「相棒」   作:ダンちゃん1号

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壱世壊編最終回です


嫋々たる壱世壊から(フロム・ペルレギア)

 

「…私を、ずっとあなたの隣においてくれませんか?」

 

たった今、キトカロスから言われた言葉を海斗は頭の中で反芻していた。

―――海斗にとってはまるで意味の分からない言葉であったが。

傍に置いておくというのはつまり、そう言う意味でとらえてしまっても良いのだろうか。

 

「それってここで結論出さなきゃいけない?」

「今じゃなくてもいいですよ。」

 

ドギマギしてしまってか、海斗はその問いに答えを返す事が出来なかった。

それをキトカロスに察せられてしまったのか、苦笑交じりに「今じゃなくてもいい」と言われてしまう。

しかし、キトカロスはその言葉の後に「でも」と付け加えた。

 

「…でも、そう遠くないうちに貴方はこの世壊を去らなければなりません。」

「答えはそれまでに…ってこと?」

「…はい。出来る事なら今すぐに言って欲しいんですけど、こればかりはすぐに決められることでもないので。」

 

たしかにこの世壊でやれることはすべてやった。

海斗自身にも元の生活があるのだから、そこに戻るべきだと―――居るべき場所へと帰るという選択肢は当然の帰結かもしれない。

 

「…余りあっちには帰りたくないんだけどな。」

 

だが、海斗には元の世壊に戻るにあたって一つ不安な事があった。

それが海斗の人生をめちゃくちゃにした本人である父親が未だに健在であろうという事だ。海斗にとってこの世壊を去るという事はつまり、再びあの父親の支配下に戻るという事でもある。

そんな未来を思い描いていたのか、海斗はいつの間にか自身の体を抱き込むようにして震えてしまう。

 

「…そう、でしたね。海斗はあっちで辛い経験をしていたんでしたね。…大丈夫ですか?」

「大丈夫、だよ。」

 

キトカロスはそれを見て、「やってしまった」という顔をした。

明らかに精神的に追い詰められているかのような海斗の姿を見て、海斗を「地獄」に送り返してしまう事になるという事実を知ってしまったから。

キトカロスもできる事ならかいとにずっとこの世壊に居て欲しいと思っている。

だが、それは土台無理な話だ。

確かにこの世壊には水も、何処までも広がる海もある。―――だが、海斗に必要なもの全てがこの世壊で入手できるわけでは無い。いつか、海斗のここでの生活は必ず破綻する。

 

「…貴方がこのままずっとこの世壊にいても貴方が生活する基盤はほとんどない。」

「分かってる。」

 

だから海斗はそう遠くないうちにこの世壊を去らなければならない。

海斗に突き付けられた選択はたった一人で地獄に戻るか、キトカロスを地獄に引きずり込むかというものだった。

 

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余りにも残酷な選択肢を突きつけられた海斗。

海斗にとってキトカロスは一体どんな存在なのかそれが海斗にはどうしてもわからなかった。

 

「…ねぇ、キトカロス…。俺はどうすればいいんだろうね…。」

「それを私に聞きます、普通?」

 

ぼやきを当然のように受け入れている彼女の胸の内を知る手立てはないものだろうか。

それさえ知れれば、きっとこんなにも悩むことは無かったのだろう。

人付き合いだとかそういうものはさっぱりだし、―――相手の気持ちなんて何一つ分からない。

それが海斗という人間の歪さだった。

 

「…一人で前に進むしか、ないのか…。」

 

海斗の問いにキトカロスは何も言えない。

海斗の中にある問いは海斗だけのものだし、海斗本人ではないキトカロスの言葉で答えを出したとてそれは「キトカロスの意志」が反映されただけのものだ。

そこに「海斗の意志」というものは存在しない。

―――キトカロス個人としてはぜひとも隣において欲しいものだと考えている。

もしそこが地獄と形容するような場所であるならば、隣で支えてそこから救い出せると思っているからだ。

 

「…せめて向こうの状況が知れればなぁ…。」

「そうですね…。最低でも人一人通れるくらいでなければあちらとこちらを繋ぐのは難しいですから…。」

 

