侵略者、クシャトリラ。
彼らは自分の住む世壊とは違う世壊に足を伸ばし、侵略を行う。
大体は侵略する土地を機械で侵し、資源、栄養、生命―――ありとあらゆるものを搾取し、死の大地へと変えていくのだ。それを防ぐには侵略の先駆けである先遣隊を追い返し、「この世壊には天敵がいるぞ」という警告を発するか、そもそもクシャトリラに世壊の事をばれないようにするか、の二択しかない。
「よぉ…この俺様ににひーこら言わされて逃げ帰ったクシャトリラが何の用だ?」
「…ライトハート、お前強かったんだな…。」
どうやらライトハートはクシャトリラを追い返すだけの実力はあったようだ。あんな沈埋姿なのにその力は一体どこから出てきたのだろうか。
それに比べ、今の自分は、とキトカロスは考える。
今の自分では精々足止めが関の山だろう、と。
『この世壊に来たのは…、、―――そこの女を我らの兵器に転用しようとして、だな。』
「…狙いは元から…いえ、ずっと私だったんですね。」
ここでキトカロスは何故、レイノハートが自分に色々と手を出してきたのか――点と点が線でつながるという事をその身で経験した。
狙いはもとより、この世壊などではなく―――自分自身だったというわけだ。
『…お前のデータは色々と得ることができたからな。嗜好品としても、データのサンプルとしても…。色々と愉快なものを提供してくれた礼だ。貴様が我らに下るのならば、この壱世壊の侵略は行わないと約束しよう。』
「…それを私が飲むとでも?」
『…そういう所を含めて気に入ったのだよ。我らは。』
ヴィサス、ライトハート、キトカロスの三人はその交渉を認めないと言わんばかりに臨戦態勢に入る。
だが、そこでクシャトリラは予想外の言葉を発した。
『三人で抗うか…それもいいだろう。だがいいのか?ライフォビアが手遅れになっても知らんぞ?』
「何…?」
クシャトリラは空中に映像を映し出す。そこに映っていたのは数多くのモンスターの死体と森の中の玉座に座る一人の男。
その男はレイノハートやライトハートと同じく、ヴィサスと同じ顔を持っている。
つまるところ、クシャトリラの主がライフォビアを乗っ取りかけている、という事だろう。
「…ライトハートさん…。確かあそこは…。」
「…あぁ、俺の故郷、ライフォビア、だ。」
そしてそれはライトハートの故郷が乗っ取られかけているという事。そんなライトハートにライフォビアを見捨ててこっちに協力してくれとはとてもではないが言えなかった。
「ヴィサスさん、ライトハートさん…行ってください。こっちは私が何とかします。」
これから自分はクシャトリラに負けるだろう。そう分かっていても、キトカロスはライトハートを送り出すことに迷いはなかった。囚われてもきっと助けてくれる人がいる―――そう思わせてくれる人がいるだけで、ここまで人は強くなれる。
「―――すまねぇ…恩に着るぜ、キトカロス。」
「死ぬなよ…二人とも。」
ヴィサスとライトハートはそれだけを言い残してライフォビアへと飛んでいった。この場に残ったのは殿を請け負ったキトカロスと、自力では世壊の移動もままならない海斗のみ。
「…海斗。貴方は出来るだけ遠くへ。クシャトリラは―――はっきり言って手に負えない強さです。」
『ふむ…実力の彼我を弁えている。…合理的だな。』
だからこそキトカロスは海斗にこの場を離れるようにお願いした。
きっと彼がこれから見る光景は残酷で、惨たらしくて、彼の歩む道に暗い影を落としてしまいそうな凄惨なものだから―――。
「…それでキトカロスは助かるのか?」
「…分の悪い賭けですね。」
「そうか…。」
海斗はゆっくりと歩みを進める。
しかし歩みを進めた方向は戦場を離脱する方向ではなく、むしろその逆―――。
キトカロスが居る方へ、より正確に言うのであれば、
そして海斗はキトカロスを守るようにしてクシャトリラの前でその歩みを止めた。
「…一つ聞いていいかい、クシャトリラ―――名前分からないから便宜上バイコーンと呼ばせてもらうけど―――君たちの狙いはキトカロスなんだよね?」
『…人間如きの問いにこちらが応えるとでも?そこをどけ、死にたくはないだろう?』
海斗はクシャトリラの目的について質問する。。
だが人間という存在そのものを見下しているかのような態度を取るクシャトリラは、海斗の問いに答えようとはしなかった。
むしろ邪魔だと言わんばかりに海斗に剣を突きつける。
「…こちとら死ぬより辛い人生を送ってきてるんでね。殺したいなら殺しなよ?―――ま、そうすれば君たちは「たった一人の人間に恐れをなして話を聞くことなく殺したビビりでチキンの玉無しヘタレ集団」って呼ばれることになるけどね?」
『…面白い事を言うな。…その程度の挑発に乗るとでも?』
「乗る乗らないじゃあないんだよ。…既にキトカロスは俺と契約―――平たく言えば俺と「プレイヤーとモンスター」としての関係を既に築いてるんだ。」
