「相棒」   作:ダンちゃん1号

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1.5部3章:ウィン、やらかす
一目惚れでした!


 

熱い。熱い。

なんでだ。何も悪いことしていないのに、どうしてこんな目に合わなければならない。

確かにお小遣いは多く貰っていたし、欲しいものは大体買ってもらえた。

でも、そこには自分の努力があった。

勉強だって頑張った。慣れないスポーツだって頑張った。

そうだどんなことでも頑張ったのだ。だから今の自分がある。

それを、こんな形で簡単に奪われるだなんて、思いたくもなかった。

 

「……大丈夫…?」

 

全身が熱い。まるで燃えているように熱い。

いや、実際に燃えているのだろう。だからこんなにも苦しい。

ああ、早いところこの苦しみから解放してほしい―――。そう思ってゆっくりと手を動かした。

それに気づいたのだろうか。少女のものらしい声が自分の頭に響いてくる。

 

「…エリアちゃん!水!水だして!早く!この子生きてる!でも服に火が!」

「ん!それ―ッ!」

 

そんな声と共に、手が、足が、全身が心地よい冷たさに包まれた。

どうやらまだ火は全身に回っておらず、服だけを燃やしたようだ。都合の良い事に局部の布は残っていたので恥ずかしい思いをさせずに済んだ。

 

「…大丈夫?立てる?喋れる?」

「…い、一応…。」

 

苦しさから固く瞑っていた瞼を恐る恐る開ける。

―――なんて綺麗な人なんだろう。

視界に飛び込んできたのはまだ少しあどけなさを残した、それでも強い何かを感じさせる顔。伸びた緑色の髪は後ろでまとめられていて、それが彼女が持つかわいらしさをより引き出していた。

 

(―――あ、好き。)

 

たった一目。本当に一目見ただけだった。妖精かと見紛う程の彼女は、確かにそこに居た。

何とも綺麗で、可愛い。そんな彼女の事を思うと胸のあたりが苦しくなる。

ああ、これが恋心なのか、これが一目惚れなのか、と少年は初めて自分の感情を自覚した。

少年は一瞬で名も知らぬ少女に、恋をしたのだ。

―――絶対に叶うことの無い、初恋を。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

『次のニュースです。公道に全裸で倒れていた研究者を名乗る男が公然わいせつ罪で逮捕されました。逮捕されたのは――――』

「―――この者は相当な阿呆だな。まだ今の世を知らない(わたし)にも良く分かる。」

「残念なことにこれが現実なんだよな。…クルヌギアスもしちゃだめだからな?」

「誰がするか!このバカマスター!」

 

朝のニュースを眺めながら朝食をほおばる霊使達。

今日の朝食のメニューはホットケーキだ。何でもこれはウィンがいつものお礼という事で焼いてくれた、特別なメニューだ。

そんなメニューの時に限って朝のニュースでとんでもない内容のニュースが流れて来た。霊使は「朝ご飯がまずくなる」とテレビの電源を切る。そしてそのまま黙々とホットケーキを食べ進めていた。

 

「…おいしい?」

 

そんな事を言いながら、ウィンはパンケーキをほおばる霊使の膝にちょこんと座る。

そしてどこからともなく取り出したナイフとフォークで霊使の食べかけのホットケーキを切ると、フォークに刺してそのまま霊使の口へと運んだ。

 

「…どう?」

「おいしい…。」

「…それは良かった。」

 

どうやらウィンは霊使の口から「おいしい」という言葉を聞きたがっていたようだ。

そんなやり取りを目の前で見せられたクルヌギアスはブラックコーヒーを一息に呷る。

もちろん、砂糖やガムシロップなんて入っていない正真正銘のブラックコーヒーだ。

 

(…間違って砂糖を入れてしまったか…?)

