紫焔凪の家は高校からほど近い場所にある道場だ。
表向きは空手の道場であり、地域の子供たちに空手を教えている。凪は幼い頃から空手をやってきたのでそれなりの技術はあるのだが―――段位などは取ってはいなかった。
理由は至ってシンプルで、自分は段位がとれるような存在ではないという事を理解しているからだ。
(お祖父ちゃんはアレの事は何も知らないんでしたよね、確か…。)
紫焔の一族は、「世界を守る」ことを使命として置いているらしい。
だが、祖父も祖母も、なんなら母でさえその事を一切口を出そうとしない。
それに―――あの異常者相手に逆らおうものなら何をされるか分かったものではないだろう。
そういうこともあってか、もう何かを言う事を諦めているのかもしれない。
(それになんなんですか、「世界を守る」って…。)
考えてみればそもそもあの男が言っている目的もおかしなものであると言えよう。
世界を守るという抽象的でアバウトな目的で何ができると思ったのだろうか。
(そう言えば学校の先生が朝礼のあいさつで言ってましたね―――。「目的」と「目標」の違いについて。)
「目的」とは最終的に実現させたい事柄で、「目標」は目的に到達するまでの手段―――だったか。
となると、あの男は「世界を守る」という目的を持っているが、そこに至るまでの「目標」がないのだ。
なるほど、目的がアバウトだと、目標もアバウトにならざるを得ないようだ。
色々な意味で迷子である。
(まともになれればもしかして…。)
少しは道を見失った自分からも脱却できるだろうか。
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凪と鈴花が一緒に行動するようになってから早数日。
すっかり、仲良くなった二人は今日も遊びに行ってから帰ることになった。
凪は内心「騙している」感覚で罪悪感一杯だったのだろうが、鈴花はそんな感情お構いなしにぐいぐいと鈴花と距離を詰めてくる。
―――それを内心悪く思っていない自分が居ることを、凪は当たり前のように受け入れていた。
内心で認めてしまえば早いもので、気づけば、凪はもっと鈴花と一緒に居たいと願うようになっていたのだ。
(一緒に過ごしてみないと分からないこともあるんですねぇ…。)
そうしみじみと思う。
食わず嫌いだとか、見た目で敬遠されたりとか。
一度話してみれば意外とそう言う人ではないという事が分かるのに。
それでも人は一見した時の態度で、相手が抱えている大きなものに気付かないようにして、「こういう人だ」と決めつける。
例えばその人の態度が悪くて―――それで後日不良で倒れたとなったら。
その態度だけで不良と決めつけた人間は何を思うのだろうか。
―――恐らくは最初のイメージのまま、「あっそ」位の感覚で流すのだろう。
それが正しくないことは今ならきちんとわかる。
人はきっと誰もが心の内にに言えない何かを抱えている。それは「人付き合いが苦手」だったり、「人見知り」であったり―――ただ「初めて見たとき」だけでは見抜けないことも多い。
だから。
まずは人の内面を見てみようと思えた。
人の内面を知ってから、そして初めて「その人を知った」といえるのではないだろうか。
今までそれをしてこなかった自分が言えた事ではないのだが―――。
(まだ言える…範囲内ですよね?)