だが、どうあったって、海斗は海斗自身で考えて納得する答えを出さねばならない。

もし自分を隣に置かないという選択でも、海斗が納得できるのならば喜んで送りだす。

だが、もし中途半端な気持ちで「連れて行かない」と宣うのなら、その時は無理にでもついて行こう。

 

「…存分に悩んでください。今の海斗には悩むことが必要ですから。」

「そうさせてもらうよ。」

 

キトカロスがその場を去る中、海斗はただ一人これからの展望を考えることになった。

 

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ここで一旦海斗の世界に話を戻そう。

海斗は何も告げずに家から飛び出し、壱世壊へと旅立った。そのまま数週間帰ってきていない。

そんな事を知らない周囲の人間からは当然「家出」したものだと考えられる。

 

「…まさか…。」

 

周囲の人間は「お金が無くて高校に行けてない」という海斗の発言を思い出していた。

だからバイトをしなくてはならないとも。

今までは「生きる為に精一杯」なのか、と特に深入りすることなく故に追及することもなかった。

しかしここに「家出」が絡んでくるとなると話は別だ。

もしかしたら何か()()()()()()()()()事情があったのではないか。そんな考えがふと思いかんだ。

それから周囲の人間―――特に海斗のバイト先の人間の行動は早かった。

まずは何があったのか確かめるために海斗の家に突撃。父親の「アイツがどうなろうと」という言葉を聞き、その結果、酒狂いの父親に虐待されていたという可能性が思い浮かぶ。

さらに父親は「躾」として自身の暴力行為などを自慢げに語り始めた。

 

(スマホで録音しとこ…。)

 

海斗の父親のいう「躾」は俗にいう「虐待」であり、しかも本人には「躾」以上の意味はないものだった。

しかし世間から見て「虐待」とであると判断され、その証拠も音声として残っているなら、日本の警察も対処に乗り出さない程阿保ではない。

結局海斗の父親は虐待の容疑で逮捕。

後に余罪がたんまりと見つかり、海斗もある女性を強姦して産ませたということが発覚。

見事に塀の向こうに送られることになった。

 

――ちなみに海斗はこのことは一切知らない。

海斗が壱世壊に行っている間にとんとん拍子で進んだことで、海斗の抱く不安は全て消え去っていたのだ。

これも一つの世界を救ったご褒美なのか、それとも別の何かなのか。それは当事者でさえ知ることは無かった。

一つ言えるのは、これから海斗の先に待ち受けているのは地獄などではないという事である。

 

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海斗にとってキトカロスはどんな存在なのだろうか。

この数十日、ずっと隣にいた彼女の存在は海斗自身の中でどれほど大きいものになってるのだろうか。

 

(…今更、考えられないよなぁ…。キトカロスが居ない生活だなんて…。)

 

いつの間にか、海斗にとってキトカロスは「居て当たり前」の存在になっていた。

彼女が隣にいるととても落ち着くし、何よりも彼女と共に居ることがとても心地いい。

だから正直な事を言ってしまえば今すぐにでもキトカロスの言葉を受け入れたい。

きっとこの気持ちを「恋」と呼ぶのだろうから。

だがキトカロスに恋してしまったからこそ、何よりも父親をどうにかしなければならない。

 

(…警察にこの傷を見せたら信じてくれるかな…?)

 

流石に虐待の証拠そのものである傷を見せられて警察も動かないはずがないだろう、と。

確かにこの傷は嫌な事しか思い出させない忌まわしいものだ。今でもこの傷が痛むたびに恐怖に晒される。

だが、キトカロスと一緒に居ればそれさえも乗り越える事が出来そうな気がした。

 

(そもそも俺がキトカロスに「頼れ」って言ったのに、それが出来なきゃ意味ないでしょ?)

