凪と鈴花の二人は全力で駆けずり回っていた。
理由は単純で鈴花の家の
ディアベルスターも襲撃を躱しながら追っているらしいが、電話の端々から悲鳴が聞こえた。
つまり彼女は襲撃者をぶちのめしながらフランの下に向かっているというわけだ。頼もしいやら恐ろしいやらである。
「【蛇眼の炎燐】―――フランって名前で可愛がっているペットなんだけど精霊なんだけどね。すっかりペットみたいな立ち位置に…。」
慌てる鈴花の隣にはいまいち状況が呑み込めていない凪が居た。
そんな凪に鈴花は分かりやすく、簡潔に今の状況を伝えようとする。
事の発端は何かよく分からない小さな―――といっても人の子供の丈くらいはある生物に【蛇眼の炎燐】が攫われてしまったという報告をディアがしてきたことだ。
それがついさっき。
今はディアが教えてくれた情報に従ってその生物の先に回ろうとしている所だった。
「人…人攫い…なんですかね?」
「うーん…何といえば良いんだろう?」
「そこは分からないと駄目な所なのでは…?」
とにかく、問題なのはフランが「連れ去られた」という事実のみである。
これが鈴花にとって、一番重要な事実なのだ。
つまりそれは自分の家族と同等の存在に手を出されたという事であり―――それは鈴花にとっては二度と許したくないような行為なのである。
「…とにかく、後で凪ちゃんの話は聞くから…今は協力して?」
「……絶対、ですよ。」
「うん。…それがどんな話であれ、凪ちゃんの話なら私はそれを受け入れるよ。」
鈴花は、この時点で―――凪が何かを覚悟した目をこちらに向けた際、彼女は「もしかしたら覚悟が必要な話かもしれない」という事を理解していた。
―――そしてそれは、「それだけのもの」を彼女が背負い込んでいることの証左であり―――それでも、彼女を受け入れたいと、その重責はきっと一人で背負わなくてもいいものだからと伝えたいと心の底からそう、鈴花が願った事の証でもあった。
この二人の関りは―――鈴花にも、凪にも、きっといい影響を与え続ける事だろう。
それほどまでに惹きあっている二人なのだから。
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ディアベルスターは―――鈴花の事が人間として好きだ。
不器用ながらも、前に進もうとする彼女の姿が好きだ。
それこそ、隣に立ってその行く末を見守ってやりたいくらいには好きだ。
―――当然、フランの事も。
ついこの間まで命を賭けて殺し合った相手だ。当然「今すぐ仲よくしろ」なんて言われても無理だろう。というか絶対に無理だ。
それでも、同じ「桜庭鈴花」という少女の下で過ごして、それなりの情もわいているし、何より今の【蛇眼の炎燐】―――もとい、力を失った【蛇眼の炎龍】は今の【黒魔女ディアベルスター】にとっては仲間であるのだ。
「…で、仲間に手ェ出されたんならキレるのは当然だよなぁッ!?」
「ぬわーっ!」
―――結果、ディアベルスターは激怒したのだ。
必ずかの邪知暴虐な
きっと、鈴花もそう望んでいるだろうから。
「死に晒せー!」
「てめぇがな!」
「俺達の金になれェ!」
「知るかンな事ォ!」
「おい、デュエルし―――」
「うるせェ!ここで斃れてろ!」
妙に数の多い襲撃者を片手間で払いのけながらフランを攫った連中を追いかける。
どうやらこの世界におけるゴキブリと一緒で一匹見たら30匹はいるらしい。
一匹一匹はさして強くはないがここまで数が多いと厄介だ。おまけに殴り飛ばした奴も即座に復帰して襲撃をかけに来ている。
「コバエのように湧いて出やがってよぉ!そんなにオレに殺されてぇのかァ!」
一体一体はたいして強くなくとも、ここまで数が多いと辟易もする。
正直、同じような顔ばかりで見飽きて来た。早いところぶっ飛ばして鈴花と合流したいところである。
―――もっとも鈴花に襲撃をかけているかは分からないが。
「邪魔だ!」
「アバーッ!」
こいつらをどうまとめて片付けるか。
ディアベルスターの脳内はそれを考えるのに精いっぱいになっていた。
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「縄の罠ぁ!?」
「―――シィっ!」
鈴花が罠に突っ込んで、凪がその罠を破壊する。
この短い間で、すっかりこの二人はこの方法での強行軍が最適だと気づいていた。
鈴花からしてみれば、凪がここまで格闘能力が高いことに驚きである。彼女は、ぼそっと「空手をやっている」と漏らしていたのできっとそれの賜物なんだろうと思う事にした。
流石に素手で人体を引き避けるだとかそんなギャグマンガみたいな事実が起こりえるはずもないだろうし。
―――鈴花にとっての問題はディアと合流しなくてはいけないという点だ。
「―――デュエルで決着を付けようよぉ!」
「ぎひひひッ!俺らがルールに従うかよぉーッ!」
こんな感じでデュエルしようとしても相手がこんな事を抜かすせいで受け入れてくれないのだ。
いや、そもそもこちら側からしたらなんで狙われているのかという一点が最大の謎であるのだが。
そもそも声の主に覚えもないし、何よりも最近は恨みを買う行為はしていないはずだ。それなのに、ここまでされると心に来るものはかなりある。
「ふう…落ち着け私―――!」
「―――鈴花さん!そこは―――!」
自分を落ち着かせようとして大きく深呼吸しながらも歩みを止めない。
―――そうして、鈴花は再び罠に嵌った。今度はアスファルトの地面にどうやって掘ったのか分からない小さな落とし穴である。
