「相棒」   作:ダンちゃん1号

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幕間:桜庭鈴花は見守りたい

 

例の事件から少し経った五月中旬。

霊使いは深夜の自宅で書類を読みふけっていた。

 

「…今年の世界大会の出場条件は大会で明確な好成績を残したもの、もしくは昨年のベスト16である…か。」

 

霊使は世界大会の出場要綱を熟読していたのだ。

―――今の霊使には日本選手権の本選に出場できる「資格」があった。

五木や金我と戦ったあの大会である。

あの大会には確か日本選手権の出場が決定づけられる特典もあったはずだ。

 

「…うん…やっぱりそうだね。」

 

流石に何のとっかかりもなくいきなり世界大会というのは非常に厳しい。

だから、今の霊使はまずは日本で腕を鍛えようと決めていたのだ。

克喜の誘いを蹴ったのはそれだけの理由である。

 

「…ふむふむ…なるほど、ね。」

 

今度は霊使が出場権を得た日本選手権の要綱を見る。

大会に参加するにはこれまたいくつかの大会のうちの一つに勝たなければならないようだ。

それに加えて「高校単位」での大会も存在する。

今の霊使は個人で出場できるが団体戦には出場できない、といった感じだ。

最も、霊使は団体戦にでるほど仲の良い友人は鈴花と海斗の二人しかいないのだが。

 

―――あの事件以降、鈴花と霊使の距離は徐々に縮まりつつあった。

最初は互いにどこか負い目を感じていてぎこちなかったが、それでも互いの事を精一杯知ろうとした。

そのおかげか、今では海斗を含めた三人でいつもつるむようになった、というわけだ。

 

「…はぁ」

 

ちなみに団体戦に出る事が出来るのは五人。克喜はどう足掻いても無理だし、奈楽や水樹、流星や結のデッキは霊使のデッキととことん相性が悪い。

なので、霊使は個人で世界を狙う事にした。

 

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霊使は完全に挙動不審なクラスメイトに声を掛けられた。

見つかってはいけなかったかのような、探し物が見つかったかのような変な挙動をかましているのは、最近名前で呼び合うようになった鈴花だ。

 

「お…おはよっ、霊使君、ウィンちゃん。」

「おはよう、鈴花さん。」

「…おはよう、鈴花。」

 

そんな日の翌日。

休日だったその日は霊使はウィンと一緒に新しいカードを見に行っていた。

何でも新しいカードがパックに封入されることになったらしい。新しい出会いを求めて、二人はカードショップに向かっていた。

向かっていたのだが、その時丁度鈴花とばったり出会ったのだ。

 

「…あれ?もしかしなくてもデート中だった?」

「…はっきり言葉にしないでぇ…。」

 

鈴花の口からデートだったかと聞かれ思わず顔が熱くなってしまう霊使。

友人にデートの光景を認識された恥ずかしさからか、思わず顔を逸らしてしまった。

一方のウィンはせっかくのデートに水を差した鈴花に対してちょっとした敵意を向けている。

例のカルト宗教の壊滅の後始末から解放され、久しぶりのデートだったのだ。

それを故意じゃないとはいえ邪魔されれば、それは敵意の一つを向けられても仕方が無いだろう。

 

「…ま、いいや。馬に蹴られたくないから退散するね。それじゃ!」

 

結局、鈴花と大して話をすることなく別れてしまった。

何か話したいことでもあったのだろうか。

―――だが、ウィンとのデートが強制終了させられないという事はそこまで大した用事では無かったのだろう。

 

(…学校で聞いてみるかな。)

 

それに、鈴花とはまた学校で会う事もできる。

今生の別れでもないのだから急ぎの用事でもないそれを改めて聞きにいく必要もない。

 

「…行くか。」

「そうだね。」

 

二人は当てもなく、また街をぶらつきだした。

―――尾行している存在に何一つ気づくことなく、そのままいつも通りに二人の世界に没入していく。

 

 

(―――バレる所だったぁぁぁぁ!)

(あっっっっぶな!気を付けてよ、二人の様子見たいって言ったのは鈴花ちゃんなんだからね!?)

(…返す言葉もない。)

 

そもそもの話、一人が尾行していてもさっぱり気づかないのだ。

―――それが一人増えたところで二人が尾行に気付かないのもさもありなん、というやつである。

 

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そもそも事の発端は、例のカルト宗教を壊滅させたところまで遡る。

霊使が、ウィンと一緒に並んで歩きその場から去っていくのを見て「あの二人本当に付き合ってるんだ」という事をしみじみ実感していた鈴花。

そもそも鈴花は「デュエルモンスターズの精霊」というものをざっくりとしか知らない。

デュエルモンスターズのカードに宿っている「付喪神」。カードは使い手を選ぶというが、それはこの「デュエルモンスターズの精霊」に選ばれるかどうかという話でもあるようだ。

だが、鈴花は今までそう呼ばれる存在を見たことがなかった。

 

(…ウィンちゃんは普通の人間っぽそうだけど…寿命とかどうなんだろう?)

