「相棒」   作:ダンちゃん1号

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上位者が怒るんだ。その威圧感は半端じゃない。

 

奈楽はアティプスの話を聞いてざっくりとだが、事の内容を理解していた。

ざっくばらんというならばホールティアが睡眠ガスで眠らされて誘拐されたという事になる。さしもの蟲惑魔もどうやらガス兵器には弱かったらしい。

肝心のガス兵器はどうやら「協力者」という存在から提供してもらったようだ。

 

「で、ホールティアは研究のモルモットとして攫われた…んだよね?」

「うん。これが俗にいう『ロリコン』ってやつね。」

「えぇ…。」

 

それはロリコンではなくただのマッドサイエンティストだ、とは言えなかった。

だがとにもかくにも、だ。このままではホールティアが色々と悲惨な目に合うのは事実だ。ならば救ってやらねばならないだろう。

 

(…それにこの装備…。)

 

更に奈楽は蟲惑魔達が盛大にぶちまけた「協力者」の装備の一つを手に取る。

「協力者」が装備していたのはいつぞやの外人傭兵部隊と同じものだった。

 

「…いい加減にしつこいなぁ…。」

「なんでこうほいほいと傭兵部隊が入ってくるんです?」

 

一通り甚振りつくして満足したのかは定かではないが、フレシアが奈楽の持つ装備を横から覗き込むようにしてみていた。どうやらフレシアも同じことを考えていたらしい。

 

「がばがば過ぎない?日本(この国)の…もろもろ。」

「確かに。」

 

この国の受け入れに一抹の不安を抱いて、奈楽達は研究者の後を追う。

ともすれば死神の足音かもしれないその歩みは、確実に研究者の喉元へと歩みを進めていた。

 

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男は俗にいう「落ちこぼれ」だった。

自身が望み描いた人生をその通りに歩んでもなお「落ちこぼれ」のレッテルを張り続けられた。

どうしてだろう。

何故だろう。

何で誰も自分を認めてくれないんだろう。

 

「私は…何も残せずに終わるわけにはいかない!」

 

何かを残したい。

自分が必死に辿って来た道のりが無駄でなかったと証明したい。

そんな焦燥感に押しつぶされそうになった時に男はそれを見た。―――見つけて、しまった。

明らかに異常な成長をする植物を、明らかに、それこそ目で追えるほどの速さで遷移していく環境を。

それを見た男は狂気にも似た何かにとりつかれることになった。

最初の方は植物の採取など割と真っ当な事を行っていた。

しかしながら当然植物そのものには何も異常は見当たらない。ならば別の何かが原因かと考えてみても肝心の原因が一切合切分からない。

ならば次は、とその異常な遷移の中で生まれる生態系に注視してみることにした。

結果、ムシトリスミレやら、モウセンゴケやら、妙に食虫植物が多いという事が分かって来た。

だがそれらの植物にもやはり何も異常は見受けられなかった。

あの地には何も異常はない。

だからこそ、おかしいと言い切ることができた。

ここから男は次第に狂っていくことになる。

 

男は異常な遷移を行う森に何か特徴的な生物がいないか確認する事にした。

そこで所々植物の特徴を持った少女達を見つけたのだ。そしてその少女たちの周りでは、遷移が異常な速度で進行していた。

ならばその少女たちがこの異常な遷移に関わっていると考えるのが普通である。

―――男が普通で無かったのは、その少女達の事をもっと知りたいと思った事だろう。

その少女たちの体組成はどうなっているのか、本当に人間と全く同じ存在なのか―――。

何かが違うのだとしたら、何が違うのだろう。それとも体組成は全く同じで何か別の器官を持っているのか。

疑問が泉のように湧いて出て止まらない。もっと知りたい、と心の中の無いかが叫ぶ。

 

「…彼女たちの戸籍はナシ…。じゃあ、何しても()()()()()()()()()()()…か。」

 

周囲は男の事を落ちこぼれと呼んでいた。それは単にそう見えていただけかもしれない。が、もしかしたらこの男の異常性を知っていたからこそ「落ちこぼれ」としてまともに取り合おうとしなかったのかもしれない。

異常性を憂い、取り合わなかった結果、知識欲の化物が誕生してしまったのだからこれ以上ない皮肉ともいえるが。

だがなかなか実行には移せない。流石に誘拐とかは気後れするし、そもそも何かしら証拠を残してしまっては言い逃れは出来ずにブタ箱に収監されるだろうからだ。

 

『研究のサンプルが欲しいのだろう?』

 

