新しい日々
―――4月某日。暖かな春の陽気が眠気を誘う昼。
霊使は一人、学校の屋上で大きなため息を吐いていた。
眼下には校庭で元気に走り回る生徒や、ベンチで食事をとっているカップルなどが見受けられる。
「はぁ…。」
「どうした?辛そうだけど?」
「…海斗。…まあ、色々とな…。」
霊使は新しい高校に転入して新しい友を一人得た。名は渡瀬海斗―――転入初日に交差点でぶつかった少年である。そんなあわただしい出会いであったのだが、それぞれの事情で教室には居にくく、気づけば毎日屋上で会うようになっていたのだ。
海斗は書類上は高校一年という事になっているが、霊使よりも一歳年上であるらしい。どうしてそうなったのかは、詳しく聞かないことにした。―――本人もあまり語りたくは無いだろうから。
とにかく、年齢と学年のちぐはぐさから二人は互いに敬語で話すという堅苦しい事は行わず、気づけば打ち解けていた、というわけだ。
「…個人的な理由だったんだけどなぁ…。それなのになんでこんな大ごとになっているのやら。」
「まぁ、普通に考えてもそれはもう偉業ものでしょうよ。」
霊使は自分がやったことの大きさがどれほどのものか、良く分かっていなかった。
本人からしてみれば「ウィンとの生活を邪魔してんじゃねぇ!」位の勢いでやったことだ。―――途中から颯人の敵討ちも目的に加わってしまったのだが。
とにかく、霊使は四道による騒動をを止めた。
それは世間一般的に見れば「偉業」というのだが、霊使からしてみれば「止めない理由はない」ものであったのだ。
だから霊使は四道安雁を下して悲劇を止めた。世間で言う「偉業」を成し遂げた。
そんな事をすれば当然周囲の人間は霊使を褒め称える。
それが学校という比較的狭いコミュニティで起きればどうなるのか。
「―――俺が居ると俺の席の周りに壁ができるんだ。休み時間になると、なぁ…。」
「ええ…。」
―――当然、落ち着いて休憩なんてことは出来ないだろう。
霊使は休み時間になるや否や大勢の生徒たちに囲まれる。しかも質問攻めにされるのだ。それに応対していたらいつの間にか休み時間は消し飛んでいる。
更に登下校時には遠巻きに見てくる生徒がほとんどだ。先生でさえ、話しかけることに躊躇してしまっている。
「…というわけでクラスで若干疎外感を味わっている。」
というわけで霊使はクラスから孤立しているような、そんな気分になってしまう。
だから安息を求めて昼休みは基本的に屋上に居ることが多いのだ。
「―――ま、皆いい人ではあるんだけどね。」
「だろうね。」
ただ、そのうちに霊使はその喧騒に慣れるのだろう。そうしてしまえば少しは気も楽になるのかもしれない。
が、霊使にはもう一つ気がかりなことがあった。
「―――げ。」
「「げ」って。…嫌われてるなぁ。」
それはある一人の少女に目の敵にされている事だ。
その少女は丁度目の前に居る。彼女はその特徴的な桜色の髪ときりりと引き締まる顔、鼻立ちも整っている、だが何よりも目を引くのは、髪の色と同じ桜色の光彩だった。
「
「そういうふうに気安く名前で呼ばないでくれる?―――「英雄」さん。」
「…それは失礼した。」
―――彼女がなぜ霊使を嫌っているのか、それはよく知っている。
何故なら彼女と初めて顔を合わせたときにこう言われたからだ。―――「もっと早く来ていれば。お前が殺したんだ」、と。
彼女は旧端河原松市で起こった事件の被害者の一人で、―――「初めて」の被害者の遺族だ。
先の事件の責任は大体は「主犯」の四道やそれにあやかって強姦や殺人などを愉しんだ下種共で構成された「実行犯」の二つに分けて処理された。
「主犯」である三人は恐らく死刑が、「実行犯」の面々も少なくとも刑務所から出ることは無い、というのがかつての事件で知り合った警察の人間からの情報だった。
だが、目の前で大切な人を奪われた人の気持ちはそれだけでは癒せなかった。―――鈴花もきっとそう言った人物の内の一人なのだろう。
「―――こっちとしては仲良くしたいんだけどな。」
「嫌っている相手と無理に仲良くなる必要は無いさ。」
だが、霊使にとってはただ「英雄」として敬われるよりもそういう態度の方が―――、自分の気持ちを正直に言ってくれる方がよほど好感が持てた。
この半年でそう言った危機後ごちのいい言葉を散々投げかけられていたせいである。
「でも、彼女が困っていたら手を差し伸べてやればいいじゃないか。」
「―――そうだな。」
海斗の言葉も最もだ。気が合わない相手を無理に好きになる必要は無い。それでもその人が困っていたら手を差し伸べることができるような人間になれれば。
彼女との距離も少しは縮める事が出来るのだろうか。
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自分のやっていることはどうしようもない、ただの八つ当たりだ。
そんな事は誰に言われないでも分かっている。
わかっているからこそどうにもならない。そんな悔しさがある。それに加えて、いや、「何よりも」というべきか。
