キトカロスは蹲り、虚ろな目で同じ言葉を繰り返し続ける。
最初はそれを愉しんでいたレイノハートであったが、同じ光景をこう繰り返されると飽きが来るというものだ。
「…
「…ごめんなさい。…ごめんなさい…。わたしが…。わたしのせいで…。」
しかしその声にもキトカロスは反応を示さない。レイノハートの声はもとより聴くつもりが無いのか、それともただ物言わぬ男に懺悔するのにすべてのリソースを割いているからか。キトカロスはレイノハートの言葉を受けてもなお何一つ反応を示さなかった。
「…これでは商売道具として使えない…か。」
邪魔者である男―――海斗という名前だったか―――を始末したレイノハートであったが、キトカロスがどれだけ海斗という男に依存していたか、というのを見誤っていたようだ。
「まぁ、今まで散々泣いてくれたおかげでしばらくは取引に困らない量の
何処までもレイノハートは悪辣だ。一つの利用価値がが無くななったとしても別の利用価値を見つけて、使いつぶす。それがレイノハートの本性だ。
だから精神が壊れてしまったキトカロスも何かしらの使い道があると考えている。例えば、攻撃を避けるための壁として。
あるいはその死体を取引先に研究用の素材として渡してしまうのもいいだろう。
使えないなら使えないなりに貢献してもらわなければならない。
そうでなければわざわざ生かしておく意味なんて無いのだから。
「精々役に立ってくれよ、殺人犯?」
「―――かいと、ごめんなさい。ごめんなさい、ゆるして―――。」
壊れてしまったキトカロスをどうしようか考えながらレイノハートはその場を去る。
その場には一言も言葉を発しなくなったキトカロスと、愉快そうに歩く足音。
そしてその場にいる誰にも気づかれないような小さな呼吸だけがその場に残ったのだった。
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ヴィサス=スタフロストという存在を一言で表すならば無垢というのが正しいだろうか。少なくとも肆世壊=ライフォビアで出会った時はそう見えた。
どれだけかつての自分が煽ってもまるで反応しない。何をどう言っても無反応、無感情で機械みたいな存在だった。
(…だから異常なんだよなァ…。)
だからこそかつてライフォビアでヴィサスと対峙したライトハート―――かつての肆世壊の主であるスケアクロー・ライヒハートがなんやかんやあって小さくなった姿―――は考える。
(こいつがここまで怒っているっていうのはよ。)
それは今の自分の主であるヴィサスが激昂しているという事についてだ。
事の発端は、少し前、ヴィサスたちがキトカロスと海斗を独自に助けようとしていた事だ。
キトカロスは取り敢えずレイノハートが傍にいるだろうことから、まずは海斗の救出を優先することにしたヴィサスたち。
しかしいくら進めども何一つ妨害が無い。むしろ先に進んでくださいとでも言わんばかりの状態にヴィサスたちは何かがあるのだと妙に勘繰ってしまう。
そしてとうとうレイノハートの元まであと一歩という所で、それは起きたのだ。
「…な…え…?」
始めにそれを目にしたのは誰だったか。
始めに疑問を口にしたのは誰だったか。
ヴィサスたちの目に飛び込んできたのはピクリとも動かない、磔にされた海斗と、それを守るように立つキトカロスの姿だった。
「…どういうことだ…?」
誰もが状況を読み取れないなか、動く者がただ一人。
ティアラメンツ・キトカロスだ。レイノハートに心を縛られているときの仮面をつけていることから、少なくともこれからの彼女の攻撃は彼女自身の意志ではないのが分かる。
「…嘘だろ…海斗…?」
だがヴィサスの目に飛び込んでくるキトカロスの姿は映ってなどいなかった。
その瞳が捉えていたのは、ピクリとも動く気配が無い友の姿だ。前身は酷くはれ上がり、顔も白くなっている。
「返事しろって…なあ…!」
ヴィサスは今まで親しいものが傷つくという事を経験したことが無かった。だからこそ、初めてできた親しい友がこんなに傷だらけにされて―――激昂しないわけが無かったのだ。
(…こりゃ
といっても流石にこれは怒りすぎな気もする。ヴィサスは無垢であったがゆえに感情の発散の仕方が未熟なのだろう。―――ただただ茫然としているヴィザスに意思のないキトカロスが斬りかかる―――。
それと同時に全力で頭を回させる。何をどうすればこの状況から抜け出せるのかを考え始める。
キトカロスの一撃を簡単に避け、ヴィサスは一気に海斗の元までかけた。持っている剣でもって海斗を解放すると、そのまま地面にすぐ、レイノハートの元まで駆けようとする。
だが、それを阻んだ者がいた。キトカロスだ。
キトカロスは先ほどとは明らかに違う動きでヴィサスを攻撃する。それはまるで宝物を守る番人のようにも思えた。ならば、その宝とは何なのか―――。
「…守っているのは海斗かッ!」
激昂していながらも心は妙に冷静なヴィサス。
キトカロスの狙いがたった今助け出した海斗だと悟ったヴィサスは海斗をシェイレーンの方に放り投げると、キトカロスにケリを入れ、彼女を吹き飛ばす。
「…一旦退くぞ!」
「…でも…キトカロス様は…!?」
「負傷者背負って助けられるわけが無いだろう!?そして多分キトカロスは―――!」
ヴィサスは声を荒げながらキトカロスの攻撃をよけ続ける。
それでもいつかは当たってしまいそうなほどスレスレでよけ続けるヴィサス。
それはキトカロスの気を引くためのものか、それともキトカロスの狙いがヴィサスだからなのか。
「…おいヴィサス!さっさとお前も退きやがれ!」
「シェイレーンたちは!?」
「もう撤退しているんだよ!」
キトカロスの猛攻を躱し続けているとりとハートの大声がヴィサスの耳に突き刺さった。
