「相棒」   作:ダンちゃん1号

195 / 209
落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け

 

自分の居場所―――凪は確かにそう言った。

凪ががどうしてもそこに居たいと願うなら、自分にその場所を守るための手助けをしてやりたい。―――そのためには彼女の望む居場所を聞かなければならない。

だから、鈴花は黙って話の続きを促した。

鈴花の思いが通じたのかどうかは分からないが、凪はぽつぽつと話を再開させた。

 

「私は、今の私になって自分を見てくれる人なんていないと思ってました。前の自分はどんな人間だったか覚えていないので…。」

 

凪は一度そこで目を伏せた。

これから自分の言う言葉を組み立てようとしているのか、それとも自分が言っている言葉を自分が理解できていないのか。

どっちにしろ今の凪の内心を鈴花が推しはかることはできないが。

 

「私はこの先ずっと、何も見えない暗闇の中で過ごすのだと…誰かに導かれるまま、言いなりになる人生を送るのだと―――そう、考えていました。」

「…うん。」

「でも違った。…ちゃんと見ていてくれる人がいた。今の「私」をちゃんとまっすぐ見つめてくれる人が、いたんです。」

 

凪は一度そこで言葉を切った。

まるで「それ以上は言ってはいけない」と自分を戒めているようにも見える。

自分にはそんなこと言う資格すらないとまた自分を押し込もうとしている。

―――それは、だめだ。

彼女の望んだことを手伝うと決めた以上、彼女が何をしたいかを彼女自身の口から聞かねばならない。

 

「……私はその人のそばに居たい。どれだけ詰りを受けようと、罵られようと、私はその人のそばに居たいのです。」

「…へぇ。そんな人が居るんだ。私が取り次ぐ?」

「…なんて鈍い…。」

「なにか言った?」

「いいえ、なにも。」

 

凪が何を言ったのかは聞き取れなかった。それほどまでに鈴花に衝撃が大きかったから。

ある人のそばに居たい。

それが凪の望みだという。

その人がどんな人かは分からない。ただ凪がその人に何といわれようと傍に居たいと思えるような人を見つけられたのはいい事なのだろう。

それなのに、どうしてこんなにも胸が締め付けられるのだろう。

それが誰かといわれたわけでも無いのに、どうしてこんなにももやもやしてしまうのだろう。

 

「あ、でも…取り次いでくれるのはうれしいですね。」

「…そっか。誰に取り次ぐ?」

「あー…それは…もう済んでい居ると言いますか…。」

「?」

 

何故だか余計にしどろもどろになったように見える。

それだけ自分に伝えたくないという事なのか。これは何としてでも聞き出したくなってきた。

彼女を許す許さないは別にして、それを知ることが出来なければここから先の話が出来そうにない。

 

「ええいまだるっこしい!結局その人は誰なの!?」

 

というわけで、鈴花は凪を壁際に追い詰めて―――そのまま逃げられない様に手で逃げ道を塞ぐ。

俗にいう「壁ドン」の形になった訳だ。

 

「あひゅっ…」

「……?」

 

凪の口から変な吐息が漏れるとともに凪はそのままぶっ倒れる。

何がどうしてどうなったのか分からない鈴花は困惑するばかりだ。

 

「え!?ちょっと!?凪ちゃん!?」

 

鈴花はどうしてこうなったのか分からないというように頭を抱えながら、凪のことを介抱するのであった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

なにか幸せな夢を見ていた気がする。

大切な人の顔がすぐ傍にあって、息遣いもすぐ近くで感じられて―――。

 

「ほひゅっ!?」

 

思い出すだけで、顔が熱くなりそうだ。

というか、その感覚だけであと軽く三回は気絶できそうな気がする。

―――時折霊使が変な声出していたのはそういう事だったか―――凪は今更ながらにそう思った。

大切な人の顔がすぐ近くにあるという事の破壊力を侮っていたのだ。

 

(…落ち着け…大丈夫だ……こんなことで狼狽えない、紫焔凪は狼狽えないィィィ!)

 

心の中で自分に言い聞かせる。

狼狽えてはダメだ、顔に出してはダメだ、と。

自分の中にあるこの感情はきっと―――抱いてはいけない類のものだから。

 

(…事ここに至ってそれを自覚するんですから…難儀なものです。)

 

創作の世界では同性同士の恋愛だって普通に行われるだろう。

だが、それはあくまで創作―――「想像上の世界」でしかないのだ。

犯罪者が何のお咎めも無しに許されるなんてことも、或いは死人だったのが謎の力で蘇るなんてことも起こりえない。誰が何をどういようとそれが「現実」なのだ。

だから、叶うことの無い気持ちを押し込める。

―――押し込み切れてはいないが、まあ、本心がばれなければ無問題だ。

 

「…ここは…。」

「私の家だよ。…急に倒れたから取り敢えずソファに寝かせたけど…大丈夫?」

「吐くほど緊張してましたからね。…今は大丈夫、ですよ。」

 

ああ、自分が素直なのであれば、きっとこんなに悩まずに済んだのだろう。

自分が思うがままに気持ちを伝える事も出来たのだろう。

―――自分はそんなに正直になれないしなれたとしてもそんな事は言えない。

自分が追い込んだ相手に「傍にいていいですか」なんて言えるはずがない。―――そこまで面の皮を厚くする事なんてできはしない。

 

「うーん…。何かまだ顔が赤いような…。」

「い、いえ、本当に大丈夫です…!」

(近い近い近い近いああぁぁぁぁ!!!?)

