夕日がてらす河川敷。
私―――四道咲姫と兄―――四遊霊使は二人でその道を歩いていた。
なんてことはない、ただの兄弟の時間。
いままでで取ることが出来なかった、兄と妹の二人っきりの時間。
本来なら兄は彼女―――というか事実上の妻のウィンと一緒にゆったりしているころだ。
それを自分が無理を言って付き合ってもらった。
『…家族とはちゃんと話しなよ、霊使も、咲姫も。』
ウィンのその言葉は―――とても重かった。
彼女自身、もう二度と彼女の家族と―――姉であるウィンダと話せないのだ。
実感を伴った言葉であったせいか、その言葉は二人の心に重くのしかかる。
『…二人とも、ちゃんと帰ってきてね。』
『分かってる。…じゃ、行ってくるよ、皆。』
そうやって二人で並んで歩いて、川の河川敷にやって来た。
私は河川敷の芝生の上に腰を下ろす。
兄もそれに倣って私の隣に腰を下ろした。
「…」
「…」
沈黙が場を支配する。
私も、兄もどちらも口を開かない。
連れ出したはいいが、何を話すか―――なんてことは一切決めていなかった。
「はあ、兄妹って何だろう。」
つい、常日頃から思っている疑問が口から洩れた。
兄妹とは、どんな関係なのだろうか。
兄と妹という風に言ってしまえばそれまでの関係なのだろう。
血のつながる、ちょっとだけ似たようなところがある、他人。
あるいは―――血という何よりも硬い鎖で雁字搦めにされた関係。
家族という特別な関係。
そんな普通の価値観からすれば私達の在り方はとても歪なのだと思う。
「…私達ってどんな関係なんだろうね、お兄ちゃん。」
「急に重くなったな?」
「ふと思ってさ。…私の友達にも兄弟が居るんだよ。いつも一緒に居るんだって。」
私達の関係を言葉にするのであればどんな言葉がいいのだろう。
それをしっかりと口にしなければと思うのに、どうしたってその言葉が形になることは無い。
私達は、兄妹で、別の家族で、そして―――敵同士だった。
今ではすっかり仲は昔のように戻ったけれど。それでもどう接するのが正解なのか分からない。
私は、未だ兄にどこか仄暗いものを抱えているのかもしれない。
「…私達は離ればなれになって、それぞれ違う時間を過ごしてきた。…もしかしたら、私達が交わることはもう何もなかったのかもしれない。」
「…そうだな。たしかに咲姫の言う通りだ。あんなことがなければ今頃俺とお前は殺し合ってたかもな。」
「笑えない冗談…とも言い切れないのがなぁ。」
本当に兄とこんなことを話せるのが奇跡に等しい。
クーリアが居て、皆がいて、そしてなによりも兄がいる。
それだけの日常がこんなに尊いものという事を噛みしめる。
そしてそれが今までの自分ではどうしようもなく手に入らなかったものだという事も。
「…私達は、生まれたタイミングがちょうど日をまたいでいたから、兄妹になったんだって。」
「ふぅん?」
「私達が双子だったら、この関係性もまた別の呼び名になってたのかなぁ。」
―――何かが違っただけで、「兄と妹」という関係にはなれなかった。
お互いにとって最もいい距離であるのはきっと「兄と妹」だ。それは間違いないだろう。
だが、もしそうなっていなかったらと考えると―――少し、怖い。
苗字も、育った環境も違う。もしかしたら血さえ繋がっていないのかもしれない。そんな間柄を一体どんな言葉で言い表せるというのだろう。
「………そんなのは、想像できないな。」
「うん。…本当にそう思う。想像できない…したくない。」
それでも、今の私と兄は「兄妹」だ。
その事実はどうやったって変わることは無い。それが変わることがあるとすれば、親が不貞を働いていたとかそう言うレベルの話になる。
流石にこの年になって親の不貞発覚は知りたくない。
「話が逸れた…!」
「逸れたというか逸らしたというか…いいか、咲姫。俺達は俺達だ。どんな関係だろうとそれは変わらない。俺とお前は家族なんだよ、間違いなくな。」
迷いなくそう言う兄。
どうやらどこまで行っても彼の中で家族は家族のままらしい。
どうやらレッツインモラルという事にはならなさそうで安心した。
「だから…まあ、なんだ。その…気にするなよ。咲姫はオレにどんどん甘えていいんだ。」
「お兄ちゃんはやっぱすごいや。私の不安なんて簡単に見抜いて…」
