凪の告白。
それは凪が鈴花を追い込んだ黒幕であるという事だった。
が、鈴花はそれに対してほんの少しの動揺を返した。―――がそれ以上の反応は見られなかった。
「……やっぱり、か。そうじゃなければいいと思ってたんだけどなぁ。」
むしろ、自分の間違いであってほしかったと天を仰ぐ。
きっと、凪はそれだけ鈴花に好かれていたのだろう。それが間違いであってほしいと思えるくらいには、彼女の中で大きな存在となっていたのだろう。
だが自分が彼女にしてしまったものは、許されない事だから。だからこそ、言わなくてはならない。
―――結果だけ見れば鈴花は既に自分の所業を少しは知っていたようだが。
「…気づいて、たんですか…。」
「最初にデュエルした時の事、覚えてる?…凪ちゃんはその時ほんの少しだけだけど私に敵意を向けてきていたから…。」
「…ああ、六武衆使った時の…。」
あの時はまだ桜庭鈴花という少女の事を知らなかったから―――なんてのは言い訳にもならない。彼女を追い込んだのは確かに自分だし、それを良しとしたのもまた自分だ。
「…貴方はなんで私に敵意を向けていたの?」
「言ってしまえば…私が「私」じゃなかったからですかね。…かつての私には「私」という概念が良く分かりませんでしたから。」
「…空っぽ、だったんだね。
「空っぽ」―――あの時の凪を言い表すのにこれほど適した言葉はないだろう。
あの時は何も考えず父の言う事に従っていた。それが正しい事だと信じていたし、それ以外のことに目を向けることをしようとはしなかった。
―――本当に愚かな行為だったと、今ならば思える。
自ら思考を放棄して分かりやすい道標に従うのは「生きている」といえないという事も、誰かに自分の理想全てを背負わせるのも。
今ならばそれはただの「押し付け」であることだと、身に染みている。
「…そう、なのかもしれませんね。でもそれは―――」
「うん、言い訳にはならない。」
「―――はい。」
「裏にどんな事情があったにせよ、貴女は私を追い込んだ。…合っているよね?」
「…間違いなく。私が…やりました。」
凪はそれを認めるしかないのだ。今になって後悔の念が襲い掛かる。
――自分が過去に犯した失態が今の自分を追い込んでいく。―――過去はどうやったって変えることのできない「現実」だ。過去に犯した罪が今になって自分を追い詰める。
向き合わなければならない―――そう思えばそう思うほど、体から力が抜けていくのが分かる。
それでも、凪は鈴花の事を見続けた。そして、言葉を放ち続けた。
「…私は…あの時、親の言う事を聞いていれば幸せになれると―――そう教えられてきました。」
「…え?何…ど、どうしたの?」
だが、どうにも思考が纏まらなくて、自分でも予想だにしていない事を口に出してしまった。
余りにも急に話題を転換したことから、鈴花は思わずきょとんとした顔で凪に問いかける。
凪も「しまった」といわんばかりに顔を歪めた。
「ああ…すみません。」
「…し…締まらない…。」
締まるも何もまだはじまってすらいないのだが。
こほん、と凪は咳払いをして真剣な面持ちに戻った。
「…関係のない話ではないですからね?」
「あ…うん。」
「私は、貴女を追い詰めました。でもその理由は―――貴方が四遊さんにきつい当たりをしていた事が始まりだったんです。」
「…やっぱりかぁ…。」
自覚していたなら治せよ―――と口にしようとしたがやめた。
この話の根本はそこでは無いし、そもそもそんな簡単に根本をずらせるような問題でもない。
「私の父は―――ありもしない「世界を救う」という役目に囚われ続けてきました。」
「…中二病だったの?」
「そういうわけではなく…ただ、ありもしない使命に固執していた可哀想な人、なんです。」
「…決別…したんだ?」
「いえ…「説教」…ですかね?とにかく聞いて欲しいんです。―――私の、今の思いを―――。」
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紫焔凪という少女は生まれは普通の家族だった。
両親の仲も良く、当然、凪にもたくさんの愛情が注がれた。
