く。二人の証言がおおよそあっていたことから海斗が言っていることはシェイレーンに信じてもらえた。
だが、シェイレーンは海斗に疑いの目を向け続ける。それは何故か。
「…どこでその「真珠のようなもの」を拾ったの?」
「食料を探している間に。…シェイレーンはこれが何か知ってるの?」
海斗はポケットから先ほど拾った「真珠のようなもの」を取り出してシェイレーンに見せた。シェイレーンはメイルゥと同じ形態をしている腕でそれをひったくるように取る。
あからさまに嫌な顔をしながらそれをじっくりと眺める。その様子を見て海斗は「やはりまともなものじゃないか」と結論付ける。
「…メイルゥ?本当にこの男は誰も泣かして無いのね?」
「うん。それは言い切れるよ。」
「そう…。」
シェイレーンはようやく安心できたといわんばかりにため息を一つ付いた。
海斗はシェイレーンの言葉からなんとなくこの「真珠のようなもの」の正体を察してしまう。
「…貴方、名前は?」
「海斗…。渡瀬海斗。」
「そう、カイトっていうのね。…話したいことがあるわ。一緒に付いてきて頂戴。」
シェイレーンの何かを求めるような視線に海斗は迷わず頷く。
そうしてシェイレーンは海斗の手を取って一気に水に飛び込んだ。
「ごぼぉ!がぼっ!がぼぼぼぼ!」
「…もしかしなくても貴方‥‥カナヅチ?」
「
「そう。…頑張りなさい。」
「
「あら、人魚だもの。どちらかというとそっち側なのかしらね?」
なお全く水泳ができない海斗はシェイレーンに付き合って死にかけたのだが、それはまた別の話だ。
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海斗は移動している間にこの世壊―――ペルレイノで何があったのかを聞いた。
それを聞いた海斗は善良な事もあってか「レイノハート」という男が行った悪行の数々に思わずえづいてしまう。彼の男がやったことは正気の沙汰ではない。その男の蛮行を止めるためにこの世界に呼ばれたのだと思うと、なんとなくあの二枚が迫ってきた理由も分かった。
助けて欲しかったのだ。レイノハートという男の暴虐から、ペルレイノと、ティアラメンツの皆を。
彼女たちティアラメンツの涙は真珠に変わるらしい。なるほど、泣かして荒金稼ぎとは何とも悪党らしい。
「…とにかく、拠点は貸してあげる。食料もあるから自由に使って。」
「ありがとう、シェイレーン。」
「…どういたしまして。」
とにかくこれですべての課題が解決した―――これで明日も生きられるという安堵と共に案内された掘立小屋の扉を開ける。
「…誰だ?」
「…話し位通しておくれシェイレーン…。」
今度は顔も知らない男に剣を突きつけられた。多分今日は厄日なのだろう。そうでなければ流石に日に何度もこう警戒心を露わにされることもないだろう。
「…シェイレーンを知ってるのか。」
「うん。俺、メイルゥって子につけられてたみたいで…。」
「何かあったのか?」
「酷い言い方をすればメイルゥの自爆…かなぁ…。」
シェイレーンの名を出すと男は警戒心を少し緩めて、海斗を室内に招いてくれた。男は剣で丸太を真っ二つにして腰掛を作ると、テーブルの前に無造作に置く。
「何、手を出すつもりはない。…座りなよ。」
「そうさせてもらう。」
二人はそのまま対面に座る。海斗は男が入れてくれた白湯をすする。それがひと段落した後、海斗は自分の話を切り出した。
この世界に急に飛ばされたこと。
そこで食料を探しているときにメイルゥと目が合ってしまった事。
それで混乱したメイルゥがハンマーのようなものを片手に突っ込んできたこと。
それで殴られると死ぬのでその一撃を避けたらメイルゥが顔面ダイブ、そのままハンマーが頭に直撃、大泣きしてしまったという事を語る。
それを聞いて男は馬鹿らしくなったのか、それともツボにはまったのか少し笑顔を漏らした。
それと同時に何かちんまい二頭身のナマモノが姿を現す。
「…なるほど…。それでシェイレーンに疑われたって事か。災難だったな。」
「ま、今は信じてもらえたようで何より、だけどね。」
「違いない。」
二人は笑い合う。今度は海斗が名前の知らない男から話を切り出してきた。
「…俺の名前はヴィサス=スタフロスト。で、こっちが非常食のライトハートだ。」
「おう、俺がライトハート様…て誰が非常食かぁっ!?」
「俺は渡瀬海斗。よろしく。」
海斗は目の前の男とナマモノ―――ヴィサスとライトハートと談笑する。
その光景はここが敵地の中であるという事を忘れさせてしまうほどの光景で、ヴィサスに用事を伝えに来たシェイレーンが困惑したままフリーズするという事があったがそれもまた別の話だ。
登場人物紹介
・海斗
一般人。お腹も減る
・メイルゥ
一番感情豊かな子だと思う
・シェイレーン
多分みんなのお姉さん的な
・ヴィザス
たぶん海斗と波長が合う。
・ライトハート
非常食
えー、ハゥフニスが出ていませんが大丈夫です!
次回ででます…多分。
というわけ次回もお楽しみに
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