当然言えない。
そもそもだが、もとはといえば彼女が鈴花を色眼鏡で見ていた節があったのだ。
言えると思っていても凪の内心を知ったうえでこのあらましを聞けば、「お前が言うな」と突っ込むのも止む無しだろう。
「…どうしたの?凪ちゃん。」
「ああいえ…。で、今は何処に向かっているんですか?」
「んー…。分かんない!」
「えぇ…。」
「凪ちゃんとぶらぶらしたくってさ。」
そんな風に考えていたら、鈴花が心配そうに自分の顔を見つめて来た。
大丈夫だ、と返して「考え事をしていただけですから」と笑いかける。
「…凪ちゃんはどこか行きたいところはある?」
「…うーん。悩みますね。時間帯的には「夕食の買い物」ですが―――」
「実家暮らしかぁ。」
「えぇ。なので…本当に何するにも中途半端な時間帯なんですよね、今って。」
今の時間は午後四時半近く―――どこか遠くに遊びに行くには足りないし、かといって晩御飯までは微妙に時間がある―――「空白の時間」。
この空白の時間は誰の元にもあるのだ。この「やることないけれど、何かやるには少し遅い時間」というのが。
「今日はタイムセールも無いしなあ…。」
「むしろあったら付き合わせてたんですか…あの魔境に?」
「魔境って…まあ、間違ってはいないけどさ…。」
凪は自分の思っていたことを正直に吐露した。タイムセールは魔境であり―――自分が狙っていたものを目の前でかっさらわれればその場にへたり込むこと間違いなしの戦場でもある。
流石にそこに凪を連れていく訳もないだろうが―――それでも不安になるものはなるものなのである。
「…やれやれ…で、結局どこに行くんですか?」
「…カード…ショップ…?」
苦し紛れにそう言う鈴花に凪は「いつも行っているじゃないですか」と突っ込まざるを得ない。
もっと、こう、何というか―――こう、あるだろう。
友人と行くのにふさわしい場所というものが。
そもそもこの時間帯にカードショップに行くのは色々と気まずいものがあるのではないだろうか。
例えば――――
「死に晒せぇぇぇ!」
「それはてめぇのほうじゃあぁぁぁぁ!」
「静かにやらないか!」
―――こういう風に部活終わりや学校終わりでハイになっている人物も多いのだから。
そんな光景を数秒眺めて―――鈴花はそっと開け放ったカードショップの入り口のドアを閉めた。
「―――どこか、公園でも行こうか…。」
「あ、はい。」
鈴花の顔が悲しげに見えたのはきっと自分の見間違いでは無い筈だ。
凪はその様子がおかしくて、少しだけくすくすと笑っていた。
それが自分の中で起きた大きな変化であるという事に目を逸らして、凪は鈴花の隣を歩くのだった。
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ここは旧端河原松市の中心街に建てられた「祈念公園」―――もう二度と、あの悲劇を繰り返させはしないと誓った大人たちが整備した場所である。
かつての戦いもはや「消滅」といっても過言ではない被害を受けた旧市街地の中心地は今はこうして公園として整備されているのだが―――ここには一つ大きな騒動が起きた。
「四遊霊使の像を建立するかどうか」―――である。
まあ、その話は追々するとして、結局なんやかんやあって「建立されてしまった」霊使の像を二人で見上げていた。
「噂には聞いてましたが…阿保なんですか?この像の…建立を提案した人は。」
「うーん…そうなんじゃあないかなぁ…?」
酷い言われようではあるのだろうが、そもそも現役の高校生の銅像を建立すべきと考える方がどうにかしている。それにこんな事したら霊使がまともに外に出歩けなくなってしまうではないか。
ここまでくると可哀想を通りここしてもはや哀れになってくる。
「…四遊さんのプライバシーは何処へ…?」
「奴さんは死んだよ…彼の功績が…殺したんだ…。」
「…まあやったことは…「世界の救済」ですからね。…奉りたくなるのも分かりますが…。」
凪も最早同情といわんばかりに手を合わせる。
もしくはかつて自分が所属していた宗教も元は彼に助けられた者たちが作ったものなのかもしれない。
ねじ曲がってしまってはいたが―――それでもそうであると信じたい。
「…また何か考えている?」
「…いえ、なんか噂で聞いたんですよ。」
「噂?」
「はい。…彼を勝手に崇めるカルトが存在するって。…その人たちも元は…彼に助けられたから神だと崇めたのでしょうか…と考えてしまって。」
―――鈴花はその言葉に少しだけ意外そうな顔をして、それでもすぐに笑顔に戻ってこう言った。
「そうだと、いいね…。」
「そう、ですね。」
凪は一度ここで言葉を切る。
周囲に人はいない―――自分の罪を告白するならここが良いだろう。
そう思って、鈴花に嫌われる覚悟も決めて、そして自分の中で言葉を組み立て終え、鈴花に懺悔しようとした。
「鈴花さん私は貴女に――――」
「―――ごめん電話だ!…後で聞かせて?」
―――そんな時、鈴花のバッグから着信音が爆音で流された。
それに驚いたようにしてから―――バッグから携帯を取り出す鈴花。
しんみりとした雰囲気が台無しだ。覚悟もどこかに行ってしまった。
仕方が無いので鈴花の携帯からの音声に耳を傾ける。そして――――
「鈴花ちゃん…大捕り物に付き合ってくれない?」
「…ど、どういうことなのですか…?」
―――いきなり一緒に「何か」を捕まえて欲しいと、懇願してきたのであった。
この瞬間、凪の脳内は一瞬にして大量の「?」で埋め尽くされたのは言うまでもない。
登場人物紹介
・鈴花
相変わらずの主人公
・凪
何かすげぇヒロインしている気がする
・男ども
出番?
そんなものはねぇよ
というわけで投稿です。
次回から多分ハイテンションギャグになります。
というかします。
次回もお楽しみに
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