「相棒」   作:ダンちゃん1号

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インタールード:決勝前控室

 

霊使は考えていた。

別にウィンとのやり取りはおろそかにしていた気は無いし、ウィン以外にはしっかりと断りを入れてある。

それをどうして一目見ただけで「とっかえひっかえ」と決めつけるのだろう。

霊使にはどうにもその思考が理解できなかった。

 

「そもそもとっかえひっかえしてるんなら今頃こんなに好かれてないっちゅーに。」

「うん。それはそう。」

 

扱いが酷ければ当然ウィン達との距離はここまで縮まるものではない。

だからというか、霊使は対外的に自分達がどう見えているのかなんてことを考えることもしなかった。

その結果ものの見事に誤解されたわけだ。

ならばどうすればいいのか。これがさっぱりわからない。

別に距離感だとかそう言ったものを取り違えているわけでは無いのだ。

 

「…うーん…。関係、関係性…か…。」

「悩むだけ無駄…というわけじゃないもんね。これからずっと霊使が最低の男って勘違いされるのは私も嫌だし。」

「嬉しいこと言ってくれるじゃないか。…でもどうしようもないっていうのがなぁ…。」

「どうしようもない…か。だって霊使はエリアちゃん達と縁を切りたいわけじゃないんでしょ?」

「まぁな。それに付き合いも長いしな。なんやかんやで今更元の生活に戻れる気はしない。」

 

それに、霊使はすっかり今の生活に慣れてしまっていた。

孤独な時に彼女たちに出会ったというの大きいのだろう。あの頃の自分はきっとどこか「家族」を求めていて、彼女たちが来たことでそれは叶った。

人の温かさを、誰かが傍にいるという当たり前の温もりを、それを彼女たちは教えてくれた。

あの時と比べるとすっかり大所帯になったなと思う。

それでも、やはり霊使は今ここにいる全員と散り散りになるだなんてことは考えられなかった。

 

「…で、どうする霊使(マスター)?このままでは誤解は解けぬままだぞ?」

「そう、そこなんだよ!」

 

散り散りになりたくないと決めたはいいものの、結局このままでは誤解は解けない。

そんな時にふと、妙案を思いついたのだ。

ただこれをするには物凄く恥をかく必要があるが。

 

「…つまり、俺とみんなの関係が分かればいいんだろう?」

「何考えてるのー?…ま、碌な事じゃなさそうだけど…。」

「碌な事じゃないとはなんだマスカレーナ?お前の前職と比べたら相当マシだが?」

「そう言う事じゃなくて?大丈夫?ちゃんと効果ある?」

「…微妙、と言わざるを得ないな。もしかしたら誤解はさらに加速するかも。」

「じゃあダメじゃん。」

 

ぺしんと頭を叩かれてマスカレーナに案を却下される。

流石公衆の面前で結婚宣言という案は受け入れられなかったようだ。というか考え直してみると「結婚宣言したのにまだ女侍らせてやがる」と思われかねない。

彼女たちは当然誰に脅されるでもなく、自分の意志でそこに立っている。

彼女たちの意志を表明できればあるいはという所だろう。

 

(それは本当に彼女の意志なのか…って疑われたら当然終わりだけど…。)

 

結局の所度の案も現状を打破するには至っていない。

更に穿った見方をするならば霊使が扱うデッキそのものにまで批判が飛んできそうな気がするのだ。

ウィンをはじめとした霊使い達はデッキのエースかと言われれば微妙だし、打点はその他のカードで補う事の方が多い。霊使いもどちらかと言えばデッキの基本的な動きを行うためのエンジンというべきだろうか。

墓地から何度も蘇生してはリンク素材にし、相手の攻撃を受けさせたりしてしまう事もある。

もし「デッキのコンセプト」を突かれたら霊使はもう何も言うことができない。

 

「…だってぇ…デッキコンセプトが「妨害しつつ攻撃力を上げて物理で殴る」だからなぁ…。」

「おかげでボク達はすっかり脳筋テーマ扱いされてるけど。」

「文句は魔法に言うんだ。俺に言うんじゃない。」

「でも使ってるのは霊使だしー?」

「…何も言えない。」

 

そんな事を言いながらヒータは霊使に寄りかかる。

それを見たウィンが霊使の膝を占拠。乗り遅れたこと察したアウスとエリアは迷うことなく霊使の両脇を固めた。ぱっと見見事なまでのハーレムの完成である。

 

(…めちゃくちゃいい匂いするんだけど!?)

 

―――これはより誤解を深くしそうな状態になった。

よくよく考えれば、世間体とか気にし過ぎなのかもしれない。

彼女達と一緒に居るのが苦痛であるならば多分霊使はとっくのとうに彼女達を拒絶している。

ここまで使い込むこともなく何処かであっさり「バイバイ」だっただろう。

 

(―――考えれば考えるほどウィン達を手放すなんてできるはずがない。)

 

だがそうしないという事はつまり、霊使はウィン達に惚れこんでいるという事だ。

彼女達と共に駆け抜けたい戦いがたくさんあるという事だ。

じゃあどうするべきか、何をすべきかはもう決まっている。

 

「―――勝つぞ、皆。」

「勿論!」

 

そうだ、何もごちゃごちゃ考える必要はなかったのだ。解決策だの、世間体だの、そんな事はどうだっていい。

ただ、彼女達と共に戦い、彼女たちとともに勝ち、かけがえのない「相棒」同士であることを示してやればいい。

うじうじうだうだ悩むのはもうやめだ。

 

