「相棒」   作:ダンちゃん1号

168 / 209
俺達は認めない

 

海斗と鈴花が出会ったその日はいつも通りに過ぎていった。

昼休みにちょこっとだけ会って、そこで「作戦」について話して。

そして。翌日放課後、校長室に呼び出された鈴花と海斗。

二人は学園の校長、そして鈴花のクラス担任と、肝心の女子生徒と向かい合っていた。

理由は当然、女子生徒の内の一人が鈴花を名指しで「私の靴箱に生ごみ入れやがった」と訴えたためである。

やったのは事実ではあるが、鈴花としては「持ち主に返しただけ」という認識だ。

そもそもなんで彼女がそんな事を知っているのか、と言えば鈴花が海斗に匿名でこの真実を教えるように指示したためである。

 

「こいつが私の靴箱に入れったっていう証拠はあるんだよ!」

「…本当か、桜庭君?」

「ええ。」

 

鈴花はサラリと言ってのけた。

「どうしてそんなことを」と、鈴花のクラスの担任が不機嫌そうに言葉にする。

校長もその言葉に同意して鈴花を糾弾しようとした。

 

「―――ですが!」

 

だが他の誰かが口を開く前に海斗が言葉を放つ。

ここで発言しなければここまで一緒にここまできた意味がないのだ。

 

「それは元々彼女の物です。桜庭さんは()()()()()()()()()()()()()。」

「はぁ!?そんな証拠は―――。」

「あるんだよなぁ、これが。」

 

海斗は、その証拠―――スマホで撮影した動画を見せた。

その動画の中には確かに、訴えた側の女子生徒が映っていたのだ。

 

『うざいんだよアイツ!家族が死んだから?それだけであんなに当たり散らすか普通?』

『さあねぇ?…生きて帰れたんだしそれを喜ばないというのがおかしいんだけどね?』

『そうだよ!まるで自分だけが「被害者」ですぅ、みたいな態度取りやがって!アイツのせいで霊使君が苦しんでるの分からないかね?』

『自分の事しか分からないおばかさんなんでしょ。』

 

しかも彼女達が行った会話もばっちり録音されている。

彼女達がこんなバカな行為をしでかしたのは霊使の為だというが、この言葉を彼が聞いたら一体どう思うだろうか。

 

「ま、とにかく。彼女は意図的に学校に生ごみを持ち込んだ。そしてそれを桜庭さんの靴箱に突っ込んだ。彼女は当然、誰かの持ち物かもしれない生ごみを処分するわけにはいかなかったし、だからといってこれを職員室にもっていけばもしかしたら生ごみを持ち込んだ人物は困るかもしれない。」

 

これから後は「仕返し」に正当な理由を付けるだけだ。

「持ち主」に返したという正当な理由があれば、持ち主は「どうしてそれを持ってきたのか」という事を言わざるを得ないだろう、というのが鈴花の考えだ。

 

「…さて、持ち主さん?なんでこれを持ち込んだのか話してもらおうかな。」

「う、うぐ…。」

 

女子生徒は言葉に詰まったままそれ以上口を開くことは無かった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

時は二人が出会った当日の昼休みにまでさかのぼる。

 

「…流石に生ごみはやり過ぎだと思うんだ。」

「うん、ほんとうにいい迷惑。…これも私の性格が招いた種なんだろうけど。」

「原因は分かっているんだね。」

「ほとんどは彼への態度が原因…なんだろうなぁ。…でも私は、霊使君にどんな顔で接すればいいのか分からないの。彼が居たからこそ私は助かったけど…もっと早く来てくれたらみんな助かったかもしれないって。そう思っちゃう。」

 

それは分からないでもないかもしれない。

海斗にもそう言った経験があるから。最も、それは「誰か」ではなく「自分」だったわけだが。

 

「…この件が終わったら一回話してみなよ、霊使と。」

「…酷いこと言っちゃうかもしれないのに?」

「そうかもしれない。…でも彼はそれを受け止めてくれるさ。」

「…そう、なのかな。」

 

海斗はこの少ないやり取りで桜庭鈴花という少女の本質を見極めていた。

彼女の本質、それはただのさびしがり屋で、それを隠そうとする意地っ張り―――言ってしまえば年頃の少女と何ら変わりないもの。

ただ彼女は持ち前のコミュ障のお陰で人に誤解されやすいタイプでもある。

おまけに今では「一人ぼっち」になろうとしている物だから、大体の人は彼女に対してよからぬ印象を抱くことだろう。

 

「それが出来なきゃ今頃霊使は死んでるよ。…それだけの事を彼は乗り越えて来たんだから。」

「…そう、なの?」

「うん、「そうらしい」、ね。あの事件の当事者でもあるから、彼は。…だからかな。俺にも余り内面を見せてくれないんだ。」

「そっ…か。」

「…多分、相当気にしてるんだと思う。それこそ「助けられなかった人達」の事とかも。」

 

―――鈴花は今まで霊使の事を深く知ろうとしなかった。

どうせ、あの事件で何も失っていない、ただただ「動けた」人間なだけだと。

だから、鈴花にとってはあの事件で何も失わずに収束させたただの「英雄」―――そう、祭り上げられている人物なだけではないか、と。

 

(でも、違うのなら…。)

 

鈴花の心を雁字搦めにしていた「つながりを作りたくない」という思いが少しずつ溶け始める。

何も言わずに手を差し伸べてくれているのならばその手を取っていいのか、と考えてしまう。差し伸べられた手を取ることが出来れば、この重くなった心も少しは軽くなるのだろうか、と。

