「相棒」   作:ダンちゃん1号

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絶望少女と英雄と その②

 

なんで、どうして。

何故自分を助けようとするのか。

何故そんな事が出来るのか。どうせ他人じゃないか。

鈴花は矢継ぎ早にそう言葉を吐きながら霊使から逃げていた。

 

(…強い…からなんだろうね。)

 

―――体も、心も。

だからこそ、鈴花が傍に居てはいけないのだと思う。

彼は、強いから。その強さを自分が享受してはいけないと思っているから。

霊使がそんな事を知れば激昂は必至だろう。なぜなら彼は桜庭鈴花という一人の人間を救うために動けるからだ。

 

(…いいんだ。私は一人で…!)

 

だが、それは鈴花にとっては自分に巻き込む以上の何物でもない。

だから、逃げたかった。

自分は彼にそんな事をされるほど価値のある人間ではないと知っている。

救われるの価値のない、無意味で無力で、無価値な人間であると知っている。

 

「…あれー?なんで逃げてるのかな…ッ!」

「キャッ…!?」

 

そんな事を考えていたせいか、自分をひっかけようとする脚に気付くことは無かった。

当然、その足に引っ掛けられることで鈴花は体勢を崩して転んでしまう。

そのまま自分の上に誰かが乗った―――首元に冷たい何かを突きつけられる。

 

「…いけないなぁ。私達の英雄にあんな態度取るなんて。」

「…貴女には関係ないでしょう?」

「あるよ、大ありなんだって。」

 

下手人は同じクラスの女子だった。

昨日、霊使に「大丈夫」なのかと声を掛けていた人物と同一だったはず。

 

「…ないでしょうに…。」

「あるよ。」

 

ただ少なくとも。

霊使と彼女らに何も関係は無い筈だ。

―――だが、彼女たちはある。とそう言い切った。

 

「英雄様の近くに居る人はね。みんな英雄様を慕ってるの。私も、他の子達も。だって私達を絶望からを救ってくれたんだよ?貴方のような卑屈な人間が隣に居たら、声を掛けるあの人の価値も下がってしまうじゃない。」

 

―――いかれている。そうとしか思えない。

うっとりとした声音で語る少女に鈴花は軽く恐怖を覚える。

だってそうだろう、うっとりとした声で簡単に人の命を奪おうとしてくる存在に一体どう対応すればいいのか。

なんだこいつらは。一体どうすればいいのだ。どう対応するのが正解なのだ。

それが分からない。

 

(…なんかヤバい宗教組織が生まれてる…。それだけ恐怖してたって事なのだろうけど。)

 

一つ言えることがあるとすれば。

少なくともこの学園はまともではないということだ。

人間というのは何をきっかけに暴走するのか分からない。

現にこの少女の声からは「霊使を貶す者は許さない」という空恐ろしいほどの意志を感じる。

これを人格の暴走と言わずに何というのか。

 

(これはきっとただ殺されるで済まない…ッ!)

 

何とか逃げないと、そう考えたところで「桜庭さーん」と呼ぶ声に気付いた少女が大急ぎで離脱した。

どうやら、今日だけで二度、命を救われたようだ。

―――味方は四遊霊使だけ。

 

(…なんでこうなっちゃうかな…。)

 

鈴花はこの理不尽を嘆いて現実逃避する事しか考えられなかった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

桜庭鈴花16歳。

出身地は旧端河原松氏。

家族構成は父と母、弟の四人。

父は再婚。弟は連れ子。

桜庭鈴花を除き全員死亡。

―――粛清対象:英雄にあくどい態度を取ったため

 

「―――ざっとこんなものか。我らが英雄を汚す小娘の情報は。」

 

ある廃校の一室。

そこで鈴花の情報を眺めながらそう呟く男がいた。

彼らは皆かつての戦いで「四遊霊使」という英雄に救われた者たちで、彼を崇める者たちでもあった。

当然、この組織の存在を霊使が知るはずもない。

勝手に崇めていて、そして霊使に害を為す存在を勝手に処理していくという恐ろしい組織。

 

「…あのお方に知られるわけにはいかない。」

 

この組織を一言で言ってしまうのならば「霊使を勝手に神格化して崇めている」組織だ。

過激なカルト宗教と言っても差し支えはないだろう。

霊使本人がこの組織を知れば表情を殺して潰しに来るだろう。

―――だが、彼らにとってそんな事はどうでも良かったのだ。

 

「―――我らが英雄がこの世界を治めるべきなのだ。何故ならあのお方こそが神なのだから…!」

 

