奈楽は、デュエルに勝てば見逃すという破格の条件を突きつけられた研究員の男が、なんとか生き足掻こうとして自らの懐に入れているであろうデッキケースに手を伸ばしたのを見た。
先のいざこざでどこかにおとしたかと思っていた。が。どうやらそんなことは無いようだ。男の手にはきっちりとカードの束が握られている。それをこの決闘の了承として、奈楽は自身の先攻でこのデュエルを始めた。
「…さ、はじめよう。先攻は僕から。まずは…【プティカの蟲惑魔】を通常召喚。【プティカの蟲惑魔】の召喚時に効果発動。デッキから【
奈楽は新たに加わった蟲惑魔達の力を借りてどんどんデッキを回していく。
だがある程度―――ランカを特殊召喚したあたりで男から待ったがかかった。
「…ちょっと待て!なんで通常召喚を二度している!?」
「【蟲惑の園】の効果さ。このカード通常召喚に加えてもう一度だけ【蟲惑魔】モンスターを召喚できるようにしてくれる優れものでね。」
どうやら相手は【蟲惑の園】の効果に用通常召喚に異議申し立てをしたようだ。
確かに効果説明をしていなかったのは自分であるのでそこに関しては本当に何も言えないのだが。
「疑問は溶けたかい?…僕は【ランカの蟲惑魔】の効果を発動するよ。デッキから【キノの蟲惑魔】を手札に加える。そして【ランカの蟲惑魔】の効果が発動したことで【セラの蟲惑魔】の効果発動。デッキから【ホール】通常罠である【ホールティアの蟲惑魔】を手札に。更に【ランカの蟲惑魔】の効果で手札に加えた【キノの蟲惑魔】は僕のフィールドに【蟲惑魔】モンスターが居れば特殊召喚できる。…【キノの蟲惑魔】を特殊召喚。」
矢継ぎ早にモンスターを展開していく奈楽。開幕の手札が【プティカの蟲惑魔】【ランカの蟲惑魔】【蟲惑の誘い】【狂惑の落とし穴】【落とし穴】の五枚だったからこそできた荒業だ。
「…よし。【キノの蟲惑魔】と【ランカの蟲惑魔】の二体でエクシーズ召喚!おいで、【シトリスの蟲惑魔】!そして【シトリスの蟲惑魔】の
奈楽は今引いたカードを確認する。そのカードはなんと【蟲惑の落とし穴】と【串刺しの落とし穴】。そのあんまりな引きに思わず苦笑してしまう。
これで今の手札は【ティオの蟲惑魔】、【ホールティアの蟲惑魔】、【蟲惑の落とし穴】、【串刺しの落とし穴】、ということになった。
「…カードを三枚伏せてターンエンド。」
奈楽 LP8000 手札一枚 (【ティオの蟲惑魔】)
EXモンスターゾーン(左) セラの蟲惑魔
モンスターゾーン シトリスの蟲惑魔
魔法・罠ゾーン 伏せ×3
フィールド魔法ゾーン 蟲惑の園
今の奈楽の手札には後続確保用の【ティオの蟲惑魔】がいる。そして、蟲惑魔は「妨害」を軸にした今までのデッキとは異なり、「妨害」と「攻撃」を同時にこなすアグレッシブなデッキになったのだ。相手のリソースを食いつぶし、自らの糧とする。蟲惑魔にとって理想的な動きが、出来そうな気がした。
「私のターン。…ドロー。私は魔法カード"増援"を発動!効果で【切り込み隊長】を手札に加えそのまま【切り込み隊長】を召喚!【切り込み隊長】の効果で私は二体目の【切り込み隊長】を召喚!これでバトルフェイズに!」
「ゲェーッ!【切り込みロック】!」
相手が使ってきたのはまさかの【切り込みロック】。これで攻撃がロックされた。何とかして二体のうちの一体でも破壊しなければ攻撃することができなくなる。古のコンボながら、中々に厄介なものだ。
「まあ、そんな易々と勝たせてはくれないよね。―――勝つけど。メインフェイズ終了時に罠発動【ホールティアの蟲惑魔】!このカードは発動後レベル4、攻撃力400、守備力2400の通常モンスターとして特殊召喚できる!そしてこのカードは【ホール】通常罠なため、【セラの蟲惑魔】の蟲惑魔の効果発動!デッキから【カズ―ラの蟲惑魔】を守備表示で特殊召喚!」
「今度こそバトル!一体目の【切り込み隊長】で【セラの蟲惑魔】を攻撃!」
「【蟲惑の園】の効果で【セラの蟲惑魔】は一度だけ戦闘では破壊されない。…けど、戦闘ダメージは受ける。」
奈楽 LP8000→7600
