「相棒」   作:ダンちゃん1号

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奇跡を起こす権利

 

「先攻は私だ。…あの方の友ならば乗り越えられるだろう?」

「霊使への信頼感がすげぇんだけど…。」

「ごちゃごちゃ言うな!私のターン。私は手札から魔法カード【増援】発動!効果で【忍者マスター HANZO】を手札に加えてそのまま召喚。…効果でデッキから【忍法】カード―――【忍法・超変化の術】を手札に。…カードを二枚伏せてターンエンド。」

 

紫焔 LP8000 手札三枚

モンスターゾーン 忍者マスター HANZO

魔法・罠ゾーン  伏せ×2

 

(【忍者】…!)

 

【忍者】―――下級戦士族をメインに据えたデッキだったか。【忍法】カードを駆使して戦うデッキだ。

特に厄介なのは相手(自分)の場のカード一枚を墓地送りにできる効果を持つ【忍法・超変化の術】だ。あのカードの発動を許せば、【ヴェール】や【バイスマスター】といった【ウィッチクラフト】において重要なカードが墓地送りにされてしまう。

 

「今伏せたカードは…まあ、いい。俺のターン。ドロー…俺は手札から魔法カード【ライトニング・ストーム】を発動。魔法・罠カードをすべて破壊。」

「…ぬかったな。破壊されたカードは【やぶ蛇】!効果でデッキから【氷剣竜ミラジェイド】を場に!…もう一枚の【忍法・超変化の術】は墓地に送られる。」

「…なるほど。厄介、極まりないな。」

 

厄介な罠カードをサーチし、これ見よがしに伏せることで除去を誘発。それによって破壊されたときに効果を発動するカードの効果を起動し、一気に制圧を図る。

なるほど、中々に厄介なデッキだ。

採用されているカード一枚一枚にちゃんとした理由があるし、何よりも普通に強い。

 

「…ま、何とかなるようにデッキは組んでいるんだけど…な!手札の【粘糸壊獣クモグス】を【氷剣竜ミラジェイド】をリリースして召喚!」

「…は!?」

「そして俺は手札から【ウィッチクラフト・シュミッタ】を召喚!更に手札から魔法カード【モンスターゲート】発動!【シュミッタ】を墓地に送りデッキの上から通常召喚が可能なモンスターカードが出るまでデッキをめくる!さあ行くぜ!一枚目、【ウィッチクラフト・コンフュージョン】!二枚目【ウィッチクラフト・マスターピース】!三枚目【おろかな副葬】!四枚目【ウィッチクラフト・バイストリート】!五枚目!【ウィッチクラフト・サボタージュ】!六枚目【錬装融合】!七枚目!【ウィッチクラフト・パトローナス】!八枚目!【(あか)の聖女カルテシア】…!【赫の聖女カルテシア】は通常召喚が可能なためそのまま召喚!残りのカードは墓地に。」

「…そっちも中々厄介じゃないか。だが…いいのか?お前は【ミラジェイド】を墓地へ送った。これでこのターンの終わりにお前のフィールド上のモンスターは全て破壊される―――!」

 

ミラジェイドの効果は確かに厄介だ。特にこの効果は事実上の耐性としても機能している。

ただ、その効果にも穴はあった。

その穴に気付けない限り、紫焔に勝ち目はないのだが、彼女はそれを理解しているのだろうか。

 

「それはどうかな?…【赫の聖女カルテシア】の効果発動!このカードと手札の【ウィッチクラフト・ピットレ】で融合召喚!【ウィッチクラフト・バイスマスター】!更に墓地の【ウィッチクラフト・シュミッタ】の効果を発動!墓地のこのカードを除外してデッキから【ウィッチクラフト・ドレーピング】を墓地に。―――魔法使い族モンスターの効果が発動したため【バイスマスター】の効果が発動!デッキから【ウィッチクラフト・エーデル】を召喚。【エーデル】の効果発動!このカードをリリースして墓地の【赫の聖女カルテシア】を蘇生!【バイスマスター】の効果で【忍者マスターHANZO】を破壊!更に墓地の【錬装融合】の効果発動!このカードをデッキに戻しシャッフルしてデッキから一枚ドローする。更に墓地の【ピットレ】の効果発動!このカードを除外してデッキから一枚ドロー。その後手札の【ウィッチクラフト】カード―――【ウィッチクラフト・スクロール】を墓地へ。そして魔法使い族モンスターの効果が発動したため【バイスマスター】の効果が発動。墓地から【ウィッチクラフト・パトローナス】を手札に。」

