「相棒」   作:ダンちゃん1号

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新種の植物が発見されるとき、大体新種の蟲惑魔も見つかるらしい

 

「ふむふむ…。【新種の食虫植物の発見】…か。へぇ、地下に伸びるウツボカズラ。捕食器官は土の中にある、ねぇ…。」

 

タブレットを片手に奈楽はそう呟いた。

奈楽は最近よく食虫植物や、昆虫の生態が書かれた資料を読み込むことが多くなった。これは蟲惑魔達と、奈楽達の世界に住む食虫植物の生態が一致していることが多かったのがきっかけであった。

しかし今は単純になんで食虫植物が生まれただとかそう言ったものの方に奈楽は強く惹かれている。それこそ将来は植物について研究したいと考える程度には。

そんなわけで、奈楽は最近、よく植物に関する研究論文に目を通していて、そんな時に新種のウツボカズラの情報を見つけたのだ。

これは一個人としてとても気になる。しばらくその論文を読んでいるとフレシアがタブレットの画面をのぞきこんできた。どうやら奈楽が何を呼んでいるのかが相当気になったらしい。

 

「…新種のウツボカズラだって。」

「へぇ。…よく見せてください。」

 

フレシアは奈楽からタブレットを受け取ると、真剣な眼差しで読み始めた。といっても論文の内容そのものではなく、フレシアが見ていたのは「どういう生態か」であるようだ。

そしてそこからじっくりと時間をかけてその論文を読んだフレシア。

彼女は何処か確信したような声音で奈楽に衝撃の事実を告げる。

 

「―――この子、多分元は【プティカ】ですよ?」

「…蟲惑魔案件?」

「はい。…似たようなことをする子が仲間に居るんです。」

 

フレシアの何処か確信めいた言葉に奈楽も否定の言葉を返すことが出来なかった。

―――つまりは。

 

「え?何?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってこと!?」

「その逆の可能性も考えたんですが、その子も生まれたてなんですよ。だから奈楽の言葉を正確に言うならたぶん()()()()()()()()()というのが正しいかも、ですね。」

 

フレシア達【蟲惑魔】と現実の植物に何らかの関係があることは誰の目から見ても明らかだった。

流石にどんな関係があるのかは分からない。そもそも知ろうとも思わないわけだが。

それでも、もし関係があるのなら、と思うとどうしてもその蟲惑魔に聞いてみたくなってしまう。

更に奈楽にとって幸運な事は続いた。

もしかしたらその蟲惑魔はこっちに来ているかもしれないとフレシアは言うのだ。

その言葉はフレシア達と出会った場所にもう一度足を向けさせるには十分すぎるものである。。

そしてそれは奈楽にとって余りにも短い平和な日々を自ら終わらせる行動でもあったのだった。

 

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この山は元々星神創の私有地だった。

それを色々あった末に奈楽が相続し、奈楽の物になっていた。他の土地はほとんど手放したが、家と、この土地だけは手放す事はしなかった。

何故ならこの森はフレシア達との思い出の場所だから。

蟲惑魔達からすれば唯一と言っていいほどに強くひかれた人間と出会った場所だから。

そんな思いがあって、結果そのまま奈楽が相続することを決めたのだ。

そう言った事情もあってか、奈楽は時折この山に足を伸ばす。その理由はいろいろとあるが、一番の理由は植生の回復の経過の観察であった。

かつてアロメルス達を迎えた時に起こった騒動で、一度環境が大いに荒らされた。

草木は焼き払われ、土地は踏み荒らされ、木は燃やし尽くされ、と酷いありさまだったのだ。

それが今では先駆植物どころか普通に鬱蒼とした森に戻っている。

 

「いつ見てもこのと問いの回復っぷりは異常だよねぇ…。」

「そうなんですか?」

 

遷移のスピードがとんでもないというか、なんというか。

少なくともこの現象を既存の生物学のスケールに当てはめるのは大分無理がある。

 

「普通ね、植生っていうのは普通は遷移して変わっていくものなんだ。まず初めはコケやシダのような先駆植物が根を張り、そこから一年草、多年草、低木、陽樹、陰樹って遷移していって森に変わる。それには少なくとも200年…植林しまくったとしても80年くらいはかかるわけで。」

「こんなに早く鬱蒼とした森に戻っているのは、おかしい…ということですか。」

「うん、そうなる。」

 

奈楽は植生の遷移の事をそれなりに知っている。だからこそこの遷移の仕方は色々とおかしいと言い切る事が出来るのだ。

こんな異常な事態を目の前で観察できる―――。そんな状況に奈楽の心は既に有頂天になっていた。

 

「調べようか、ヒャッホイ!」

「奈楽!?」

 

だが、ここは蟲惑魔達の領域。

下手に踏み込めばどうなるか、それはかつて奈楽も身を以て体験している。

―――体験しているのだが。人は何かに集中するとすっかり周りが見えなくなることもあって。

 

「…あ。」

「あ。」

 

奈楽は一瞬の浮遊感を味わう。

それと同時に奈楽の視界は下から上に流れていく。視界一杯に植物の根が張られているのが見える。

フレシアは「あーあ」と言わんばかりに頭に手を添えた。「言わんこっちゃない―――」、そんな声が聞こえてきそうだった。

 

「…わが生涯に一片の悔い在り!」

「悔いあるなら死なないでください。」

 

その後、すぐにフレシアによって回収されたのは言うまでもない。

 

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ちょっとしたアクシデントもあったが、何とか最奥までたどり着いた奈楽達。

そこで待ち構えていたのは見たことも無い三人の蟲惑魔達であった。

だが、その顔は往々にしてあまりよくないものだった。

 

「シトリス、キノ、プティカ…皆、元気でした?」

「はい。お姉さまもご壮健で何よりです。」

「うん。」

「…私達は、大丈夫なんだけど…。」

 