 

―――本当に心臓に悪い。

彼女は自分の内心など知る由もないだろうから無自覚なのだろう。

無自覚でこれは人たらしが過ぎるとでもいえば良いのだろうか。

 

「…無理していない?」

「はい…。」

「そっか…。」

 

それよりも、と凪は話を本題に戻そうとする。

しかしそれは、鈴花にとっては「急な話題転換」にしか映らなかったようだ。

つまり―――自分が体調が悪いのを隠している―――そう勘違いしてしまったらしい。

 

「…それよりも、じゃないでしょ?やっぱ体調悪いから無理に話題を変えようとしたんじゃないの?」

 

体調は悪くはない。

むしろいい方だとさえ思っている。

話して心のつっかえがとれたからかもしれないが―――とにかく体調面で彼女が心配しているようなことは無い。

だが、凪はそれを鈴花に伝える方法がない。

言葉で伝えようものなら確実に恥ずかしさで死ねるだろう。これは一体いかなる辱めか、と声w大にしても許されるレベルだ。

 

「そんなことは無いです。大丈夫、体調には本当に問題がありませんから。」

 

矢継ぎ早に言葉を繰り出し、自身の体調面に問題ないことをアピールする。

―――何故だろう。鈴花を意識すればするほど自分の内心と行動がちぐはぐになっていくのは。

それほどまでに彼女の事を思っているという事なのか、それともまた別の何かが自分の中にあるのか。

 

「思うだけで貴方に伝わればどれほどいいか…。」

「…?」

「…私は、私は――――」

 

言おう。

今ここで言おう。

言わなければ一生逃げたままだ。

「叶うはずがない」と思ったままなあなあで日々を過ごすだけだ。

それは、自分を変えてくれた彼女にも失礼だろう。

もし自分の思いが拒否されたとしても―――それは今までの自分の業のせいだ。それを誰かのせいにするほど落ちぶれているわけでは無い。

「鈴花さん」と名前を呼んで、彼女の意識をもう一度こちらに戻す。―――もう後戻りはできない。凪は鈴花を読んでからたっぷりと時間をかけて言うべき言葉を紡ぎあげていく。

 

「…私はッ!貴女と出会えて、「自分」というものを知れました…。今の私は、全部貴女に作ってもらったんです。」

「…なんか、正面から言われると照れるね…。」

 

紡いだ言葉を一度口にすれば、後はもう一本の糸のようにして言葉が出て来る。

彼女の反応を気にする余裕なんてものはない。一度彼女の方を見てしまえば、紡いだ糸が切れてしまいそうな気がしたから。

 

「私はやったことはきっとあなたにとって大きな疵になった。…でも、でも私を許してくれるのなら―――私は貴女とずっと一緒に居たい!」

 

―――ああ、言ってしまった。

これから一体どうなるのだろうか。

これからどんな反応が返ってくるのか知るのが怖い。

だが、何も告げずに彼女の前からいなくなりたくはない。

しかし、何も反応が返ってこない。どうしたのかと思って鈴花の方を見てみると―――

 

「…あぇあ!?…え!?私!?な、え?ちょッ…ええ?」

 

何やら顔を真っ赤にしてパニックになっている鈴花の姿が目に入って来た。

―――なんで言われた方が困惑しているのか。

凪は目の前の状況が呑み込めずに呆けるしかやることがなかった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

隣に居たいという人物は自分だった。

凪の口からその言葉が出たとき思考が完全に硬直した。

勿論硬直した理由は困惑ではない。―――これは自分が変に優しいだけなのかもしれないが―――凪の話を聞いている限りどうにも凪は自分というものが無かったように感じた。

あの事件から、ずっと自分の意志を殺してきて、いつの間にか彼女自身というものを忘れてしまった。

それでも、自分のそばで一緒に過ごすうちに、「自分」というものが生まれたのだと言う。

そして、彼女は彼女自身の意志で「鈴花のそばに居たい」―――そう言った。

 

「…あわわわわ…あわわわわわわわわわ‥‥!」

 

鈴花からしてみれば、それは凪が自分で変えていったことだ。少なくともそこに自分の力は関与していないと―――そう感じていた。

 

(ずっと一緒に居たいって…ええ!?)

 

それに「ずっと一緒に居たい」という言葉に悪意も何も感じられなかった。

だから、彼女は本心からそう思っているという事だ。

 

(つ…つつつつつまり一緒に居たい相手って…私ィ!?)

 

そんな事を考えて「いやいやいや」と首を振る。

まさかそんなはずはない。

確かに最近は一緒に居て楽しいと思えるし、誰か知らない人と一緒に居ると嫉妬したりもする。

「彼女は自分が育てた」―――と独占欲を抱く時もある。

とにかく、自分の中で凪という存在は存外に重い存在になっていたようだ。

 

「…あわ、あわわわ、あわわわわわわ…!」

 

思考が纏まらない。

今口を開けば何か取り返しのつかないような言葉を発してしまいそうな気がする。

 

(落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け―――)

 

鈴花はたっぷりと時間をかけて言葉を組み上げていく。

それは奇しくも―――ついさっきの凪と同じ行動であった。




登場人物紹介

・凪
や、やったっ!

・鈴花
一旦落ち着け
ちなみに凪のことは気にしてない

シリアスは今後の話で嫌というほどやるのでギャグに戻しておきました

水樹君のデッキ強化

  • ネクロス
  • リチュア
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。