 

思うがままにデッキを回し続ける克喜。

今回のデュエルにおいては運が良かったといえるだろう。まず、【モンスターゲート】の効果で【赫の聖女カルテシア】を引き当てる事が出来た事。次に、【ピットレ】や【錬装融合】のドロー効果でデッキから望んだとおりのカードを引けたこと。

そして何よりも初手で【ライトニング・ストーム】が手札にあった事。

これらのいくつもの偶然が重なり、今の克喜のデッキは最高潮を迎えていた。

 

「まだだ、まだ終わらない!手札の【Emハットトリッカー】は場に2体以上モンスターが居る場合、特殊召喚できる!【Emハットトリッカー】を特殊召喚!【赫の聖女カルテシア】はチューナーモンスター!当然、レベル4【Emハットトリッカー】にレベル4【赫の聖女カルテシア】をチューニング!シンクロ召喚、レベル8【混沌魔龍 カオス・ルーラー】!このカードがシンクロ召喚に成功した時、デッキの上から5枚をめくる。その中の光属性か闇属性のカード一枚までを手札に加えてそれ以外のカードを墓地に送る。…今回手札に加えるのは【ウィッチクラフトゴーレム・アルル】!残りの四枚―――【ウィッチクラフト・コラボレーション】、【ウィッチクラフト・ジェニー】、【ウィッチクラフト・コラボレーション】、【ウィッチクラフトマスター・ヴェール】は墓地に。」

 

墓地とフィールドのカードを見比べる克喜。

本来【ウィッチクラフト】純正構築であればここまで回ることは無いだろう。恐らくは【コンフュージョン】から召喚される【バイスマスター】の効果で呼び出した下級ウィッチクラフトの効果を合わせて【ウィッチクラフトマスター・ヴェール】が並ぶくらいだ。少なくともシンクロモンスターが並ぶだなんてことは無かったし、それに加えて事実上の妨害手段が運次第とはサーチ可能になるということも無かっただろう。

 

「…バトル!【混沌魔龍カオス・ルーラー】で【粘糸壊獣クモグス】にアタック!」

「…ッ!」

「続けて【ウィッチクラフト・バイスマスター】でダイレクトアタック!」

 

紫焔 LP8000→7400→4600

 

克喜は自分で出したクモグスを戦闘破壊。

さらにバイスマスターでダイレクトアタックを決め、ライフアドバンテージを広げていく。

 

「…俺はカードを一枚伏せて…エンドフェイズ。俺の場に【ウィッチクラフト】モンスター…【ウィッチクラフト・バイスマスター】が存在するため墓地の各【ウィッチクラフト】魔法カードの効果が発動。【コンフュージョン】【コラボレーション】【ドレーピング】【サボタージュ】、この四枚を手札に。…さらに【バイストリート】と【スクロール】の二枚は表側表示でフィールドに。…ターンエンド。」

 

克喜 LP8000 手札六枚 

モンスターゾーン ウィッチクラフト・バイスマスター

         混沌魔龍 カオス・ルーラー

魔法・罠ゾーン  伏せ×1

         ウィッチクラフト・バイストリート 

         ウィッチクラフト・スクロール

    

克喜の【ウィッチクラフト】は未だかつてない進化を遂げた。

たった一枚のモンスターから圧倒的な大増殖を遂げることができる。しかも、当然の如く【ウィッチクラフトマスター・ヴェール】の召喚も容易くこなせる。―――克喜はこのデッキを組んでからというもの【ウィッチクラフト】に足りない何かが解決された、そんな確かな手応えを感じていた。

 

「…何故【ミラジェイド】の効果が発動しない…?」

 

そんな克喜を余所に困惑しているのは紫焔だ。彼女は【氷剣竜ミラジェイド】の効果が発動しないことに疑問を抱いているようだ。

今頃は更地となっているはずの克喜のフィールドには未だに二体のモンスターが健在。ミラジェイドの効果が発動された形跡さえない。

 

