「相棒」   作:ダンちゃん1号

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届かない平和

 

克喜は霊使と別れて一人で校舎を探索していた。

特に大したことはなく、ゆっくり校舎を探索していた。

いっそ不気味なほどに何もない。人も、生活の跡も。本当に何もかも。

「人がいるのか」という疑問さえ浮かんでくる。それほどまでに異常な状況だ。

 

「…ハイネ、いる?」

「ええ、いますとも。…不気味、ですか?」

「…まあ、な。ハイネは?」

 

それでもとなりにハイネが居る。それだけで少し安心できた。

彼女が隣にいるという事自体が奇襲を防ぐ手立てになるし、何よりも克喜の精神が安定する。

 

「正直に言うと…すごく、怖いです。マスター(ヴェール)の方が適していたのでは…?」

「ヴェールは…うん、余りにも非力すぎる。」

「あぁ…。今回は荷物の運搬を含めて、ですからね。確かにマスターは筋力が、その…。」

 

おまけに今回のような力仕事はヴェールはとことん向いていない。

だって彼女の筋力は見た目相応だ。実年齢も一桁であるようだから、重い荷物をもっては体を壊す可能背も考えられる。そう言った事からも今回彼女は留守番だ。

もしデュエルになったら存分に動いてもらうつもりなので問題はない。

 

「さて、と。」

「書類を探しに行きますか…?」

「そうするしかないよな。」

 

何が待ち受けているか分からない、教室のドアに手を掛ける。

そして勢いよくドアを解き放ち―――

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「大分残っているな、書類。」

「あの後…ここに来ることはありませんでしたから。」

「…そう、だな。」

 

あの事件の跡、公式的にはこの学校に立ちいったものは一人もいない。それは生徒昇降口の鍵を明かしてもらった時に担当者から話を聞いている。

だが、三人が立ち入った職員室は明らかに荒されていた。

しかも暗幕で光が入ってこない。仕方が無いと言わんばかりに海斗がスマホのライトで周囲を照らしながら探索することにした。

鈴花と真木の二人はその後ろについて行く形で職員室を探索する。

 

「…荒されてるから余計に探しにくいだろう。」

「もしかしたら個人情報をここから得ていたのかもしれませんね。」

「もしそうだとしたら…穏やかじゃないな。ここの全校生徒600名近くの身が危なくなる。」

 

管理ミスだと言われればそれまでだが、そもそも廃校に資料が残っているだなんてどうして予想が出来ようか。そもそもこの話題が上がったのもつい最近なのだ。

ならば誰かがここの事情、つまりは書類の取り残しを知っていた―――というのがしっくりくるだろう。

つまり情報の出どころはここの事を知っていて、なおかつ書類が残っているという予想が出来たものに限る。

 

「…なあ、桜庭。」

「…なんですか?」

「桜庭は今回の相手の事をどう思う?」

 

真木に急に話を振られた鈴花は言葉に詰まった。

今回の事をどう思うと聞かれても、鈴花はそれを言葉にできるほどの何かを持ち合わせているわけでは無い。だから、「あくまで憶測ですよ」と念頭に置いたうえで自らの予想を語り始めた。

 

「私は…四遊君の名前を使って、悪事を働くことで()()()()()()()()()()()()()()()()んじゃないかなって…。」

「…つまり?」

「この組織を作った人間はあの事件において、四遊君に悪名を被せたいと思った人間―――つまりは、あの事件で検挙されなかった奴ら―――じゃないでしょうか?それに加えて、この学校の内部を知っている者…生徒か生徒であると考えられます。」

「――――!」

 

もし、そうなのだとしたら。

本当に、霊使の名を貶める事だけが目的なのだとしたら。

この組織は何と邪悪な組織であろうか。並大抵の事では眉一つ動かさない真木が戦慄するほどに、悪意と憎悪に塗れている。

だってそうだろう。「四遊霊使」という名前は誰でも知っているものだ。彼は確かにこの国を救った英雄で、たくさんの命を救った救世主なのだから。

だが、それがただの演技だというように知ったら、一体人の心はどうなるだろう。

愛憎ひっくりかえる―――で済めばいいのかもしれない。

それだけでは絶対に済まない。人は信じていたものに裏切られると怒りを抱く。有名でああればある程に、それは顕著になるだろう。

著名人がしでかした時に起こるそれが、学生の霊使に向けられるとなるとそれはきっと彼の心を押しつぶしてしまうだろう。

 

「…これを考えた奴は相当な悪党だな。」

「しかも四遊君に相当強い恨みを抱いている―――」

「―――あの事件の残党…か。これは穏やかだとかそういう話ではない…!」

 

だが考えれば考えるほどにあの事件と今回の宗教にかかわりがあるように思えてならない。

それが分からないから二人はこんなにも不気味に思っているのだ。

 

「―――先生、これ―――。」

「渡瀬…?」

 

二人でこれの目的は何か、という事を考えているときに、渡瀬が怯えを押し殺したかのような声を放つ。

真木は渡瀬が光で照らしているそれを見た。

二人は「それ」を見たとき、思わず鈴花の方を見た。

 

「…ば、かな…!?」

「鈴花さん!目を塞いで!」

「――――え…?な、なんで…?」

 

そこに横たわっていたのは、鈴花と同じ髪の毛、鈴花より幾分か年を取っているが似たような顔つき。

それだけで「桜庭鈴花」の親類であることが見抜けた。

そして警告が飛ぶよりも早く、「それ」を見てしまった鈴花は信じられないというように、その場にへたり込んでしまう。

 

「か…、かあ、さん?」

「――――!!」

 

