「相棒」   作:ダンちゃん1号

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お前だけは

 

「…く、暗いね…。」

「そうだなあ…。ウィン、スマホは―――」

「持ってないよ。…霊使こそ持ってきてないの?」

 

霊使とウィンは二人で並んで暗い校舎の中を歩く。

霊使は最初こそスマートフォンのライト機能を使おうと思っていた。だが、彼はすぐにその判断をやめることになる。

何故なら―――

 

「…持ってるけど、如何せん古い型だからバッテリーがクソザコナメクジなんだよねぇ。ライト使用したら多分30分持たない。」

「変えようよ!?」

「金がないんだよぅ…ッ!」

 

金がなくて霊使のスマホは未だに旧世代の物だったからだ。おまけに使い古しでもあるため、普通に動画とかを一時間で充電が消し飛んでしまう。しかも内蔵メモリも16GBと非常に小さいため、霊使のスマホはSNSを入れるだけで精いっぱいだった。

ライト機能など使おうものなら、ただでさえ少ないバッテリー稼働時間がより短くなってしまう。もしもの時の連絡を確実にするためにもそれはいただけないというものだ。

 

「…明かりはないってことでお願いします。」

「分かったよ。…でさ、霊使、話は変わるんだけど―――」

「この事件の、黒幕…か。ウィンが気にしているのは。」

「そう。…誰、なんだろうね。」

 

明かりの話を切り上げて、ウィンは霊使にこの事件の黒幕は誰かを聞いてきた。

ウィンにとっても霊使にとっても、今回の事件はたとえ解決したとしても到底いい気分になれるものではない。だって、勝手に自分の名前を使われ、あまつさえ洗脳まがいの行為をしているのだ。

それに対して「怒りを抱くな」というのが無理な話である。

そんな事情もあってか、二人はこの事件の黒幕は見つけ次第ぶちのめすと決めていた。相手がデュエルを挑んてくるのならデュエルで、喧嘩するのならば全員で。完膚なきまでに負かしてやろうと、もう二度と悪い事が出来なくなるよう徹底的に心をすり潰そうと決めていた。

 

「…で、ここは…講堂か。…なんでこの学校には講堂があるんだ?集会の時涼しかったから別にいいけどさ…。」

 

二人は自然と行動に足を向けていた。もしここがカルト宗教だとするのならば、あるいは誰かを崇める組織であるのならば目立つ場所に何かがあると確信していたからだろうか。

そしてこの学校において一番特徴的な場所といえばこの講堂だ。霊使は未だになんでこの学校に講堂があるのかが分かっていない。それを知る前にこの学校が廃校となってしまったからだ。

 

「…なんかすごい嫌な予感する…。」

「ああ…。」

 

そして一番目立つところに居るという事はその人物はこの集団の長である可能性が高いという事だ。自らの行いを「霊使の御心」と言い張っている悪党の親玉との対面だって考えられる。もしかしたらこの件とこの組織は一切かかわりを持っていないのかもしれないが、咲姫曰く「薬物らしきもの」を使っていたらしい為、そんなことは無いだろう。最も、この手の宗教は勝手に崇めることが大半なので一番厄介な「四遊霊使という人間を伝聞でしか知らない」という事も起こりえる。

 

「入りたくない…!圧倒的に入りたくない…ッ!」

「厄介事の匂いがプンプンしてるもんね…ッ!」

 

どのみち、この講堂に入ってしまえばトラブルからは逃げられない。平穏無事に暮らしたいだけなのに、どうしてこんな目に遭うのだろう。

いっそのことどこぞの爆弾魔のように証拠も残さず、跡形もなく消し飛ばしてやりたい気分だ。

 

「…何が起こるか、分からないのがこんなに怖いとは…。」

「そりゃそうだよ。扉開けたら即死罠なんてこともあるのかもしれないし。」

「そう言われると余計に開けたくなくなるなぁ!」

 

