「相棒」   作:ダンちゃん1号

139 / 209
漣歌姫の叛逆(ティアラメンツ・リベリオン)

 

海斗は、「この手を取って」と差し出されたキトカロスの手を取ることはしなかった。

取りたい気持ちもやまやまだが、それでは彼女は壊れたままになってしまう。そうなれば待っているのは「人の痛みが分からない人間」に成り下がってしまう彼女の存在だけだ。

そんな事はとてもではないが許されない。

それはつまり、彼女が心から嫌うレイノハートと同じになるということだから。

 

「…あなたが何を考えているのか、うっすらとなら分かります。でもそんな事はどうだっていいんです。私が貴方にどう思われようと、私は貴方を守りたい。そのためなら悪魔にもなりましょう。だから…ほら。この手を取って。」

 

キトカロスはもう一度、それこそ催促するようにもう一度その手を差し出す。

強い決意を湛えた目はまっすぐに海斗を見据えて来る。

それがキトカロスの意志だというのならば、その意思を自分はくじかなくてはならない。彼女がまだ彼女であるうちに、人の痛みがまだ分かるうちに。

 

「…それは、できない。」

「…なんで!?」

「それを、すれば、君も俺も人間として…人として最低の行為をすることになるから。」

「そんなの!貴方が生きていれば私は!」

 

遂には無理矢理海斗の手を取ろうとするキトカロス。

だが、海斗はそれを良しとせず、その手を振り払ったのだ―――その顔に涙と強い怒りを湛えて。

 

「なんで、どうしてぇ…!」

「…裏切るわけにはいかないでしょ。君自身も、俺自身も。」

 

それは海斗にとっても苦渋の決断だった。

出来る事なら今すぐにキトカロスの手を取りたかったし、なんなら今すぐにでも彼女をどこか遠くへと連れ去りたかったから。

でもそんな思いをぐっと堪えて飲み込んで、彼女と共に歩むために彼女に激を飛ばすのだ。

 

「俺は君を裏切るつもりはさらさらない。―――でも今の君は、本当に君自身に誇れる君でいられてるのかな?」

「"私"がどうとか、そんなのどうだっていい!私は貴方が居てくれれば、それで、いいのに―――!」

「馬鹿野郎!」

 

キトカロスはとうとう「自分なんてどうでもいい」と口にした。

それは一番言っては駄目な事なのだ。それは既に自分の痛みや苦しみが分からなくなっているという事と同義だから。

だから海斗も口調を荒げたのだ。それがどうなるか、かつて説明したのに、その道を突っ走っている彼女に対して怒りの一つ位は湧く。

 

「いいかい?―――前も言ったけど自分の事を少しは省みて!」

「…ええ?」

 

思わずといった様子でキトカロスは両手で口をふさいだ―――がもう遅い。

やはりというか案の定というか―――その瞬間二人の間には沈黙が流れた。

その沈黙は「お前が言うな」みたいな雰囲気を多分に含んでいて、気恥ずかしそうに海斗はその目を逸らす。

海斗にはまだ自分が突っ走っている自覚があるのだ。二人の間では、そこがほんの少しだけ違う。

傍から見ればどっちもどっちと言えそうでもあるが、とにかく海斗も人の事を言えたものではないのだ。気まずい沈黙が周囲を支配する。

 

「…分かりました。」

 

先に折れたのはキトカロスだった。キトカロスは降参というように両手を上げて海斗の意思を尊重することにした。

そもそもの話行動を起こすのならばこんな所で言い合っているだけその他の事に時間を回した方がいろいろと良いのだ。それにこんな会話は全てを終わらせた後にでもゆっくりすればいい。

 

「でも、条件があります。」

「…?」

「私の傍から離れないで。」

「―――了解。」

 

キトカロスは海斗を守るための必要最低限の条件を付けて、一旦この会話を終わらせることにした。

よいしょ、とキトカロスは絵王を縛っていた鎖を切り捨てて、牢の扉をあけ放つ。

 

「海斗、こっちに。」

「ん?」

 