普通ならこんな罠では誰かを怒らせるだなんてことは不可能だろう。
しかし、鈴花は今までが今までなので大分フラストレーションを溜めていた。
そこにこの小さな罠に引っかかるという地味ながら、イラつきが大きい罠に嵌ってしまったのだ。
―――結果として、鈴花の堪忍袋の緒は千切れ飛び鈴花は激昂。
「なんだよ、もぉぉう!またかよぉぉぉぉッ!」
彼女はすっかり冷静さを月らへんまでぶっ飛ばしていた。
流石にこの状態で鈴花を連れていけないと判断した凪は―――
「当て身」
「おふん…」
申し訳ないが、鈴花に伝家の宝刀である「当て身」を繰り出すことに。
紫焔家伝統の秘儀「当て身」―――。一説によるととある日本の少年が飛行機内で崔津人犯に出会った時、「当て身」といいながら首の後ろ―――脊髄部へと正確無比に刺激を与えることで相手に意識を刈り取る業である。
ちなみに使っている凪本人は理屈だとか理論だとか知らずに「絶対気絶させる業」としての運用が主なわけなのだが。
とにかく、これで先に進めるというわけだ。
恐らくは罠の先に待っているであろう「何か」を目指して凪は進む。
それが何であろうとも、今はただ斃すだけだと、そう決意しながら。
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こうして鈴花を背負いつつ罠を躱して進む凪はディアベルスターと名乗る女性―――恐らくは精霊で鈴花が「ディア」と呼んでいるであろう人―――と合流することができた。
それで開口一番に聞かれたのは、背中に背負っている鈴花についてだ。
「…なんで鈴花を背負ってる?」
「…罠に落ちて当たり所が悪くて…。」
「……そうか。ありがとうよ、ここまで運んできてくれて。」
言葉遣いは粗野だが、言葉の端々から鈴花を気遣おうとする感情が伺える。少なくともこの人は「まとも」な人間であることは良く分かった。
だから、彼女に鈴花を背負ってもらおう。背格好的にもその方が動きやすくなる。
「アイツはこの奥に逃げ込んでいった。…鈴花を頼んだぞ。」
「…はい。」
しかし、ディアは鈴花を背負うことはせず、そのまま凪に任せるという形にした。
―――凪はそう言うのなら仕方が無いという風に鈴花を背負い続ける。
そうして、鈴花が気絶したまま―――二人は裏路地へと踏み込んだ。
そこにいたのは単車に乗ったいかにも風貌のモンスター。
そのモンスターはディアベルスターを見るや否や嬉しそうに声を上げた。
「俺達は【
「…おびき寄せるために罠を張ったり、【蛇眼の炎燐】を攫ったってのか?…程度が知れるなぁその程度の浅知恵しかねえとは…よぉ!」
「その浅知恵にてめーは負けるのさぁ!…それにイイ女を二人も連れてる。これは"金になるぜ"ェ!」
―――このモンスター共の目的は金らしい。
なるほど、ディアベルスターは賞金首であるという事を聞いていたが、こういう輩も賞金を狙ってくるのか。
相手が御高説を垂れてる間に凪はディアに耳打ちした。
「…ディアさん。鈴花をお願いします。…ここは私が。」
「…ハッ!一発かましてやれ!お前も相当ストレス溜まってたんだろうからよぉ!」
そして、相手の主魁に対して、凪は一人で相対する。
その目にはきっちり真正面からのその姿が映っていた。
単車を含めても、かなりの大きさを誇る体。
―――さらに単車を犬にひかせているようにも見える。その犬、というか―――獣も十分に凶悪そうだ。
が、今のフラストレーションがたまりに溜まった凪にはそんな事は関係ない。
「…俺はガボンガ!てめーに死をも上回る苦しみを―――」
「しつこい。」
「――――ぐぼぉ!」
相手のうざったらしい演説を鳩尾に拳をめり込ませることで強制的に中断させる。
空手は元は「対人格闘術」。人型のモンスター程度なら凪は簡単に片づけられる。
―――最もここは秩序ある人間社会なのでそんな事はしないのだが。当然、この世界にはこの世界にの取った喧嘩の方法というものがある。
「…まどろっこしいのは嫌いです。ここはデュエルでケリを付けようじゃあないですか。」
「…こ、このアマ…!…こっちは元からそのつもりだったってのに…!!」
「だったら素直に【デュエルで決着つけましょう】といえばいいんですよ。阿保なんですか貴方は。ぐちぐちぐちぐち…能書きを垂れる前に向かってきたらどうです?」
ディアベルスターもこれには耐えきれない。
目の前の光景のおかしさに思わず腹を抱えて笑いそうになってしまう。
というかこれで笑うなというのが無理だろう。
折角名乗ったのに開幕鳩尾への拳で台無しになり―――力だけでは勝てないと悟らせてしまったのだから。
「…テメェはぜってぇに千回磨り潰してやらぁ…!」
「…どうぞ、ご自由に。では、始めましょうか…!」
こうして凪とガボンガのデュエルが始まろうとしている。
―――それを草葉の影で見つめる男がいるとは一切知らずに―――。
・登場人物紹介
・凪
個人的な戦闘力は作中最強クラス。
恐らく銃で武装している一小隊相手でも難なく斃してしまえる。
その理由は彼女の【空手】は対人技能の空手術だからである。
・鈴花
気絶中。
・ディア
何となく鈴花が気絶した理由には察しがついている。
必要な事だと感じているのでディアは特に何も言う気は無い。
・ガボンガ
被害者である
百合の間に挟まるんじゃねぇよ男がよぉ!
ハイテンションギャグになっていますかね、これ…
次回もお楽しみに!
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