端河原松市で作られた地獄。

一寸先の景色さえ見えないような漆黒の闇の中、彼らは確かに霊使という光を見た。

―――その光に脳を焼かれてしまったのが彼らだ。

「英雄」の狂信者。英雄にあだなすもの、英雄を貶す者を許さないもの。

名もなき組織は動き出す。

「英雄」を貶す者は世界の敵である、と、そう信じているから。

 

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「…何か霊使絡みで面倒な事が起きている予感がする!」

「…俺は悪くない…よな?」

「さあ…?」

 

―――何か嫌な予感がする。

風の便りというかなんというか、自分の一番大切な人が勝手に貶められている感じ。

 

「…少なくとも霊使に心当たりはないんだよね?」

「あるわけないじゃん。」

「そりゃそうか。」

 

霊使は自身を落とし舞えることをするはずもないと考えてのは、緑色の髪のポニーテールが特徴的な少女。

身長は霊使の顎あたりであり、あどけなさを残した顔の少女がやれやれといった形で溜め息をつく。

彼女の名前は「ウィン」。四遊霊使という人間が一番傍に居て欲しいと願う人であった。

 

「…だから英雄になんかなりたくなかったんだ。」

「あらぬ疑いをかけられるからねえ…。」

 

ちなみに霊使は最近、至る所に現れている「英雄を貶す者に天罰を!」という人間に困っている。

今の時代が別の時代ならば、英雄とカテゴリにたくさんに人物が入っただろう。

だが、現代で「英雄」というと何かしらの前置きがない限り霊使の事を指し示すようだ。

霊使からしてみればいい迷惑である。

 

(俺はただウィンや皆と一緒に居たいだけなのにィィィっ!)

 

霊使はウィンやエリア、ダルクといったかつてともに戦ってくれた相棒達とゆっくりとした時間を過ごすのが最近の目標になっていた。

その為に霊使は高校を卒業したら農業系の大学に通うつもりだ。

そこで作物の栽培のノウハウを学んだうえでゆっくりできる生活を送る。

その為の一歩を歩み始めたばかりだというのに。

 

「最初の敵が「英雄」という重荷かぁ…。」

 

当然、霊使にとっては最も必要ない異名だ。そもそも異名やら二つ名やらそんなものがある所為でで人はいつも評価を間違える。

霊使自身はそう考えている。

―――霊使は対外的にみるという事をあまりしない。いつも自分の価値観に従って行動している。

最も倫理観は真っ当なので下手に暴走などは全くしないが。

そんな事をすればウィンに嫌われてしまうのでしない方が当たり前と言えた。

 

「…もうヤダおうちかえるぅ…。」

「霊使が壊れたーっ!?」

 

だがやはり厄介事というのは脳の理解を拒む様で。

霊使は自分の身の回りに起きる厄介事に頭を抱えながらも解決に乗り出すのであった。

 

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咲姫は最近よく「英雄を貶す者に天罰を」と唱え続ける厄介な集団を監視していた。

理由は簡単で、「兄がそんな事を望むはずもない」と分かっていたからだ。

そう言うこともあり、来る者は拒まずという組織のスタンス上、楽に潜入を可能にした。

 

「…おぉう…。」

 

咲姫はそれが霊使を英雄として祭っている組織であるという事は知っていた。

だが、兄の名を借りてやっていることはただの犯罪まがいの行為だ。しかも本人は全く知らない形で。

それと同時に「相当ヤバい事」に手を出しているという事も知った。

 

「…なんだよ、薬物洗脳って…!」

 

彼らは集会の際にお香を焚く。

彼らは神聖なものとしてその煙を嬉々として浴びるが、それはただの薬物の煙であるらしい。

念のために息を止めておいて正解だったと言うところか。

体内に直接取り込まなければ意味がないものである為、何とか助かったという事だろう。

 

(…後で病院行こ…。)

 

自身の中にそれは入っているわけでは無いが、それでも気持ち悪さはぬぐえない。

兄の名を勝手に使ってこのような行為をする輩が居ることにも、それに気づかずにただ英雄として祭り上げている世の中にも。

 

「…とりあえず、情報はリークしておこう、うん。」

 

願わくは、咲姫の友人である鈴花や、霊使本人がこの集団に目を付けられない様に。

―――その願いは既に遅くなっていることを知るのはもう少し、後の話だ。




登場人物紹介

・霊使
彼を慕うやべー宗教がポップした。泣いていい。

・鈴花
逃げてとしか言えない…。

・咲姫 
漢気マックスな妹。
どうやらやべー組織の内情を探っているようですが…。

話のプロット書いていたらなんかやべーカルトが生えましたので初投稿です。

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