「相棒」   作:ダンちゃん1号

177 / 209
狙ってましたよねぇ!

 

学校近くの展望台にて語り合う男が二人。

霊使と克喜である。

二人は展望台の手すりに手を置いて学校の方に視線を向けている。

 

「…終わったな。まさか書類を取りに来ただけでこんなことになるなんてね。」

「…全くだ。」

 

霊使と克喜は勝手の母港に警察が突入していく光景を眺めていた。

霊使達が捕まえた外道のほかにも悪党が居るかもしれないからだ。克喜から聞いた「胸糞の悪くなる部屋」はいくつかあったらしい。

「念のため」というやつだ。―――もしかしたら武装集団がいるかもしれないし、もっと闇の深い「何か」が出てくることもあるかもしれない。

そんな二人の背後に急に現れる人物―――この町の「精霊がらみの警察」である【S-Force】に籍を置く【乱破小夜丸】である。霊使とは以前クルヌギアスのやらかしで顔を合わせて以降クルヌギアスが暴走していないかたまに確認しに来るという形でたまに面会していた。

そのたびに何かしらの事件に巻き込まれていたので、小夜丸からしてみれば霊使は「トラブルメーカー」そのものなのである。

だから、小夜丸が霊使の姿を認めたとき、何かを察した顔をして霊使に詰め寄る。

 

「――――またあなたですかぁ!」

「またってなんだよ!『また』ってぇ!」

 

霊使は必死になって反論する。

霊使からしてみればトラブルが霊使を巻き込みにきているのだ。それをどうこう言われても、どうしようもないという奴だろう。

最も、今までずっと「ソレ」に巻き込まれてきた克喜からすれば霊使は生粋のトラブルメーカーといっても過言ではないだろう。むしろそうとしか言えない。

 

「またですよぉ!『彼女』の件に加えてさらに先の『創星神』の事件にも関わっていたじゃないですかぁ!」

「…わりぃ、霊使。―――彼女の言うことに同意させてもらうわ。」

 

だから、克喜は全力で小夜丸に同意した。

如何せん、霊使には今までの実績がある。キスキル達の一件から始まった騒動はいつも中心に霊使が居たのだから。これでその騒動も終わりかと思うとなんとなく開放感がある。

―――改めて、自分がどれだけ巻き込まれていたかを実感できた。

霊使とは親友同士だ。これからもそれは変わらないし、変わる気もない。

だが、だからといって「親友だし巻きこんでええやろ」みたいな感じで巻き込むのはぜひとも止めて欲しいところだ。

 

(…俺も意外と自分から首突っ込んでるか?)

 

だが、思い返してみるといつも自分から首を突っ込んでいたように思える。

いや、そもそも霊使が誰かの助力を必要とするほど大きな陰謀に突っ込んでいくのはいつもの事だし、それを隣で支えるのが自分の役目なのもいつもの事だ。

 

「…霊使さんはトラブルメーカーですよねぇ!いつも狙ってますよねぇ、こういう騒動!」

「狙ってねぇよ!!」

「でも今期は明らかにわかって突っ込んでいったじゃないですかぁ!狙ってましたよねぇ!?」

「『今回に限り』だ!」

 

では、なぜ霊使はここまでの不運に見舞われるようになったのだろうか。

そもそも彼は生い立ちの時点で相当不幸だったような気もするが、今の不幸もかなりのものだ。

最早ここまでくると文字通りの意味で「一生分の幸運」を何処かで使い果たしているに違いない。

では、それが使われた瞬間は一体いつだったのだろうか。

―――そんあこと、一番近くで見続けてきた克喜には良く分かっていた。

 

「ウィン達にあったから霊使の運気使い果たしたんじゃねぇの?」

「―――私ィ!?」

 

あらぬ方向からあらぬ疑いをかけられたウィンは思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

―――だが、これは誰だって「そうなる類」のものだ。少なくとも自分に出会ったせいで霊使が不運になったとは、言い切れない筈ではないだろうか。

 

「―――あれ?」

 

だが、ここでウィンは思い出す。

今まで霊使に降りかかってきた困難は大体自分が霊使の下にやってきてから起こったことではないのか、と。

外道の一件もここまでになったのは霊使が最初のあの男を潰したからだし、それからキスキルや四道との戦いも自分が霊使の下に来てから起きた事ではないのか。

 

