あれから更に数日がたった。
とうとうレイノハートがこの壱世壊に帰還した。
海斗はキトカロスをあざ笑いに来たレイノハートを見て、何も言うことは無かった。
何せレイノハートの目には周りの人間が使えるかどうかでしか写っていない。
レイノハートは自分が居ない間にキトカロスと名前も知らないつまらない人間が距離を詰めているのが気に食わなかったのか。とにかく、彼が帰還して最初に行った事は、新たな牢を作ってそこに海斗を収監する事だった。
「…互いに辛い日々が始まりますね…。」
「…そう、だね。でも…きっと…。ちょ…引っ張らないで!?」
特に何も言わずにかつてのティアラメンツの同胞だった者たちは海斗を抱えて無理やり連れていく。
彼女達のは度はゾッとするほど冷たく既に生きてはいないことを伝えていた。
「…生きてたら助けに行くよ!」
「…待ってますから!」
以心伝心、とはこういうことを言うのだろうか。海斗は離れていても自分に対するキトカロスの信頼を感じていられた。それはきっとこれまでずっと一緒に居たからかもしれない。
「…」
「…」
「…、無言、だね。」
かつてティアラメンツだった者たちは海斗と一言も交わすことなく、海斗を新しい牢へと放り込んだ。
それ以降は特に動くことなく番兵であるかのように海斗の牢屋の前から動こうとはしない。更に悪い事に海斗は食事を受け取ることが無くなった。
その状態で数日が経。つ
干し肉でさえ渡されないので海斗は衰弱していく一方だった。それでも必死に耐えたひもじい時は砂をかじり、喉が渇いたときは泥水を啜って命を繋いでいく。
海斗はまだ死ぬわけにはいかないと分かっている。まだ、約束を果たしていない。
『…―――!』
「―――!」
時折聞こえてくる何かを鞭で打ち据えるような音が海斗の無力感を助長させる。キトカロスは今、頑張って苦痛を耐えているのだ。なら、自分がこの程度の苦しみを耐え抜かずにどうするというのだろう。
「冷静に、冷静に…。」
何も今は余分なエネルギーを使うことは無い。
今は忍耐の時だ。海斗はそう自分に言い聞かせる。だが、どうしたって、海斗の中の激情が鎮まることは無かった。
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レイノハートはイラついていた。辛気臭くなったこの世壊もそうだが、何よりもこの世界で見つけたちょうどいい商売道具が鳴かなくなってしまったことについてだ。
これでは取引先が求めているティアラメンツの真珠を提供することが出来なくなってしまう。
別にそれ自体は大した問題ではない。既に利用する期間は過ぎているからだ。今なおティアラメンツの真珠を求めているのは単純に私腹を肥やすためと、他の世壊を侵攻するための足掛かりを作る事だ。
とくに今取引している六世壊の技術力は非常に高いため、手を組むだけの価値はあるのだ。自分と六世壊の長の顔が同じという事は余り好みではないが、それでもこんなちんけな世壊で満足するよりは手を組んだ方ががよっぽどいい。
「…ふむ。あの女にはまだまだいい声で泣いてもらわなければ困るわけだが…。」
だから、レイノハートは思案する。どうすればあの道具から効率的に利益を生み出せられるか。
どうすれば簡単にあの道具に涙を流させることができるかを。
「そういえば…。」
そういえば、と思い出す。
あの道具は何一つ面白みもない男との親交を深めていたではないか、と。
レイノハートはその頭脳でどうすればいいのかの絵図を描いていく。
「くく…ふふふ…はははははッ!これはいい!これはいいぞ!」
そしてレイノハートはいいことを思いついたのか声を荒げて笑った。
彼が思い付いた計画はまさに悪魔の計画だった。自身の邪魔をする憎き男を処理出来て、かつ自身の道具の機能を正常に戻すことができる計画。
「あの女を精神的に追い詰めればきっと涙を流すはずだ…!」
道具の心はそこまで強くない。何せ同じ種族であるだけの他人が死んだだけで簡単に涙を流すような女だ。なら親交を深めた相手が自分の所為で傷つけられたら―――そう考えるだけで背中がぞくぞくする。
これからは道具がきちんと道具の役割を果たすと信じて、レイノハートは意気揚々とある場所へと向かった。
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海斗は目の前のその男を見たときどうしようもなくその顔面を殴りたくなった。
レイノハート―――ヴィサスと同じ顔つきの男はヴィサスが絶対にしないような醜い笑みを浮かべている。
「おい、人間。ここから出ろ。」
「―――は!?」
だからその言葉は否応なく海斗の心をざわつかせた。
絶対碌な事にならない―――そう感じていた海斗は牢の柱を掴んで何とか抵抗を試みる。
が、抵抗虚しくレイノハートに簡単に捕まり、牢から引き剥がされる。
「…どうするつもり?」
「それは…決まっているだろう?道具を直してもらうんだよ。…壊したお前にな?」
「…何を…言っているんだい?」
