「やっぱ…一緒に部活やろうよ!」
―――鈴花はようやく見つけた少女の背中にそう話しかける。
少女―――凪は鈴花の声に驚いたかのように振り返った。
それほどまで、鈴花がそこに居るという事が信じられなかったのであろうか。
それほどまでに鈴花が凪を追って来たという事に驚いたのであろうか。
とにかく、鈴花がそこに居るという事実そのものを凪はまだ信じられていないようだった。
「な…なんでここに…?」
「…私さ。まだちゃんと人と話したことなくてさ。…そんな私でも凪ちゃんは話してくれたからさ。…だからね?その…なんていうのかな。
鈴花は凪の目をまっすぐ見つめて、そう言い切った。
それは凪にとっては初めての言葉だった。
「一緒にやりたい」だなんて酔狂な事を言う人物はそうそういなかったからだ。
「……私は、実家の手伝いがある、とお断りしたはずですが。」
「―――本当に?」
鈴花のそのまっすぐな目に見つめられて、思わず凪はその目を逸らしそうになる。
実家の手伝いなんてものは嘘だ。
凪は実家から厳しく行動を定められている。その中には当然「部活禁止」のような条項もあるのだ。破ったら当然のことのように心が壊れるような体験をすることになる。
それに――――。
明確に彼女を追いこんでいたのは自分だ。それはどれだけ上辺を取り繕おうとも消せる罪ではない。
だから、何というべきか。
自分は彼女のそばにいるべきではない、と。
本来ならどうでもいい筈のただの他人のはずなのに。
どうして、こんなにも彼女の事が気になるのだろうか。
ああ、こんな思いをするのなら、こんな気持ちを抱くのなら―――もっと、非情に、冷徹になりたかった。
そうすれば、この胸の苦しみからも解放されたかもしれないのに。
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「あぁ…やっぱり駄目だったよ…。」
「きゅう?」
鈴花はずいぶんとかわいらしくなった【蛇眼の炎龍】―――【
普段からこの祖型でいたせいか、今ではフランもこの姿の方がお気に入りだったりする。
「きゅうきゅう」
「…元気出してって?…フランは優しいねぇ…。」
「きゅう!」
きゅうきゅうと愛らしくなくその姿に鈴花の心はもうわしづかみにされている。それだけこの状態のフランが愛おしいというわけだ。
鈴花はそんなフランに語り掛ける。
ディアは既に自分の対人能力に一種の諦めの節をつけている。こんな事を話したところでどうせ「ドンマイ」と帰ってくるか、「対人能力なさすぎだろ」と笑われるに決まっている。
ディアは信頼は出来るし、人間としてはそれなりに好意と敬意を持って接している。
だが、―――否、だからこそ、最近のディアの不敬っぷりは目に余る。
主人の対人能力がないと困るのはディア本人かもしれないのに。
「やれやれ…。」
もっとも、ディアの心配も最もなので何も言えないのも事実なのだが。
とにかく今は、人語を話さない相手に一方的に気持ちをぶつけたい気分だったのだ。
それで今、一人寂しく【蛇眼の炎燐】に話しかけている。
きゅうきゅうとかわいらしく相槌を打ってくれているであろう【蛇眼の炎燐】を見てると、なんだか心が落ち着いてくるのだ。
「…どうしたらいいんだろうね。もっと…仲良くなりたいよ。」
「…きゅうぅ…。」
自分が凹んだ顔をしていると、顔を摺り寄せて来る【蛇眼の炎燐】。
ぷにぷにとした感触といい、少し高めのぬくぬく子供体温といい、なんとも心地がいいものだ。これはそのうちに一家に一匹【蛇眼の炎燐】の時代が来るのではなかろうか。
少なくともこの触り心地を再現できたのなら病みつきになる人間もそれなりにいるように思える。
「まーたそいつと遊んでんのか?」
「えー…何?ディアったら嫉妬してる?」
「…し、してねーよ。ただ…そんなに心地いならオレにも―――」
「ぎゅわぁっ!」
「―――へごっ!?」
ちなみにだがディアは【蛇眼の炎燐】―――フランに相当嫌われている。
鈴花のそばにいる時は機嫌良さそうにしているが、ディアが近づくと即座にディアに対して敵意をむき出しにする。いざという時が来たら協力する気はあるようだが―――とにかく、平時はディアを揶揄って遊んでいるようにも見える。
からかうくらいだったらかわいいものだったのだが―――最近、ディアがそれに対して少しイラつき始めていた。ぜひとも仲良くやって欲しいものだ。
「―――てめーッ!」
「ぎゃわぅ♪」
【蛇眼の炎燐】と【黒魔女ディアベルスター】が仲良く喧嘩している光景を尻目に、鈴花は凪の事を思い浮かべるのだった。
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部員探しに奔走することになってから数日。
夕焼けに照らされる家の中で霊使は自身の格安スマホをじっと見つめていた。
霊使の下に一つの着信が届いたのはついさっきの事だ。
発信主は「九条克喜」―――霊使が最も信頼する友人の内の一人であり、仲間であり、幼馴染でもある。
だが、最近は余り連絡を取らなくなっていた。
それでも週にニ、三度は連絡を取り合っているのだが。
だが、それは互いに自由の時間が作れる夜八時以降の話だ。少なくともこんな時間にかけて来るのはおかしい。
(…厄介事の匂いがプンプンするぜぇーっ!)