【切り込み隊長】がセラに向かって剣を振るう。
その剣は容赦なくセラの体を切り裂いた。―――が、切り裂かれたはずのセラの体は無事だった。奈楽は彼女が殺しきれなかった
「…二体目の【切り込み隊長】で攻撃。」
「それは特殊召喚した方だよね…。攻撃宣言時罠発動【串刺しの落とし穴】!」
「…そうはいくか!速攻魔法【我が身を盾に】を1500のライフを払い発動!効果で【串刺しの落とし穴】の発動を無効にして破壊!従って攻撃続行!【セラの蟲惑魔】両断!」
研究員男LP8000→6500
これで【セラの蟲惑魔】はこのターン中に二度目の破壊を迎えることになった。
【蠱惑の園】で【蟲惑魔】を守ることができるのは一ターンに一度まで。これであえなくセラは叩き切られてしまったわけだ。絵面は何処からどう見てもアウトなので詳しくは言えないが、それはまあ、凄いことになった。余りの凄惨さに奈楽は思わず精神的ダメージを受ける。
奈楽LP7600→7200
相手はこれでターンエンドを選択。
相手の手札は四枚で、相手のフィールド上には【切り込み隊長】が二体いる。
確かに攻撃のロックはかかったが、逆に言えばそれだけだ。別に古き良き【切り込みロック】を解除する方法などいくらでもある。―――例えば、効果で破壊するとか、効果を無効にするとか、モンスターの素材にするとか。
「僕のターン。ドロー。僕は【ホールティアの蟲惑魔】一体で再び【セラの蟲惑魔】一体をリンク召喚する。更に手札から【ティオの蟲惑魔】を通常召喚。効果で墓地から【プティカの蟲惑魔】を蘇生。【プティカの蟲惑魔】の特殊召喚成功時、相手の特殊召喚されたモンスター一体を対象にして、そのモンスターを除外できる。僕はこれで【切り込み隊長】を除外。」
「…あ!?」
プティカが呼び出した植物にそのまま吸い込まれるようにして落ちていく【切り込み隊長】。
本来なら質量のある立体映像―――ソリッドビジョンであり、特に何か実体でもあるわけでは無いのに。
プティカの生み出したウツボカズラからする水音が何故か二人の背筋に冷や汗を流させた。
とにかく、これで【切り込みロック】は解除されたわけだ。伏せカードもない状態で、蟲惑魔にターンを渡す。それが意味するところは。―――すなわち「死」だ。
それを示さんと言わんばかりに、奈楽は思い切りデッキを回し続ける。
「更に【蟲惑魔】モンスター効果が発動したため【セラの蟲惑魔】の効果を発動。デッキから【絶縁の落とし穴】を回収。そしたら今度は【蟲惑の園】の効果で手札から【アトラの蟲惑魔】を召喚。そして【プティカ】と【アトラ】と【セラ】で【アティプスの蟲惑魔】をリンク召喚。…さらに墓地の【ホールティアの蟲惑魔】の効果発動。【ホールティアの蟲惑魔】を除外して墓地から【セラの蟲惑魔】を蘇生。さらに【ティオの蟲惑魔】と【カズ―ラの蟲惑魔】で【フレシアの蟲惑魔】をエクシーズ召喚。…【アティプスの蟲惑魔】は自分の墓地に通常罠があれば自分フィールド上の蟲惑魔全ての攻撃力を1000上げる。…最後。再び【シトリスの蟲惑魔】の効果発動。エクシーズ素材を一つ使って【キノの蟲惑魔】をデッキから手札に加える。―――【キノの蟲惑魔】の効果は覚えているよね?【キノの蟲惑魔】を特殊召喚!」
出し切り。全力全開。
奈楽はこの盤面に文字通りのありったけを詰め込んだ。
そのおかげで、今の奈楽の場にはキノ、フレシア、アティプス、シトリス、セラの五体のモンスターが居る。更に【蟲惑魔】たちはアティプスの効果で攻撃力が1000上昇している。
奈楽は今、新生した蟲惑魔達の力を実感していた。
相手のターンで、相手のリソースを食い荒らす。そして、自分のターンでも罠一枚からとんでもない展開速度で盤面を展開する。
これがある意味では【蟲惑魔】として、一つの到達点とでも言えるのではないのだろうか。
「―――さて、バトルだ。君の場には【切り込み隊長】が一人しかいないから。まずはそれから破壊しようか。…【セラの蟲惑魔】で【切り込み隊長】を攻撃。」
「――――あ。」
一方の研究員の男から見れば次々と蟲惑魔が現れるさまは悪夢そのものだっただろう。
