「相棒」   作:ダンちゃん1号

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絶望少女と英雄と:その①

 

「―――また、か。」

 

最近はいつもこうだ。鈴花の靴箱に詰められる塵やらなにやら。取り除くのに使う労力がもったいないというか。

あんな態度を取っていればいつかこういうふうな行動も起こされるだろうとは思っていた。思った通りというか、案の定というか。いつか来る未来だと覚悟していた事でもあった。

だが、まあ。

思ったより数週間ほど早かったが。

どうやらこの学校の生徒の治安は最悪に等しいらしい。

 

(―――私が四遊君にそっけない態度を取っている、というのもあるんだろうけど。)

 

クラスの人気者にそっけない態度を取っている―――。こういう事をする連中というのは大概何かがおかしい人達だ。一部の人間をまるで神か何かのように崇めたり、本人にその気がないのに英雄視したり。

そもそも特定個人の誰かを崇めている連中は崇められている個人の事を考えたことがあるのだろうか。

 

(少なくとも私は嫌だな。誰かに勝手に偶像崇拝の対象にされるっていうのは。)

 

最も、自分がそんな対象になるだなんてほんの少しも思っていないのだが。

とにかく、鈴花の予測通り、自分に対するいじめが始まった。

自分のコミュニケーション能力が壊滅的なこと、英雄にそっけない態度を取るっている事、性格も内向的であまり人と関わろうとしない事。

これらは全ていじめの対象とする絶好の条件である―――らしい。

 

(所詮弱い者いじめしかできない獣…ってやつだね。程度が知れるよ。)

 

結局どこに行っても誰かを貶めようとする人間の本性は変わらないという事なのだろうか。

家族を理不尽に奪われた少女に対して、世間の目は何処までも残酷だ。

「命があるだけ儲けもの」だとか「英雄(四遊霊使)に感謝しなさい」だとか。

少なくともそれは無理な話だ。―――家族を奪われてそう簡単に立ち直れるものか。

何でもう前を向ける。死んだ人を悼む時間さえくれないのか。

―――もう少し同じ時間を過ごしておけばよかった。もう少し話せばよかった。そんな事を思うたびに鈴花の心に一つ、また一つ錘となってのしかかる。

鈴花の中に詰まった後悔は、彼女を絡めとって離そうはしなかった。

 

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いじめと言ってもそこまであからさまな行為は行われなかった。

相変わらず霊使は自身に喋りかけてきてくれたが、「もういい」というと罰が悪そうにして去って行ってしまう。

どうしてか彼は自分に関わるのをやめようとはしなかった。

責任感だとか、そう言った事では無くて。

恐らく彼は()()()()()()()()()()()()()()()

―――余計なお世話だとは思う。

それでもどこかでそれを受け入れている自分もいた。

 

(世話焼きというかなんというか…。

 

どっちにしたって、嫌われている相手に関わろうとするのは並大抵のことではない。

並大抵のことではないが――なんで関わるのか。

それがどうしても気になってしまう。

 

(言葉を間違う気しかしないんだよね…。)

 

といっても鈴花は自分のコミュニケーション能力では確実に言葉を間違えてしまうだろうという確信があった。

それが明らかに霊使を傷つける言葉になってしまうというのも理解している。

 

「…なんであなたは私にそこまで関わろうと?」

「……一人になろうとしている人をほっとく奴なんている?」

 

―――見抜かれていたのは驚きだ。

分かっているのであれば放っておいて欲しいのだが、どうやらそうもいかないようだ。

 

「一人ってさ。色々と辛いんだ。誰も助けてくれないし、誰も手を差し伸べてくれない。当然君が苦しんでいることを誰かに知ってもらう事もできない。―――君が何を抱え込んでるのかは、何となく察しがついている。」

 

まるで全部を見て来たかのようなその物言いに腹が立ってくる。

目の前で失った事がない癖に、目の前で後悔が形になったことがない癖に、なんでそんな風に物が言えるのだろうか。

 

「いいよね。君は全部守れたんだから。―――何も残らなかった私の事なんて分かるはずがないんだよ!」

「―――そう、なのかもしれない。でも、俺は―――」

「同情?哀れみ?そんなものはもう結構よ!いいから二度と私に関わらないでよ!」

「―――ちょっ…!?」

 