食事も与えられず、水も泥水しか啜れない生活を送っていた海斗は半ば引き摺られるようにしてレイノハートに連れていかれる。
そのまま少し広い空間に出た。
その場にはちょうど人一人が括りつけられそうな十字の岩盤がある。海斗は自分がそこに運ばれているようだ、と考えて、おや?と心の中で首を傾げる。これはいわゆる「磔刑」というやつではないのだろうか。
(…これ、トラウマ作るのが狙いか…。)
抵抗しても無意味なのは分かっているので大人しく磔にされるしかない海斗。
服が引きちぎられて、て少し経てば手も足も動かす事の出来ない見事な磔の完成だ。その前には同じように―――恐らくレイノハートに行動を縛られたであろうキトカロスが転がされる。
自身が乱雑に扱われたことよりも、海斗が磔にされていることの方がキトカロスにとって衝撃は大きかったらしい。
「海斗さん!?」
「ごめん…キトカロス。約束、守れそうにない。」
海斗は既に力ある言葉を出す事さえ出来はしなかった。
もうこの拘束を抜け出せるような秘策もなければ、この後に待っているであろう明確な死を避ける方法も分からない。
後者は気合で耐えるとしても、どのみちここに放置されれば死ぬ。早かれ遅かれというやつだ。
海斗にはもう、これから来るであろう苦痛を耐え忍ぶにはどうするか考える事位しかやることが無くなってしまった。
かぼそい声でキトカロスに謝りながら、海斗は全てを諦めたように目を閉じた
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キトカロスがレイノハートに無理矢理連れ出された先で見たのは磔にされた海斗の姿だった。
海斗は見るからに弱っていて―――だからこそキトカロスは海斗に行われるであろう行為を容易に想像できてしまった。
彼はこれから殺されてしまうのだ。キトカロスの前で、レイノハートが同胞を殺していったあの時のように。
「キトカロス…お前は本当に強くなったよ。この私の商売道具の癖して…な?」
「何が言いたいのですか、レイノハート。」
「この男がいたせいで、なぁッ!」
レイノハートは語勢を強めるとともに海斗を鞭で打ち据えた。甲高い音が鳴り、海斗の顔が苦悶に歪む。
だが海斗は悲鳴を上げる事をしなかった。それをする活力さえないのか、それともささやかな抵抗なのか。だがそれはレイノハートの癇に障る行為だったようだ。レイノハートはより強い力を込めて寸分たがわず同じ場所を打ち据える。
「う…ッ!」
そこで海斗は短いながらに悲鳴を上げた。その声に機嫌を直したレイノハートは今度は別の場所を打ち据える。それを繰り返していくうちに海斗の全身が真っ赤に腫れ上がる。
間違いない、レイノハートは海斗の命を凄惨な形で奪おうとしている。
それに気づいたときキトカロスはなんでそんなことをするのか、と激しい怒りに襲われた。
だがその怒りは、とあることをレイノハートが大声で叫んだことで、簡単に消え去った。
「一ついい事を教えてやる。…この男がここで死ぬのはな、キトカロス、お前のせいなんだぞ?」
「…は?」
海斗を殺したのはキトカロス自身だとのたまうレイノハート。
だがその言葉はキトカロス自身も驚くほどの納得と共にキトカロスの胸を抉る。
「よく考えてみろ?この世界にこの男を呼んだのは誰だ?そして誰がこいつを捕まえた?」
「…ぇあ…?」
レイノハートが言っている相手は―――全部キトカロスの事だ。この世壊に海斗を連れて来たのはキトカロスだ。そして海斗を捉えたのも―――操られていたとはいえ―――キトカロス自身だ。
「ま、そもそもこの世壊にこの男を呼んだ時点で早かれ遅かれ―――おぉっと、死んでいたか?」
レイノハートは既にピクリとも動かなくなった海斗を打ち据え続けていたのか、と笑っていた。
一方のキトカロスは、もう何も考える事が出来ずにただ泣いた。
大粒の涙を流して、大切な人の死を嘆き、悲しんだ。そして、それを招いた自分の愚かさを恨んだ。自分のせいで死んだ。自分がこの世壊に海斗を呼んだせいで―――。
「わたしが、ころした…。わたしの、せいで…。」
虚ろな声でその言葉を繰り返す。
それを満足そうな顔で眺めるレイノハート。
この世壊はいつだって、残酷だ。その残酷さが、とうとうキトカロスの心を完全に壊してしまったのだ。動かない海斗の前に漣歌姫の姫はいつまでも蹲っていた。
―――そうすることしか、彼女にはできなかった。
登場人物紹介
・海斗
動かなくなった。ただそれだけ。
・キトカロス
完全に心が壊れてしまった。
・レイノハート
愉 悦
展開が速いなぁ…。
何とか海斗君のデッキはリペアできそうです。
キトカロス返して。
というわけで次回もお楽しみに!
水樹君のデッキ強化
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ネクロス
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リチュア