 

それなのに、間違えて砂糖を入れてしまったかと間違えるほどにそのコーヒーは甘かった。

―――原因は分かっている。それは朝っぱらから胸焼けするほどにいちゃついている目の前の二人だ。

騒乱の種が断たれた今、思いっきり平和を享受したいのは分かる。

だからといって、朝食からつかず離れずな状態がもう数日続いているのだ。

確かに、今までこういうふうにいちゃつく暇が無かったのは事実だろう。これまでずっと戦い通しだったのは他でもないクルヌギアスがその目で見てきているから。

 

「―――よくもまあ、毎日べったりと…。」

「ま、ボク達はあの二人がどれほどいちゃつこうと余り悪い気はしないけどね。」

「今くらいはいちゃついてもいいでしょう。私があの立場でもそーしますし…。」

「…でもライナ、ちょっと胸焼けするなー…。」

「まあそうなんだが…俺達のマスターなんだから大目に見てあげなさい。」

「でも毎度毎度あれはキッツいって…。」

 

だがそれはそれとしていい加減に二人は少し適切な距離というものを知るべきだと思う。

いい加減、ブラックコーヒーの飲み過ぎからぜひとも解放してもらいたいものである。

それから朝食を終え、霊使はオンライン授業への準備に取り掛かる。

 

「…あ、そうだ。今日ちょっと一人で出かけて来るね。」

「ん。じゃ、気を付けて。…ってええ!?霊使はいかないの!?」

 

ウィンの「一人で」の発言に思わず素っ頓狂な声を上げるエリア。

霊使はそれを聞いて人を何だと思ってるんだ、と思わず突っ込みそうになった。

が、よくよく考えてみれば外に出る時も二人一緒だったので、今回の行為はみんなにとっても相当な驚きだったのだろう。

 

「気をつけてなー。」

 

タブレットとインカムを用意しながら霊使はそれだけをウィンに伝えた。

今の霊使にとっては、それだけでよかった。もし何か起きたのならウィンを迎えに行けばいいだけの話だし、腕っぷしでウィンに、いな、精霊に勝てる人間はそうそうそういないだろう。

 

「じゃ、行ってきまーす。」

 

そうしてウィンはドアの外へと踏み出す。

霊使にとって非常に珍しい、ウィンが隣に居ない1日が始まった。

それが、あんなことになるだなんて思いもせずに。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「~♪」

 

ウィンは鼻歌交じりに散策していた。

特に目的があるわけでは無い。ただただ霊使の邪魔にならない様に外に出ようと思っただけだ。

 

「…それにしても、大分復興も進んだね…。」

 

だがこうしてみるとこの町も大分復興が進んだように思える。

一つの未曾有のテロ事件でこの町は多くの人を失った。その中にはウィンと個人的な親交があった人も少なくなく、テロというものの無常さを知った。

町の被害も大きかった。建物は倒壊し、そこに住んでいた人はこの町を捨ててどこか遠くの町に行ったという。

残念ながら、彼らはきっともうここに戻ってくることは無いのだろう。あれだけの恐怖体験をしたのだからある意味では当然の考えともいえるが。

それでも、この町を心から愛する、この町が好きな人たちによって急ピッチで復興された。

本当に人の心の強さというものを侮っていたなぁ、と反省するウィン。

 

「…すみません。少しだけいいですか?」

「…君は。」

 

そんな中、ウィンはある一人の少年と出会った。

テロ事件の時に、炎に包まれていたのを発見して、無事に救出できた。

確か、名前は金我大智(かなわれだいち)であったか。彼もまた先のテロ事件で家族を失っている。

 

「無事に社会復帰できたので、ご報告に、伺いたかったのですが…。」

「ばったり会っちゃったってわけ?」

「…はい。」

 

ウィンの言葉に頷くことで肯定する大智。

―――あれからもう5ヶ月が経ち、少年の火傷もすっかりとは言えないがほぼ治っていた。

火が回ってしまった所には大きな火傷の跡があって、少し痛ましかったが。それでも彼もまた必死にこの在地で生きようとしている人間だった。

 

「…少し二人で話しませんか?」

「いいよ。」

 

そうしてウィンは、大智と少しばかり一緒に街を散策することにした。

二人は普通に横に並んで歩く。別にただ、本当に彼のこれまでの話を聞きたかったから、一緒に歩こうと提案したのだ。

ウィンは大智から本当に色々とあった事を聞いた。

 