 

それに自分がキトカロスに言ったことを実行しなくて一体どうするというのだろうか。

だから海斗も思い切り周囲を頼ることにした。

それもまた一つのつながりと思えて、なんでこんな簡単な事に気付かなかったんだ、と自分の鈍さに笑いそうになる。

 

(人と人のつながりがこんなに温かいものだなんてね…。)

 

誰かを頼る事。そして誰かに頼られること。それ以外の人と人のやり取りの全てが「つながり」になっていく。

人と人の関係はきっと海斗が考えているよりもずっと簡単で単純で、そいてきっと海斗が考えている以上に温かい。そしてそれは連綿と続き、新しいつながりを紡いでいく。

それを教えてくれたのは自分を信じ続けてくれたキトカロスだ。

海斗が忘れていた「つながり」を思い出させてくれたのもキトカロスだ。

 

(難しく考える必要なんてなかったんだ。俺が、俺達が望む未来は―――。)

 

それに気づいてしまえばもう後は早かった。

だってキトカロスの問いである、「私を隣においてくれますか」という言葉への答えは、初めから自分の中にあったのだから。

 

「決めたよ。キトカロス。俺は君に――――」

 

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そして海斗の決断から数日。

とうとう海斗が壱世壊から去る時がやって来た。目の前にはどういう訳か知らないが光が浮いている。

海斗はその前に立ってここでの生活を振り返っていた。

 

(…はてさてこの先どうなる事やら…。)

 

 

海斗は頭を掻きながら隣を見る。海斗が見た先にはキトカロスが立っていた。

海斗が下した決断は「キトカロスと一緒に行く」ことだった。いくら考えてもやはりそれ以上の考えは出てこないし、そもそも自分の隣に一番居て欲しい人だったからだ。

だから海斗はあの日、キトカロスに正直に自分の気持ちを伝えて、自分の全てをありのまま伝えて「それでも後悔しないか?」と聞いた。

 

「地獄上等ですよ。…こっちも一度は地獄に引きずり込みましたからこれでおあいこです。」

 

そんな彼女の返しに思わず苦笑してしまいそうになった。

どうやら自分は頼もしすぎる相棒と縁を繋ぐことができたらしい。

 

「…シェイレーン。これからこの世壊をよろしくお願いしますね。」

「はい…。」

 

キトカロスは見送りに来てくれたティアラメンツたちに別れの挨拶をしていた。

なんで、だとかどうして、だとかそう言う声はあまり聞かれなかった。

―――きっと彼女達もキトカロスが胸の内に抱えたものを知っているのだろう。

とくにこの世壊をキトカロスから受け継ぐことになったシェイレーンはどうしてキトカロスがこの世壊を去らなければならないかを聞いているだろう。

 

「…これからもきっと私は狙われます。だから、私はこの世壊に居ないほうが良いんです。…だから、ね?泣かないでください。これが今生の別れ、というわけでもないですから。」

 

現在の彼女はクシャトリラにその身を狙われている。

そんな彼女が壱世壊にいればこれからもきっと、キトカロスを狙う存在が壱世壊の平和を脅かす。

今回は偶然海斗が居たから何とかなった。しかし、これからもそうとは限らない。

だからこそ、彼女もこの世壊に残ることは許されなかった。この世壊に残れば、今度はシェイレーン達もただでは済まないだろうから。

 

「…海斗!キトカロス様を幸せにしなかったら私が貴方を殺すからね!」

「海斗も行っちゃうのね。…二人ともお幸せに。」

「二人ともぉ~…行ってらっしゃーい…!」

 

ハゥフニスとシェイレーン、そして涙を流しながら見守るメイルゥに見送られて二人は光の中に足を踏み入れる。

 

(…もう大丈夫でしょう。私も、彼も。)

「…行きましょう、海斗。」

「うん…。」

 

海斗は視界が閉じる直前、もうほとんど見えなくなった壱世壊の住人に振り返って叫ぶ。

「またね!」と。

―――海斗は、信じていた。前を向いて生き続ければきっとまたここに来れる、と。

だから海斗はもう一度、今度は二人で道を歩んでいこうと決めたのだった。

 

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この数か月間に本当に色々な事があった。

まず海斗が家に戻るや否やすぐに警察という組織に保護された。どうにも父親が海斗に暴力を振るっていたというのが公になったらしく、流れるようにその父親―――今は赤の他人との縁を切ることができた。

