結との激闘からおよそ一日。
あの勝利から調子が上がって何とか敵をなぎ倒す事が出来た。
この大会、どうやら準決勝と決勝のみ別日に行うらしく、四強となった霊使は未だにこの場に居る、というわけだ。
『この大会も残り四人―――!さあ、日本大会へのチケットを入手するのは一体誰か!それでは準決勝第一試合!選手入場です!』
そんなノリノリなアナウンスをされても困るんだけどな―――なんて思いつつ、四遊霊使は真っ先に会場に足を踏み入れた。
その瞬間圧倒されそうなほどの声量が霊使に叩きつけられる。
『一回戦では死闘を演じ!それ以降は圧倒的強さで敵をなぎ倒してきた!頼れる女神と精霊使いとともに頂点まで駆け上がれるか!?四遊霊使がァ!姿を現した―ッ!』
おまけにアナウンサーがそんな事をいうものだから、霊使への声量はまた一段と増す。どうやら『英雄』という二つ名に恥じない戦いぶりであったらしく、多くの観客は霊使の優勝を予測しているようだった。
『この大会四遊選手はほぼ全てのデュエルで切り札である【閉ザサレシ世界ノ冥神】を召喚。その圧倒的な制圧力でライフポイントに多めの余裕を残している!その事からも彼は非常に強いといえるでしょう!当然優勝候補の一人だ!』
(…え!?そうなの!?)
霊使は唐突に優勝候補であることを知らされた形になった。当然そんなものになっているとは思いもしていなかったので霊使は思い切り困惑している。
だが傍から見てみればそうなるのも当然だろう。
一回戦で対戦した結は【イビルツイン】という高展開力を持つデッキ。当然並みのデッキでは歯が立たない事だろう。良くて【キスキル・リィラ】による鏖殺、悪ければ【トラブル・サニー】さえ抜けずにそのまま押し切られるなんてこともあり得るだろう。当然霊使のデッキはそこまで展開力があるわけでは無い。
正確に言うと展開はほとんど【
それを力で押して何とかしてしまったのだ。期待がかかるのも当然と言えた。
(…あれだけ大暴れしておいて優勝候補じゃないは…ないでしょ。)
(ウィンの正論が痛い。そしてこの歓声が俺の胃を苛む…!)
ウィンにも当然と断じられてしまえば霊使にとってそれは受け入れないといけない。
いつもは霊使の意見に賛成を示すことの多いウィンでさえ「そう」感じているのだから、他の全員も「そう」思っているのは当然であると言えた。
「…さて、と。軽いファンサービスでもしますか。」
自分はただただ金のためにこの大会に来たのだが―――ここまで期待されてはそれを棒に振るのもいかがなものか、と思ってしまう。
ならば、その期待に応えよう。
霊使は右腕を天に掲げて入場。未だ相手のいないデュエルフィールドの前に立つ。
『対するはァーっ!無限に増殖するかよ見紛うような圧倒的な展開力!昆虫―――いやもはやGデッキと言っても過言ではないデッキを使いこなし、相手に悪夢を見せて来た!
霊使と向き合うような形で入場してきたのは、少しばかり目に隈を作っている男。その白い髪は無造作に伸びていて、彼が着ているくたびれたジャケットコートに何故かよく似合っていた。
『彼の持ち味は【G・ボールパーク】によるバトルフェイズ中での追撃!フィールドはG軍団に埋め尽くされる!切り札は【G・ボールパーク】と、【G戦隊 シャインブラック】!速攻のG軍団は英雄の喉元を食い破るかァッ!?』
諷利はゆっくりとデュエルフィールドの前に立つ。
健康状態が少し気になるやせこけた頬とは裏腹に、その目は確かにデュエリストの目だった。
霊使の胸元にある勝利をつかみ取ろうとする視線は否応なく、霊使の本能を刺激する。
口の端がめくれ上がっていくのが分かる。きっと今、自分はとんでもない顔をしているんだろう。
「多くを語る必要はなさそうだね。…じゃ、始めようか。」
「…はい。」
諷利は今の自分の顔を見て一体何を思っているのだろうか。
―――そんな事はどうだっていいのだ。霊使はもうデュエルの事しか考えていない。
だってそうだろう。こんなに強い相手と純粋なデュエルができるのだから。
「…先攻は僕だ。」
(手札は―――【憑依覚醒】、【憑依連携】、【天底の使徒】、【大霊術-「一輪」】、【精霊術の使い手】…。大事故だこれぇ!?)
(これが俗にいう「一面のクソ緑」ってやつか?)
(ダルク!?頭身は縮んでないよな!?)