話せば話すほどこの人が兄で良かったと思える。
ああ、何も心配する必要は無かったのだ。
私は私のままでいていいんだ。私が私のままを表現していいのだ。
「…不安、だったのかもね、私は。」
「咲姫が…不安?…うっそだぁ。」
「失礼だなぁ。私だって不安を抱く時くらいはあるの!―――女の子なんだから。」
「そりゃそうだ。」
この人の隣にいるとすごく安心できる。
自分が自分のままでいていいのだと、他の誰でもない「四道咲姫」でいていいのだと肯定してくれる。
それがたまらなくうれしいのだ。
自分が自分でなくなることの辛さは何よりも知っているから、自分でいられることの価値を知っている。
それを誰かに強制することはあってはならない。そうなっている相手なら誰であろうと救おうと手を伸ばすはずだ。
「私ね、個人戦に出るんだ。」
「…へぇ。そりゃいいこと聞いたなぁ。」
「お兄ちゃんも出るでしょ?…一般枠で。」
「…そ。おかげでいきなり強敵と戦う事になったがな。」
兄が何を言わんとしているかもう理解した。
この大会期間中―――個人戦前に「兄と妹」として接するのはきっとこれが最後だ。
明日を迎えれば、試合を終えるまでは「兄と妹」ではなくただの相対する決闘者。互いが互いの命を狙う挑戦者で、そこに戦意以外を持ち込むことは互いにとって不敬だ。
敬意と戦意と―――熱意。それ以外は無用だと既に分かっている。
「…負けないからね。」
「俺の方こそ。兄より優れた妹は存在しないからな!」
「…それは負ける側が言うセリフじゃないの?」
「ハハハ!そうだな。―――迷いは、もうないだろ?」
分かっていたのか。
本当に聡い兄だ。
実の所―――悩んでいた。自分が兄の道を妨げる壁になってはいけないと思っていたから。
今日連れ出したのは、「棄権してほしいかどうか」を聞くためだった。
兄を栄光のロードへと導くのが兄への贖罪なのだと思っていたからだ。
だが、もうそんな事はどうだっていい。私の心が、体が、私を形作る全てが兄との戦いを望んでいる。
「うん。お兄ちゃんよりも私が強いって―――私の全てで示してあげる!」
「言ったな?…俺だって負けるつもりはないさ。かかって来いよ、咲姫!」
兄妹として、ライバルとして。
二人の間に最早言葉不要だ。後は拳―――互いのデッキで語り合うだけだ。
負けるつもりは毛頭ない。
それが私の決意なのだから―――。
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兄妹という関係は羨ましい。
ウィンにとって家族とは喪ってしまったものだ。
それはどうしたって覆しようのないの無い事実だ。
だが、今ある関係を守る事くらいはまだできる。
それくらいの検診はどうか許してほしい。
自分だけじゃ霊使を幸せにする事なんてできないと分かっている。
(みんなとなら、きっと大丈夫だよね。)
幸せは―――ただ愛する人と一緒に居れば成り立つものではない。
彼の世界は、ウィンと彼の二人きりの物ではないのだ。周りにはエリアやアウス、ヒータもいるし咲姫や奈楽、克喜のような友人もいる。
独りじゃできない事でもみんなと一緒なら出来る。―――それは、普通のことのようでいてとても尊い事なのだ。
だから、霊使と咲姫を送り出せた。嫉妬はあるけれど―――家族という関係は何事にも代えがたいものであると理解しているから。
家族と話せないからこそ、家族の大切さが良く分かる。
その関係で悩んでいる咲姫の事をどうして放っておくことができるだろうか。
きっと、自分の姉―――ウィンダでも同じように送り出したはずだ。
(お姉ちゃん…私はもう、大丈夫だから。)
遠くにいる姉に再会したら話したい事がたくさんある。
そしてこれからもきっと話したいことは増えていくだろう。
その話の中には霊使が居て、仲間がいて、皆がいる。
(大丈夫だから…見守っててね。)
少女は静かに夕暮れを見上げるのであった―――。
というわけで幕間です。
次回から個人戦という名の本番が始まります。
水樹君のデッキ強化
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ネクロス
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リチュア