「示しに行くか、俺達の在り方を!」

 

霊使は拳を掌に打ち、景気良い音を立てた。

霊使にとってこれから赴く戦いはある意味ではとても重要なものになる。

勝って、優勝して皆との在り方を示して。

そしてその先はまあ、世間に委ねることにしようか。

そして霊使は闘争心に満ちた笑みを浮かべ、少女たちはそのそばに寄り添うようにして、戦場へと歩を進めた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

大智は今まですべての時間を憎き相手の観察に費やしてきた。それが今できることだと理解していたからだ。

 

(…言い出そうにも言い出せない…。)

 

そんな大智の様子を窺うものが一人。

青い髪と和服とメイド服が融合したような服を着用している幼い少女―――彼女は大智が誰について怒っているか、その彼の人格がどんなのかよく知っていた。

誤解とは言え一度は殺そうとした相手だ。良くも悪くもついさっき一目見た大智よりかは色々と知っている。

その上で、なのだが。

彼女はその男について大智に伝えるのをやめた。

一度殺しにかかって、それでいとも容易く出し抜かれた。

なんというか、それが気に入らなかったのだ。幼い、というかなんというか。自分でもなんか変な気分になる。

 

「御主人、(サー)がよんでたよ?」

「…すまん、ラドリー。すぐに行く。」

 

かつて不幸なスレ違いから霊使と喧嘩をしたラドリーがそこに居た。

結局あの件はティルルがかかわる前に終わってしまったので消化不良なところがあるのだ。

自分達だけで決着をつけてしまってはラドリー達がしたかったことが出来なくなってしまう。というかなった。

だから大智に霊使の事を伝えなかった。―――俗にいう仕返しというものである。

 

「…ラドリー、置いてくぞー?」

「あ、まってまって。(サー)の所に私も行く!」

 

(サー)とは彼女が勝手につけたあだ名だ。

彼は侵入者には厳しいが身内に対してはずいぶんと甘い。それこそ好々爺という言葉が一番似合うくらいに、だ。

それに彼は人の心の機微を読み取る事にもたけている。だからこそ、あそこまで黄金を蓄えられたというか。

「黄金卿」という二つ名が付いたというか。

とにかくラドリーは黄金卿の事を祖父のように慕っていた。

 

(…(サー)も気づいてるんだろうなぁ。)

 

それは心にしまいつつ、ラドリーは大智の後をついて行ったのだった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「む、もう時間か。世話をかけたな二人とも。」

「いくらでも気を抜いていいけど、本番前なんだからしっかりと気合入れてくれよ…。」

 

黄金の体と、胸に化石のようなものを埋め込んだかのような模様。

顔は異形で、椅子への座り方は尊大だが、中身は人間とそう大差ない。あるとすれば彼自身の財を奪う不届きな輩に少しばかり苛烈な制裁を加えるくらいだろうか。

とにかく、尊大な座り方を除いてこの場で(サー)に悪感情を抱く行為は少なかった。

 

「で、エルドリッチ?決勝前に呼び出して一体何のつもりだ?」

「…いや、何。少しばかり()()()()()()と思って、な。」

「…何を?」

「言わなくても分かっているだろう。我を従える者ならな。」

 

―――そうだ。分かっている。

決勝を前に怖気づいていないか、戦う意思は失せてないか。

きっとそのあたりだろう。それならば大丈夫だ。むしろ闘争心がメラメラと燃え上がっている。

相手を叩き潰せと言われたら文字通り叩き潰せる。

 

「…あの動く生ゴミを焼却する準備は十分だ。」

「………そ、そうか…。」

 

ならば大丈夫だ。そもそもデッキのコンセプトからして負ける気はしない。

既に封じる手は見つけてあるのだ。ならばそれを実行すればいい。ただそれだけの話だ。

 

(―――こやつ全然わかってない!!!)

 

だが、そんな大智の様子を見ていた(サー)―――エルドリッチは内心頭を抱えていた。

全然こいつ分かってねぇ!ということが思い切り分かったのは確かだが。

そもそもとっかえひっかえならばあれだけの信頼関係は生まれない。だからと言って誰か一人を特別扱いしていてもあそこまでの連帯感が生まれるわけでは無い。

 

(…あの男は恐らくすでに答えを出している。そしてその答えに納得している。)

 

つまるところ、彼女たちはそれを受け入れている。

今の状態が全員の居心地が一番いいのだと理解しているのだ。

まあこれは自分の目測である為間違っているのかもしれないが。

とにかく、だ。

エルドリッチから見れば大智はとんでもないベクトルで誤解しているというのは丸わかりだ。

 

(…こうと思い込んだら一直線だ。そこがこやつの長所であり短所である。)

 

だが、エルドリッチは今の大智の更迭のように固い考えを動かす術を知らない。そんなものがあったらすぐに教授してほしいくらいだ。

だからエルドリッチは大智の行動に気を配りながら、暴力なんてものが振るわれない様に隣で監視する事しかできない。

 

(―――何とかはなるだろう。)

 

そんな甘い見通しを立てながら、エルドリッチは大智を戦場へと送り出す。

これからの決戦に思いを馳せながら二人のデュエリストは戦いの舞台へと足を向けるのだった。




登場人物紹介

・霊使
どうあろうと今の在り方を認めさせるつもり。
ウィン達と離れるつもりはさらさらないし、他の男の元へやるつもりも毛頭ない。

・大智
勘違いは加速する。

次回もお楽しみに!

水樹君のデッキ強化

  • ネクロス
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