ふよふよと浮いている彼は、早く来いと言わんばかりに首を動かす。
「…すまん、ライトハート。少しカッとなってしまった。」
そう謝りながら、ライトハートの後をついて行くヴィサス。
(あれで「ちょっと」か…。感覚的にはブチギレもいいとこだァ…。)
ライトハートはヴィサスに危うさを覚える。
この先、ヴィサスが自分の感情を制御できなければ待っているのは悲劇だと分かってしまったから。なんで、だとかどうして悲劇が起きるのかだとかはあまり考えないほうが良い。
そっちの方が精神的にも楽だから。
ただ、その時が来た時、彼が自身の中にある怒りに呑まれるのを拒めるかどうか。未来が変わるとすればそれだけが重要な事になってくる。
それをどう伝えるか。ライトハートは頭を悩ませるのであった
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「海斗の様子は…?」
何とか海斗を担いで撤退することができたヴィサスたち。
かつてのあばら家の床に海斗を横たえるとライトハートは急いで必要なものをティアラメンツに教え、それがあるなら取ってくるようにお願いした。
暫くして戻って来たシェイレーンたちが抱えているのは温めたお湯ロそれを入れるための湯飲みだ。
湯飲みというにはなんだが歪だがシェイレーン曰く湯飲みであるらしいので、とりあえずはそう思っておくことにする。
「…結論から言うとな。こいつはただ気絶してるだけだ。―――レイノハートの鞭に精神の方が耐えられなかったんだろうよ。」
―――だからこそあそこに放っておくとまずかったわけだが、とライトハートは付け加えた。
とにかくまだ海斗に息はあるのだ。その事に安堵しながらもライトハートはてきぱきと指示を出す。
何故ライトハートがこんな事を知っているか―――それはライフォビアで生きるために、支配するために必要だったからだ。
弱肉強食を常としたライフォビアでは怪我をすることも多かった。だからライトハートは自己流ではあるがある程度の治療術を収めているのだ。
その検分からするに海斗が気を失ったのは怪我ではなく、肉体の衰弱によるものだと推定できた。そのように考えた理由は主に三つ。
一つは傷が浅すぎるという点だ。シェイレーンから聞いたレイノハートの性格からして、簡単に殺すような傷はつけない。調べてみたら案の定、痛みはすごいが、骨折などは起きないような怪我だった。
次に明らかに痩せ細っているという点だ。海斗はもとより痩せ気味ではあったが、さらにがりがりに痩せていた。骨と皮しかないのでは見紛う程に痩せていた。このことからまともな食事が与えられていなかったのだろうと予測がつけられた。
最後に、劣悪な環境下におかれ続けた事での精神面の損耗だ。体の臭さから彼がまともに体を洗えない安経でいたことが予想できる。
以上の理由からライトハートは海斗の気絶が消耗による衰弱から来るものだと予測を立てたわけだ。ならばあとはその予想に基づき最もいい環境を用意してやればいい。
「…問題はキトカロスがどう出るか、だな。」
レイノハートの事だ。キトカロスと海斗を同じ牢に入れるくらいの事はしただろう。そうして二人の仲が深まったころを見計らい引き剥がし、そしてキトカロスの目の前で海斗を嬲り殺しにしてキトカロスの涙を搾れるだけ絞る―――と、レイノハートはそんな事を考えていっるのだろう。
死んだら死んだでその死体をキトカロスに守らせる――なんてことをすれば外敵は排除できるし、その死体を痛めつければ涙も出せるし、とレイノハートにとって得だらけだ。
だが、キトカロスが自分の意志で海斗を守っていた場合はどうなるのか。
ライトハートの失態はきっと、キトカロスが海斗をどれだけ深く愛しているか、察することが出来なかったことだろう。
何せ、彼を深く愛していたからこそ、キトカロスの心は壊れてしまったのだから。
だが、それを知らないライトハートはそんな事を知る由もなかったのだ
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キトカロスが目覚めたとき、そこに海斗の遺体は無かった。
自分が殺してしまったがため、せめて遺体だけでも―――と思ったがそれも果たせない。
自分は未だに海斗に対して何も返せていないのだ。それなのに―――。
「どこに、どこにいってしまったんですか…?私の、大切なあなた―――。」
もうその目に光は映らないのだろう。光よりも見たい「
もう、誰の制止も届かないだろう。誰よりも取り戻したい「
キトカロスはもう止まれない。
止まるわけにはいかない。
こんな所では止まれない。
「…ぁは、今、迎えに行きます、から…。」
彼女の心は壊れている。
もしそれを元に戻せる存在が居るのだとしたら。
それは―――きっと、キトカロスが恋した「貴方」なのだろう。
「待ってて、下さいね…?」
虚ろな目の奥に映るのはたった一人の男の影。
この世壊を壊すのは狂ってしまった心か、それとも――――。
登場人物紹介
・ライトハート
非常食らしからぬ活躍を果たした男。
・ヴィサス
ブチギレ。その内暴走する運命が待っている。
・キトカロス
ブレーキがぶっ壊れている。
そもそも悪いのはレイノハートなんだけど、キトカロスは自分が海斗を殺したと思っている。でも
それさえも無くなってしまった彼女の心は一体どうなってるんだろうね?
解釈違い?知らん、そんな事は俺の管轄外だ。
祝!四霊使いフィギュア発売決定!しかもマスカレーナも作られるってマジ?次エクレシアかクルヌギアスあたりが立体化されるとマジで笑っちゃうんですけど…さすがにないか。…ないよね?
次回もお楽しみに!
水樹君のデッキ強化
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