「相棒」   作:ダンちゃん1号

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漣歌姫との邂逅(ティアラメンツ・エンカウンター)

海斗がティアラメンツ、そしてヴィサスと邂逅してからどれくらいの時が経ったのだろうか。

いつも空が暗いせいか、今の時間とかはさっぱりわからない。ただシェイレーン曰くレイノハートが来てからこの世壊の空はずっとあの色らしい。本来の空は何処までも澄み切った青空が広がる世界なんだ、とシェイレーンは言う。

後、元々の名前も違っていたらしく、この世壊を支配したレイノハートが自分の名前を関した名に変えてしまったようだ。

なるほど、ペルレイノの「レイノ」は「レイノハート」のレイノと一致している。つまりこの世壊の支配者は自分だと言いたいのだろう。

 

「そのレイノハートってやつを斃せば…。」

「この世壊も元に戻る…はず。」

 

レイノハートがこの世壊の悲劇の元凶―――であるならば、この世壊の異変は全てその男を斃せば解決すかと言えば否だろう。異変の元凶を斃したところでそれが齎した影響そのものが消えるわけでは無いからだ。

海斗の世界にはかつての大きな災害の爪痕が今も残っていることからもそれはうかがえる。

 

「…そうか。」

「ごめんなさい。あの男が来てからずっと隠れてたから…。」

「俺達は責めてるわけじゃないさ…。」

 

シェイレーンは自分の憶測で物事を話したことを素直に謝る。

あの男を斃すことでどんな影響があるのかが分からないのは海斗たちも同じだ。故にシェイレーンを責めるつもりはない。

それからシェイレーンは再びこの世壊の事を話し始める。その話の中にはレイノハートが来る前の―――この世界の本当の主の事もあった。

 

「キトカロス様は…真に私達を思ってくれていたの。」

「…そうか、この世壊の真の主は「キトカロス」って名前なのか…。」

「ええ。…あの人は私達の身代わりになって、レイノハートに囚われたわ。今頃どうしているのかしら…。」

 

シェイレーンはキトカロスの事を思い出して涙を流す。

それだけ「キトカロス」という存在は彼女にとって重かったのだ。大切な人―――というのは海斗にとってはあまりなじみのない話だ。正直、父親は酒狂いであまり好きじゃないし、全く知らない母親の事なんて大切に思えるはずもない。バイト漬けの毎日だからかまともな友人だって作れないし、ましてや恋人なんてtくれる状況でもない。

海斗は、人との繋がりというのに飢えていた。だからこそ、シェイレーンや他のティアラメンツたちにそこまで慕われているキトカロスという存在が少し羨ましいと思ってしまう。

 

「…慕われているってことはいい人って事なんだろうね。キトカロスって人は。」

「ええ。」

 

どうやらこの世壊にてやるべきことが一つ増えてしまったようだ。レイノハートを斃すという事に加え、キトカロスを助けこの世界の主に返り咲かせること。

この二つが海斗やヴィサス、ティアラメンツの当面の目標となる。

 

「…流石にレイノハートが何処に居るかは分からないよね…。」

「…場所だけなら分かるわ。この世壊の空を見たでしょう。あの水の塊の一番上に居るのよ、アイツは。」

 

場所だけなら分かる、とシェイレーンを空を指さした。

その場所は海斗もこの世壊に来た時に見上げた場所だ。そこにレイノハートが居るという事は彼女たちはその場所から追われてしまったという事になる。

シェイレーンが指さす方を見ていると、何かがこっちに向かってくるのが見えた。

 

「…なぁ、なんか上から降ってきていないか?」

「…え?」

 

近づくにつれて、降ってくる何かの全容が明らかになってくる。

顔こそ仮面で覆っているものの、シェイレーンたちと同じ手足を持ち、胸元にシェイレーンと同じく錠前がつけられた少女がこっちに向かってやってきていた。

口元は何一つ動いておらず、この行為が彼女自身の意志ではないという事を暗に示している。

だが、なによりも衝撃だったのはシェイレーンが彼女にむけて信じられないとでもいうような目線を向けている事だ。正確に言えば「信じられない」というよりも「信じたくない」の方が正しそうだが。

上から降って来た少女はヴィサスと海斗に剣を向ける。

 

「……キトカロス様…、なんで…?」

「…。」

 

ついさっき話に出たばかりのこの世界の本当の主―――キトカロスが自我を喪失した状態で海斗たちに襲い掛かる。シェイレーンはそれを止めるでもなく、ただ茫然と眺めている事しかできなかった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「この世壊に蛆が湧いたようだな。何か知らないか、なぁキトカロス?」

 

何をするでもなく、私の目の前でそう言い放つレイノハート。この男は私がこの世壊に何をしたか既に勘づいている。そして、それに気づいているぞ、と分かりやすくこちらを馬鹿にしている。

見下しているのだ。もう私がどんな手段を取ろうとも自分の優位は揺るがないと思っているからだ。

確かにそれは颯だ。どれだけ足掻いても私には既に打つ手はない。既に打てる手は全て打って、それでもすべて届かなかったのだから。

 

「…そうだ、貴様に一つ仕事をくれてやろう。」

 

ただ、この男は自分が打てる手を全て打ち尽くしたのに気づいているだろう。だからしたり顔でこっちを馬鹿にできる。本当にそれが嫌いだ。

レイノハートはいかにもこれがお前が適任だというふうにその「仕事」の内容を話す。

 

「少し前、空に二筋の流星が見えていただろう?…どっちでもいいから連れて来い。」

「…なっ?」

 