だいたいこういうときは嫌な予感が的中して、大変な事になることが多い。
だが、今回に限ってはトラブルを呼び寄せるような真似はしていないはずだ。
トラブルの種になりそうな廃部問題はあるが、それも今はそうたいした問題にならないだろう。というか、そんなポンポン大問題が起こったら霊使からしたらたまったものではない。
「…はぁ、出るか…。」
『―――霊使か!大変なことになったぞ!!』
「―――何?」
キリキリと痛み出した胃のあたりに手を添えて克喜からの電話に出る霊使。
克喜は電話の先で狼狽えていた。
その余りの焦り振りに霊使は一気に対処できるようにウィン達に準備をしておいて、と伝えてから再び克喜からの電話を取る。
『…まずい!これは本当に不味いッ!霊使!お前の高校に『紫焔凪』という生徒は在籍しているか!?』
「たしか…鈴花さんが言っていた『宛て』…。」
『端的に言うぜ、霊使!『紫焔凪』は―――
「―――は?」
しかし克喜の齎した情報は霊使にとっては、余りにも衝撃が強いものだった。
鈴花が凪を部活に誘ってから数日、特に大したことは起きてはいない。むしろ少しずつ、凪が鈴花に話しかけてくるようにもなってきていたのだ。
「オイオイオイオイオイオイオイオイ!ちょって待て!彼女はそこまで腐っているようには見えなかったぞ!」
『―――会った事が、あるのか…。』
「もちろんだ。―――それに最近は鈴花さんと仲を深めているようだし…もしあのカルトの関係者ならオレを嫌っているときに何かしらの行動を起こしていてもおかしくないじゃあないかッ!少なくとも俺は友人の友人になりそうな人疑うなんて真似はしたくはねぇッ!」
『…お前ならそう言うだろうな。だが…これはもう事実なんだ…!』
鈴花も、渦中の凪さえも知らないまま話は進んでいく。
ともすれば、このまま何も知らないままの二人の方が幸せだったのかもしれない。
きっと、凪が鈴花を拒まないのは凪もどこかで変わりたいと、やり直したいと思っているからだ。
―――これについて問い詰める事はきっと彼女を、彼女達を追い詰めることにしかならないだろうから。
霊使は、もしもの時までこの事実を心の奥底にとどめておくと決めたのだった。
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変りたい、と願う事は殴られるほどには悪なのだろうか。
進みたいと願う事は、それほどまでにけない事なのだろうか。
もし、本当にそうなのだとしたら―――私はどうあっても変われないのだろうか。
もし、過去がばれたとき、彼女に何と罵られてしまうのだろうか。
幸いにしてあの時、彼女とは顔を合わしてはいない。しかしながら、あの時対峙した男―――確か世界チャンピオンだったか。その人物から自分の過去が暴かれるかもしれない。
「…私は…何を為したいのでしょうか…。」
なんで、今自分はこんなにも彼女に執着しているのだろうか。もう何も分からない。
ただ、もう。
何があっても、彼女にどういう風に罵られようとも、きっとそれが自分への罰なのだ。
「…いやなもの…ですね。」
自らの失態が、自らの過去が今の自分の足を引っ張る。
どうしたって、頭から鈴花が自分を罵倒する声は離れてくれなかった。
人物紹介
・霊使
知っちゃった知っちゃった…。
・鈴花
世の中には知らないことが幸せな事もあるんだなぁって。
・凪
過去が今の自分の足を引っ張る。
というわけで投稿します。
ハイテンションギャグに…そろそろ戻るかなぁ。
戻ると良いなぁ…。
水樹君のデッキ強化
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