相手の場には【シトリスの蟲惑魔】、【セラの蟲惑魔】、そして奈楽が自身のエースと信を置く【フレシアの蟲惑魔】の計三体のモンスター。更に場には【狂惑の落とし穴】と【ビッグウェルカム・ラビュリンス】が伏せてある。鈴花にとってのアドバンテージはこの二枚がそれぞれ奈楽の場のカードの効果によってセットされたという事知っている―――伏せカードの中身を理解しているという事だ。
そしてそのカードたちがどれほど厄介なのかを、鈴花は理解している。
だから真っ先に行うべきはそのカードを破壊する事である。
「…私のターン…ドロー!取り敢えず雑に【ハーピィの羽箒】!」
「うっそ!?手札の【キノの蟲惑魔】の効果発動!自分フィールド上に【蟲惑魔】モンスターが居るのならこのカードを特殊召喚する!【キノの蟲惑魔】が場にある限り自分フィールド上の罠・魔法ゾーンにセットされたカードは一ターンに一度だけ破壊されない!…【蟲惑の園】は破壊される…。でも蟲惑魔の効果が発動したから【セラの蟲惑魔】の効果発動だ。デッキから【ホールティアの蟲惑魔】をセットするよ。」
最初の除去は空振りに終わってしまったようだ。
あの伏せカードの内容は分かっている。―――だからこそ何か手はないかと考えているのだ。
直接的な除去を試してみたが対して効果は無かった。
―――であるならば相手が持ちうる妨害全てを吐きださっせる以外に方法はない。
「手札の…【スネークアイ・エクセル】を墓地に送って手札から【黒魔女ディアベルスター】を特殊召喚!特殊召喚成功時、【黒魔女ディアベルスター】の効果発動!」
「…【フレシアの蟲惑魔】の効果発動!デッキから【煉獄の落とし穴】を墓地へ送り【黒魔女ディアベルスター】の効果を無効にして破壊!さらに【シトリスの蟲惑魔】の効果発動!このカードは自分のカードの効果で場から離れた相手モンスターをX素材にすることができる!」
―――まずは、これで一つ使わせた。
これを吉と見るか凶と見るかは、まだ分からないが、状況は確かにこっちに傾いてきているはずだ。
(あの落とし穴は間違いなく【狂惑の落とし穴】…!ここは大人しく……するわけないよねぇ!)
【狂惑の落とし穴】―――このカードは攻撃力2000以上のモンスターを破壊するカード。発動条件も相手がモンスターの特殊召喚に成功した時、と非常に緩い。
ならば、攻撃力2000以上のモンスターを用意してやれば相手はそのカードに対して【狂惑の落とし穴】を使うという選択肢を取らざるを得なくなる。
「…私は手札の【スネークアイ・オーク】を召喚!【スネークアイ・オーク】の効果発動!効果で墓地から【スネークアイ・オーク】を召喚!【スネークアイ・オーク】は召喚成功時に墓地から炎属性レベル1モンスター一体を対象として発動できる効果がある!私は墓地の【スネークアイ・エクセル】を特殊召喚!【スネークアイ・エクセル】の特殊召喚成功時に【スネークアイ・エクセル】の効果発動!」
「…そうは行かないよ。罠発動―――【ビッグウェルカム・ラビュリンス】!効果でデッキから【白銀の城のラビュリンス】を召喚!その後【キノの蟲惑魔】を手札に戻す!」
奈楽は今後自身が出すカードにフィールドのカードを破壊する効果があると踏んだのかもしれない。
それなら多少アドバンテージを捨ててでも伏せカードを使用した方が奈楽自身にとってはいい判断なのだろう。
「【スネークアイ・エクセル】の効果で【蛇眼の炎燐】を手札に。そして、ドロー以外の方法で手札に加わったため【蛇眼の炎燐】の効果が発動。」
「…フィールドのモンスターが離れた為その効果にチェーンして【白銀の城のラビュリンス】の効果発動!更に通常罠が発動したから【セラの蟲惑魔】の効果発動!…効果で【アトラの蟲惑魔】を特殊召喚!」
【スネークアイ・オーク】も【スネークアイ・エクセル】もどちらも同じ効果を持っている。どちらが破壊されても鈴花はこのターンに行う動きに対して変化はつけないつもりでいた。
(…これで確実に【狂惑の落とし穴】を使わせる準備ができた…!)
