爆発オチなんてサイテー!
「カードを?」
「うん。いい加減に私もデュエリストとして復帰したいなぁって。」
五月下旬の平日。
霊使と海斗は鈴花にいつもの屋上に呼び出されていた。
ウィンは一瞬告白か、と身構えたが、海斗も呼ばれたことからそれはないなと即座に判断した。
それでこの相談を持ち掛けられた訳である。
「でも、鈴花さんのデッキは…。」
「……うん。今頃、多分全部バラバラになってるかな。結構いいカード入れてたし。バロネスとか、クリスタルウィングとか。」
「…そっか。」
だが、デュエリストに必要不可欠なものである「デッキ」を、鈴花は喪失していた。
前の騒動の時に紛失してしまったのである。
あのカルト宗教の教祖をやっていた外道は桜庭家を含めた複数の家で強盗殺人をかましていた。
その際にデッキも盗まれたという事だ。カードというのは強いカードであればある程に高い値が付く。
かつての鈴花が切り札として愛用していた【フルール・ド・バロネス】も売りさばかれてしまった事だろう。
―――つまり自分と同じ目にあった人がたくさんいたというわけだ。
「…私はあの【バロネス】を取り戻したい。…だから、新しいデッキが欲しいの。」
「…なるほど…。」
自身の魂のカードを取り戻したいと強う願い事の何が間違いなのだろうか。
かつてのデッキを全て取り戻すことは叶わなくても、それでも自分が一番信頼できるカードは手元に置いておきたい。
「…ちなみに聞くけど、前のデッキは?」
「…【WW】。」
「…シンクロかぁ。」
「切り札は【バロネス】だからね!?」
一応、頑張れば【バロネス】はそこまでシンクロに特化しなくても特殊召喚することはできるが。
とにかく、新しいデッキを作りたいと鈴花は思っていたのだ。
「……で、この前カードパックを買って来たんだけど…。」
「…一緒にデッキビルドしてほしいと?」
「…うん。」
二人を屋上に呼び出したのは二人のデッキビルド能力を借りたかったからだ。
正直に言えば今の自分は嘗ての使いなれたデッキを失ったという事もあってかデッキを作る能力というものが少し欠けている気がする。
「じゃあ、開封していきますか!」
「…え!?学校でやるの!?」
ちなみに先生に見つかって拳骨を落とされたそうな。
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「やっていいじゃん!やっていいじゃん学校でさぁ!」
「いや…気分は分かるが落ち着くんだ!」
―――って会話をしてさぁ、と霊使は海斗にけらけらと笑いかけた。
昼休みの屋上、海斗と霊使は二人で時間を過ごしていた。
ちなみに鈴花は昼休み返上で補習中である。
鈴花は学校でカードパックを開封しようとしたことを真木にばれ、そのまま没収されてしまった。
一応放課後には返してくれるらしいが、なんでよりにも寄って今日カードパックを使う授業があるのだろうか、と彼女はぼやいていた。
「…とりあえず…なんでカードパックから出たカード一枚のテキストを正確に把握してるかどうかの授業をやるんだ?高校生なんだから三角関数とか場合の数と確率とか…もっとこう他にあるだろ!しかも全学年で共通!」
「今のご時世ルールが把握できないと笑われるからね。聞くまでもないだろうけど霊使君はパックから…」
「え?大霊術‐「一輪」についてまとめたけど?」
「…えぇ…。」
ただ、デュエルである程度モノが決まる世の中だ。
そう言う意味では最低限―――自分が使うカードがどういう裁定の下で動いているのかを理解するのは重要な事であると言えた。
当然、自分の使うカードがパックから出ればこの授業の課題は早く終わる。
その分を他の授業で出た課題を終わらせる時間に充てることができる。おかげで今日の午前中の授業で出された課題は全て終わらせることができた。ちなみに霊使の今までの正答率は驚異の100%だ。―――最も、こういう授業の時に限って大体一枚はパックから【霊使い】関連カードが来るせいなのだが。
「…はあ…いくら自分のカードとは言え、裁定がこうも多いとねぇ。」
「ああ…大変そうだもんな、海斗の【マナドゥム】は。」