なんであんなに人の内面に踏み込もうとするのか。

なんで私なんかのことに関わろうとするのか。

どっちにしたって今のやり取りで彼の中での自分の価値はおおいに下がったはずだ。

もうこれで関わり合いになることも無いだろう。

―――それと同時にクラスの中でもヒエラルキーが下がり切っただろうが―――どうだっていい。

余り、このクラスの事が好きになれそうにないから。

 

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(やってしまった…。)

 

今の声のかけ方はもしかしなくてもやってしまったのだろう。

浅慮な言葉で彼女の踏み込んではいけないところに踏み込んでしまった―――だから彼女は立ち上がってこの場を去ってしまったのだ。

 

「…なにもあんな言い方しなくてもいいのにね。大丈夫だった?」

「ん?ああ、俺は大丈夫。今の俺の発言が不用意だっただけだから。」

 

それにしても、最近、桜庭鈴花とこのクラスの溝は深まってきていると思う。

彼女が何を思っているかは知らないが、このままではまずい事態になりそうだ。

最も、霊使は彼女にド派手に振られてしまったのでもう何も言えない。

 

(―――現場押さえるしかないか…。)

 

こうなったら何か不味いことが起きている現場を押さえるしかない。

彼女があの事件で何を失っているかは重々承知している。

―――そして、それはきっと誰にも触れられたくないものであろうという事も。

 

(…でも、だからってなぁ…。)

 

立ち直れない、というのはしょうがない。

大切な人を失っておいてすぐに立ち直れというのが無茶な話だ。

―――だが、それでも。

たとえ自分が責められたとしても。

それでも彼女を放っておけない。孤独の道に突っ走る彼女を放っては置けないのだ。

孤独に走った人間の末路は大概碌でもないと、霊使は目の前で見て来たから。

 

(といっても…なぁ…。)

 

まさかわかりやすい行為をするわけでもあるまい。

ここは秩序ある人間社会だ。そこでまさかわかりやすく誰かを害する行為が行われるはずがない、と霊使は考えていたのだ。

―――霊使の見立ては想像以上に甘かったと、そう言わざるを得なかった。

その考えはその翌日にぶち壊されることになる。

 

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「…は?」

「…まさかここまで直接的に来るとは…。」

 

霊使にあんなことを言った手前、もう関わることは無いと思っていた。

が、まさかこんなに早く関わり合いになるとは思いもしなかった。

しかも、こんな。

まるでいじめから庇われるような形になるなんて。

 

「…昨日の事謝りたくてさ。探してたんだ、桜庭さんの事。」

 

なるほど、昨日自分が怒ってしまった原因は自身にあるんだと霊使は考えていたようだ。

傍から見ればそうだろうし、実際に踏み込まれたくないところに踏み込まれそうになったので事実的にもそうなのだが。

―――悪いと思っているなら関わらないで欲しい、とはもう言えなかった。

少なくとも、命の危機から救われたのだから―――あの男達とは違う、というのは良く分かる。

 

「…それで?」

「でさ、桜庭さんを見つけたとこまでは良かったんだけど…。」

「バケツが落ちてくるところをみた、と…。」

 

まさかここまであからさまな行為に出てくるとは霊使も考えていなかったようだ。

―――今の霊使は全身がびしょびしょに濡れている。さらにいうなら頭に一つ大きなこぶを作っていた。

バケツが落ちてくる過程でひっくり返ったからよかったもののそうでなかったら今頃霊使の頭は見るも無残な事になっていたに違いない。

 

「…さすがにこれは…やりすぎでしょうよ。」

「そう、だね…。」

 

そして、そうなるはずだったのは自分で。

―――自分のせいで、巻き込んでしまったのだろうか。

自分が彼を拒絶したから。

認められなかったから。

 

「…ごめん、なさい…。」

「謝らなくたって…。」

「…ごめん、今は一人にさせて。」

「―――あっ!」

 

そう思うと居ても立ってもいられなくなった。

今度は自分のエゴに巻き込んで人が死ぬところであったのだ。

巻き込まれただけの英雄が。

気付けば鈴花はその場から逃げるようにして走り去っていった。

 

「…どーにもうまく行かないね…。」

 

そんな申し訳なさそうな声をその背中に受けながら。

―――桜庭鈴花は今日もまた後悔を一つ積み重ねる。この後悔という呪縛から解き放たれる解き放たれることがないよう、自分を呪いながら。




登場人物紹介

・鈴花
民度が最悪なのがこの世界なので…。

・霊使
多分なんでそうしたかを聞いたら激昂する。

…なんで重苦しい話になっているんだ…。

水樹君のデッキ強化

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