デュエルの立ち上がり、それはデュエルにおける趨勢を決める重用な要素だ。初手が悪いだとかそんなことは関係ない。キッチリと制圧盤面を作らなければ負ける。
負けたくないのなら死ぬ気で展開しなければならない。その点、霊使のデッキは十分な展開力がないと言えた。
確かに【ドラグマ】カードを絡めればそれなりの展開を行う事が出来る。
だが、霊使が軸とする【憑依装着】には後続を展開する「回転役」のカードが存在しない。
―――言ってしまえば、霊使のデッキはほとんど魔法カードに依存しているのだ。
といっても、霊使は【霊使い】のサポートカードを使いこなすことができる。どのようにすればいいのかを今前の経験から導き出せる。
「…これは…うん。」
その経験からして言うと、霊使の手札はこれ以上ないほどに整っていた。
ともすればカードにや粗る彼女たちの怒りがありありと見て取れるほどに。普段なら主張が強い筈のライナもこの時ばかりは自重してくれたのか、最短で相手を斃しきれる手札になっている。
(…まあブチギレよなぁ…。)
霊使はこの外道という男に何度か殺されかけている。明確に彼女たちの目に触れたのはあの一回のみだが、それ以前に何度も何度も暴力を振るわれ、大切なカードも奪われた。
だから、正直に言えば、この男に自分が振るわれた暴力をやり返してやりたいという気持ちはある。
だが、ウィン達が居る手前、下手な事をして彼女達に失望されたくない。
だから心の奥底からふつふつと湧き上がるような復讐心に身を委ねたくはない。
「…俺の先攻だ。…俺は手札からフィールド魔法【大霊術‐「一輪」】発動。更に手札から【憑依覚醒】を発動。続けて【憑依装着‐ウィン】を召喚。…デッキから一枚ドロー。さらに、手札から永続魔法【妖精の伝姫】の効果発動。…さらに【妖精の伝姫】の効果で手札から【妖精伝姫‐カグヤ】を召喚。【妖精伝姫‐カグヤ】の効果発動。」
「…【灰流うらら】の効果発動!」
「―――【大霊術-「一輪」】の効果で無効!」
霊使は極めて冷静に、感情を押し殺してプレイを続ける。
少しでも感情的になってしまえば、そこが突き崩される「隙」になりえる。その隙を突かれて盤面を崩されたら再展開力のない霊使はジリ貧に追い込まれることだろう。
「【カグヤ】の効果でデッキから【憑依装着-アウス】を手札に。【大霊術-「一輪」】の効果で【デーモン・イーター】を手札に加えて【憑依装着-アウス】デッキに戻す。俺の場に魔法使い族モンスターが存在するため【デーモン・イーター】を特殊召喚。更に【憑依装着-ウィン】と【デーモン・イーター】をリリースして【憑依覚醒-デーモン・リーパー】をデッキから特殊召喚。自身の効果で【デーモン・リーパー】を召喚したため墓地から【憑依装着-ウィン】を効果を無効にして特殊召喚。そして【憑依装着-ウィン】と【憑依覚醒-デーモン・リーパー】を素材として【I:Pマスカレーナ】をリンク召喚!自身の効果で特殊召喚した【デーモン・リーパー】が墓地に送られた場合デッキから【憑依】魔法・罠カード…【憑依連携】を手札に加える。」
手札一枚をのこして霊使はデッキをどんどん回していく。
霊使のデッキに再展開性がない、というのは事実だ。最初の展開で魔w仕切るだけ回しきってリソースを全て使い果たす。そこから、妨害を繰り返して最終的に攻撃力を上げた【憑依装着】モンスターで決めきるというデッキだ。霊使のデッキに「そのデュエル中に使わない」カードはあれども「必ずどこかしらでの出番はある」。
「そのまま…手札から魔法カード【天底の使徒】発動!【灰燼竜バスタード】を墓地に送り効果で【教導の聖女エクレシア】を手札に。【教導の聖女エクレシア】はフィールド上にEXデッキから特殊召喚されたモンスターが存在する場合特殊召喚できる。…効果で【ドラグマ・パニッシュメント】を手札に。カードを二枚伏せて…エンドフェイズ【灰燼竜バスタード】の効果発動。デッキから【教導の騎士フルルドリス】を手札に加えてターンエンド。」
霊使 手札一枚 LP8000
EXモンスターゾーン I:Pマスカレーナ
モンスターゾーン 妖精伝姫‐カグヤ
教導の聖女エクレシア
フィールド魔法 大霊術‐「一輪」
魔法・罠ゾーン 伏せ×2
憑依覚醒
妖精の伝姫
(結果は上々…とまではいかないか。手札一枚でその内容は割れている。…事実上の手札0。最も相手が【マインドクラッシュ】とか持っていてもこのターンは絶対に凌げる。…次のターンで一気に勝負を仕掛ける…!)
