霊使は最近では珍しくも無くなった先からの電話を受けていた。
―――が、そこで話されたのは初撃的な事実だった。
「…っていう実態だったよ。余りあのイカれポンチどもには近づかないほうが良いよ。それと多分鈴花はもうその組織に目を付けられてる。」
薬物と聞いて不安になったが、とりあえず咲姫は吸っていないようだ。
声音からして正気を保っていることが何となく分かる。
だが、二回、三回と潜入を続ければ薬物が聞いていないことがバレるかもしれない。
霊使は潜入はそれっきりにしておくように咲姫にお願いしてから、連絡を終えた。
「ふざけるなよ…!」
霊使は壁を強めに殴ってしまう。
―――それだけ怒りが溜まっているという事だ。
人の名前を勝手に使っておいてやることなすことすべてが余りにも外道すぎる。
そもそもの話、勝手に神格化されていることも全く持って知らなかったのだ。
「…霊使…。」
怒りに震える霊使に心配げな視線を送るウィン。
―――今の霊使は精神がとても不安定であることを知っている。
戦いの中で失ってしまったものを意識してしまっているというか、あの戦いで犠牲になった人の事が頭から離れないのか。とにかく霊使は人の尊厳を奪うような存在が大嫌いだった。
「…大丈夫かな。」
―――霊使について物凄く心配するウィン。
別に霊使がそのカルト集団をどうしようとウィンはそれに従うつもりだ。ウィンもそう言う行為は大嫌いだし、それは他のみんなも同様だ。
特にヒータ辺りは一人で突撃して失火という名の破壊工作を行うだろう。
と言ってもそれは拠点を一つ潰しただけで根本的な解決には何一つ至らない為結局却下されたが。
「暴走、しなければいいけど…。」
ウィンが一番心配なのは霊使が明確な何かをもって、その構成員に手を出す事。
―――つまるところ、霊使が誰かを殺してしまわないかというのがウィンの心配事だった。
今の霊使は「誰かを害する何か」に非常に敏感になっている。それを排除するために今度は霊使がそうする側に回ってしまうのでは、という不安だった。
一度誰かを殺してしまえば、きっと霊使は止まらない。
悪の芽が少しでもあれば即座に摘み取り、そこからまた新たな悪の芽が生えない様に根切りにすることだろう。
それでは正義を振りかざしているだけでやっていることそのものは嘗ての事件の首謀者たちと何ら変わりはない。たとえそれが「一般人を守るため」という理由があったとしても、だ。
少なくとも誰かを殺すという引き金を引いてしまえば、もうそれを忌避する必要もない。
そうなれば霊使は関わった人間全てを簡単に殺してしまえるだろう。
それだけ今の霊使は危ういのだ。
(せめて事件が起きなければ多少はまともだったのにぃぃぃぃ!)
霊使は咲姫からの報告で何があったのかを大体把握している。
そして即座に行動を起こそうとしている。
せめてもう少し時間を空けてくれればなぁ、そうすれば多少はメンタルが復活したのに。
ウィンは心の中でそう悪態を付きながら、霊使に気の利いた一言さえかけれない自分に歯噛みしたのだった。
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昨日のあれはただの狂信者の類だと割り切った。
今後は狙われることが少なくなればいいけど、と楽観的な考えをしてしまう。
少なくとも向こうが崇める霊使とのつながりははっきりとしたのだ。手を出したら潰されるかもしれないという事を理解していて欲しい。
まあ。
きっと彼はもう、自分の為には動かないのだろうけど。
「うげ…。」
登校して自身の靴箱を開けばそこにあるのは大量の生ゴミ。
臭い上に蛆が湧いている。一日でここまでの腐敗が進むとは思えない。
自分への嫌がらせのためにわざわざ用意していたものだと思うと呆れた溜め息さえ出なくなる。
自分への嫌がらせに時間を割くなら、もっと生産的な事―――倫理観を足りない頭にそれを詰め込むとか、そう言った事に時間を使うべきだ。
「くっさいなぁ…。」
やれやれと言わんばかりに生ゴミを処理する。
―――取り敢えず、昨日首筋にカッターナイフを突きつけた女子の靴箱にそのまま中身を移し替えておいた。
まさか自分のやったことがそのまま自分に帰ってくるだなんて思いもしないだろう。
最も、別人だったとしても何一つ問題は無いのだが。
「やれやれ…朝から最悪だぁ…。」
「…何やってたの?」
とか余裕こいていたら誰かに自分の行為を見られていたようだ。
このままでは誤解を招くと思ったが、以外にも目の前の男はこれをダシにするつもりはないらしい。
「…何って、取り敢えず持ち物を持ち主らしき人間に返しただけよ。」
「ああ、なるほど。でもその生ごみの持ち主は彼女じゃなくて―――。」
「知ってるの?」
「まあ、ね。何なら昨日、犯行現場を目撃してるし。」
それどころか何故か協力的だ。
鈴花は男に怪訝な視線を向けるが、その視線は当然の物であるというふうに容易く受け止めて見せた。
そのまま人を簡単に信じさせるような屈託のない笑顔で、こう自己紹介した。
「俺の名前は渡瀬海斗。―――ま、君が嫌っている人間の友人さ。」
「―――一気に胡散臭くなったわ。」
その自己紹介のせいで鈴花の中では一気に信頼度が下がった。
一方的に嫌っているだけなのだが、それでもなんというか。
彼を使って復讐を企てているのではという疑念に駆られる。
(いや、うん、その…。)
このタイミングで出てきたことといい、自分が生ごみを返還してあげた後で声を掛けた事と言い、物凄く、怪しいのだ。目の前の男―――海斗はどうにも腹に一物抱えている気がする。
「…で?貴方はちゃんと証言してくれるんでしょうね?」
「それは勿論。いじめの現場を止められなかったのは許してほしいけど…代わりに証拠写真を撮って来たから。」
じゃあ先に行為を止めて欲しい、とは言葉に出せない鈴花なのであった。
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自分に向けられた疑いの目線。
そんなに自分は怪しい存在なのかと思わず落ち込んでしまいそうになった。
(…俺は、そんなに怪しかですか…?)