父親は交番勤めの警察官で―――地域の人には良く慕われていたと思う。
しかし、10ヶ月ほど前―――父は人が変わったように「世界を守る」ことに固執するようになった。それは「真の英雄」を―――たったひとりの少年が世界を救うところを目撃したからかもしれない。
「―――四遊さんは、いつの間にか父の中で崇拝の対象になっていました。」
「ええ…?」
そして、全ての事件が終わってから、父親はあの少年が行ったように「世界を守る」という事への協力を家族に強要し始めた。
正確に言えば「世界を救った少年を守る事」が、彼の中で「世界を守る」ことだったのかもしれない。
そして、わずか半年で「自分」が塗りつぶされ、何もなくなってしまった。
今まで温厚だった父がなぜそこまで豹変してしまったのか―――それは分からない。
余りにも急な豹変だったせいで、凪たち家族にも何が何だか良く分からなかった。
分かったのは―――言う事を聞かなければ少しずつ家での居場所を失くしていくという事実だけ。気づけば母も、祖父も、祖母も、自分も―――狂ってしまった父の支配下に置かれてしまった。
「それからでした。」
父の言う「世界を守る」使命を強要されて、最初に行きついたのは以前壊滅したカルト組織だった。
その組織は「程よく情報を流して壊滅」という指示の下で潜入した組織だ。
しかし自分が情報を流すよりも早くその組織は壊滅した。どうやら、
―――その時のデュエルは思い出したくもないくらいにボコボコにされた。
「…何があったの…?」
「現世界チャンピオンにボコボコにされました。」
「…ええ…?」
「話がそれましたね。話の筋を戻しましょう。」
「あ、うん。」
とにかく、だ。
出来れば自分の手で告発してやりたかったが、それをやると彼に大体的な迷惑が掛かるので止めた。
―――これだけなら何も後ろめたいことも無くいつも通りに鈴花と接していられただろう。
だが、問題は新学期が始まってから少しした後に示された父からの「もう一つの指令」だった。
『
それで、最初のターゲットに鈴花が選ばれたというわけだ、
最も彼女の最初期の態度でかなりの量の火薬がばらまかれていたので火をつけるのにはさほど苦労しなかった。
それだけの種を撒いていたのは鈴花ではあるが、逆に言えば
自分が始めたことで、鈴花はおおいに傷ついた。
彼女を追い込んだことはどれだけ詫びても詫びきることはできない。これから一生償っていかなければならない事だ。
「謝って許されることじゃないかもしれない…けれど、私は貴女に謝罪しなくてはならない。それが私が犯した罪への回答であり、私の償いの第一歩だから。」
しかし自分は鈴花と接したことで変わり、今までの行為を謝りたかった。
それがどんな結果になろうとも「ごめんなさい」の言葉を伝えたかったのだ。
「今まで―――本当にごめんなさい――――!」
ただ、言葉だけでは足りない。
自分の態度と体―――自分の全てで謝罪しなければならない。
凪の体は自然と手と足と額を地面に擦り付ける―――土下座の姿勢を取っていた。
「…貴女の前から消えろと言えばそうしますし、貴女が訴えるというのなら私は社会的に罪を裁かれましょう。…これ以上は私には決められないのです。そして、貴女には私を裁く権利がある。」
これから先、どんな罵倒が飛んで来ようとも、どんなことを言われようとも、凪はただ耐えることしかできない。
鈴花が言葉を発するまでのその数秒が永遠に等しく感じられる。
そんな中で最初に凪に届いたのは―――鈴花の呆れたようなため息だった。
「凪ちゃん、顔を上げて?―――それから私の家に、行こうか?」
そしてそのまま流れるように、鈴花に腕を掴まれて連れていかれてしまう。
凪は、鈴花に腕を引かれるままについて行くことしかできないのであった―――。
登場人物紹介
・凪
詫びは終わった。
後は沙汰を待つだけだ。
・鈴花
話は聞いた。
後は沙汰を下すだけだ。
というわけであと2から3話でこの章を終了します。
そしたら本題の「世界編」突入するでぇー!
水樹君のデッキ強化
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