むかつくほどに不利になると分かっていても、それでもやらねばならないことがある。

どれだけ追い詰められていたとしても、進まなければならない時がある。今までの冒険の中で霊使は散々それについて学んだはずだ。

それでも、どうしても進みたくない時というのはある。―――例えば、自分が自分でなくなってしまう―――だなんてことが起こりそうだと感じているときとか。

 

「ええい、いざ、南無三!」

 

だが、進まなければ何も始まらないのだ。

意を決して、霊使は講堂のドアを開ける。―――そして、そこで霊使がみた物は―――。

 

「…なるほど。お前が―――この宗教のトップだったのか。」

 

これまでの疑問の全てに納得できるかどうかはともかく、当てはまる答えを持つ者だった。

まず、なんて自分の名を騙ったのか。これは「四遊霊使」という名を貶めたいという事なのだろう。この男は自分を恨んでいるらしい。ならその名を貶めたいと思うのは当然のことではなかろうか。

次に、何故この学校の事を知っているか。顔を合わせることは無かったが、この男もこの高校に進学していたという事だろうか、あるいはそれを知る物を配下にか取り込んでいるかなのだろう。

その他多くの疑問にもこの男の持つ何かが当てはまる。こじつけ臭いところもあるだろうが、それでも納得できる要素の方が強い。

 

「なんとまあ…執念深いというか、いい加減にストーカーをやめろというか…。」

 

最も、相手が誰だったとしてもこの感情は変わっていなかっただろう。

むしろその男であった分、容赦なく叩き潰せることだろう。その男が霊使を嫌っているように霊使もその男の事は嫌っているのだから。

 

「久しぶりだなぁ…四遊ぅ…?」

「こっちは会いたくなかったよ。…外道。」

 

そこには最早不倶戴天の仇という言葉では足りないほどに憎たらしい、一人の男が立っていた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「…落ち着きました?」

「ありがと、キトカロスさん…。」

 

鈴花はキトカロスに背中をさすられて少し落ち着いてきていた。彼女曰く、真木と海斗の二人は周辺の捜索に出かけたらしい。

精神的に少し落ち着いてきて、ようやく一息つけそうだった。

 

「…なんで、こうなっちゃんだろ…。」

 

一息つけば、後悔の念が錘のように圧し掛かってくる。何で助けられなかったのか、なんであの時、家を襲った犯人に対峙できなかったのか。

―――なんで自分一人だけおめおめと逃げ延びているのか。

想えば思うほど自分はあの場で一緒に死にたかったんだ、と強く実感する。

逃げることで家族を失うと分かっていながらも、家族を犠牲にして逃げた。―――今まで自分が逃げ続けてきた罪が今明確な形となって鈴花の前に現れている。

 

「…私があそこで立ち向かえていれば…こんなことにならなかったのかなぁ…。」

「鈴花…。貴女は…。」

 

キトカロスはそんな鈴花にかける言葉は思いつかないようだ。

キトカロスは親しい存在を一度失ったと思い込んだ時はあったが、それでも最後は彼女の下に帰ってきてくれた。だが、鈴花は違う。彼女の家族はもう、二度と声を放つことがない。二度と、鈴花を抱きしめることも無い。二度と鈴花にそのぬくもりを、愛情を伝える事が出来ない。

 

「…私が、見殺しにしたんだもん。そうだよ…きっと私はもう許されることは無いんだろうなぁ。」

 

だから、彼女の自嘲を止めることはできない。

でも、そんなキトカロスにも言えることは一つある。

 

「…あなたは生きるべきですよ。例え許されないと感じていたとしても…それでもあなたは「生き延びた」のですから…だから、貴女が満足したと感じるまでは生きるべきなんです。」

「…無理だよ。…私はもう、前を向けない。…私の未来は、後ろにしかないの…!」

「…それこそ違います。」

 