『さあ互いに準備が整ったァ!先攻は諷利選手から!それでは
手札が一面の
だが、デュエルというものはいつだって無常だ。霊使の大事故な手札を余所に簡単に始まってしまうのだから。
こうして霊使にとっての地獄の一ターン目が幕を開けた。
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諷利は正直に言って困っていた。
確かにデュエルモンスターズは先行が有利とされている。何故なら後攻ならば相手に妨害を大量に押し付けることができるからだ。
だが、諷利のデッキは主にメインフェイズ2に動くデッキ。当然メインフェイズ1では動くことさえままならない。だが先攻一ターン目では動くことさえままならない。
(…とはいったものの。どうするか…。)
相手の少年―――四遊霊使の顔色を見るにどうやら余り良い手札ではなかったようだ。
僅かにではあるが、顔色が蒼くなった。
どうやら見たところ相当に手札が事故を起こしているらしい。今までの決闘でも彼の初動は魔法カードばかりだった。その事から察するにどうやら初動札を引き込むことが出来なかったようだ、と諷利は結論付けた。
(こっちも似たようなものなんだけどね…。)
ちなみにそれは諷利自身も似たようなものである。少なくとも手札にモンスターがあるだけましだが。
それでも正直に言うとそこまで良い手札ではないのは事実だ。
「私は手札から【
―――本来ならばここで【共振虫】を手札から直接除外するのは大きな手札の損失になる。除外して効果を発動できるという利点は手札では同時に手札を一枚減らすという行為になるのだ。
それは一枚でも多くの手札を確保したい諷利にとっては大きな損失だった。特に霊使のようなデッキが相手では特に。
それに加えてもしかしたら今、彼は手札に【
(でも、そうするとドラグマが…。そう躊躇わせるのも戦術の一つに組み込んでいるのかな?…そうだとしたら…君は、大した奴だよ。人の思考まで戦術に組み込むなんて。)
これは当然、諷利の深読みのし過ぎである。
だがどのみち動かなければ足掻くことさえ許されないのだ。ならば動いて後悔をした方がいい―――という所で気が付いた。
そう言えばドラグマモンスターの召喚条件は「EXデッキから特殊召喚されたモンスターがフィールドに存在する」ことだ。ならば彼が使う【I:Pマスカレーナ】も召喚条件を達成できるわけだ。
(うーわ。ここまでの思考全部無駄になったよ。―――深読みしすぎたな、これ。)
諷利はそう考えながら―――自分が相当長考していたらしいことに気付く。
慌てて自分のフィールドにあるモンスターと、墓地にあるモンスターの状態を確認した。どうやら今は【ゴキポール】の効果を待機している状態だったようだ。
「よし、私は墓地に送られた【ゴキポール】の効果発動!デッキからレベル4の昆虫族モンスター―――【ゴキボール】を手札に加えるよ。更にこの効果で手札に加えたモンスターが通常モンスターならそのカードを特殊召喚してそのカード以上の攻撃力を持つモンスター一体を破壊できる。…今回は【ゴキボール】を守備表示で特殊召喚するよ。で、モンスター破壊効果の方は使わないよ。」
諷利は次のターンに備えて守備を整えることにした。守備表示なら破壊されてもダメージは受けない。
それに攻撃手段なら一つぐらいはある。
「そして私はレベル4の【カマキラー】にレベル8の【竜咬蟲】をチューニング!シンクロ召喚!レベル12【B・F-決戦のビッグ・バリスタ】!」
そう、これが諷利を支えてくれる高攻撃力カード。その名も【B・F-決戦のビッグ・バリスタ】。先攻一ターン目には弱体化効果は何一つ使えないが、それでも攻撃力3000は非常に高く頼りになる。
しかもこのモンスターはシンクロ素材の縛りがゆるゆるである為序盤から終盤にかけて腐ることの無いカードでもある。
「私はカードを一枚せてターンエンド。」
諷利 LP8000 手札1枚
モンスターゾーン B・F 決戦のビッグ・バリスタ
ゴキボール(守備表示)
魔法・罠ゾーン 伏せ×1
(…これで様子見、かな?)
攻撃力3000のモンスターに加えて伏せカード一枚。鉄壁というには程遠いが、それでも多少は攻撃を遅らせるだけの布陣ではある。―――諷利は霊使が予想以上の予想通りを見せてくれることをまだ知らない。
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(むしぃぃぃぃぃ!)
(エリア、ステイ。)
(無理ィィィ!)
霊使の頭の中ではギャン泣きするエリアの声が響いていた。確かに彼女は虫―――特にゴキブリが大の苦手で、以前ゴキブリがエリアに向かって飛翔しただけで気絶したくらいだ。当然【ゴキボール】がエリアにとって最も苦手なモンスターであった。
それなのにである。
「俺のターン。…ドロー。」
(…あ。)
(…あ。)
彼女は後攻一回目のドローで手札に来てしまった。しかも手札は軒並み魔法なため、当然、エリアは真っ先にフィールドに出て貰う事になる。
(…出したら呪い殺すよ?)
余りの恐怖から若干他人の空似な
更に、伏せカードによってはだが、相手がこれ以上の展開をしてくることも考えられる。
「…フィールド魔法【大霊術-「一輪」】発動。更に手札から【憑依覚醒】発動。」
つまりは、だ。
今どうしてもエリアを出さなければここでこのデュエルは終了してしまう、という事だ。
だから、霊使は心を鬼にすることを決めた。
(本当にやめてください。お願いします。)
(うん――――)
「俺は手札から【憑依装着-エリア】を召喚!」
(無理!)