そんな時に、たまたまそんな連絡がやって来た。何とその者たちは自分を「子飼いの研究員」にする代わりに何と少女たちの誘拐を手伝ってくれるというのだ。

ほんの少しでも手が欲しいのだ。この際怪しいだとか、胡散臭いだとか、どうやって自分の研究の事を知ったのかだとか、そんな事はどうでもよかった。

そこに手が届くかもしれない謎があって、それに手が届く手段があるのだとしたら。

それを試さずにはいられないのが研究者の性だ。

 

(―――あの時はいい協力相手を見つけたと思ったんだ。)

 

そうして研究者の男は凶行に及んだのだ。

―――それが自分の寿命を縮める行為と知らず、自分が何に手を出してしまったのかさえ分からず。

「哀れ」という言葉は今、この瞬間に限っては、きっと男自身のための言葉なのだろう。

何せ、彼は蟲惑魔という「捕食者」に手を出してしまったのだ。

怒れる捕食者にただのちっぽけな餌がどうして対抗することが出来ようか。

捕食者を怒らせた餌のたどる末路など、一つしかないというのに。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

奈楽は少女を背負う白衣を着た男を見つけた。

白衣なんて動きにくい服装に加えホールティアと呼ばれる少女を背負っているのだ。それに比べて奈楽はジャージのズボンに無地のパーカー、履いている靴は使い古しのスニーカーだ。どちらに城山に来るような服装ではないが、奈楽の服装の方がいくらか動きやすい。

だから、奈楽が追い付くのも当然だと言えた。

 

「…追いついた。その子を、ホールティア元の場所に返してもらおうか。」

「…断る、と言ったら?」

「力尽くで取り返すまでさ。生憎と僕は君みたいに少女を解剖するような趣味はないからね。」

 

二人の目的は同じ少女の身柄だ。だが、二人の考えは大きく乖離している。

男は害するために、奈楽は少女を守るために。

 

「はぁ…。まあ、こんな問答でその子を送り帰すくらいならこんな大逸れた事やっちゃいないよね。」

「そういうことだ。…私はどうしてもあの異常な遷移の謎を解き明かさなくてはならないのでね。この子は貴重なサンプルなんだ。」

 

二人は絶対に相容れる事はない。奈楽はこの問答でその認識を深くした。―――逆に言えばそれしか得るものが無かったという事でもあるのだが。

相容れることが絶対に無いのであれば、もう言葉を交わす必要もない。

 

「―――じゃあ宣言通りに力尽くで取り返すことにするよ。」

「おや、私の見立てでは君はもっと理知的に話し合えると思ってのだが。」

「大切な人の家族に手を出されて…それを指くわえて見ていられるほど僕は穏やかじゃない。」

 

奈楽はそれだけ言うと全力で男の方に駆け寄った。

不意を突かれたのか、男は急に動こうとして足をもつれさせて転倒。すぐに奈楽に追いつかれるという憂き目にあった。おまけに転んだ時の衝撃で背負う少女―――ホールティアが目を覚ましてしまう。

 

「…んぁ?…()…?」

 

寝起きに呟いたであろう「餌」という言葉。

男はその言葉を聞いた瞬間底冷えするような恐怖に襲われる。そう。目の前の少女は間違いなく自分の方を見て「餌」と言ったのだ。

 

「…何かが、不味いッ!」

 

男は転んだのをいいことにホールティアを放り出し、逃げ出そうとする。

―――それが少女の、蟲惑魔の嗜虐心を激しく刺激した。

 

「…ん…?鬼ごっこ…?じゃあ、私が鬼…?」

 

無邪気な声―――その中に明らかな威圧感が混じる。

それに研究者の男の本能がどうしようもなく、「逃げろ」と叫んできた。

無様に何度も転んでそれでも何とか、立ち上がってを何度か繰り返して。そしてとうとうホールティアに追いつかれて男の体は地面に叩き伏せられてしまう。

少女に背中側からマウントポジションを取られて、男の精神はもう限界に近かった。―――ああ、ここで自分は餌にされるのか。何も残せないまま。―――そんな諦観が男の中に生まれる。

そうして顔から生気が抜けていく様を奈楽は何も言わずにただ見つめていた。一つ言えることがるのならば死ぬなら死ぬで勝手にどっかで死んでほしい、という事位だ。男は奈楽にとって霊使や克喜のように仲がいい相手ではないし、颯人のようにその死を嘆くような相手でもないからだ。

だが、流石に不味いのでそろそろ彼女に動いてもらう事にする。

 

「―――ストップ、ですよ。ホールティア」

 

