鈴花は困っていた。
人見知りを直そうと決意したのはいいんだが、その治す手段が思い浮かばないのだ。
学内では不穏な噂ばかりが流れ、目があったら爆殺されるなど陰口をたたかれることもある。
そのうわさを流した本人を見つけたら恐らく腕の一本や二本くらい圧し折ってやりたいところだ。それくらいしなければ怒りが収まる気がしないから。
そもそもの話芽があった人間全てを爆殺しているならこの学校には恐らく生徒は残ってはいない事だろう。
「理不尽な噂って…広がるのが早いねぇ…。」
「人の口に戸は立てられないっていうだろ。…まぁオレも可哀想だとは思うんだがな…。」
諦めな、とディアベルスターは口に出すことはしなかった。
ちなみにだが、ディアは霊体化して学校にまで付いてきている。
今の半ば孤独な鈴花にとって、ディアベルスターは唯一といっていいほどの話相手でもあった。
放課後になれば、霊使や海斗とと話して帰ることが多いが、教室ではまた話が別だ。
「勝ち目のない戦いって…眺めているのも虚しいんだよねぇ…。」
霊使狙いの女子生徒が一斉に霊使いの下に群がっていくので、文字通り人の壁が出来るのである。
しかしながら、霊使にはもう既に心に決めた少女が居るので、当然、クラスメイトの勝ち目はゼロだ。彼の伝説のタッグデュエルデッキである【天声ホルアクティ】や理不尽ワンキルの【黄泉転輪ホルアクティ】に後攻で勝てといわんばかりの不利対面だ。
もし「ころしてでも うばいとる」なんてタイプが現れたところで、彼女を殺してしまえば霊使も当然のごとく後追いするだろう。
当然、最も欲しかったはずの霊使はその手に収めるどころかすり抜けていってしまうのだ。
「それは勝ち目がないんじゃなくて、入る余地がないっていうんだぜ…。ま、オレも可哀想だとは思うがな…アイツらはまあ―――霊使に彼女がいなくても選ばれない敗北者だろうよ。」
「―――まあ、明らかに『有名だから付き合いたい』って魂胆が見えているしねぇ。そりゃ真実の愛の前には勝てないでしょうねぇ…。」
おまけに霊使いの周りには付き合いたい欲が見え見えの生徒ばかりだ。そんな集団に囲まれていたら、霊使が教室に居にくいと言えるのも納得していた。
(ウィンちゃんを紹介すれば一瞬でことは解決すると思うんだけど。)
もっとも。ああいう手合いの少女たちは相手に彼女がいると言えば大概幻滅して引いていくものだ。
それは理想像が崩れるからなのかは知らないが―――とにかく、霊使も一言―――「彼女いるよ」とで言ってやればいいだろうに。
それを言わないのは霊使の優しさゆえか、それとも彼女と共に在り続けるのは当たり前という心構えの現れか、それとも単純に煩わしいだけなのか。
どっちにしたって周りに人っ子一人来ない自分に比べて随分贅沢な事で悩んでいる。
羨ましいし、けしからん。
(うーん…霊使君は罪深いねぇ…。)
霊使の人間関係はさして参考にはならなさそうだ。
そもそも仲良くしてくれる人間を選り好みしている場合でもないのだが―――。
それでも一時期は霊使を目の敵にしていたのだ。少なくとも、このクラスでの居場所は既にないだろう。というか絶対にない。そしておそらくあっても踏み込めない。
(だめだ。このクラスに馴染めている私がもう…想像できなくなっているッ!過去のほんの些細なミスが今の私を確かに苦しめている…!)
(―――だめだこりゃ。)
(恐怖とはまさしく『過去』からやってくる!あの時!私がもう少し霊使君の事を理解していればこんな事にはァァァーッ!)
