創星神の一件が解決してから既に三か月が経過した。
霊使は未だに自宅療養中という事で会いに行くこともできず、咲姫はひたすらに学業に励むことにした。
そうしていたほうが、色々と忘れることができるから。
咲姫はあの一件以降一部の友人を除いたほとんどの人間から「四道の倅」と罵られていた。
特にあの事件で家族や愛する人を失って人達からの言葉はより深く咲姫の心を抉る。「お前たちのせいで」だとか「おまえもどうせ同じこと考えているんだろう」だとか。
ただ咲姫はその事について言い返すことはしなかった。咲姫はむしろそれを受け入れていくと決めていたのだ。
もっと自分が速く動けば止めることができたかもしれない。
もしかしたらもっと犠牲を少なくする何かがあったのかもしれない。
だから、いくらでも罵詈雑言を浴びせられても、すべて受け入れていく。それが四道の名乗り続ける自分に対する罰なのだと、心の中で決めていたからだ。
「…でもさー…。なんで私だけ仲間外れなのぉ?」
「なんででしょうね…。」
「しかもさ―私兄さんと一緒に戦ったよねー?」
「…本当に、なんででしょうね…?」
といっても流石にそれが続けば愚痴の一つや二つも出てくるわけで。
そんな風にクーリアに愚痴を聞いてもらい、友人と会話しながら何気ない日々を過ごす。
それが咲姫が得た大切なものだった。
そんな大切な日々を精一杯享受するためには多少の罵倒も受け入れる。だから咲姫はゆっくりと呑気に過ごしていた。罵倒なんてもはや聞きなれたものだし、誰かに怒りを剥けたくなるその思いを理解できるから。言いたい奴には言わせておけばいいのだ。それで何かが変わったりするわけでも無い。
ある意味で投げやりともとれる過ごし方をしていたその矢先、咲姫とクーリアの元にミューゼシアがやって来た。
「私が!?【グランドレミコード】に!?」
「はい。今のクーリアなら十分に資格はありますから。―――なってみます?」
そしてミューゼシアとクーリアは二、三言交わしているのを見て、咲姫はその場を離れようとしたのだが―――クーリアの大声で咲姫の興味は完全にそっちに持っていかれた。
足音を殺して近づいてみればどうやらクーリアが【グランドレミコード】となる資格を得たらしい。
「…でも私最近はずっと咲姫と話しているだけでしたよ…?」
だがクーリアにとってその知らせは予想外以上―――もはや想定外以上という言葉でも言い表せないような衝撃をもって迎えられた。
それがどれだけかと言えば余りの衝撃にクーリアは信じられないとばかりに後退りして、部屋のドアに足を引っかけて、後ろに居た咲姫に気付かず後ろに倒れてしまう程度には衝撃を受けていた。
「ぐぇっ…」
「えっ…咲姫!?」
挙句の果てに自分が咲姫を巻き込んで倒れた事を咲姫の蛙がつぶれたかのような声で察する始末。
ミューゼシアはとたんに自分の選択が間違いだったのでは、と不安になってしまった。
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そんなこんなで、クーリアと咲姫は二人揃ってデュエルモンスターズのカードに宿る精霊たちが居る世界へとやってきた。
「いつ見ても不思議な場所だね。…なんで雲の上を人が歩けるのやら。」
「…さぁ?」
何度かここを訪れたことのある咲姫は、未だに目の前に広がる光景が信じられないでいた。
そもそも咲姫にとって雲とは水と微量の塵―――エアロゾルと呼ばれる物体が結合したものである雲粒で構成されたものだ。少なくとも人が雲を踏むということはあり得ないし、ましてや雲の上に建築を行うなど考えられない。
「…ま、こんなファンタジーな世界で物理法則を気にする方が野暮ってものかな。」
「考えないほうが良いですからね、こういうのの理由って…。」
いくら考えても答えが無いという事は咲姫自身痛感している。
だってこの場所は初めから「こうある場所」と定められて生まれたのだから理由を求める方が困難というものだ。
二人がそんな奇怪な場所を歩いていると、ミューゼシアが手招きしているのが見えた。
どうやらそこが目的地であるらしい。二人が付いたのを見ると、ミューゼシアは二人を先導として歩き始める。
「二人とも、こっちですよ。」
「はーい。」
「…分かりました。」
いかにも呑気な、そして余りにも場違いな返事をする咲姫と、ガチガチに緊張して、一挙手一投足が大げさになっている。それはまるで行進を行っているかのような、妙なちぐはぐさがあって、咲姫のドツボに嵌ってしまった。
「クーリア、硬くなりすぎ。」
「緊張もするわよ!だって、もしかしたら
「だって私無神論者だしー。」
クーリアは自分よりも上の階級の存在に会う事になるかもしれないということに緊張しているようだった。逆に先は無神論者であることを理由に特に緊張なく、むしろ不敬ともとれるような態度を取ってさえいた。
そもそもの話、咲姫は、咲姫の知る「神」が色々とやらかしてくれたおかげで宗旨替えをして無神論者になったのだ。
今でも咲姫は「神」という言葉を聞くだけで即座にやる気スイッチが入る位には「神」の事を嫌悪している。
「…神なんてまともなのほとんどいないって。」
「…言いえて妙なのがまた…。」
ちなみにクーリアもクーリア自身が言う「神」とやらに出会ったことは無い。
いつの間にかミューゼシアに教育されていて、そしていつの間にか「クーリア」という存在になっていたからだ。
案外自分も「作られた存在」なんじゃないか、という考えもある。
それはそれとして、だ。
先導していたミューゼシアの足が止まる。どうやらこの先は二人だけで行けという事らしい。
「とうとうついたね。クーリア、腹は括った?」
「行くしかない。…とは分かっているけれど…。」