霊使はハンドアドバンテージを捨ててフィールドアドバンテージを求める傾向にある。
ハンデスやLO狙いのデッキとは相性が悪いが「ビートダウン」―――殴ってくる相手なら割とどうにかなる。
―――それでも霊使は油断しない。霊使は罠を張り、妨害を構えて相手を迎え撃つ。
「妨害含めて正々堂々」―――最近生まれた霊使のポリシーは、今の状況を最大限にかつ、的確に表していた。
「お前をここで…斃す。」
霊使は極めて冷静に、そして極めて、外道にそう告げる。
―――そんな時に、講堂のドアが開く。そこに居たのは、鈴花とキトカロスの二人。
このデュエルの結末を見届けにでも来たのだろうか。
「霊使君!」
「霊使、大丈夫…みたいですね?」
「今のところは。…こいつが張本人だ。俺の手で決着を…」
霊使は鈴花の方を見ずにそう言った。
おまけに彼女はこの男にとって、「殺すべき」存在だ。
外道はまず間違いなく霊使を恨んでいる。そんな時に霊使と仲の悪かった少女を「霊使」の名を騙って殺したとしたらどうなるだろう。
―――霊使はそれでどうなるか分からないほど馬鹿ではない。
だから、霊使はここでこの男を止めなければならないのだ。霊使の為にも、鈴花の為にも。
「…観客かぁ?」
一方の外道は予想外の来客に少しだけ驚いたこのような表情になる。
だが、それも一瞬。外道は鈴花を二度ほど見た。
そうして何かを思い出したかのように手を叩く。
―――そして、鈴花の顔を見た外道は酷薄は笑みを浮かべ、大声で叫んだ。
「…おっとわざわざ俺の下に来るなんてよ。…あの女の娘じゃねぇか!気持ちよかったぜぇ、あの女の感触ゥ!」
「―――!」
何があったのか、、その下手人は誰なのか。
霊使は今の自分がとことん冷静さを欠いていることに気が付いていた。
頭の中の冷静な部分が呼び掛けて来る。「今すぐ鈴花を止めろ」、と。
気付けば、鈴花は絶叫を上げながら外道の方へと飛び掛かってしまっていた。
(後手に回った…ッ!)
―――鈴花の家族の事を知っているという事は、外道が鈴花にとっての仇であるという事。
鈴花にとって外道は仇であると知った。―――なら復讐心に駆られるのも仕方が無い事だ。
だから、霊使は、彼女を止める事が出来なかった。
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「気持ちよかったぜぇ、あの女の感触ゥ!」
鈴花はその言葉を聞いて、思わず飛び出していた。
飛び出しても何もいいことは無い、むしろ霊使を追い詰めるだけだと理解している。
それでも、どうしようもないくらいの激情に突き動かされて目の前の男に飛び掛かる。
「お前がァ!お前がぁぁあぁぁッ!」
この男は絶対に許せないし、許す気もない。それにこの男を許したらそれこそこの男に殺された母たみんなが浮かばれない。
もう自分はどうなってもいい。この男の事を殺したくてたまらないのだから。
―――それだけこの男が憎らしいのだから。
頭の何処か冷静な部分がだめだと警鐘を鳴らして、それでも鈴花は焦土に従い男に組み付こうとした。
「へっ…心地いい叫び声じゃねぇか!やっぱいいよなぁ、無力な女を泣かすっていうのは…よぉ!」
その結果が―――簡単に力負けして人質になるというありさまだ。
今の行動は軽率というほかなかった。おかげで霊使に枷を付けてしまったのだから。
「自分」という人質が居る以上、霊使はこの男の要求に従わざるを得ない。
―――霊使はこんな失態を犯した私を絶対に見捨てないだろうから。
「…本当に馬鹿な奴だなぁ!―――どうだったよ、感動の再会ってやつはぁ?」
「…お前ぇッ…!」
何とか抵抗を試みるも、自分の首を圧迫して拘束している右腕を解けそうにない。
さらに男は感触を確かめるように鈴花の胸を揉みしだいた。
馬鹿にするような、自分を物としか見ていないような、そんな乱雑な扱い方で。
「ほらほら、どうしたぁ!まさか我が身可愛さでこの女を助けねぇ…なんていうんじゃねぇよなぁ?」
いま、自分は交渉のカードにされている。
条件は分からないが、とにかくまともな条件じゃないことは確かだ。
「ま、犯した女の娘を犯すのもまた一興だが…そうさな。―――お前の…ウィンだったか?そいつをこっちに寄越して、このデュエルを降りろ。そうしたらこの女は解放してやるよ。乗らなければこの女を今ここで殺すぜ?」
「……は?」
「なっ…!」
―――ああ、私がこんなふうに突っ込まなければこんなことにはならなかったのだろうか。
首元に突き付けられる冷たいナイフ。
ウィンを渡す方を飲めば、霊使はこのデュエルに負けないで済む。