(…百面相してら。)
ここまでの馬鹿だとは思わなかった。
後にこの時を振り返ってディアベルスターはそう漏らすのであった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「…友達がほとんどいない…ッ!」
「…前の学校じゃ咲姫以外友達いなかったんでしょ?」
「…痛いところ突くなぁ!」
「それに4月ごろの鈴花ちゃんはなぁ…尖っていたしてねぇ…。」
「やめて正論は私に効くからぁ!」
なんやかんやで放課後。
すっかりおなじみとなった霊使と海斗、そして鈴花の三人での下校。
そんな中でふと漏らした「友人がほとんどいない」という言葉は、即座に二人に弄られることになった。
今思い返しても見ても、過去の自分が恥ずかしい。
「あああぁぁぁぁぁあ!いっそ昔を消してぇぇぇ!」
「無理だな。」
「ドンマイ。」
「ちっくしょぉぉぉぉ!」
しかしどれだけ喚いても叫んでも、過去の愚行はかき消せない。
つまりどんな形であれ、今の自分の状況は自分で招いたようなものなのである。
それをどうこうしろといわれても困るのは霊使や海斗の方だろう。
「いるからさ!?一応二人が居るからボッチは避けられてるよ!?それに聖也さんもいい人だしね!でもさ!同性の友人も欲しいわけ!」
「…考えてみれば野郎ばっかだなぁ。」
「でもそれこそ無理じゃあないの?…だって鈴花ちゃん、クラスの女子から嫌われてるでしょ。…最初のやらかしで全て決まったようなものだからねぇ…。」
「待って。ちょっとまって。あれ、じゃあこれもう私同性の友人できるか怪しい?」
海斗の指摘にどんどん絶望した顔になっていく鈴花。その様相はもはや百面相ではあるが、声音はどんどん絶望的なものになっていく。
そしてついには―――
「あんなつんけんした態度取っていたらもう俺たち以外友人できないかもなぁ。」
「やめてよしてそれに触れないで私のメンタルが焼き尽くされちゃうからぁ!」
霊使からとどめを刺される始末である。
意外と霊使は嫉妬深い性格なのかもしれない。
もしくは自分に友人ができないであろうことを弄っているだけなのか。もしそうなのだとしたらこの男は英雄なんて呼ばれているが事実上はただの鬼畜なのではなかろうか。
「これまでの言動を反省してください。」
「あんまりだァ!」
「でもそれしか言えないもの。」
「事実陳列罪やめてぇ!」
ただ、まあ。
あれだけ一方的に嫌っていた相手とこれだけふざけた会話ができる。
それは少し進歩したと思ってもいいのだろう。
というかこれが進歩で無いのなら今頃鈴花は、泣き寝入りするしかない。
「…それにしても。」
「…あの和解方法には驚いたよなぁ。」
「ほじくり返さないでぇ!」
だが、ここまで霊使い達と仲良くなったのにはもう一つ笑ってしまうかのような理由がある。
それは鈴花にとっては、ディアに出会う前の話で―――今でも忘れたいものでもあったのだ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
全ての始まりは、今からちょうど二月ほど前―――桜庭鈴花という少女の因縁にひとまずの決着が付いたあの日だった。
「今まで本当にごめんなさい。」
「………!?」
あの後警察からの聴取を受けて、解放されたのは夜の八時くらいだった。事情が事情なのでそれなりの拘束時間は必要なのだとは思う。
だが、それでも非常にキツイ時間帯でもあった。
第一に、今までの霊使への態度への罪悪感が、第二に、今までの重圧から解放されたからか一気に眠気が。
間髪入れるまでもなく襲い掛かってくる。キツイ、だるい、そこに加えて罪悪感が圧し掛かる。
言うまでもなく過去最悪のコンディションだ。
―――もしかしたら、謝る事で少し楽になりたかったのかもしれない。
そう考えるのが自然なほどに、霊使に対しての謝罪の言葉が口から漏れ出ていた。
「……!?…!!?!?!?」
「…あれ?四遊…君…?」
が、霊使は「自分の因縁を解決したら何故か謝られた」位の感覚でしかない。
しかもそれが今まで邪険に扱われていた相手からの謝罪が追加されたとなれば―――