「大丈夫。いざとなったら私が引き摺ってでもここから逃がすから。」
「普通そう言うのは私のセリフじゃないの?」
二人はひときわ大きい扉の前に立ち、ゆっくりとその門を開いていく。
そしてその先にあったものにあっけに取られて――――。
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事の顛末を言えば「何もなかった」というのが正しいのだろう。
いや、正確に言えば「なかったことにしたい」というのが咲姫とクーリアの本音だ。
何故ならあそこにあったのはクーリアを【グランドレミコード】として認める旨が記された紙と、もう一枚の手紙しかなかったのだから。
しかしこれだけなら「なかったことにしたい」とはならない。
問題はその手紙の中身だったのだ。
『―――まず、一つ謝罪させてほしい。本来ならばそれなりの試練が必要なんだけれども、今回はそう言ったものをいきなり全部カットさせてもらった。だって、今時試練なんかいる?いらないでしょ?試練に失敗して優秀な人材を失いたくはない!』
文頭に書かれていたのは何とも気が抜けるような、「威厳」の「い」の字もないような文章。この文章だけでクーリアはこの手紙を地面に叩きつけたくなった。
しかしながらこの手紙を書いた主は相当性格が悪かったのか―――
『今この手紙投げ捨てようとしたでしょ?いけないなぁ…そういうのは…。』
既にそういう事が起きるだろうと、その行動を咎めるような内容の文書を既に書いていたのだ。この時点でクーリアは何となく「察した」が、なんか間違いがあってはいけないので、痛むこめかみに手を添えながら手紙を読み進める。
『とにかく、これから君は『グランドレミコード』を名乗れるわけだけど。―――ミューゼシアがいるんだよね。というわけで、特に何かが変わるわけじゃないから。非常事態にはそれなりの権限はあるけど。これまで通り彼女たちの良い「指揮者」でいてね。あ、それと君のマスターさんにもよろしく伝えといてねー。それじゃ。』
残りのもう一枚の書類を読む気は完全に失せた。それだけこの手紙を書いた存在はクーリアの勘に障る存在だったというわけだ。
いや、確かにフランクなのはいい事だろう。上の者と接しやすければその分部下も余計な力を抜くことができる。だが、この手紙の主はどうやらフランクなのではなく「適当」な気がしてきてしょうがないのだ。
「宗旨替えしたいんですが…ミューゼシアさん、だめですか?」
「ダメです。」
結果、クーリアは宗旨替えを希望することになった。
だって文面からありありと適当さが伝わってくるのだ。そんな上をどうやって信じろというのだろうか。
少なくとも、クーリアには無理だった。とてもではないが信じられない、胡散臭すぎる。
―――結局、クーリアはドレミコードとして、そしてグランドレミコードとしての権能を行使できるようになった。ただ、暫くは途轍もなく不機嫌だったという。
―――咲姫はミューゼシアにそんな愚痴を漏らしていた。
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クーリアがグランドレミコードになる少し前の話だ。
ミューゼシアと「神様」は二人で会話していた。
「…なんで知り合いに試練下さなきゃいけないの?そもそも俺まだ生きてるよ?神の仕事は死んでからじゃないの?寝てたらいきなり飛ばされてびっくりしたんだけど?」
「あの悪神が人事を丸投げにしたからですよ…!これは例外中の例外なんです!」
「じゃあしゃあなし。…でも姿見せるのは色んな意味で駄目だからふざけた手紙とそれを認める旨を書いた紙でもおいときゃいいか。」
「…雑過ぎません?」
「そもそも神の座を無理矢理渡されたようなもんだから、俺。」
「神様」は本来は自分のものではない職務を無理やらされているようなもので、気分は勿論最底辺にまで落ち込んでいた。しかも知り合いに沙汰を下す仕事となれば、もはややる気はマントルをぶち抜いた反対側にまで落ちるのも必至と言えた。
そんなわけでやる気のない「神様」は適当に仕事を行ったのだ。その神様は存在がクーリアにばれたらいろいろと厄介な事が起きるのを理解していたから。
「…終わったんで帰る。寝る。ふて寝する。」
「同居人に怒られないようにしてくださいね…。」
(―――あの地獄をもう一度経験させるのは気が引けるし、な。)
本来ならクーリアに与えられるはずの試練はあの「地獄」のような戦場の中でどれだけその音で人を癒せるかだった。こんなもの心がすり減るに決まっている。
そんな事いくら試練とはいえ、知り合いにやってほしくなかった。だから「神様」は独断でソ連を無かったことにしたのだ。
本来ならば数十年先の職務を一足先に体験することになった。やりたくないインターン候補ぶっちぎりの壱位に違いない。
「恨むぞ、あの悪神…。」
その呟きと共に、「神様」はその場から姿を消した。
そして、クーリアは自動的に【グランドレミコード】の座を得るに至ったのである。
登場人物紹介
・クーリア
グランドレミコードとしての権能を使えるようになった。
それはそれとして「宗派替え」を希望。
・咲姫
神様に会えなくえっちょっと残念だったり。
・ミューゼシア
「神様」を知る唯一の存在。
・「神様」
前任者に押し付けられた。そもそも少し前に話があったのに全部すっぽかして消えた前任者がすべて悪いのに。
デュエルは…デュエルは何処だ…。
話のプロットからデュエルが…。
人と人の関係を中心に書きたいと思っていたらデュエルが…。
次回もお楽しみに。次は奈楽かな。少し長くなりそうな。
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