(登場の仕方がちょっと…その…あれでしたね。)
キトカロスも言葉を濁すあたり本当に登場の仕方が悪かったのだろう。
いや、まあ仕返しの場面に登場したのだから「弱み握ってなんとやら」という、よくネット広告で見るような展開にでもなると考えていたのだろうか。
(まあ、そんなことしたら…。)
(絞り切って斬って捨てます。)
(ですよね。)
そんなことしたらキトカロスの怒髪天を衝くに違いない。
そうすれば行きつく先は「死」だ。―――この世に死体が残れば相当な温情を貰えたと判断してもいいのだろう。
肩を落としながら歩く海斗に声を掛ける生徒が一人。
海斗もよく知る色々と複雑な関係の友達―――霊使である。
「ダメだった…みたいだなぁ。」
「…なんであんなに恨まれて…?」
海斗が抱いた疑問は至って正しいものだ。
一人の人間になんであそこまで嫌われているのか―――その名前が出て来ただけで疑われるようなレベルで。
なにかしでかしたのだとか、喧嘩でもしたのか―――とにかくその疑問は尽きなかった。
「…地雷ぃ…ですかねぇ…。」
「あー…うん。一発殴るわ。」
「それをされてもしゃーないんだよなぁ…。」
原因は本人が一番分かっていたようだ。
どうやら彼女にとって一番踏まれたくない地雷を全力で踏み抜いたらしい。
なるほど、それは名前を出しただけで疑われるわけだ。
「謝ろうとしてもなんか妨害が入るし…。」
「ええ…?」
「この前なんか頭に水の入ったバケツが降って来たんだぜ?」
「…まずくない、それ?」
「だよなぁ…。」
しかもおまけに謝ろうとしたらバケツが降って来たという。
どうやら「四遊霊使」という人間を嫌う彼女を疎んだ誰かが、バケツを彼女―――桜庭鈴花に向かって落っことしたようだ。
―――少なくとも彼女は霊使という人間を嫌っていることによって学内での立場が悪くなっている。
「…なるほど。大体読めた。―――彼女には何かがあるんだね?」
「…桜庭さんは咲姫の―――妹のの親友だったんだ。もろもろの事情で別の学校に行くことになったけど。…理由は、察してほしい。とにかく、咲姫からあの子が「例の事件」で家族を失って、「一人」になろうとしてるって話を聞いたんだ。」
「…一人になりたいなら…ああそういう事。ほっといたらやけになって自分を傷つけるかも、と?」
その言葉に霊使はこくりと頷いた。
「例の事件」の当事者ではない海斗にその苦しみは分からない。だが、家族―――親しい人を失う苦しみなら少しは分かる。
キトカロスに懇々と説明されたのだ。ある程度は嫌でも理解する。
「…「守れた君には私の気持ちは分からない」ってさ。」
「俺は何も守れてはいない」
霊使も自嘲するような言葉に、海斗は何も言う事が出来なくなっていた。
―――まるで霊使も大切なものを失くしてしまったかのような。
そんな悲壮感が霊使の言葉の端々に滲んでいた。
登場人物紹介
・鈴花
お返しします^^
家族と意地ライさえ踏まなければメンタルつよつよ
・霊使
拗らせ系主人公
・海斗
あっ…
霊使のメンタルは一般人なのでやっぱり背負っちゃいます。
少なくとも言葉にしなくなっただけましになってますが。
水樹君のデッキ強化
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