「【ミラジェイド】のリセット効果は()()()()()()()にしか発動しない。…さて、お前はどうやって【ミラジェイド】を出したんだったかな?」

「…【やぶ蛇】の効果…あっ!」

「気づいたようだな。…自分が扱うカードの事くらいきちんと把握しておけ。基本中の基本だぞ。」

 

最も効果が発動していたところで【バイストリート】の効果で破壊などされないのだが。それは言わない方が彼女のためというものだ。

こういうやり取りをしているとまるで紫焔という少女が「デュエルの初心者」という印象を抱く。

 

(…まるで好きなカードを詰め込んだだけのデッキ…。子供の頃扱っていたデッキをそのまま持ってきたような…。)

 

現に彼女は自身が使っているカードの効果さえを把握することが出来ていなかった。カードの効果の把握に努めることは誰だって行わなければならない事だ。デュエルを嗜むのならばせめてそれだけはしておくべきだろう。

 

「…わ、私のターン…。ドロー。…メインフェイズ開始時【強欲で金満な壺】発動。EXデッキから六枚除外して二枚ドロー…!」

「…その効果にチェーンして【ウィッチクラフト・バイスマスター】の効果発動。デッキから【ウィッチクラフト・ポトリー】を召喚。【バイスマスター】の効果は、融合モンスター以外の魔法使い族モンスター、もしくは魔法の効果が発動した場合。…下手に使うと、大やけどするぞ?」

「うっ…うぅ…。」

 

もはや、打つ手は無し、と言わんばかりに紫焔は両手を上げた。

どうやら彼女は【強欲で金満な壺】のドロー効果に全てをかけたようだが、それさえ今の克喜の盤面を崩すには至らないと判断したようだ。

 

「降参、する…。」

「却下で。」

「…なっ!?」

「…メインフェイズ終了時フィールドの【ウィッチクラフト・ポトリー】の効果発動。このカードをリリースして手札から魔法カード一枚をコストに―――、その代わりに【ウィッチクラフト・スクロール】をコストにして【ウィッチクラフトマスター・ヴェール】を召喚!」

 

克喜は紫焔のサレンダー宣言を却下し、相手のターン中に動く。

サレンダーは互いに同意がなければ成立しない。―――克喜が突っぱねればサレンダー機能も作動しない。

 

「…恥をかけと?」

「最後まで足掻いて見せろよルーキー。…お前のデッキを見てると昔の霊使(あいつ)を思い出す。」

「…?」

「あいつもな、今でこそ「英雄」だなんて呼ばれてるけど。…あいつも昔は弱かったんだ。でも、あいつは勝とうとして足掻いていた。実際にあいつはミラクルかまして勝利をかっさらって行ったこともあったけどな。…お前はその奇跡の権利を自ら放り出したんだ。足掻けば、何かが変わったかもな?」

 

といっても彼女はもう彼女自身のターンを放棄している。

だから強制的に克喜のターンになるわけだ。

彼女の心がもう少し強ければ、あるいは霊使みたいに逆境上等と笑い飛ばせれば、「奇跡を起こす権利(足掻くこと)」を諦めなければ勝負はもう少し長引いていたはずだ。

だが、彼女は逆境に折れ、自ら奇跡を起こす権利さえも手放し、足掻くことを諦めた。

 

「もしこれからもデュエルをするなら覚えとけ。―――デュエルっていうのは諦めなきゃ活路が開くことだってあるんだ。俺のターン、ドロー!俺の場のモンスターで一斉攻撃!」

 

【バイスマスター】と【カオス・ルーラー】の攻撃力の合計は5800。既に紫焔の残りライフポイントは簡単に消し飛ぶだろう。

ヴェールから「初心者こんなにボコボコにして大丈夫?」という視線が送られてきたが、それは彼女自身にかかっているとしか言えない。彼女は強いからここで折れてもいずれは立ち上がってくれるだろうが。

 

「…殺そうとしたことが許せへん。」

 

「ああー…」と視線で訴えかけてくるヴェールを余所に、ハイネ、ジェニー、エーデルの三人が支援に一撃を叩き込んだ。

 

紫焔 LP0

 

デュエルの終了を告げる甲高いブザー音が鳴り響く。

これで校舎の一角での戦いは終わりを告げたのであった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「…ぉえ…」

「桜庭…。大丈夫…なわけ、ないか。」

「…あんな形で「再会」するなんて思いもしなかったでしょうから…。」

 