ああ、本当にこの男は嫌いだ。私がやられたくない事を嬉々として私に行わせる。

その仕事を自分にやらせるという事は少し前の流星も自分の仕業だと気づいている事だろう。

その事実が恐ろしくて、どうしても顔から血の気が引く。

 

「自分で散らかした塵は自分で片付けるのが礼儀というものだろう?」

 

そして、レイノハートに少しでも叛逆心を抱けばそれを気に入らないというように心を縛ってくる。あの男は私達をただの人形か駒としてしか見ていない。

だから私達がどれだけ苦しもうともレイノハートには関係が無い。

 

「…なら、行って来い。」

「…。」

 

既に私の体は私の言う事を聞かず、勝手に動き出し始めている。レイノハートが言う流星―――この世壊に別の世壊の存在は既にこの世壊で活動を始めているはずだ。

だが、私が巻き込んでしまった世界の人は今頃どうなっているのだろうか。うまく皆と合流できただろうか。

 

「…。」

 

私はもう、何もすることはできない。今はあの憎きレイノハートの人形だ。そしてこれから名前も知らないあなたたちを襲撃してしまう。

だからどうか、名前も知らない人達よ。これから「私」が貴方達にしてしまう事をどうか許してください。

そして、どうか。どうか、私をこの地獄から解き放って―――。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「…キトカロス、様…。あの男に…?」

「…。」

 

キトカロスが剣を向けているのはあくまでウィザスと海斗の二人のみ。シェイレーンには殺意の一つも向けられていない。だからこそシェイレーンはキトカロスの異常に気づけたとも言えた。

シェイレーンはキトカロスに呼びかけるも肝心のキトカロスからの返事はない。

 

「…彼女が…。」

「俺達に対して殺意マシマシだな?」

 

一方、この短期間で打ち解けたウィザスと海斗は明らかに自分達に向けられたキトカロスの殺意に思わず言葉を漏らす。ここまで濃厚な殺意を受けるいわれも何もないためだ。

 

「…!」

「ねえ、突っ込んできてるよね、彼女。」

 

キトカロスは地上だというのにまるでその足が人間のものであるかのように躍動する。

しかもウィザスよりも弱いと思われたのかその剣の軌跡の先に居るのは海斗だ。間違いなくその一撃を喰らえば体は真っ二つになる事だろう。

しかも恐らく心臓ごと胃も斬れるためそれはもう「グロい」なんて言葉じゃ言い表せないほどの光景が広がる間違いなしだ。そんな事になったらシェイレーンもトラウマまっしぐら待ったなしだろう。

 

「流石に死にたくなぁい!」

 

海斗はウィザスと距離を取りつつ、その一撃を何とか躱すことに成功する。

だがキトカロスはウィザスには目もくれず海斗に襲い掛かる。

 

「お願いだからデュエルしてくれよ!」

「…!」

 

一撃一撃に途轍もない殺意を込めて、だが機械的に海斗を切ろうとするキトカロスに海斗は軽く怒りを覚える。

勿論それはキトカロスに対する殺意ではなくキトカロスを操る存在に対してだ。

会ったら一回顔面を殴ると決意しつつ、とりあえず目の前から迫りくる死を避け続ける。いくら戦いの素人とはいえ一定の距離を開けながら逃げ続けるという事位は出来た。

 

「…げ。」

 

だが、素人が逃げる場所を選ぶ力などあるはずもなく。なんとか避けてきたがとうとうがけ際に追い詰められてしまう。海斗は泳げない。

 

「まずい!カイトォ!」

 

ウィザスの声が聞こえる中、海斗の意識は鈍い痛みと衝撃で一瞬で掻き消えた。

 

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海斗が目を覚ますと、そこは牢の中だった。隣には自分を襲ってきたキトカロスが倒れている。

その顔には仮面が付いておらず、カードイラストそのままの顔が露わになっていた。

 

「…また、()()()()()()のですか。…記憶だけが残るというのが何とも嫌らしい…。」

 

そんな事を言いながらキトカロスは体を起こす。まず自分の身なりを整えて―――そして海斗と目が合った。

その瞬間、キトカロスの顔が真っ赤に染まる。心なしかその両目には涙が浮かんでいた。

キトカロスはあられもない姿を見られたことで羞恥心の方が勝ったのだろう。

 

「あ、あわ、あわわわわわ…。」

「…天丼は受けないってそれ一番言われてるから…。」

 

そして少し時がたった。

キトカロスは少し落ち着いたのか、凛とした声で海斗に話しかけて来る。

だが、キトカロスの声は少し震えていた。それは羞恥心によるものか、それとも別の理由かは海斗には分からなかったが。

 

「…まずは自己紹介をしましょうか。私は"キトカロス"。…この世壊の女王…でした。」

「俺は渡瀬海斗…だ、です。」

 

キトカロスの敬語に海斗も慣れない敬語で返してしまう。キトカロスはそれを見て「敬語じゃなくていいですよ」と笑いながら言う。

だが、キトカロスはすぐに真剣な面持ちになると海斗に頭を下げる。

 

「お願いがあります。―――私がなんでもしますから、どうか、この世壊を助けて下さい…!」

 

その声はどこまでも切実にこの世壊のことを考えていた。だが、いや、だからこそだろうか。海斗にはその言葉が、キトカロス自身は助けなくてもいい(どうなってもいい)と―――そう言っているようにしか聞こえなかった。




登場人物紹介
・海斗
まさか拉致されるとは。
でも推しに拉致されるならオッケーです!
善人なので「ん?今何でもするって言った?」とはならない。

・「私」/キトカロス
助けて下さい!私が何でもしますから!
ちなみに海斗の人柄については何も知らない。

次回もお楽しみに!

水樹君のデッキ強化

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