どうやら三人とフレシアは知り合いであるらしい。だが三人とフレシアの間には再会の喜びよりも何処か悲しげな雰囲気が漂っている。

というか、明らかに何かを言い淀んでいるプティカにフレシアは何があったのかと聞くことにした。

 

「あのね、ホールティアちゃんが攫われちゃったの!」

「…は?すみません。もう一度言ってもらっても?」

「ホールティアちゃんが攫われちゃったんだって!それを追ってアティプスちゃんもいっちゃったの!」

「…そうですか。」

 

その結果、フレシアはホールティアと呼ばれる蟲惑魔が攫われた党情報を得た。

そしてそれは同時に普段温厚なフレシアの堪忍袋の緒をキレさせるという異常事態のトリガーを引くことにもなった。

 

「…奈楽。すぐにその誘拐犯を殺しに行きましょう。」

 

すぐにそんな考えを口にできるのはフレシアの本性が捕食者であるからだろう。

だがこのご時世で殺人はまずい。それに彼女に罪を背負って欲しくはない。

加えて証拠さえあればすぐに立件されるような世界だ。だから奈楽はフレシアの提案に首を横に振った。

 

「ダメ。殺しはいけない。」

「同胞に手を出されたんですよ。…なら報復はきっちりと行わないと。」

「それはそっちの世界の話だ。」

 

郷に入っては郷に従えという言葉がある。フレシアが言うような報復をしたらそれこそ、追われるのはこっちになる。それは色々と不味い。犯罪者に落ちるのはまっぴらごめんだ。

 

「とにかく急ごう…!」

「…ええ。皆も行きましょう」

 

そんなこんなで二人は急いでホールティアの後を追う。―――その後ろに多数の蟲惑魔を従えながら。

愚かにも蠱惑の園に踏み込んだ者の末路は、言うまでもなく残酷なものであることは間違いない。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

あの異常な植生の遷移の謎。

遂にそれを解き明かす時が来た―――。

 

「やったぞッ!これで!解明することができる!」

 

彼が背負うのは睡眠薬でぐっすりと眠らせた少女。明らかに人外の特徴を備えていて。だからこそ「そういうこと」に踏み切ったのだ。

だって「人外」なのだから法律も何も適用されない。

「人外」だからきっと不思議な力を持っている。その力を解き明かし、あの異常な遷移の謎を解く。それが男が自らに課した命題だった。

 

「誰かに追ってこられると厄介だ。私はこの子の体を研究しなければならないッ!」

 

そのままその痕跡を一切残すことなく男は歩みを進める。

やけにジグモの巣が増えてきているが、その男は植物と、それと昆虫の生態に詳しかった。

だからどこをどのルートで歩けばその巣に引っかからないよう移動できるのか、そんなルートの把握は完璧に行える。

 

「この子の研究が進めば木材は無限の資源となるのだッ!」

(避けろ!)

 

そのまま少女を背負いながら男は少しずつ深くなる森を駆け抜けていく。

そんな男に向かって一本の太い糸が放たれる。

―――が、男はどういう訳かその一撃を見ずに躱した。

その攻撃の主からすれば『協力者』が居るお陰でその一撃を躱す事が出来たのだが。

 

「…攻撃してきたという事は、覚悟は出来てるんだろうね!」

 

男は顔も見えない、声さえ知らない存在に向かって忠告する。その忠告に対する答えは巨大なジグモの飛び掛かりだった。

その傍らにはまだ幼い少女が居て、その巨大なジグモとの関係性をうかがわせる。

 

「…研究サンプルは一つで十分。…君は我が『協力者』への追加の報酬になってもらおうッ!」

 

男が手を上げると同時に複数人の武装した男たちが少女に銃を向ける。

あわや大ピンチ、という所で武装した男たち数人が吹き飛んでいった。

 

「…もぉぉぉぉおぉぉう!またぁ!?」

 

そんな絶叫が聞こえた気がしたがとにかく聞かないことにした。

自分の「協力者」である兵たちが吹き飛んだ様子を見て男はとうとう慌て始める。

 

Shot(撃て)!」

 

残った兵たちに銃撃を指示して、男は一人守られるようにして姿を消そうとする。

殿を務める者達は銃口を向けて、そのまま動かなくなった。

―――彼らは蠱惑の園に招待されてしまったのだ。

 

「うわぁ…。」

 

目の前に広がる、蟲惑魔達が獲物を甚振り、反応を愉しむさまを見てドン引きする少年が一人。

少女はその少年に対して声を掛ける。

 

「…貴方が、星神奈楽…、でいいのよね。フレシアお姉さまのマスターさんなんでしょ?」

「うん?…そうだけど。」

「てっとり早く済ましましょ。私はアティプス。よろしく。」

 

少年―――奈楽はその問いにはっきりとした答えを示した。

ならば、少女―――アティプスもあっさりと自分の名を名乗る。そしてアティプスは事の経緯を話し始めた。

なお、兵たちの悲鳴が余りにも大きすぎて奈楽がそこまで話が聞き取れなかったことにアティプスが気づくことは終ぞなかったのだった。

 




登場人物

・奈楽
非日常を突っ走る人。
新しい蟲惑魔に会いに来ただけなのになんでこんなことに巻き込まれてるんだ…ってなってる。

・アティプス/シトリス/プティカ/キノ
新しい蟲惑魔。
マスターが居るってきいてたのに何でこんなことに巻き込まれてるの…?ってなってる。

・ホールティア
被害者

・男の研究者
オイオイオイ、死んだわこいつ。

タイトルが全て…のはずだったんだけどなぁ。
2部への伏線回でもあるのでしょうがないね。
次回もお楽しみに

水樹君のデッキ強化

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