鈴花は職員室床にうずくまったまま動かなくなってしまった。

時々苦しそうにえずき、既に胃液を何度も床にぶちまけている。それでもなお、彼女は顔面蒼白のままだ。

それほどまでに「あの光景」のショックが大きかったのだろう。

―――自分の家族が冷たい死体となって、職員室の引き戸棚の一つに詰め込まれていたというものは。

彼女の母親であろう死体を見ただけで、海斗は頭痛と吐き気に襲われている。より関係が深かった彼女はより大きなショックを受けていた事だろう。

 

「…なんで…。」

「落ち着け。…流石にこれは看過できん。今回は書類が目当てだったんだが…見つかるのが死体…しかも生徒の親族とくれば、な。警察に電話するが…構わないな?」

 

こうなってしまえばもう書類探しだとかそう言う建前を言っている場合ではない。

あってはならないものがここにはある。

 

「さっさと警察に―――」

「先生、後ろッ!」

 

そうして連絡しようとしたとき、真木の背後の暗闇から手が伸びて来た。

その手は真木の喉元に狙いをつけて高速で迫っている。

 

「…ッ!」

 

真木は辛うじて交わす事が出来た。しかし身を動かした時に携帯を奪われ、そのまま握りつぶされてしまう。

これで外界と連絡する手段は海斗のスマホただ一つのみとなった。

暗闇から現れた軽薄そうな男は、真木が生きているとみるや否や即座に真木に対して蹴りを放った。

体勢を整える事が出来なかった真木はその蹴りを側頭部に喰らい大きく弾き飛ばされる。

それを見た海斗はすぐにキトカロスに呼びかけた。鈴花に気付かせてはならない、そうしたらきっと彼女はより深く混乱してしまう。

 

「困るんだよねぇ、そういうのされると…さぁッ!」

「…だからって普通人を蹴り飛ばしますか。」

「…へぇ。」

 

自前のナイフを構えながら急に現れたキトカロスを見て男はビビるでもなく驚愕するでもなく、興味深そうに「へぇ」と声を漏らす。そう言う存在が居るという事をはじめから知っているような。

 

「精霊憑き…か。」

「『精霊憑き』…?」

 

精霊―――確かキトカロス達の事をそう呼ぶのだったか。

デュエルモンスターズには精霊が宿っていて真に力を認めた者にだけ力を貸す―――だなんて話もある。

とにかく、キトカロスはスピリチュアルな存在で、それだけ珍しいのだ。

―――その割にはやけに『精霊』が付いている人間も知っているのだが。

 

「お前が本当に使いこなせているかどうか試してやるよ。…使えるんならあの方の為に仕えさせてやる。」

「あの方…?…やだね。俺達は誰にも仕える気は無い。」

「…交渉は決裂…と。じゃあ、しょうがねぇな。その女ども置いてさっさと死んでくれや…といいたいんだがな。デュエルで勝てば見逃してやるよ。あの方のやった通りに…な。」

 

そんな事を言いながら暗闇から現れた男はデュエルディスクを構える。

それに応えるような形で海斗はデュエルを受け入れた。真木は側頭部を蹴りぬかれ気絶、鈴花は錯乱していてまともに戦えそうにない。

ならば誰かが戦わなければ生き残れない―――それが海斗の答えだ。

それに、何よりも。渡瀬海斗が許せなかったのは、キトカロスを、【ティアラメンツ】達を見下したかのような発言だ。

 

「…完膚なきまでにボコボコにしてあげるよ。ほら、君に先攻をくれてやる。」

「…後悔するなよ?…犬牙(ケンガ)、参る!」

「能書きはいいからさっさとかかってきなよ、このドグサレ。」

 

破壊と蹂躙の二回戦目の幕が今、上がろうとしていた。




登場人物紹介

・克喜
なんやかんや【赫の聖女カルテシア】と【ウィッチクラフト】の相性の良さを実感。もう【ウィッチクラフト・カルテシア】じゃん…と思っている

・紫焔
何故か暗殺術にたけた少女。デュエルの腕はからきしなようだが…。

・海斗
最凶、動きます。

というわけで次回はみんな大好き虐殺タイムです。
犬牙くんは原形を保てるのかどうか、ぜひお楽しみに!

水樹君のデッキ強化

  • ネクロス
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