デュエルを下りればきっとウィンは守れるだろう。
だが、そのどっちもとなれば霊使はきっと迷うはずだ。
「―――さあ、どうする!決めるのは、今ここでだ!」
「―――私の事は放っておいて!私の代わりにこの男を斃し―――ッ!」
「うるせぇ!」
鈴花はなりふり構わず叫んだ。言葉を最後まで言い切る前に男に首を絞められてしまった。伝えたいことを伝える事は出来ただろう。
「自分はどうなってもいいから、この男を斃してほしい」という願いを言葉にして、届けられた。
ならばこの男を止めるには十分だ。この男はきっとこれから先も周りに害を及ぼすだろう。
自分一人の命でこの状況を収められるなら、安いもの。
それに―――この状況を招いたのは自分だ。そのしりぬぐいは自分でしなければならない。
「……そこの女もだ!一歩でも動いてらこの女の首を掻っ切る!」
「……ッ!」
襲撃をかける気だっただろうキトカロスの動きも制限された。
確かにこの距離なら、彼女が襲撃をかけるよりもナイフで自分の首を切られる可能性が高い。
「…選べよ!霊使ぃ!ここで俺に下るか、この女を殺すかを、……?」
そこで男は一度言葉を切った。
そしていつの間にか周囲を満たす濃厚な殺意の出どころを見た。
「―――黙れよ、外道。」
「…これが…君から…?」
その場には霊使が居るだけだ。
―――特別彼のなにかが変わったわけではない。ただ一つ、彼が纏う濃厚な殺意を除けば、だが。
それは鈴花も、ウィンでさえも初めて見た霊使の心の底からの
「お前はここで確実に潰す。お前は―――」
怖い、怖い、怖い。
心の中がここまで恐怖に支配されるのがどれほど異常な事だろうか。
もしそれを現す言葉があるとしたら一体どんな言葉になるのだろう。
それだけ彼の怒りが、彼の殺意が本物であるという事なのだ。自分に向けられたものではないと分かっていてもこの重圧だ。
もしこれが自分に向けられたらと考えると、鈴花は受け止めきれる気がしなかった。
「俺だけ見てればいいんだよ、腰抜け。」
「―――てめッ!」
だが次の瞬間、殺気は霧散。霊使が男に向けたのは嘲笑だった。
人質を取る、という事は真正面から勝負して自分に勝つ自信がないからか、それとも俺の事が怖いのか。
そう煽る霊使に対して、男は激昂。
「そんな小手先の手段でしか勝てねぇのならテメェは一生俺には勝てねぇよ。…さ、どうする?俺と真正面からぶつかって俺を下せば話は早いんだぜ?」
ああ、そうか。
鈴花は霊使の挑発の意味をようやく理解した。この男は霊使を見下しているのだ。
だから、挑発されることに耐えられない。自分よりも弱いから、自分よりも下に置いているからこそ、その相手からの挑発というのは冷静さを失わさせるのだ。
少しダシにされた感じもあるが、それは不用意に突っ込んだ自分への罰という事にしておく。
「お前は俺を憎んでる…だからこんな事をしたんだろ?いいのか、ここで桜庭さんを人質に取って俺の動きを止めて勝つってのは簡単だろう。だが、それじゃあお前がつまらない。―――かかって来いよ、腰抜け。テメェの全てをへし折って俺が勝ってやる。」
「…へ、へへへ…もうこんなアマ必要ねぇや…!」
男は恐怖心と復讐心がごちゃ混ぜになって挑発に乗った。
もうこうなっては、どうもこうもない。
冷静さを欠いたデュエリストなど、もはやただの案山子にもならない。
この時点で、男が鈴花を解放した時点で趨勢は完全に決まった。
「いいぜ…や、やってやる、テメェをぶっ殺してやるぁぁぁあああ!」
気付けば鈴花は解放されて、デュエルが再開していた。
余りの超展開に頭が付いていけなくなった。
拘束されて、人質にされて、それでほんの少しのやり取りで解放される。
展開が速すぎて、復讐云々もすっかり頭から抜け落ちている。
(…この一連の流れ、コマンドーだこれ!?)
―――そう思うとなんだか自分の復讐心が萎んでいった。
復讐をすることできっと前に進める人もいるのだと思う。
だが、復讐以上に大切なこと見つけるに越したことは無いのだ。
鈴花は、この戦いが終わった時、ようやく心の底から笑えそうな気がしていた。
登場人物紹介
・霊使
会われ過ぎて最早嘲笑するぐらいになっている
・外道
クズ、カス虫というあだ名するこいつには上等なものだろう
・鈴花
復讐心よりも思わずやり取りにツッコミを入れる方が大事なツッコミ人
…シリアスも別方向から見るとギャグになるんやなって…
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