「―――本当に霊使の運、使い果たしてる?」

 

そう考えるとウィンはもう何も言えなかった。自分が不幸の原因とは言えないが、少なくとも自分が霊使と再会したことで相当の運を使っている。

もし、人間一人に「運」の量が決められていて、自分と再会したことでその運を使い果たしたのならそれは「幸運」とは呼べないのではなかろうか。

克喜としてはただの冗談だったろうが、ウィンからすれば死活問題だ。

もし本当にそうだったのだとしたら一体どうやって霊使に運を返せばいいのだろうか。

 

「…もし本当にそうなんだとしても…俺にとってウィンや皆が傍にいてくれることが幸せだから。…どんな不幸だって乗り越えて見せるさ。」

「…霊使…!」

 

克喜と小夜丸を余所に二人の世界に浸りきる霊使とウィン。

二人は顔を見合わせて頷いた。

確かに二人の間に色々とあったのは事実だ。今更それをどうこう言う必要は無い。

だが、それはそれ、これはこれというやつだ。目の前で勝手に二人の世界に入るんじゃない。

 

「…殴っていいですか、警官殿?」

「…本官が許可します。胸焼けしそうなのでさっさとやってください。」

 

それこそ、この二人は主に霊使をどうにかしなければ止まらないだろう。

しかも最近は霊使と他の3人の初期組の距離も着実に近づいてきている。

だが、何よりも今の克喜が許せなかったのは。

二人がすっかり克喜達の存在を忘れて二人の世界に入っている事だ。これでは克喜が真木の誘いに乗った本当の目的を果たすことができない。

というわけで、現実に引き戻すという意味合いも兼ねて克喜は霊使を全力でぶん殴ることにした。

目の前でいちゃつかれ、二人の話のだしにされたことに関して怒りと嫉妬を抱いているわけではないのだ。損事は断じてない、克喜がないと思ったらないのだ。

 

「―――勝手に二人の世界に入りやがって!そんな霊使、修正してやる!」

 

克喜の怒りと嫉妬の入り混じった余りにも的確な暴力を霊使を襲う。

当然二人の世界に浸っていた霊使はその特に理由がありすぎる暴力を避ける術はなく。

そのまま結構腰の入ったいいパンチが霊使のどてっぱらにクリーンヒット。

 

「これが…若さか…。」

「…やっべ。」

 

結構いいのが入ったというの打ち込んだ側の克喜も良く分かった。

そのまま霊使は頽れるようにして克喜に倒れ込んでしまう。

―――つまり、霊使はこの一撃で気絶したという事だ。

 

「…克喜?」

「…いやほんとすいません。まさかここまでクリーンヒットするとは思ってなかったんです。」

 

そしてそれはウィン達霊使いの逆鱗に触れる行為でもあるわけで。

幸い霊使はすぐに目を覚ましたのだが、起きたときに最初に居た光景は―――

 

いや、ほんほうにふひはへんへひた(いや、ほんとうにすみませんでした)。」

 

克喜の上半身が地面に埋まっていて、下半身だけがうぞうぞと動いている何とも言えないホラーチックなものだった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「…で?俺に何か用があるんじゃないの?」

「ああ…そういやそうだった。」

 

霊使と小夜丸によって引っこ抜かれた克喜は克喜がこうなった原因である霊使に言われて用事を思い出した。

記憶が一時的に抜け落ちるくらいで済んでいたのだかマシともいえるが。

もし、彼女達が文字通りの意味で本気で怒ったのならば、克喜という存在は肉片の一つこの世に残していないだろう。

それに比べたら「滅茶苦茶痛い」で済んでるあたり何とも有情である。

とにかく、克喜は復帰した。

―――これからは、克喜にとって「霊使の友達」ではなく、「世界チャンピオン」としての話だ。

だからあんな状態のまま「これ」を渡したのではかっこが付かない。

 

「気を取り直して…こいつをお前に。…ウィンと一緒なら狙えるだろ、世界?」

 

克喜は一通の封筒を霊使に差し出した。

それは「Dear Reiji」と記されていて裏面には「From Champion」の表記。

つまりこれは「世界チャンピオンからの招待状」といったところだろうか。

 