つい最近、海斗はウィン達の故郷の「精霊界」―――デュエルモンスターズの精霊たちが住まう世界とはまた別の次元の「世壊」と呼ばれる次元に行ってきたらしい。
最近頭角を現してきている【スケアクロー】や【クシャトリラ】、それに海斗が使用する【ティアラメンツ】はこの次元出身のカードである。
二人はなんやかんやあった果てに最終的に「マナドゥム」というカード群を入手したらしい。ちなみにここまででおよそ一日である。「なんやかんや」は敢えて聞かないようにした。恐らくは【ティアラメンツ】による力押しであろうからだ。
ちなみに【マナドゥム】は今回発売のパックの目玉カードとして扱われている。カードパワーとしては最前線で戦うほどではないが十分に強力、といったところだろうか。
「…やけにシンクロ多いな?」
「Xはクシャトリラ、リンクはスケアクロー、融合は言うまでもなくティアラメンツの領分だからねぇ。」
「ああ…そう――――弁当食べるか。」
そう駄弁りながら弁当を食べようとした霊使。
そんな時であった。
『きゃぁああぁぁぁぁあああ!?』
『うおわぁあぁぁぁぁあああぁぁぁ!?』
『ゴォァァァオォォアアァオ!?』
鈴花の悲鳴と謎の女性の悲鳴、それにどこかビビっているかのような変な声が聞こえた。
一体何が起きているのか考えたくもない。
人外の鳴き声が聞こえている時点で嫌な予感しかしないが、それでも確認しなければならないだろう。
こういう事に一番詳しそうなのはウィンとキトカロスの二人なので、霊使と海斗は二人の力を頼ることにした。
「…またトラブルですか。」
「…キトカロスさん、すぐに慣れますよ…。」
霊使と海斗は心底だるそうに、キトカロスとウィンはそれぞれの主人の巻き込まれっぷりに愚痴を漏らす。
そうして四人は微かに胃に痛みを覚えつつ、鈴花が補習をやっている教室に向かうのだった。
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拳骨は体罰でなかろうか。
未だに痛む頭をさすりながらも、昼休みを返上して全学年共通の課題に挑む。
カードパックを剥きそのパックに収録されているカードからいちまいをえらび、その裁定をつらつらと書き連ねるだけの授業。
霊使はいつも手早く終わらせているが、今の鈴花は暫くデュエルから離れていた身だ。
どんなカードが来ても昼休み返上になってしまう事だろう。
「ええい、こうなりゃやけよ!」
だが、このパックを開封しない事には何も始まらない。
心の奥底で感じている嫌な予感を振り払いつつ、勢いよくパックを開封した。
―――そして視界が一瞬で黒色に染まった。
そして顔に何か柔らかい感触が当たっている。
なんだこれ、とおもいつつ鈴花はそれを退けようとした。
「…温かい。丁度人肌みたいな温度で…」
が、鈴花はその吸い付くような柔らかさに撃沈。そのまま顔を埋めるという選択肢を取った。
だって心地よくて安心感を覚えるのだ。この場所から離れたくなくて当然だろう。
しかし、ここで思考が急激に冷静になる。―――「なんで目の前に人肌があるんだ?」と。
「…きゃあぁああぁぁぁ!?」
「うおわぁああぁぁあぁぁ!?」
そして気付いたとき、鈴花は物凄い悲鳴を上げていた。なんだかものすごく破廉恥な事をしてしまったようで、しかもそれに自分が気づいてなかったという事に気付いたからだ。
肝心の「彼女」は鈴花が挙げた悲鳴にびっくりしていたようだったが。
そうして、徐々に周りが見えてくるとついさっきまでの光景とは全く異なっていることに気付く。
特に頭が天井に当たっているのだ。おまけに何か下から熱気のようなものを感じる。
「なんか天井近いしお尻熱いしめっちゃ柔らかい人肌のような何かはあるしここ何処ォォォォ!?」
「落ち着け!ええい、蛇公一旦休戦だ!別の世界に来た以上オレ達はこいつに従う責任があるからよぉ!」
どうやらお互いに事態を受け止めきれていないようだ。
「彼女」の口ぶりからすると「彼女」と「蛇公」とやらは戦闘状態にあった。
そしてどういう訳かこの世界に召喚された、というわけだ。
