「相棒」   作:ダンちゃん1号

163 / 209
絶望少女と友人事情

 

新たな学期が始まってからとうとう二週間が経過しようとしていた。

―――この間、桜庭鈴花のが得た交友関係は0。

気付けばクラス内でも「居ないもの」としての立場を確立していた。

別にそれ自体はどうでもいいのだ。

クラスでどう扱われようと、もう既に気にしないことに決めている。―――一つ気に入らないことがあるとすれば―――

 

「…なんか桜庭さんって雰囲気悪いよねー…。」

「しっ!聞こえる聞こえる!」

 

わざわざ本人のいる前でこういうふうな影口を叩く輩が居る事くらいだろうか。

一月もたてばそんな事を口にすることも無くなるだろう。

そう考えていたが結局陰口やそれに類する言葉が時たま耳に入ってくる。

 

「…くっだらない…。」

 

自分の事をどうこう言うのは別に構わない。確かに今の自分はそう見えているのだろうから。

だがそれをわざわざ本人に聞こえるように言うのは止めて欲しい。

それは余りにもくだらない事だから。

文句があるなら直接言いに来い。それができないなら文句なんて言うんじゃない。

 

「…陰口をたたいていれば私が消えて無くなるとでも思った?」

 

鈴花はそれだけ言うと教室のドアを勢いよく閉めて退出する。

言われるのは仕方ない事だが―――それでもやはり心は痛む。

自分が涙を流していることにさえ気づかずに、鈴花は学校を後にした。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「今日もうまく話せなかったよぅ…咲姫ぃ…。」

『…例の事件のせいでコミュ障拗らせた?』

「…かもぉ…。」

 

誰も居ない家に帰った鈴花は部屋に入るや否や前の学校での数少ない友人だった咲姫に電話をかけた。

―――何故か咲姫とは最初に顔を合わせたときから上手く話せたのだ。

今思えば、咲姫の話術に嵌っていっただけかもしれないのだが。

 

『―――鈴花はさ、もう友人を持ちたくないの?』

「―――そういう訳じゃないよ。親しい人がいなくなるのはもう嫌なだけで…嫌われたくは、ないかな?」

『ごめん、一番厄介な奴…。』

「やっぱりぃ…?」

 

親しい人がいると苦しくなるだけ。

でも、だからと言って誰とも交友を繋ぎたくないわけでは無い。

現に咲姫との繋がりは切りたくないと考えている。

ただ、そういう事があったという事は伝えたいのだ。被害者ぶっていると言われればそれまでだが、鈴花の「誰とも親しくなりたくない」は「親しい人を作る勇気がない」と言い換える事が出来るだろう。

彼女は恐れているだけだ。―――親しい人が、また目の前からいなくなってしまう、悲しい別れを経験することを。

 

『電話越しで普通に話せるんだからさぁ、学校でも普通に話せばいいのに…。』

「それができたら苦労してないんだってぇ!」

『ま、だよね。』

「何その「知ってた」感!」

『―――だって鈴花学校だと私以外友人居なかったじゃん。』

「ぐわぅっ!」

 

咲姫の指摘に鈴花のライフポイントが音を立てて崩れていく。

前の学校では咲姫が居たからこそ終身名誉ぼっちを避ける事が出来たのだ。

だから、そのせいなのか、咲姫の言う事だけは自然と受け入れることができた。

―――だからこそ咲姫の核心を突いた指摘が鈴花の心にぶっ刺さるわけなのだが。

 

『いつも近寄りがたいオーラを出してる癖に私が来るとそのオーラは霧散する。言われるまでもなくめちゃくちゃ面倒くさい奴だよ?』

「はい…。」

『…ま、そんな友人を助けてあげるのが私の役目ってね。』

「本当にありがとうございます…。」

 

何一つ言葉を飾ることなく指摘をしてくれるからこそ、鈴花は咲姫の事を信じることができた。

時にはその言葉に傷つくこともあったが、咲姫が居なければ今頃自分がどうなっていたのかさえ分からない。

まあ、今より悲惨な生活を送っていることは確かなのだろうが。

 

『……それにしてもまさかここまでとは…。』

「ん?どうしたの?」

『いや…何でもないよ』

「…?」

 

咲姫の態度に一抹の違和感を覚えながらも、咲姫と鈴花はそのまま夜更けまで話し込むのだった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

(何やってんだ昔の私ィィィィ!)

 

咲姫は電話を切るや否や布団で体を覆い隠した。

何を隠そう、咲姫が鈴花のコミュ障の原因だからである。

―――時はまだ咲姫が霊使、ひいてはウィンと確執があったころまで遡る。

 

霊使を追って転校した先で、咲姫は一緒にウィンを追い詰めるための「仲間」を得ようとしていた。

それで周りとうまくコミュニケーションがとれておらずクラス内で孤立していた彼女と会話を交わして―――自分の話術で簡単に篭絡した。

―――してしまったというべきか。

あの時の荒んだ心でさえ、「ほっとくとヤバい」と思わせるくらいには鈴花はちょろかったのだ。

お陰で彼女は彼女自身のコミュニケーション能力になんら疑問を持たなくなってしまった。

―――しかし、咲姫と離れて彼女は気づいたのだろう。自身のコミュニケーション能力の低さに。

幸いなことにそれが半ば咲姫のせいであるという事は気づかなかったが。

 

(今思い返してみれば…!弱みに付け込む様な事を…!私はッ!なんて愚かな事をぉぉぉ!)