「…俺に?そういうのは海斗に渡したほうが良いと思うぞ。―――割と本気で。」

 

だがより強い相手を求めているのならば自分よりもよっぽど海斗のほうが良いだろう。

彼は最強だ。掛け値なしで、初見であのデッキに勝てるデッキは存在しないといっても過言ではない。

だが、その霊使の言葉に反応した者がいた。―――小夜丸である。

 

「…ここだけの話なんですが彼の使う【ティアラメンツ】は一セットしか刷られていなくて…事実上の【禁止】なんです。開発された時点ではかつての【三幻神】のように封印指定も考えられていたんです。―――それだけ彼女たちの力はオーバーしているんです。…あなたも決闘したならその事実を分かっているのでは?その点だけでいうなら貴方のリンクモンスターの霊使いもアウトに等しいものなんですが…。最近収録が決まりまして…。」

「……。」

 

ならむしろなんで流通してしまったんだというツッコミをするべきなんだろうか。

つまるところ今、【ティアラメンツ】というカード群は海斗が持っている物しかいない。しかもそのカードパワーは現代ではオーバースペックもいいところであり、初見殺しで暴れ回られるとどうしようもなくなる。

つまり、海斗は大会に出ることが事実上できなくなるという事だ。

 

「…あいつに仲間内でしかデュエルをさせないと?」

「…精霊は気紛れですからね。彼女たちのように異様に強い力を備えることもあれば、逆に何の力も持たないカードになってしまう場合もある。…いつか、彼女たちが許される日が来るのならばその時に彼も大会に出られるようになります。…本人もオーバーパワーっぷりは理解しているみたいですし…。」

 

つまり、海斗本人がこの提案に一理あると感じているわけだ。だからこの提案を受け入れることにした、と。

だが、自身がデュエルをできなくなる大会に一体彼は何を得ることになったのだろうか。

だが、それを深く考えるのは止めにした。彼がそれを受け入れているというのならば自分がどうこう言ったところで無駄だからだ。

 

「…とにかくそれは俺に宛てたものなんだな?」

「ああ。」

「…丁重にお断りさせてもらう。俺がそう言うのを好まないのはお前が一番知っているだろ?」

「…そうだな。じゃあ…待ってるぜ、世界で。」

「ああ。すぐに引き摺り下ろしてやるよ。…今のうちにその玉座の座り心地を良く味わっておけよ。」

「言っとけ。」

 

二人は互いに軽口を叩き合う。

それが二人の距離感なのだ。ウィンとも、咲姫とも、結や奈楽といった友人たちとも違う。二人だけの特別な距離感。

―――親友。最も親しい友。この時、二人は世界の舞台で戦えるという確信を持ったのだ。ならばもう何も言うことは無かった。

 

「…それじゃあ、俺は行くわ。」

「…そうか。…()()な!」

「ああ。…また。」

 

結局霊使は世界大会への切符を手にすることは無かった。

確かに最短距離で逝くのもいいが、先はまだ長いのだ。今は、日本に居るまだ見ぬ強敵たちとの決闘をしてみたかった。―――言ってしまえばただそれだけだ。霊使自身のポリシーだと考えてもいい。

今は長い道のりの楽しみ方を覚えたのだ。

最短距離ではなく、敢えて長い道を選ぶ。

―――霊使の道はここから新たに始まるのだ。

 

 

「あの二人もすっかり世界に入ってますよねぇ…。」

「霊使は私のなのに…ッ!」

 

ちなみその様子を間近で見せつけられて二人の女子―――特にウィンは嫉妬の炎を燃え上がらせていたというのはまた別の話である。




登場人物紹介

・霊使
長い道の歩き方を知った。
今は世界に行くための戦いを楽しむことができる。

・克喜
世界チャンピオンとして霊使を招待しようとした。
霊使ならきっと乗ってくれると思ったが。
まさかの自力で行く発言されたことに正直驚いた。

・小夜丸
お前は泣いていい。

ブラック・ホール・ドラゴンを持っているのに肝心のブラック・ホールがないというジレンマ。

次回から新章、始まります。

水樹君のデッキ強化

  • ネクロス
  • リチュア
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。