「俺のターン。」
海斗は今引いた五枚の手札を確認する。【チキンレース】が二枚と【疑似空間】が二枚。それに【墓穴の指名者】の計五枚であった。
これなら、確実に勝ち切れる。―――このデッキでこの手札というのはそれだけ大きい意味を持っていたのだ。
「俺はフィールド魔法【チキンレース】を発動。そして【チキンレース】の効果を発動。このカードは1000LPを払う事で3つの効果から選んで効果を使用できる。俺はデッキから一枚ドロー。―――この効果は相手も使えるけど、そこまで関係ないね。」
海斗 LP8000→7000
海斗はまず一枚目の【チキンレース】を発動。この効果で引き当てたカードは【テラ・フォーミング】であった。悪くない、と思いつつ二枚目の【チキンレース】を発動。海斗は再びLPを1000減らし、デッキから一枚ドローする。
海斗 LP7000→6000
(…【疑似空間】、かぁ…。)
これもまたそこまで悪くないカードだ。今日はついている、と呑気な事を思いながら海斗は手札から【疑似空間】を発動した。
「フィールド魔法【疑似空間】発動。この効果で墓地の【チキンレース】を除外して【疑似空間】は【チキンレース】と同名となり、【チキンレース】のカード効果全てを得る。従って俺は【
海斗 LP6000→5000
この効果で海斗は再び【チキンレース】を引く。
ここまでくるとクシャトリラも異変に気付くようで、明らかにまとう雰囲気が変わる。
どうやらあちらは自分が出し抜かれたことにようやく気付いたらしい。
―――一応【簡易融合】で出すモンスターの候補として【ティアラメンツ・キトカロス】は入っているので一応キトカロスと主従関係を築けているという部分は疑われなさそうではある。
もちろん、このデュエルで【ティアラメンツ・キトカロス】を使う予定はないが。
『…普通そこは【ティアラメンツ】を使う所だろう…騙したな?』
「騙すも何も…俺は元から『キトカロスと主従関係にある』としか言ってないよ。それで俺が【ティアラメンツ】を使うって勘違いしたそっちの頭がおバカなんじゃない?」
『言わせておけば…!』
「事実じゃん?―――俺は三枚目の【チキンレース】を発動!これでライフを1000払いデッキから一枚ドロー!更に【疑似空間】を発動!墓地の【チキンレース】を除外して再び【
海斗 LP5000→4000→3000→2000
この三回のドローで手札に加えられたのは【ドン・サウザンドの契約】、【希望の記憶】、【風魔手裏剣】の三枚。これなら何とかなる、はずだ。
まだ相手に狙いを悟られているわけでは無い。狙いを悟られれば―――それこそデュエルを反故にして襲い掛かってきかねないような行為を海斗はしようとしているからだ。
「永続魔法【ドン・サウザンドの契約】発動。このカードは発動した時の効果処理として互いに1000のライフを払う事で互いに1ドローする効果、更にこの効果で引いたカードとこのカードの発動中に引いたカードを公開し続け、この効果で手札の魔法カードを公開している間そのプレイヤーは通常召喚出来ないという三つの効果を持つ。俺が引いたのは【
『―――【六世界-パライゾス】。』
海斗 LP2000→1000
クシャトリラ LP8000→7000
どうやらこれで互いに特殊召喚を行う事でしかモンスターを召喚出来なくなったようだ。最も海斗のデッキに至ってはそんな事は何一つ関係ないが。
そしてこれで海斗の狙いの一つ目である「自身のライフポイントを1000にする」という事を達成した。
残りはキーカードをこのターン中に手札に引き込めるか。それにかかっている。
「俺は続いて魔法カード【テラ・フォーミング】を発動。デッキからフィールド魔法の【ヌメロン・ネットワーク】を手札に加えてそのまま発動。【ヌメロン・ネットワーク】の効果でデッキから【ヌメロン・ダイレクト】を墓地に送り【ヌメロン・ダイレクト】発動時効果を発動。EXデッキから"ゲート・オブ・ヌメロン"