「…霊使?」
「…四遊君?」
「――――!?!?!?」
「「…ふ、フリーズしてる…!?」」
霊使の動きが固まってしまうのも止む無しといえるだろう。
無論霊使のこの行為は失礼なものなのだが―――今までが今までである。
顔を合わせればきつい言葉を投げかけられてきた相手だ。そんな相手に謝罪などされたらどうなるのか。
「幻聴聞こえるようになったか…?」
「現実だよ!?これは!現実!!!」
―――まあ当然正気を疑うわけで。
そして霊使は次に自身の頬を引っ張っていた。
その結果は―――
「
「…ダメだあこりゃ。」
どうやら痛かったようだ。
鈴花が居るのは現実であり、当然、鈴花の謝罪も現実。
―――鈴花はこれまで霊使いの事を何も知らずに失礼な態度を取り続けていたのだ。もっとも、ここまで驚かれるとは夢にも思わなかったが。
だが、それはまるで自分を既に受け入れてくれているかのようにも思えて。
「…はぁ。何か罪悪感を感じていた自分があほらしくなってきたかも…。」
「あー…うん。うちの霊使がごめんね?」
「…ちゃんと話そうとしなかったのはこっちもだから。」
未だに固まったままの霊使を見て、ウィンと鈴花は気が抜けたかのように笑いだす。
―――そして霊使が再起動したのはそれから数分後の事であった。
「―――ハッ!あれ!?俺は一体―――!?」
「…ねぇ、ウィンちゃん。―――霊使君、殴っていいですか?」
「あ、うん。いいよ、思いっきりやっちゃって。」
「―――あれ?もしかして現実?スタンド攻撃とかじゃなくて?」
鈴花は腕をぐるぐる回して肩を温めている。
一方の霊使は事ここにきてようやくさっきの鈴花の謝罪が現実であるという事に気が付いた。
なるほど、これは―――圧倒的に自分が悪い。
きっと彼女は心からの謝罪をしたのだろう。―――が、自分にはそれが信じられず、フリーズしてしまったというわけだ。
「…悪かったんで手加減はしてくださいますか?」
「さあね?」
「なんでウィンが応え―――ああ逃げられない!」
―――まあそんなやり取りもあってか。
誤まるまでもなくいつの間にか今のような距離感に落ち着いたのだった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「私未だにあの時の事は根に持ってるからね!?」
「そんなこと言ったら俺だってあんなこと言われてなぁ―――!」
わーわーぎゃーぎゃー。
海斗はこの二人の関係を例えるならきっと「双子のようだ」というだろう。
喧嘩して騒がしい時もあるけれど、それでもこの二人の仲の良さはこれからもきっと変わらない。
それに二人の間には特別な感情は無いのだろうし。
「二人とも、こんなところで騒いでいると迷惑だよ?」
「「でも―――!」」
「でももへちまもへったくれもない。―――俺達には俺達らしい喧嘩の仕方っていうものがあるでしょ。」
その言葉に鈴花と霊使は示し合わせたかのように頷き合う。
そして二人はデッキを構えて―――
「こら!」
「こんな往来で何おっぱじめようとしてんだ?」
そしてディアとウィンに止められた。
ウィンはそのまま霊使に「当て身」を繰り出し、ディアは鈴花の首根っこをつかんで持ち上げる。
「海斗、迷惑かけたね。」
「鈴花の事もな。」
―――きっとこんな日々がずっと続いていくのだろう。
鈴花と、霊使と、三人で。
「…いいよ。こんな関係も嫌いじゃないからさ。」
そうしてそれぞれの保護者に引きずられていく二人を見て、ひとり歩き出す。
(…これは酷いですね…。)
(でも悪くはないでしょ?)
(……ですね♪)
そうして季節は春から夏へと進んでいく。
灼熱の夏に一体何が待ち受けているのかは、だれもまだ、知らない。
登場人物紹介
・霊使、鈴花、海斗
仲良し三人組。
霊使にとっては克喜や颯人以来の、鈴花や海斗にとっては初めての気の置けない親友。
この三人はこれからもずっと馬鹿をやって生きていくだろう。
というわけで二章完結です。
次回から第三章が始まります。
水樹君のデッキ強化
-
ネクロス
-
リチュア