 

昔見た漫画で種族を超え垂れないというのは大概悲恋になる事を知っている。

例え見た目が人に近くても種族に関する差はあるだろうし、何よりも「デュエルモンスターズ」はこれからも永久に続いていく。

もし、ウィンが霊使を失った時、彼女は嘗ての自分のようになりかねない。

 

「…あの二人が、気になる?」

「…えっ…ひょわぁ!?」

 

そんな風に考え込んでいたところに声を掛けられたものだから、驚いてしまった。余りにもびっくりして情けない声を上げてしまう。

それを見た声の主はさも心外というように肩をすくめた。

 

「ちょっとそんなにびっくりされると傷つくなぁ…。」

「…ごめんごめん。」

「…あの二人ね、本当に色々とあったんだ。」

 

声の主―――背格好や服装がウィンに近くて青い髪を持つ少女は、そう言うと、「こっちこっち」と言わんばかりに手招きした。

 

「うん…ここならあの二人には聞こえないかな。…こうして面と向かい合うのは初めてだから自己紹介しないとね。私は「エリア」…【水霊使いエリア】って言えばわかるよね?」

「…デュエルモンスターズの精霊…ってやつ?」

「そう…なんだけどね。今は色々あって霊使の同居人もやってる。」

「はえー…。」

 

何かよく分からないが、とにかくいろいろな事情があることは察した。

なら、あの二人がくっついたのには相応の何かがあったのだろう。ならその想いを余所の他人の自分が心配するのはお門違いだ。

 

「で…?あの二人が気になる?」

「…うん。…なんていうか…不安っていうのかな?」

 

だが、あの二人の間にある思いが本物でも、その思いが引きちぎられる時が急に来るかもしれない。

そうならないかどうか不安で仕方が無い。

だが、なによりも―――

 

「―――あの二人、見守っていたいね。」

「―――でしょ!?」

 

あの二人の行く末がものすごく気になる。

そう、何故か知らないが、あの二人の事がものすごく気になるのだ。

何故かって言われると、何故なのかは自分でも分からないのだが。

「推しカプ」とでもいえば良いのだろうか。とにかく、あの二人ほどお似合いで、ずっと仲良く居て欲しいと思う二人はいない。

そして、そんな二人の歩く道を見守っていたい。

 

「…というわけでぇ…あの二人、尾行しない?」

「…いいね、しよっか、尾行。」

 

だからこれは、霊使い達の安全を見守るための行為だ。

二人のイチャイチャを見たいだとか、二人がどこまで進展しているのかだとか、二人の恋愛模様を観察するなどのやましい目的は一切含まれていないのだ。

―――いないはず、なのだ。

 

「というわけで、さっそく今度から「見守り隊」、始めようか。」

「うんっ!」

 

そんなわけで「見守る」という建前の元、二人は見事に二人の恋愛模様を間近に見ることになったのだ。

 

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五月中旬

 

この日記は個人のプライバシーの為に詳細な日付は書かないことにする。

二人と遭遇してしまうというアクシデントもあったが、とにかく今日一日を対象R、Wの観察に努めた。

まず関係の結果から記すと、二人は共依存のレベルで互いを求めあっている。

人目をはばかるということこそしたものの、人目のないところではキスしたり、てをにぎにぎしたり、色々な事やっていた。これは私の貧弱な語彙では書き表せない事なのでどのような光景だったかは同志に想像に任せる。

では、二人の詳細な報告をここに記す。

まずは午前中。

二人は当てもなくただぶらぶらしていただけだった。

あの様子はまるで二人で歩くという行為そのものを楽しんでいる様子だった。どうやら二人でゆっくり歩くという行為自体を一種のデートプランとして定めていたのだろう。

昼食を取った後はカードショップへ来店。

普通、女子がもっと喜ぶところに連れていくだろうと思ったが、観察対象はどちらも大のデュエルジャンキーだ。二人にとってはこれが最も最善な場所なのだろう。

この二人、なんとカードショップに五時間も滞在していた。

大会もなく、ただ、二人でフリーのデュエルスペースを借りてデュエル氏、デッキの調整を行うという事を繰り返していたようだ。

店長が二人と親しげに会話していたところから二人はこの店の常連であることが伺える。

そうして五時間後に退店。

そのまま自宅へと直帰したらしい。

 

「―――こんなものかな。」

 

見つかったら絶対に制裁が下されるような内容を書いている自覚はある。

だが同志の頼みとあっては断れないだろう。

それに、こうしていくことできっと彼らの何かが残っていくと言い切れるから。

 

「よし。そろそろ…私も前に進まなきゃね。」

 

彼らから一歩を踏み出せるだけの勇気を貰えた。

彼らが居たから今を生きていいんだって思えた。

だから、鈴花は進みだす。

それがきっと、散っていった母親たちへの手向けになると思うから。

 

『―――頑張ってね、鈴花。』

 

誰も居ないはずの一人きりの部屋でそんな声を聞いた。

それはきっと、ここに居ない誰かから鈴花へのエールなのだろう。

その言葉は空気を震わせた「音」では無かった。

―――それでも確かに鈴花の耳には届いた。

 

「―――私、頑張るね。」

 

少女の中で止まっていた針が再び動き出す。

過去から今へ、今から未来へ。

少女は今、本当の意味で「あの事件」の終幕を迎えたのだった。




登場人物紹介

・鈴花
立ち直った

・霊使
デートを見られた

・エリア
見守り隊結成!

これ位の事をできるようになったっていう感じの奴。
これからしばらくはギャグメインになると…いいなぁ…。

水樹君のデッキ強化

  • ネクロス
  • リチュア
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