今引いた4枚のカードは【大逆転クイズ】二枚に、【サイバネティック・フュージョン・サポート】、【簡易融合】というもの。
これは、確実に勝った、そう思わせるだけの引きの強さであったのだ。
海斗は内心ほくそ笑みながら最後の仕上げに取り掛かる。手札の【黒いペンダント】と【風魔手裏剣】をフィールドに伏せて一枚の魔法カードを発動した。
「これで最後!逆転の時間はやってきた!魔法カード【大逆転クイズ】発動!自分フィールドのカードと手札のカード全てを墓地に送る。」
そして海斗はデッキのキーカードである【大逆転クイズ】を発動する。このカードは自身のフィールド、手札のカード全てを墓地に送ることで文字通りの大逆転を引き起こすカード。その「大逆転」を引き起こす方法は至ってシンプルだ。
「自分のデッキの一番上のカードの種類を当てる。勿論、「モンスター」か、「魔法」か、「罠」かっていう意味の種類ね。そしてカードの種類を当てた場合、――――君と俺のライフを入れ替える!」
『…3分の1を当てられるわけが―――。』
デッキの一番上のカードの種類を当てればいい。確率にしておよそ3分の1―――普通に全てを賭ける価値のある数字だ。だがこのカードにはある抜け穴があった。今の海斗のデッキはその抜け穴を存分に活かしたデッキだ。
「…当てられるんだなぁ、これが!一番上のカードの種類は魔法カードさ!」
海斗は魔法カードを選択し、デッキの一番上のカードに手を掛けた。そしてゆっくりと、そのカードを表向きにする。そのカードが魔法カードならば海斗は大幅なライフアドバンテージを得る。それ以外ならクシャトリラが減りに減った海斗のライフをゼロにするだけの簡単な作業となってしまう。
だが、海斗に【大逆転クイズ】を発動させた時点でクシャトリラの負けは決まっていた。
「デッキの一番上のカードは魔法カード【冥王結界波】!…これで俺と君のライフは入れ替わる。―――ちなみに言っておくと俺のメインのデッキにはモンスターも罠もいちまいも入っていないから。」
海斗 LP1000→7000
クシャトリラ LP7000→1000
何故なら、海斗のデッキが【大逆転クイズ】を発動するという事は既に大逆転が起きるという事が決定しているからだ。後は墓地に送られたときに相手にダメージを与えるカードをセットしてから発動すれば―――
「更に【大逆転クイズ】の効果で墓地に送られた【風魔手裏剣】と【
『この…下等生物がァ―――ッ!』
クシャトリラ LP1000→300→0
このようにいとも容易く先攻ワンターンキルが成立するのだ。
これが海斗が同じ土俵で戦いたかった理由―――相手に何もさせずに圧倒し、相手の心をへし折りたかった。
何よりも、その姿をもう視界に収めたくなかった。
何よりも、キトカロスを不幸な目に合わせようとしたことが許せなかった、
だから、海斗は全身全霊を以て相手を潰すことにしたのだ。
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勝った。その光景を目にしてようやくキトカロスは安堵の息を漏らす。
海斗はクシャトリラにターンを与える事無く、懇切丁寧にみっちりとクシャトリラのプライドをへし折ってみせたのだ。ようやく本当の意味でこの世壊に平和が訪れる。
ここまで本当に長かった。日数がどれだけ経過したか分からないが、ようやくこの世壊は誰にも支配されることの無い自由な世壊へと戻る。
キトカロスにそんな実感がふつふつと湧いてきて、気づけば笑顔になっていた。
「さあ、約束通りここから手を引いてもらうよ、クシャトリラ。」
海斗は約束通りに決闘をして、そしてクシャトリラを打ち倒した。これを英雄と言わずに何というのだ。
―――そして約束事を履行するのであれば、この瞬間にクシャトリラはこの世壊を去らなければならない。
相手がその気でなければそもそもこのデュエルを受けなければいいだけの話だ。それなのに受けたという事はこの予測が出来ていなかったということだろう。
現に目の前のクシャトリラはこの場を去ろうとしている。