勿論、キトカロスには海斗の言葉が嘘だと分かっている。
確かに自分のカードとペルレイノのカードを
そしてそのカードを使って無理矢理に海斗をこの世界に呼んだのは自分だ。だが、まだ海斗に自分の
つまり、これは―――。
「キトカロスを狙うならまず俺を斃さなくちゃあいけないんだよ。自分の仲間を守るのは当然のことだしね。」
『…そこまでいうか。いいだろう。―――なら貴様をここで殺してくれようッ!』
相手を自分と同じ土俵に引きずり込むための罠だ。
海斗はキトカロスと主従の関係を築いていると誤解させて、海斗に狙いを向けさせるための嘘だ。
そして海斗は自分が得意とする領域に引きずり込めさえすれば必ず勝てると踏んでいる。
なら自分が打てる最善の一手―――そして、海斗も自分自身も生き残る可能性を作るために必要な一手を打つ必要がある。
その一手は彼が賭けたものと同等のものを賭けねばならないだろう。
「その者をここで殺すのならば、私はここで自害します!」
『何…?』
つまるところは、自分の命だ。海斗の全力ブラフに自分の命を上乗せしてより強固な「嘘」にする。
相手の狙いが自分の身柄だと分かっているからできる事で、そして最も効果的な一手でもある。
「いいのですか?貴方達が彼を殺すというのならば、私はこの世から私の肉片一つ残さず消えましょう…!」
『…下等生物どもが。…いいだろう。人間、貴様の意を汲んで、貴様と一戦交えてやろう。』
いちいちに鼻に付く言い方をしなければいけない決まりでもあるのだろうか。
少なくとも今の物言いには海斗もむっとしている。
が、海斗はすぐに表情を戻して、不遜には不遜をと言わんばかりに妙にゆっくりとした声で言い返した。
「まぁ、まず俺は君達と比べて武力は無い。勿論身体能力もない。―――かといって君より知能が高いかと言われればそうでもない…あくまで一般人だからね。まさか君たちはそんな俺に殺し合いを仕掛けるわけないよね?」
『…平等―――では、ないな。』
極論甚だしい超理論であるはずなのに、その言葉は少なくない同意をキトカロスから引き出していた。
この話法に諸に捕まってしまったクシャトリラは言うまでもなく、海斗の話術に嵌っているだろう。この時点で海斗は自身が目論んでいた事の半分以上を遂げてしまったという事になる。
「勿論、この世壊のことについても君たちの方がより知っているわけだ。だからさ―――ここは平等に
『…面白い。』
ああ、これで完全に海斗の術中に嵌った―――そんな確信をキトカロスは得る事が出来た。つまりこれから始まるのは己の強さと、己の魂をぶつけ合う「
というかこうなってしまっては今更自分が海斗に助力することは不可能だ。後はもう、海斗自身の実力にかけるしかない。
「…もし俺が勝ったら、これから先キトカロスに手を出させないし、即刻この世壊から立ち退いて二度とこの世壊に関わらないようにしてもらおうかな。」
『いいだろう。―――ただし私が勝った時がその女と、ついでに貴様も我らのために働いてもらうとするか。』
「…いいよ。」
海斗は申し訳なさそうな目でこちらを見て来る。―――きっと海斗は自分のデュエルの結果如何によっては自分をもクシャトリラの配下とされてしまうかもしれない、とそれでもよければ命を預けてくれないか、という事も聞かずに勝手にクシャトリラの条件を呑んでしまった事に対するものだろう。
だが別に、海斗にならいくらでも命を預けられる。
キトカロスはそれだけ海斗の事を信頼していた。自分の命を賭けるに足る相手だと、
「さて、じゃあデュエルしようか。」
『…先攻はくれてやる。』
「分かった。じゃあ、ありがたく先攻を貰うよ。」
海斗はクシャトリラが進めてくれた先攻を取った。そうしてデッキの上から5枚のカードを引き相手を真正面に捉える。
「…俺のターン。俺は―――」
侵略者が全てを掠め取るか、はたまた少年が全てを守り切れるのか。
全ては漣歌姫の女王の寵愛を受けた少年の手にかかっている。
―――こうして最終決戦の火蓋は切って落とされた。
登場人物紹介
・海斗
ちなみに今の彼が使うデッキは先行ワンキルデッキです。
最後までティアラメンツを使わせるかどうか悩んだんですけどね…。
やっぱリカバー案はあっても「キトカロスが使えない理由」を作らなきゃいけない事に気が付いたので…。
「キトカロスの魂も賭けよう。」
・キトカロス
事後承諾的に魂を賭けることになった人。可哀想にね。
・クシャトリラ
矮小な人間君が頑張っているんだ、可愛いね♡
壱世壊編完結まで残り二話!最後までかっ飛ばしていきますよ―――!
それでは次回もお楽しみに!
水樹君のデッキ強化
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