きっと、その答えを海斗が教えてくれると思った。

 

「…私は、楽になってもいいのかな…。」

「…それは…わからない、かな。」

 

だが、海斗はその問いに答える事をしなかった。

―――海斗に答えを求めたところでその答えが自分に合っているかどうか分からないのであれば意味がない。少し考えればわかる事のはずなのに、気づけば海斗の答えに従おうとしていた。

 

「桜庭さんは、怖いんだね。自分を出すのが。」

「それはそう。だって自分を出しても受け入れてもらえなかったら悲しいじゃん。」

 

―――鈴花は他人とコミュニケーションを取るのが怖い。それは、自分を知っていくうちに嫌われないか、とか、自分を見せることで誰かを傷つけないか、とか。

鈴花は、自分が否定されることが怖いのだ。自分が誰かを傷つけるのが怖いのだ。自分のせいで誰かが傷つくのが怖いのだ。

自分に関わることで起こる何もかも全てが怖いのだ。

 

「…一歩踏み出すのが怖いのかい?」

「怖いよ。…一歩を踏み出す勇気なんて私にはない。」

 

海斗はただ何も言わずに鈴花の独白を聞く。

海斗はそれに何も答えられない。知っているのはせいぜい彼女がいじめられているであろうという憶測だけ。

だから、海斗は鈴花にかける言葉を何一つ持ち合わせてはいなかった。

 

「それでも、進まなきゃいけないとは、思う。」

「…今はそれでいいんじゃないかな。「進みたい」と思えているなら。」

「うん。…まずはいじめを何とかしないと。」

 

鈴花にとって何が大切なのか。それが彼女の「芯」だ。

芯は何度もぶれることもある。それでも前に進んで、抗って、時に折られることだってある。

―――そして、鈴花のように自分の芯を失くしてしまう者もいる。

 

(…取り敢えずは、大丈夫…かな?)

 

取り敢えず彼女は自身に牙を剥く理不尽と戦う覚悟をした。

急造ではあるが、彼女は自身の芯をもう一度見つける事が出来たのである。

 

「…というわけで虐めた女子生徒にし返します。作戦は、相手に話させる、で。」

「…え?」

「ドン引きしたって変わらないよ。…誰を怒らせたか思い知らせてあげないと。」

 

どうやら鈴花は相当の激情家だったらしい。

その数瞬後えげつない作戦を鈴花から聞かされることになるのだが、それはまた別の話だ。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

とにかく、鈴花の作戦に合わせて「女子生徒の持ち物」を証明したい海斗。

海斗が手に入れた情報では最後の一押しが足りない。

―――だが、人というのはパニックに陥ると、予期していないことを口にしてしまう。

 

「…こいつが!私達の命の恩人に!酷い事をするから!」

「…だからってしていい事としちゃいけないことがあると思うけど?」

 

―――件の女子生徒が鈴花に手を出した理由―――それは、ただただ鈴花が霊使に一方的に酷い態度を取っていたからだ。

それは彼女にも反省の余地があるだろう。

だが、だからといってそれが気に入らないから別の方法で報復すればそれはもう立派な犯罪だ。

 

「誰かのために、だなんて言っておきながら結局は自分の腹いせの為に誰かに酷い事をする。―――俺は、俺達はそれを認めない。たとえそれがどれだけやられた側に非のある行為でも、ね。」

「くっ…うぅ…。」

「ま、ここはことを大きくしない方が身のためだろう。君たちが今後彼女に手を出さなければ俺の方からはもう何も言わない。」

「…そう。」

 

事を大きくしたくはない学校と女子生徒はほっとしたように胸を撫で下ろす。

だが「何も言わない」のはあくまで海斗だけの話。

鈴花の行動を阻害するものでも、鈴花の意志を封殺するわけでも無い。

 

「…私も態度を改めるよう努力する。今回に関しては私も悪い面があったしね。でも、次こういう事したら…。」

 

鈴花は底冷えするような声で「覚悟しておいてね」と口にする。

女子生徒はその剣幕に息をのんだことだろう。そして手を出したら本当に不味いという事も理解したように見える。

 

「…では、これで。」

 

先生が何かを言う間もなく、鈴花はその場を後にした。

海斗も彼女の後について行き、校長室を退室。残ったのは、呆然とする校長、唖然とするクラス担任、そして愕然とする女子生徒のみ。

 

「…お話、しましょうか。」

「…はい。」

 

女子生徒は逃げられないと悟ったのかバツが悪そうに肩をすぼめている。

―――その後、女子生徒は厳重注意と3日間の停学。担任はいじめが起こった責任を取る形で担任をやめることとなった。ちなみに後任は真木で、前年の霊使のやらかし具合に思わずため息を吐いたらしい。

 

(あいつはトラブルメーカーなのか…?)

 

―――しかも今年も本人が全く関わっていないとはいえ既に騒動が起きている。

真木は霊使の不幸体質の処理をどうしようか頭を悩ませるのであった。




登場人物紹介

・鈴花
ようやく何とかなりそう

・海斗
取り敢えず何とかなりそう

・霊使
知らぬ間にトラブルメーカー認定

キトカロスさんはぶっ壊さなきゃいけない決まりでもあるのか…?

水樹君のデッキ強化

  • ネクロス
  • リチュア
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。