どうしても「なんでもっと早く来てくれなかったのか」という気持ちが湧いてしまうのだ。
そんな事を彼に言ったところで、もはや何も変わらないのだ。
もう、自分にとっての大切な人は帰ってこない。
行き場のない怒りを、「当事者」というだけで四遊霊使に向ける。
桜庭鈴花はそんな自分が一番嫌いだった。
「はぁ…。」
彼女は霊使と同じようにクラスで浮いていた。
一つ違うのは彼女は誰ともつながりも持っていないという点だ。
流石にこんなため息ばかりついている無気力な女子に話しかける存在なんていないだろう。
実はもうクラスでは「居ないもの」として扱われ始めているのではないのだろうか。
―――それならそれでいい、と鈴花は考える。
親しい人間が生まれなければ必要以上に悲しむ必要もないのだから。
「…桜庭さん?」
「…何?四遊君。」
「いや、もう次の授業の予鈴が鳴ってたからさ。」
「あっそ。じゃあ私行くから。」
―――ああ、またやってしまった。
ちゃんと言葉を交わそうとは思うのに、どうしてもキツイ言葉を口にしてしまう。
「ちょっと流石に無いんじゃない」、だとかそういった声が確かに聞こえて来た。
ああ、そうだ。普通に考えたら「ありえない」のだろう。知らさせてくれたのならばせめてお礼の一言二言言うのが普通だ。
そんなことは分かっている。分かっているのに、どうしてもひどい言葉を口にしてしまう。
「…四遊君、大丈夫?」
「まあ、ね。」
霊使はその後も当たり障りのない会話を行っているようだ。
彼は自分とは違い一生日の当たる道を歩いていくのだろう。―――それがいい。「英雄」が行く道はそっちの方がずっと穏当で、良いものになるだろうから。
(でも、いつかはきっと―――)
自分もそんな日の当たる道を歩きたい。
そう思わずにはいられなかった。
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クラスに桜庭鈴花と四遊霊使が加わって初めてのデュエル関係の授業。
そこで本来その授業の担任であるはずの教師から予想外の事を告げられた。
「今年から新たに非常勤の講師として勤めることになりました真木先生です。」
「真木だ。…これから二年間一緒にデュエル―――に限らず様々な事について学びたいと考えている。よろしく頼む。」
―――霊使にとっては珍しい「いい大人」。
そして周囲の人間からしてみれば少し怖い先生。
―――それが霊使から見た真木という人物である。
「さて、と…早速だが四遊。…それに桜庭。二人にとっては少し辛い話になる。」
「…糞爺共がやらかしてくれやがった「例の事件」、ですか。」
「ああ…。まずは「力も持つこと」がどれほどに重い事かちゃんと話すべきだとお上に言われてな。」
真木は初めての授業を端河原松市で起きた四道によるテロ事件について解説する時間に充てていた。
当事者である霊使や桜庭にとっては酷な話になるだろう、と前置きしてゆっくりと話し始める。
「まずは事件が発生したのは10月の2日から3日にかけてだ。二日間で死者はおよそ470人、重軽症者合わせて71000人以上。―――当然わが国でも例を見ないような大惨事だ。この事件は『創星神』という伝説を妄信いる信者たちが引き起こしたとされる。『創星神』にとってはいい迷惑だったろうな。」
(すいません、マジでいたんですその悪神。)
カンカン、と小気味良い音を立てながら板書していく真木。
それを見て急いで板書をノートに書き写していく生徒たち。
―――当事者であるせいで何がどうあってどうなったのか詳細を事細かに知っている霊使。
思い出したくないと言わんばかりにノートに手を付けずにただ外の光景を眺めているだけの鈴花。
それぞれの反応を見ながら授業は先へと進んでいく。
特に変わったことは無く、授業は驚くほど平和に終わろうとしていた。
「―――もうこんな時間か。いいか。今回言った通り本来は人がどうこうできる相手じゃなかった。もっと周りを頼れ。せめて信頼できる大人に相談してから突っ込め。分かったな四遊!」
「…はい。」
「…だが、よくやってくれた。…っと、これ以上はあまりよくないな。先生が特定の生徒に肩入れしてはならない。…これで今日の授業を終わる。力に溺れた人間の末路を忘れるなよ。」
最後に真木に起こられながらも賞賛されるという奇妙な体験をして。
新たな学校における新たな日々の内の一日は終わりを告げた。
登場人物紹介
・霊使
流石に怒られる。そんな事したら。
・桜庭鈴花
使用デッキはいまだ不明。
霊使への感情拗らせちゃっている系女子。
・海斗
キトカロスはお留守番
というわけで二部が開幕しました。
それでは次回もお楽しみに。
水樹君のデッキ強化
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ネクロス
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リチュア