「うわぁあぁぁぁぁああん!」
絶叫を上げながらフィールドに出ざるを得ないエリア。
申し訳なさそうに手を合わせる霊使と思った以上にビビっていることに少し気分を悪くしてしまう諷利。
今、両者の間に流れる時間は完全に停止した。
絶叫を上げたエリアは思わず顔を真っ赤にして多い、霊使はデュエル途中であるのにもかかわらず土下座をかます。
「ほんっとうにごめん。」
「…あ、あははは…。」
未だに諷利と霊使の間に流れる時間は停止したままだ。
デュエルに勝つためには時に非情にならなければならない。自分が最も信ずるモンスターを破壊したり、手札コストにしたり、それこそ、自身の手で除外したり。
今がその時だっただけの事。
ただ霊使の心は思ったよりも十数倍大きなダメージを追う事になったのは別の話だ。
「…【憑依覚醒】の効果発動。デッキから一枚ドローさせてもらう。」
「その効果に対して【灰流うらら】の効果を発動するよ。」
互いに今の間に起こったことは無かったことにしてデュエルを進めることにした。奇妙な偶然が重なってああなったのだから、「間が悪すぎた」と考えることにしたのだ。
「うららの効果は【大霊術-「一輪」】の効果で無効になる。当然一枚ドローだ。…速攻魔法【精霊術の使い手】発動。今引いた【憑依装着-ダルク】をコストにデッキから【憑依覚醒】をフィールドに伏せて【憑依装着-アウス】を手札に。更に【大霊術-「一輪」】の効果発動。【憑依装着-アウス】をデッキに戻して【デーモン・イーター】をデッキから手札に。そしてセットカードの【憑依覚醒】を発動。」
霊使は【憑依覚醒】によるワンドローから流れを掴まんと一気に動き出す。
【憑依覚醒】で引いたカードがモンスターだからこそこんな大胆に動けるのだ。だからこのターンで吐き切るつもりで霊使はプレイを進めていく。
「そして手札の【デーモン・イーター】は魔法使い族モンスターが居る場合手札から特殊召喚ができる。更にフィールド上の魔法使い族とレベル4以下の地属性モンスター^―――【憑依装着-エリア】と【デーモン・イーター】をリリースしてデッキから【憑依覚醒-デーモン・リーパー】を特殊召喚。【憑依覚醒-デーモン・リーパー】の効果で墓地より【憑依装着-ダルク】を召喚。」
丁度墓地に別属性の【憑依装着-ダルク】が存在したため【デーモン・リーパー】の効果でダルクを蘇生する事にした。こうした方がエリアの精神的ダメージははるかに低く済むからだ。
「バトル!【憑依装着-ダルク】で【ゴキボール】を攻撃!」
「破壊される。」
「【憑依覚醒-デーモン・リーパー】で【B・F‐ 決戦のビッグ・バリスタ】を破壊!」
「それももらおう。だが【ビッグ・バリスタ】が相手によって破壊されたため除外されていた【共振虫】を守備表示で特殊召喚するよ。」
諷利 LP8000→7800
僅か200とは言え、ライフアドバンテージを奪う事が出来た。
その後霊使はいつも通りに【憑依装着‐ダルク】と【憑依覚醒-デーモン・リーパー】で【I:Pマスカレーナ】をリンク召喚。【憑依解放】を手札に加えつつ【天底の使徒】で【灰燼竜バスタード】を墓地に送り【教導の聖女エクレシア】をサーチ。そのまま【エクレシア】自身の効果で【エクレシア】を特殊召喚し、さらに効果で【ドラグマ・パニッシュメント】をサーチ。最後にカードを三枚伏せてターンエンドを宣言。エンドフェイズ時に【灰燼竜バスタード】の効果で【教導の騎士フルルドリス】をサーチしてターンエンドを宣言した。
霊使 LP8000 手札1枚
EXモンスターゾーン(右) I:Pマスカレーナ
モンスターゾーン 教導の聖女エクレシア
魔法・罠ゾーン 憑依覚醒×2
伏せ×3(憑依連携、憑依解放、ドラグマ・パニッシュメント)
霊使はこの展開にいままの中で一番の手ごたえを感じていた。だが、霊使はまだ知らない。
昆虫軍団はこれから動き出すという事を、まだ知らない。
登場人物紹介
・霊使
出したら回るけど出さなかったら負け確定。
だからエリアを出さざるを得なかった。エリアの蟲の苦手っぷりは知っているので悪い事したなと思っている。
・エリア
内心びくびく。
霊使にそのうち絶対に意識させてやると思った。
・諷利
ええ…?そんなに引く?
元気な子が怖いものの目の前に出されて涙ぐみながら立ち向かうのいいよね…
次回もお楽しみに
水樹君のデッキ強化
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