その手が男の首にかかろうか、という所でそんな声がした。

その声に合わせて一切の動きを止めるホールティア。だがその手は未だに男の首に近くにあるままだ。

声の主―――フレシアは一切の感情をこめない、機械的な声で男に聞く。

 

「…このまま死ぬのと、生きたいと足掻くの、どちらがお好みですか?」

「は?」

 

研究者はフレシアが言っている言葉の意味が分からなかったようだ。研究者は理解できないようなものを見るような目でフレシアの事を見る。―――それが今度はフレシア自身の何かに触れた。

 

「選択肢は「はい」か「いいえ」だけですよ?―――生きたい、ですか?」

 

次はない、もう次に聞かれていない言葉を喋ったら殺す―――と殺意を滲ませながらも、先ほどと何も変わらない口調で質問するフレシア。

今のフレシアの姿は今や奈楽の前ではすっかり見せなくなった捕食者としての、「人間より上位者」としての姿だった。あのフレシアを前にしたら奈楽でさえ言葉を失う事だろう。

そんな威圧感を目の前で直に当てられた男がどうなるかなど、もはや言うまでもないだろう。

悲鳴を押し殺し、涙ながらに必死に首を縦に振る研究者。その姿を見て一歩間違えれば「自分がこうなっていたかもしれない」、と考える奈楽。

こうならなかったのはひとえに幼い頃からフレシア達と信頼関係を築いてきた賜物なのだろう。

そのフレシアは男が泣きながら助命を嘆願する姿に何を思ったか知らない。

 

「…生きたいというのなら、一つ、「決闘(デュエル)」をしてもらいましょう。…()を従える彼と。」

 

ただ急に巻き込まれる形で奈楽は男とデュエルする羽目になった。

余りにも急な展開に奈楽は思わず吹き出してしまう。

一方の男はそれに気づかず、ただその言葉にひたすら頷いているだけだったが。

 

(…巻き込んじゃいました。…てへ。)

(てへ、じゃあ無いよッ!巻き込まないでよ!…命は奪わないように言っておいてね?)

(はい、もちろんです。命を奪うよりも苦痛を与えて悲鳴を上げさせた方が楽しいですから。)

(…うーん、上位者!)

 

それに加えてフレシアからの念話で今ここで勝手に奈楽を巻き込むことにした、という事をフレシアから聞いた。

決闘をするからには負けるつもりはないが、せめてそう言うのは事前に一言言っておいてほしかった。

―――あの男がどんな結末を送ろうと奈楽にはたいして関係は無いのだが、巻き込まれた以上は全力で戦う事は確かだ。

 

「…フレシア、力を貸してもらうよ。」

「ええ、貴方様になら喜んで。」

 

奈楽はそんな言葉と共にデッキを取り出す。フレシアがそれを取り上げると、そこに何枚かのカードを突っ込み、そして何枚かのカードを抜いてから、奈楽に返した。

 

「さあ、君の命運を決めるゲームを、始めようか。」

 

そして奈楽は男に笑いかけた。

愉快そうなものを見る顔で、何処までも彼女たちを従える者としての姿を意識した、何とも言えないようなあくどい笑顔で、男に笑いかけた。




登場人物紹介

・奈楽
ラスボス…のように見えてただ巻き込まれただけ。
あと彼の今のスタンスはあくまで「フレシアのマスター」である為、フレシア以外の蟲惑魔がどうしようとも彼は止める気が無い。これについては各蟲惑魔も了承している。
飽くまで蟲惑魔とは友人関係を築けている。

・フレシア
一応上位者。人間は本来餌でしかないし、それこそ恋慕の情を抱くような相手でもない。それだけ奈楽が大切な存在であるともいえる。
ちなみに彼女にとっても奈楽の友人は仲のいい友人位の感覚。
同胞と奈楽とその友人に手を出す=ブチギレる。

・ホールティア
寝ていたが起きた。
起き掛けに目の前にご飯があった。
そしてそのご飯は逃げるではないか。じゃあ鬼ごっこだね!
なお捕まったら。

・研究者の男
名無しのモブ。どうやったって生きて帰れないクッソ哀れな男。
というわけで次回は初登場補正も込めて引きがつよつよな蟲惑魔に餌食になってもらいます。

次回予告
やめて!先攻蟲惑魔でガン伏せ待ちされたらモンスターも何も召喚出来なくなっちゃう!
お願い!死なないで研究員さん!貴方が今ここで倒れちゃったら残っている研究はどうするの!?希望はまだ残ってる。ここで勝てればまだ生きれるかもしれないんだから!
次回、「研究員死す」。デュエルスタンバイ!

水樹君のデッキ強化

  • ネクロス
  • リチュア
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