海斗は頭の上に「?」を浮かべていた。だからといって自分に「どうなってるの、これ?」と問いを振るのはどうかと思うが。私だって分からないものは分からないのだ。それをどうして堪えられると思ったのか小一時間ほど問い詰めたい気分に駆られた。

次に海斗は今までどこで何をしていたかという事についてだが「家出」という方向で話が固まった。

 

「虐待されていたという事実が「家出」という事に勝手にしてくれたね。」

 

とは当時の海斗の弁だ。

実情は「殺し合い」というものだったし、後自分の行為は「拉致監禁」に相当する行為であることも知った。

こうしてみると当時の自分はどうにも手段を選ばなさすぎだと突き付けられたような気もする。

 

そうして海斗が居なくなった理由を捏造して、それから次に「裁判」というものを行う事になった。

海斗曰く「裁判」はその人物が実際にその罪を犯したかとか、犯した罪にどんな罰が与えられるかという事を決定する場らしい。

私は海斗以外にならすがたを見えなくすることだってできるので、海斗を地獄へ叩き込んだ張本人にどんな罰が下るか、というのを目の前で見た。

ちなみにその際に議論されたのは「傷害罪」と「虐待」、後は「強姦罪」「殺人罪」などなどで、全てひっくるめて刑務所と呼ばれる牢獄の中でこれからを過ごすことになる罰を受けることになった。

それと手持ちの財産は全て海斗への「慰謝料」―――つまるところ、謝意を示すお金になり、海斗の財産に変わるらしい。担当の警察官曰く「一生はお金に困らない程度」の金額はもらえるらしい。

ちなみによしんば刑務所から出れたとしてももうあの男は二度と海斗に会うことはできないらしい。ざまぁみろ、というやつだ。―――海斗も「二度と顔を見なくて済む」t胸を撫で下ろしていた。

 

そして最後に、海斗は住んでいた土地を離れることになり、遠い町に引っ越すことになった。

理由としては今住んでいる環境が劣悪であるというのと、その付近に特別な理由がある子が改めて学ぶことができる施設があるからだった。

ほんの少し前まで海斗はそこに通っていたがすぐに普通の高校―――多くの事を学べる場所への転入が決まった。どうやら海斗の知識はその高校とやらでも十分やっていけるだけのものであるようだ。

ただし「編入」ではなくあくまで「入学」であるため周囲の人間が15歳である中、一人だけ浮くことになるかもしれない、と施設の担当の人が言っていた。―――海斗には私が居るから、きっと一人になんてならないだろうけれど。

 

こっちの世界に来てからすでに数か月。

私は常に彼の傍にいた。

かつての世壊と今生きる世界。確かに多くの出来事が初めて経験する事ばかりで慣れないことだらけだ。

ときには失敗だってするし、ぶつかり合ってしまう事もある。

それでも私は海斗の傍にずっと居ることができる。―――互いに互いを思い合う事が出来る。

だから私は、キトカロスは幸せだ。私はこの幸せをかみしめて生きていく。

 

―――「キトカロスの日記」

 

「…日記帳が切れてしまいました。」

「んじゃ、帰りに買って行こうか。今日は―――」

「ええ、今日は新しい始まりの日ですからね。遅れたら大変です。」

 

まだ少し硬さを残した制服を着た海斗は、今日から高校生になる。

少しだけ周囲より年上な高校生である海斗。

そしてその海斗を隣で見守り、支え続けるキトカロス。

二人は桜の花が舞い散る道を歩き始める。

きっと二人ならばどんな道でも歩いていける。―――だから、二人は歩みを止めない。

その先にきっと誇れる自分が待っていると、そう言えるから。




登場人物紹介

・渡瀬海斗
周りの大人は節穴だったが一度気付いたら物凄い速さで問題解決する超優秀な人達でもあった。
17歳の高校一年生。

・キトカロス
付き合っているという過程を吹っ飛ばした人。
これからも二人でどんな困難をも乗り越えていく。


えーこれにて壱世壊編終幕です、というわけで次回から強化イベント始まります。
次回もお楽しみに!

水樹君のデッキ強化

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