鈴花にとっての地獄はあれで終わりでは無かった。

むしろ―――ここからが始まりだったのかもしれない。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

克喜がドアを開けた次の瞬間、ドアの横から「かしゅっ」という何かが発射される音がした。

 

「―――克喜ッ!」

「うおっ…!?」

 

警告の声とともに後ろに引っ張られる。そうして、一瞬前に居た一歩前を鋭い何かが通過していく。

それは、一瞬で克喜の前を通り過ぎるとドア横の壁に突き刺さる。

 

「…ナイフの、刀身?」

「―――スペツナズナイフ。これは…刀身を射出できるナイフ…!」

 

それは携帯のライトで照らされてその姿を現した。

刀身に何カ所か穴が開いていて、刀身の軽量化が図られたダガー状の刃。それを射出する武器はそこまで多くはない。―――恐らくは「スペツナズナイフ」と呼ばれるものだ。

 

「…助かったよ、ハイネ。」

「ええ。…良かった。」

 

スペツナズナイフ。これはばねの力で刀身を射出することもできるナイフだ。

あるゲームのバッドエンドではこれで主人公勢が殺されたのだから―――と克喜は嫌にその光景を覚えていた。

とにかくハイネの警告が無かったらきっとこのスペツナズナイフの刀身が頭に刺さっていただろう。

本当にハイネを連れていて良かったと思える。

目の前に飛んできた「明確な死」がハイネのお陰で避けられたのだから。

彼女が布で体を引き寄せてくれなければ、確実に死んでいた。

 

「…全く。一体いつからここは暗殺者養成学校になったんだ?」

 

一体いつの間にこんな改造をしたんだか、という呆れが少し遅れてやってきた。

命がかかっている状況でこんな事を思う余り、どうやら自分はいつの間にかずいぶんと図太くなったようだ。

 

「…平和に過ごしたいんだがなぁ。」

「しょうがないですよ…。最も…散々非日常(私達)に関わってますから。平和とは程遠い日常を送ることになるんじゃないかなーって…。」

「ふえぇえぇ…。」

 

既に非日常が日常になりかけていて、それを自分も受け入れているという事なのだろうか。

克喜はそれならそれでいいと思っていた。

それだけ非日常に浸っていればきっと、彼女たちが自分の傍から離れることは無いだろうから。

 

「…克喜。」

「…分かってるよ。」

 

―――そんな事は後で考えればいい。

今、克喜が考えるべきことはこの罠を誰が仕掛けたか、である。

そもそもスペツナズナイフは自作できるようなものではないし、たとえ作れたとしても冶金技術がなければできるのは百均の包丁も真っ青になるレベルの切れ味のなまくらだろう。

「どこで入手したのか」、そして「なんでそれを仕掛けているのか」。

誰がどうやって仕掛けたのか、当たったのかどうか。それを確認する場所は何処か。

克喜は一つ一つ物事を積み上げて考える。

そうすればそうするほど、これをやった犯人はすぐ近くにいるように思えた。

入り口を開けた瞬間に発動するにしてはブービーなトラップ。仕組みとしてはドアを開けることで滑車などが動き、スペツナズナイフのトリガーを引くというものだ。

開けたら発射される、という機構自体は簡単に作れるものなのだろう。慣れているのであれば、それこそ克喜達が侵入してからでも間に合うような簡素な物のようだ、とハイネが分析していた。

何で彼女がそう言った事に詳しいかはあまり聞かないことにしている。恐らく戦争絡みだろうから。

とにかく、このスペツナズナイフ発射機構は簡素なもので、手慣れていれば侵入してから設置しても問題ないという事だ。

であれば、それを行ったものが近く―――部屋の中に居るという結論に至るのもそう遠い話では無かったのだ。

 

「…今のを避けるか…。」

 

克喜の予想を肯定するかのように、人影が現れる。

髪は短く、ライトに照らされ濡れるように輝く黒色だった。

背学校も小さく、克喜の胸程の身長しかない―――そんな少女だった。

だが、その目は既に何人も殺しているかのような、命を命と思っていない空虚な目だった。

 

「お前…か。こんな危ない改造をしたのは。」

「ああ。…あの方の友の名を騙るなど許しては置けないからな。」

「なるほどな。…そんなに霊使を信仰しているのか。」

 

その言葉―――というか、霊使への呼び方に不満を示しながらも少女は頷く。

 

「あの方は神を斃し英雄となられた唯一絶対の御方。あの方こそこの世界を照らす光なのだ!光を汚す者は取り払う―――あの方がそうしたように!」

「―――デュエルで、か。」

「その通りだ。さあ、デッキを抜け、ディスクを構えろ!友の名を騙る不届き者め、この紫焔(シエン)容赦せん!」

「…問答言わずに襲い掛かってきやがったァーっ!?」

 

そして少女はデュエルディスクを構え、克喜にデュエルを強制してきた。いつの間にか克喜の腕には手錠がまかれており、デュエルするしかこの状況を脱することは出来なさそうだ。

こんな形で再び違法デュエルディスクを見ることになるとは思わなかったし、何よりも自分が二度もそれに巻き込まれたというのが信じたくなかった。

だが、やるしかないというのが事実だ。

 

「…やってやろうじゃないか…!デュエル!」

 

こうして廃校舎の死闘は幕を開けた。




登場人物紹介

・克喜
違法デュエルに巻き込まれた。
もうやるしかない。

・鈴花
見てはいけないものを見た。


デュエル開始の宣言…!
デッキ考えるのが大変なんであまりしたくないだなんて言えない…!

次回もお楽しみに!

水樹君のデッキ強化

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