 

ベッドの上でじたばたと暴れ回る咲姫へかける言葉は何もない。

あったとしても「自分の尻は自分で拭え、それができないのならばそもそもやるな」という事くらいではないだろうか。

 

(過去の自分を今すぐぶん殴りたいっ!色々と勘違いしていたことも含めてッ!)

 

今更変えようもない現実に咲姫はただただ頭を抱えるばかり。

兄が聞いたらきっと頭に拳骨を落とされるだろう。―――最悪の場合、着弾地点から半径一センチの頭髪が衝撃で消し飛び、内出血で逃避が2センチも盛り上がることになる。

当然その拳骨の痛みは想像を絶する―――という言葉でさえ言い表せない。

―――もう一撃も喰らいたくない。ウィンとのイザコザが済んだ後で喰らったあの一撃は忘れもしない。

 

(お、思い出しただけで痛みが…。)

 

あの件に関しては自分が悪いので黙って粛々と受け入れたのだ。―――「手心は加えた」と言っていたのだから相当手加減はしてくれたのだと思うが―――それであれなら本気は一体どうなのだろうか。

―――願わくは、自分のやらかしが霊使にばれないように。

咲姫は心の底からそう強く思ったのだった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

(咲姫はああ言ったけれど―――。)

 

既にクラスで孤立気味である鈴花。当然、彼女の話を聞いてくれそうなクラスメイトはいない。

まあ、あれだけきつい態度をしていたのだからそれも当然なのだろうが。

家族が死んで、大切な人もいなくなって、唯一の友人とも離れ離れになって。

今の鈴花は本当に一人ぼっちだ。もしこのままいじめられていても、誰も助けてはくれなさそうだ。

せめて、咲姫と同じ地域に住んでいれば、こうはならなかったのかもしれない。

 

「―――はあ。」

 

今のままではいけないという事は本当は自分が良く分かっている。

昔のままでいいはずがないという事もよく理解しているつもりだ。

それでも鈴花は、昔から何も変われていない。それを棚に上げて嫌な態度を取る事しかできない自分に嫌気が差していた。

 

「…私は…。何をしたいんだろう。」

 

鈴花はもう親しい人を作りたくない。―――その気持ちが大いにある。

それでも心の内の何処かでは鈴花も人とのつながりを求めていて。

―――そしてその前に立ちはだかるのは、コミュ障と、繋がりを作りたくないという二つの大きな壁。

 

(思えば思うほど…私、向いてないなぁ…。)

 

友人作りだとか、学校生活だとか。

きっと今の自分は誰かとつながりを作るのに臆病になっている。―――「新しくつながりを作らない」と「今ある繋がりを守る」は簡単に両立できる。鈴花はそれを知っている。

ではなんで新しいつながりを作るのが怖いのだろうか。

―――恐らくだが、多分、それはきっと。

()()()()()()()()()()()()()()()()()、そしてできたばかりの温かいつながりを失うのが怖いからだ。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「…咲姫って桜庭さんと仲良かったのか!?」

『…お兄ちゃん、驚きすぎだって…。』

 

咲姫から早朝にかかってきた電話。

そこで咲姫から鈴花と咲姫が同じクラスであったこと、そして鈴花にとっては唯一無二の親友だったことを告げられる。

何でも今の咲姫になる前から仲が良かったそうだ。

 

「…で?俺に何か頼みたいことがあるんだろ?」

『そうそう。―――もしよかったら、これからも鈴花の事気にかけてあげて。向こうは私達が兄妹だとは思ってもないみたいだし。』

「―――言わなくていいのか?」

『まぁね。あの子はきっとお兄ちゃんの事を嫌っている。―――でも言ってたよ、彼女。「もう親しい人を失いたくない」って。』

 

クラスメイトにきつく当たっていたのはそういう理由があったからか。と、霊使は納得した。

確かに他の人に踏み込まれたくない領域というものがある。彼女のソレは他の人と比べると少しばかり広いのだろう。

 

『―――だからね、お兄ちゃん。鈴花の事を見ててあげて。それでもし何か困ってたら助けてあげて。』

「分かってる。身内が招いた種だし。―――何よりも孤独に突っ走っていく桜庭さんを放っては置けない。」

『―――ん。ありがと。じゃ、そろそろ切るね。』

「―――咲姫。」

『ん?何?どうしたの?』

「―――いや、なんでもない。」

『そ。―――もしかして気遣ってくれた?私がいじめられてないかとか?大丈夫だよ、私は。じゃ、また会って話そう。』

 

それだけ言うと咲姫はすぐに電話を切ってしまった。

どうやら兄の心配事は妹に見抜かれていたらしい。あの騒乱から、咲姫は一度も姓を変えていない。だから彼女は先の騒乱を引き起こした一族としての十字架を背負っていくことになってしまった。

 

「身内の恥は身内で雪ぐよ。―――お兄ちゃんは日の当たる場所を歩いてね。」

 

―――思えばあの時から先は自分を「お兄ちゃん」と呼ぶようになったのだったか。

もう、縛られる必要は無いというように、彼女は自分の素を、霊使の前にさらけ出した。

 

「―――なるようにしかならないだろうけど。…頑張ってみますか!」

 

咲姫に言われたからではなく、霊使がそうしたいから。

そんなお人好しな霊使だからこそ、きっと人を引き付けるものがるのだろうから。




登場人物紹介

・鈴花
おもしれー枠
二つの矛盾する気持ちがあって本人も困惑中。

・霊使
後方保護者面枠

次回、ようやくデュエルします。
―――海斗が。

水樹君のデッキ強化

  • ネクロス
  • リチュア
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。