『…ああいいだろう。だが―――そのデッキは気に入らん!』
「…げぇ!メインデッキがァ!」
だがクシャトリラは最後の最後に海斗のデッキに物理的に風穴を開けたのだ。
海斗を何一つ傷つける事無く、海斗のデッキを打ち抜く正確さ―――これが自分に向けられなくて本当に良かったと思う。
―――クシャトリラはワンキルデッキは気に入らなかったようだ。海斗のメインデッキのカードの大半を使用不可能にしてから去っていったことからそれが伺える。
確かに「海斗に手出し」はしていないのでこれをどうこうと咎めるつもりはない。
「海斗に使って欲しかった」と嫉妬の感情もあったから。
そうだ、頭では理解している。これが最善手であったと。
でも、大切な人を思う気持ちはだれにも止められないものだ。
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クシャトリラが撤退して、曇っていた空に光が差し込む。
そして綺麗な青空が顔をのぞかせ、世壊に光が降り注ぎはじめた。
何処までも続く青い水平線と、空から降り注ぐ光が海面に反射してキラキラと輝く。
そしてその海で楽しそうに泳ぐ漣の歌姫たち。
その近くの岩場で海斗とキトカロスは何を話すでもなく、ただ寄り添うあうように座っていた。
「…ようやく、取り返せました。私の、私達の故郷。」
キトカロスの零した言葉に海斗は何も返さない。返す必要がないと分かっているからだ。
その代わりなのかどうかは本人にさえ分からなかったが、海斗はキトカロスが愛おしそうに眺める風景を見た。
―――本当にきれいな海だった。本当にきれいな世壊だった。
きっとこの光景を生涯忘れることは無い。それほどまでに美しい光景だったのだ。
「ここまで来れたのはきっとあなたが居たからです。…この世壊の主として感謝します。」
「…それはキトカロスが勇気を出せた結果だよ。俺は、感謝されるようなことはしてはいないさ。」
海斗は自身が感謝されるようなことは何もしていないという自覚があった。ただただキトカロスに呼ばれてこの世壊に来て、それただ自分ができる事を必死にやったまでだ。
そしてこれは他の誰でもできる事でもあった。だから海斗にとっては感謝されるようなことは何もしていないという認識だった。
あるいは、海斗の事故工程間の低さの表れであったのかもしれない。
「…謙遜も過ぎると嫌味になりますよ?」
「それは失礼。…そのお礼はありがたく受け取っておくよ。」
キトカロスは何を感じたか、「謙遜も過ぎれば嫌味になる」という事を海斗に伝えておいた。
海斗も思う所はあったのか、キトカロスの言葉に正直に頷いた。
そうしてまたしばらく二人の間に沈黙が流れる。
「…ねぇ、海斗。一つ、相談があります。」
「何?」
キトカロスは何かを決したような顔をして、海斗の方を見る。
海斗はキトカロスの並々ならぬ覚悟を感じて思わず真剣な顔で聞き返した。
「私を、ずっとあなたの隣においてくれませんか?」
「…ん???」
海斗はキトカロスの口から放たれたとんでもない言葉に思考を停止してしまう。
―――海斗の決断の時はすぐそこまでやってきていた。
登場人物紹介
・海斗
【緑一色】デッキを用いた。これがワンキルデッキの正体。
これっきりで海斗のワンキルデッキの出番は終了。
・キトカロス
彼女は決断した。これからもずっと愛する人の傍にいる事を。
・クシャトリラ
何もさせてもらえなかった。
というか動き書くのがめんどい+本編でワンキル出せない。
という事でワンキルの被害者になってもらいました。
皆さん正月休みや冬休みから元の生活に戻っていますか?
私は全然まだまだ戻れてなくて、めちゃくちゃだるいです。
壱世壊編は次回で最終回。
次回もお楽しみに!
追記:今回からアンケートします。水樹君のデッキをどっちにするかです。切り札などは活動報告をご覧ください。
水樹君のデッキ強化
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