ただでさえ自らの命がかかっているというのに、無尽蔵に蟲惑魔達は湧いて出たのだから。
奈楽が気に入らない事と言えば、研究者の男の蟲惑魔達を見る目が化物そのものを見る目であることくらいか。
研究員 LP6500→5900
「…続いて【アティプス】と【キノ】でダイレクトアタック。」
「―――ッ!」
研究員 LP5900→3100→800
既に相手のライフは風前の灯火。
―――後一撃で決着がつく。
「さ、―――君は君のエゴのために僕の大切な人の同胞を傷つけた。―――懺悔の用意は出来ているかい?【フレシアの蟲惑魔】でプレイヤーにダイレクトアタック。」
奈楽の攻撃宣言と共にゆっくりとフレシアが男へと歩み寄る。
その顔には冷たい笑みが張り付けられていて、どうしようもなく自分が「終わった」ことを男に突き付けた。
「残念。ゲームオーバー、です。」
「やっ…死にたくな―――。」
死への恐怖と、これから起こる事への恐怖。
この二つがない交ぜになって、男は白目を剥いてゆっくりと後ろに倒れた。
そんな男を見て、フレシアはため息を一つ。
「殺しはしませんよ。―――少なくとも、奈楽の前では。」
その声は男に届いていたのかいなかったのか。―――巨大な昆虫や植物が男の周りに生えてきた。
どうやら彼女たちは彼を生かす気はなさそうだ。
「…殺さない程度にしてね。」
「分かってますよ。流石に奈楽を殺人犯にしたくはないですし…。」
ある意味で彼は意識を失っていて良かったのかもしれない。
そうすれば、彼女達も興味を失うのは早いだろうから。
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『任務に失敗。蟲惑魔の精霊は確保できず…か。前と同じ少年が?』
『はい。』
『―――ふむ。良いよ、仕方が無い。―――彼女達には相当な縁があるようだからね。』
『…それでは貴方様の計画が遅れてしまうのでは?』
『いいんだよ。別に。彼女たちはあくまで保険だ。本命はまた別にあるからね。』
『そうですか。…ならいいのですが。』
『さ、さっさと日本から逃げたまえよ。君たちが捕まると優秀な部下を失う羽目になるからね。』
『…分かりました、ティエラさん。これから帰投します。』
『うん、気を付けてね。』
そう言ってから男は通信を切る。
通信モニターから顔を上げる。髪は白く、短く切りそろえられていて、目にしたのは大きな隈が目立つ。目、鼻、口といった顔立ちは日本人そのもので、それでありながら何か張り付けた顔という印象を与えた。男名前はティエラという。今回の一連の騒動の黒幕だ。
ティエラは派遣した部隊の報告を聞いても特に何も思わなかった。別にあの部隊には得に期待してはいない。前も空振りだったわけであるので、今回も大した成果があげられるわけがないと思っていたのだ。
案の定そうなった訳なので男の考えは当たっていたといえるだろう。
だからこそ、ティエラは「本命」を作っていた。
「さて、頼むよ、本命君?」
男は、ゆっくりと自分の「本命」を見る。
そこには、液体の入ったタンクに入れられている颯人と、関節が人形のようになり果て、人としての形を失ったウィンダの姿があった。
―――それは、二人への挑戦か、それとも―――。
いま、霊使とウィンを取り巻く因縁は大きく動こうとしていた。
「『片割れ』がどんな反応を示すか」
登場人物紹介
・奈楽
またろくでもないフラグを踏んだ人。
・フレシア
奈楽の前では誓って殺しはやってません。なお出会う前
・研究者の男
死んでないないけど死んだ。
・ティエラ
今回の襲撃を企てた人。…人?
少なくとも人体を改造する技術を持っている。
というわけで2部への露骨な伏線回でした。
物騒なフラグは奈楽君に踏ませるに限る!というわけで次回からは1.5部の終章のエルドリッチ使いの話になります。
絶対に叶わない初恋を見届ける準備は良いか!?
次回もお楽しみに。
水樹君のデッキ強化
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