体を動かす準備をしながら牢の外に出る海斗。

そんな海斗をキトカロスは笑みを浮かべながら手招く。

そしてかいとが近づくとしてやったり、という顔を浮かべて、ひょい、といとも容易く海斗の体を抱き上げた。

 

「これは俺がやるべきことでは?」

「こっちの方が速く行けます。」

 

違う、そうじゃない。

海斗はキトカロスにお姫様抱っこされている自分に何だか羞恥心が湧いていてしまう。きっと今の自分の顔は物凄く赤くなっている事だろう。

それを知ってか知らずかキトカロスは海斗を強く抱きしめながら姿勢を低くする。

 

「さあ、行きますよ!舌をかまないようにしてください…ねっ!」

「へぁっ!?」

 

そして海斗の視界は光速で流れ始めたのであった。

 

(やわ…あ、あたってぇ!?)

 

そして悲しいかな、偶然顔をキトカロスの胸の中に埋めることになった海斗は何一つものを考える事が出来なくなってしまっていた。

彼は極度の拗らせ童貞であったのである。

―――なお、キトカロスは意図的に海斗の頭を自らの胸へと埋めさせたのだが、海斗がそれに気づくことは無かった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

なんで拒むのだろうか。

なんで私の愛は受け入れられないのだろうか。

こんなにも貴方の事を思っているというのに、どうして貴方はちゃんと「私」を見てくれないのだろうか。

―――ついさっきまで、そう思っていた。

だがその考えはいとも容易く海斗の言葉で打ち壊されたのだ。

 

「前にも言ったけど自分の事を少しは省みて!」

 

どの口がそれを言うのか、と思ってしまった私は悪くないはずだ。そもそも私をそんな風にしたのは貴方だというのに。自分を省みなかった貴方に「省みて」と言われても、というのが正直なところだ。そんな事を思っていたら、思わず私の口からは―――

 

「えぇ?」

 

と、困惑の声が飛び出していた。これが俗にいうブーメランという奴だろうか。私のはその時に、なんというか、こう。

「力が抜けた」とでも表現すればいいのだろうか。それとも、今までの自分は何かが妙に凝り固まっていて、それが解れたとでもいえば良いのだろうか。

言いようのない奇妙な感覚に襲われていた。

何というか今までの自分の言動を考えてみると顔から火が出そうな感覚―――それと同時に自分にもあんな一面があったのかという複雑な感覚が同居しているのだ。

初めての事だったのだから。

誰かに恋したのも、誰かに恋してほしいと、もっと自分を、()()()()()()()()()()と思った事も、全く違うベクトルの二つの感情が同時に自分の中に生まれるのも。

それと同時に少しだけむっとした気分にもなった。愛情を注がれたことが無いというから猛烈なアタックをしているのに、その肝心のアタックが意味を為していないからだ。

 

ここまでしても揺るがないならもう完全に意識させるしかないんじゃないか。

そんな事を思って、それで私は、海斗と体を密着させることにした。

そっちの方が戦場であろう場所に早く到達できるのは確かだし、それに体を密着させられれば色々と誘惑しやすい。

そうして、私は無事に海斗と体を密着させることができた。

 

(暖かい、ですね。)

 

体を密着させる、というのは今の私にとってはすぐにできる事だと思っていた。

意外と恥ずかしかったのは私の心の内にとどめておこう、と思った。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

激化するヴィサスとレイノハートの戦闘は、未だに終わることは無かった。

互いに互いの一撃が当たらないのだ。

普通の状態の背格好は一緒。動きも、扱う武術も似たところがあり、二人はまるで「自分の別側面」と戦っているかのような変な気分に襲われた。

 

「この…ッ!俺と同じ顔をしやがって…ッ!」

「そちらこそこのレイノハートと同じ顔をしているじゃあないかッ!気持ち悪いんだよ、自分と同じ顔が目の前にあるというのはァ!」

 