恐らくトリガーは自分がパックを開封した瞬間―――つまり、この一人と一匹は自分を選んだという事になる。
「…もうやだおうちかえるぅ…。」
「ああ、霊使君の胃が!?」
視界の端で霊使が蹲って血反吐吐いているが見えた。
「それってこんなに大変な事なんだなぁ」なんてのんきに思いつつ。
鈴花は何とか脱出と事態の収拾を試みるのだった。
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何とか事態を収拾した鈴花は、事のあらましを真木に報告することにした。
理由は至ってシンプルで先の出来事は真木が少し長めのトイレに行っていた時に起こったことだからである。
「…もうやだおうちかえるぅ…。」
「真木先生ーッ!」
霊使から事の次第を聞いた真木もまた血反吐を吐いて蹲る。
その背中をサンドリヨンが優しくなでていた。どうやら彼女の心はこの衝撃的な真実に耐えることが出来なかったらしい。
「…すまない取り乱した…。で、パックを開封したらそこの女とあそこで教室にぎちぎちに詰まっている蛇みたいな何かが出て来た、と…。」
「そう…らしいですね。」
お腹を押さえながら一つ一つ事実の確認を行う真木。
霊使も観たわけじゃないので推測でしかものを言えないが、教室に詰まっている「蛇のような何か」と、その上に跨っている鈴花の姿を見ればほぼほぼ間違いないと言えるだろう。
むしろ一体それ以外に何かあるとでも言えるのだろうか。流石に幽霊ではあるまいし。
「…で、だ。…どうやったら出せる?」
「教室破壊しないと無理そう…ですかねぇ…。」
「…やっぱりか?」
「はい…。残念ながら…。」
どうにかして教室を破壊せずに済む方法を考えていた真木だったがその手段がないと知るや再び蹲ってしまった。
確かに「パック開封したらなんかカードに書かれているモンスターが飛び出してきて教室を破壊せざるを得ませんでした」なんて話を誰が信じるだろうか。
いや、「精霊が居る」という事を知っていれば信じられるのだろうが。今でも創星神によるあの事件は表向きには人間が破壊活動を主導したことになっている。
つまり今の世の中の大多数の人間はそれだけ「信じたくない」のだ。自分たち以外に知性ある存在が居るのだと。
自分達のアドバンテージが失われてしまうだろうから。
「…げ、減給か…。クソ…。しばらくはもやし…いや、もやし買う金が残るかどうかすら分からんな。」
とにかく、学校で起きた事故に関して―――というよりかはこの授業で起きた一切の処分は真木にのしかかるというわけだ。
「…とにかく何とかして出てきてくれ。」
「…はーい。…というわけで、ちょっとカードになってくれない?」
「……ったく、しょうがねぇな。すぐにそこの蛇公とケリつけるからちょっと待ってな。」
「――――ひょ?」
何か。
何か嫌な言葉が聞こえた気がする。
―――その後、ものの見事に学校は爆発した。
理由は、「蛇公」が放った炎弾が教室の壁を溶解させつつ、偶然にも理科室の薬品庫に着弾。そこにあったガスボンベが熱によって破裂し、爆発的に炎上。
連鎖的に各階に存在する通気口などから炎が他の階へと漏れ出し、最終的に家庭科室に到達して爆発、炎上。
幸いにも死者や負傷者が出なかったことが救いだろうか。
「―――爆発オチなんてサイテー!」
この一件の一部始終を見たものは口をそろえてこう叫んだそうだ。
ちなみにだが、この一件がもはやどうしようもない「事故」として扱われたのは言うまでもない。
登場人物紹介
・鈴花
多分この章の主人公になる。
彼女のその後は一体どうなる事やら…
・霊使
何となく察していた。
爆発オチはすでに何度か経験している。
・真木
泣いていい。
多分この話で一番の被害者。
・海斗
キトカロスに連れられて一足先に脱出していたおかげで無事だった。
というわけで鈴花のデッキはスネークアイズに決定しました。
いい加減にそろそろ人型以外のデッキを使わなきゃ…。
面白い効果なので色々と戦術が広がりそうですなぁ。
水樹君のデッキ強化
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