今の鈴花に必要なのは、「今」を見る事のように思う。

今まで彼女を見てきて鈴花は「過去に縛られている」ように見えた。

今を生きる人間にできる事は過去の人間の思いを背負い生きる事くらいだ。死の際に何を伝えようとしていたか、だなんてことは知りえるはずもない。

だから、嫌でも前を向かなくてはいかない。見たくなくても「今」を見なければならないのだ。

 

「…殺気?いや、この感覚は―――なるほど。鈴花、一緒に「今」を掴みに行きましょう。」

「…「今」、を?―――どういうこと?」

「恐らくですが、今霊使か九条さんがあなたを苦しめる一因の元凶と対峙しました。…嫌な雰囲気がより濃くなりましたからね…ほぼ間違いないかと。」

 

―――ちょうどいいタイミング、まさに神がかり的だと言っていいだろう。頭上に感じていた嫌な雰囲気がより一層濃くなった。恐らくはこの雰囲気を持つ者が臨戦態勢に入った―――という事なのだろう。

ならば、霊使が行っているであろう、今を掴む戦いを一緒に見るのがいい。そのままこの組織の頭を取ってもいいだろう。

そうしてほんの少しずつ、彼女を過去から解き放つ。―――それくらいしか彼女を癒す方法がない。

 

(…少しずつでいい、少しでも彼女が前を向けたら。)

 

―――いつか自分の中にくすぶる罪悪感とも向き合えるだろう。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

霊使は外道と相対していた。

なんてことはない、ただ外道という男のたくらみを阻止したいだけだからだ。

気に入らない男の気に入らないたくらみは霊使の怒りに触れている。

それだけ霊使は外道という男に怒りを抱いている。

―――故に、霊使が最速で殴り飛ばそうとするのも当然のことだった。

 

「―――お前はさっさとブタ箱にぶち込むべきだった。」

「は!?たかが他人の家族―――お前にとっては赤の他人で少し遊んだだけだってのにそんなに怒るかねぇ?」

 

ただ、霊使がここまで怒っているのには一つ、大きな理由がある。

それは、外道という男がどれだけ救いようのない男かを理解するには十分なものだった。

この男は嬉々として「人殺し」と、「陵辱」について語ったのだ。流石の霊使も吐き気を覚えるほどには最悪だった。

 

「…お前だけは生かしては置けない。ここで、殺す…ッ!」

「おいおい、冷静になれよぉ?まさか英雄様が人殺しなんてするはずないものなぁ?」

「…てめぇ…ッ!」

 

だから、霊使は迷いなくこの男を一発殴ることにしたのだ。

デュエルなどする気にもなれない。―――こんな形のデュエルは望んでいない。

 

「俺を殴りたかったらよぉ。お前がかつてやったようにデュエルで打ち負かせよなぁ?それとも何か―――あの時はまぐれってかぁ!」

「…はあ。」

 

だが、外道が言うことも事実。あの時はデュエルが強い方の我を通した。ならば今回も同じように打ち負かせばいいだけの話だ。それ以上でもそれ以下でもない、純然たる強さだけが己を導くカギとなる。

だから、霊使は外道から距離を取って、デュエルディスクを構えることにした。

相手の万丈に立たせれるのは癪だが、それ以上にこの男がデュエルを語ることが癇に障る。

 

「かかって来いよド三流…!」

「舐め腐りやがって…この糞餓鬼が…ッ!」

 

因縁の戦いが今、幕を開けようとしていた。




登場人物紹介

・霊使
ぶちぎれいじ。

・外道
外道。名前もまんま外道から。
果たしてこいつはTCGのキャラとして適切なのかどうかと議論できるくらいには邪悪。

・鈴花
その心は未だ過去に


・キトカロス
今を見せに。

というわけで次回をお楽しみに。
私は陰鬱な作品が好きなんじゃない!陰鬱な展開から最高にスカッとするハッピーエンドが好きなだけだ!

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