互いに相容れないせいか、それとも二人が同じ顔を持っているせいか。

ヴィサスとレイノハートは互いに敵愾心をむき出しにして相手を殺さんとしていた。

ライトハートはシェイレーンの救護を行っている為、二人の戦闘を眺める事しかできなかった。

だが、それだけで良かったのだ。ライトハートにとってどちらが倒れようと自分には得しかない事を知っていたから。

レイノハートが斃れれば、ヴィサスはまた一つ力を取り戻すことになり、ライトハート自身もまた力を少し取り返す事が出来る。

ヴィサスが斃れればライトハートは晴れてライフォビアの支配者たる本当の姿―――ライヒハートに戻ることができ、ついでにヴィサスの力をすべて奪う事が出来るかもしれない。

どちらにしたって得でしかないが―――それでももし、ヴィサスが斃されるならばそのときは敵討ちくらいはしてやるかと思っていた。ここでふと、今までならそんな考えさえ浮かばなかったはずだと、ライトハートはため息を吐いた。

 

(けッ…この俺様も甘くなったもんだなァ。)

 

ヴィサスと、そしてティアラメンツと過ごすうちにどうやら自分の牙は相当なまってしまったらしい。今までの自分であったならこの瀕死のシェイレーンの事なんか放っておいたはずだ。それなのに、小さくなったこの体で必死にシェイレーンを助けようとしている。

 

(…ま、悪い気はしねぇけどよ…。)

 

本当に自分の中にある何かが変わっていって、いつの間にかそれが当然と思える自分になっていく。これが変わっていく―――成長していくという事なのだろうか。

 

(ま、今は負けてくれるなよ、ヴィサス。)

 

斬り合うヴィサスとレイノハートから視線を戻すライトハート。

呼吸が安定してきたシェイレーンを引き摺りながら何とかしてこの戦地からの離脱を図った。

戦闘に夢中になっている二人はライトハートの行動に気を配る余裕さえない。こうして無事に戦場からの脱出に成功したライトハートはシェイレーンを安全な場所まで後退させることに成功した。

 

「おい、おめぇら、シェイレーン(コイツ)任せたぞ。」

「アンタはどうするの?」

 

そして、シェイレーンを安全地帯で横たわらせ、そこにいたメイルゥとハゥフニスに後を任せることにした。その際にハゥフニスにこれからどうするのかと問われたが、ライトハートは勿論戦場への帰還を目標とする。

帰りも特に大したことなくライトハートは戦場に帰還することに成功した。だが彼がそこで見たのは―――

 

「…この、アバズレとォ、タンカスがぁあぁぁぁああぁぁ!卑怯だぞぉぉぉ!」

「―――卑怯も辣韭もありません!レイノハート、覚悟なさい!」

「殺し合いに卑怯もへったくれもないんだって!レイノハート、往生せいやぁぁぁああぁぁッ!」

「お前ら容赦ないな!?」

 

背後からカレイドハート(レイノハート)の急所を一突きにするキトカロスと海斗の二人、そしてその光景を目の前で見せられて突っ込むことしかできないヴィサスの姿だった。

その一撃は不意打ちであったのか、カレイドハートは怒り狂っている。

 

(…これはどういう状況だァ…!?)

 

ほんの少し戦場から離れている間に何があったのか。

その当事者でないライトハートにそれを知る由など何一つなかったのである―――。




登場人物紹介

・海斗
特大ブーメランによってキトカロスの考えをただすという凄いことをやってのけた。
そこに痺れないしあこがれもしないが。
最終場面で何やら一緒にクライムしたようだが…?

・キトカロス
人の振り見て我が振り直せ。滅私奉公の擬人化に自分を顧みろだなんて言われたくもない。
浄化というよりかは思考が「海斗は私が何とかしないとヤバいんじゃないか」方面になった。実際その通りでございます。

・ヴィサス
美味しいところを持っていかれた。

・ライトハート
能力は普通に有能。

・レイノハート/カレイドハート
事実上のウェディングケーキ。
コイツは追い詰められると途端に口が悪くなるジョジョのラスボスみたいな感じじゃないかと勝手に思ってる。

ふう!
年末年始をどのように過ごされましたでしょうか。
私は学生時代の友人との飲み会でべろんべろんになりました。お酒には気を付けようね!

次回もお楽しみに!

水樹君のデッキ強化

  • ネクロス
  • リチュア
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。