「…俺、実はこの町を離れることになったんですよ。火傷の痕を消す技術が見つかったって医者さんに言われて…。」

「そう、なんだ。ごめんね、そこ、まだ少し痛むでしょ?」

「…痛むっちゃあ痛みますけど…。こうして生きてられるだけ儲けものですよ。…父さんも、母さんも二度とどんなことを思う事さえできないですから…。」

 

ウィンはそれからも大智の話を聞き続けた。彼を助けてから本当に色々な事が彼の身に巻き起こったのだろう。

その出来事を一つずつ聞いて、課題やらなんやらを話して、あっという間に時間は過ぎていった。

そんな風に過ごしている物だから、恐らく何か「行ける」と思ったのだろうか。

暫く一緒に散策して、そろそろ解散しようかという所で、大智から告白された。

 

「…ずっと一目惚れでした!俺と付き合ってください!」

「気持ちはありがたいけど…無理かな。付き合っている人いるし…。」

 

だがウィンからしてみれば霊使という最愛の人がいるわけで。

自分の事を好いてくれたのは嬉しいけれど、付き合うかどうかは話が別だ。

それを馬鹿正直に伝えたところ、大智はがっくりと首を落とした。どうやら相当ショックだったらしい。

 

「…終わった…。俺の初恋…。」

「あー…えっと…ごめん?」

「…いや、いいですよ…。まじかー…。」

 

しょんぼりとしながらも前を向く大智。

―――きっと、それでいい。

 

「…騙されてるとかは…。」

「ないない。あったら今頃私はここには居ないって。」

「ですよねー…。」

 

振った側と降られた側であるはずの二人の間に流れる時間は。

穏やかに、悠然と流れていった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

それから数日後。

霊使はちょっとした大会に呼ばれることになった。「英雄」としての実力をいかんなく発揮してほしいと、そう言うお願いをされたからだ。

 

「…英雄じゃないって、俺は…。」

「でも来ちゃうあたりが霊使らしいというか…。」

「―――バイト先がだいたい倒壊したからなぁ。ちょっとでも稼がなきゃおまんまの食い上げだぜ?ご飯食べれなくなるけどいいのか、エリア?」

「あー…。それは困るわー…。うん。」

 

ちなみにバイト代とまではいかないが勝ったら商品はそのまま持ち帰ってもいいのだそうだ。

おまけに交通代も向こうが支給してくれるという。

なら行くしかないだろう。

 

「…というわけで。エントリーしたいんだけど…。」

(あー…エリアちゃん達のこと言うの忘れてたぁ…。どうしよ…、これ明らかに印象悪くなってるよぉ…。)

 

そんなわけでやってきたのが―――。

なんかエントリーするところに凄い形相で睨んでいる少年がいるではないか。

幸か不幸かウィンの「やっちまった」という顔を霊使がみることは無かったのだが。

それが余計に事をこじらせる結果になった。だって霊使からしてみれば全く持って見知らぬ少年に睨まれてるわけで。

 

「―――お前を、斃す。」

 

しかもおまけにすれ違いざまにこんな事を言われる始末。

「まるで意味が分からんぞ!」と言わんばかりに霊使は頭を抱えるしかない。

霊使の久々の大会は見知らぬ少年に因縁を付けられるという妙な始まり方をしたのだった。




登場人物紹介

・金我大智
ウィンが騙されてるんじゃないか、だとかウィンの優しさに付け込んでるんじゃないか。だとか。偶然ウィンと一緒に居る男を見てそう思ってしまった。
確かにほぼほぼ美少女ではあるが、不可抗力に等しいのである。
初恋は見事に散った。

・ウィン
今章の大戦犯。
うっかり大智にエリア達の事を伝え忘れるという大ポカを犯した。

・四遊霊使
被害者。
すれ違いざまに「お前を…殺す」された上にそれをされる原因が全く分からないというちょっと可哀そうな目に合っている。

えー、安心してください。
シリアスのように見えますけどギャグです。
勘違い物ってこういう感じでいいのかな?

次回もお楽しみに。

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