ふう、鈴花は息を吐きだす。
今まで緊張していたせい過呼吸するのをすっかり忘れてしまっていたようだ。
「……参ったね。手札かフィールドか…これは中々に難しい選択だ。」
【白銀の城のラビュリンス】はフィールドからモンスターが離れたときに相手の手札・フィールドのカード一枚を破壊する効果を持つ。
そして【ビッグウェルカム・ラビュリンス】はデッキから【ラビュリンス】モンスターを召喚したうえで自分フィールドのモンスター一枚を手札に戻すことができるカードだ。
(しかも戻したのがよりにもよって【キノの蟲惑魔】なんだよねぇ…。)
【キノの蟲惑魔】は手札から特殊召喚できる蟲惑魔モンスターだ。特殊召喚のための条件は非常に緩く、その上セットされた魔法・罠を守る効果を持っている。
それを手札に戻されたのは痛手だった。
「僕は…【スネークアイ・エクセル】を破壊する!」
「【蛇眼の炎燐】を特殊召喚!効果で【スネークアイ追走撃】を手札に加える!」
手札は三枚。墓地にカードは十分。
後は思い切り動くだけだ。
「行くよ!私は【スネークアイ・オーク】の効果発動!このカードと【蛇眼の炎燐】を墓地に送りデッキから【スネークアイ・オーク】以外の【スネークアイ】モンスターを召喚することができる!おいで、【
「召喚成功時に罠発動【狂惑の落とし穴】!【蛇眼の炎龍】を破壊してそのまま除外!」
鈴花は【狂惑の落とし穴】が伏せてあることを知っていた。知っていて、敢えて【蛇眼の炎龍】を場に出したのだ。そして【蛇眼の炎龍】に対して【狂惑の落とし穴】を使わせた。
―――これですべての仕掛けは整った。
相手は場のカードの効果全てを使い、自分のデッキを詰ませようとしてくれた。
お陰でこれ以上ない状況でこのカードを使える。
「…4…!」
「何のカウントだい?」
「貴方が私のターンに効果を使用したモンスターの数だよ。【セラの蟲惑魔】、【シトリスの蟲惑魔】、【白銀の城のラビュリンス】、そして―――【フレシアの蟲惑魔】。」
これは「確認」だ。このカードの効果を正しく使うための、そしてこのカードの餌食になるモンスターの。
「あっているね。僕が効果を発動したのは間違いなくその4枚だ。」
「そう。…ならその4体をリリース!」
「…なんだって?」
今から鈴花が使うカードはいざという時の「とっておき」。
このカードを使うという事は、それだけ今の状況が窮地である事の証左。
しかし、このカードは文字通り絶対絶命のピンチを最大級のチャンスに変えるカードだ。
「このカードは通常召喚出来ない。自分のターン中に相手フィールド上で効果を発動した自分、相手のモンスター全てをリリースすることでのみ特殊召喚できる!」
「まさか…最初から狙っていたとは。…読みを間違えたみたいだね…!」
鈴花の宣言と共に、奈楽のフィールド上からモンスターが消えた。
文字通り、【アトラの蟲惑魔】を遺して―――それ以外のモンスターは消え去った。
正確に言うのであれば供物にされたというべきなのだろう。
(…冗談じゃない…!)
4体のモンスターを喰らったのは赤き神龍。
赤き神龍は一本の銅剣に巻き付き、フィールドに鎮座する。
そして、その銅剣の前に炎が巻き上がった。
「大罪人の魂を喰らいて、今こそ世界を灰燼に帰せ。…裁定の時は今来る!炎と共に舞え―――【俱利伽羅天童】!!」
現れるのは角に炎を灯した白髪の少女。
世界を救済すべきか否かを見定めるある神が顕現した姿である。
『…久しぶり…じゃの、鈴花。良き戦い、良き縁に恵まれたようで何よりじゃ。』
『あの時以来だね…。…そっちも変わりないみたいで良かった。』
俱利伽羅天童は鈴花にだけ聞こえるようにそっと話しかける。
鈴花も天童の声に対して彼女にだけ聞こえるようにしてそっと言葉を返した。
『色々と積もる話はあるが―――今はこの戦いに備えようぞ!』
『分かってる!』
鈴花も天童も色々と話したいことはある。
だがまずは、このデュエルを終わらせてからだ。
「【俱利伽羅天童】の攻撃力はこのカードを特殊召喚する際にリリースしたモンスターの数×1500上昇する!従って【俱利伽羅天童】の攻撃力は7500に上昇するよ!」
俱利伽羅天童 ATK1500→7500
攻撃力7500。
他にモンスターが居ればいとも容易く残りのライフを消し飛ばせるであろう攻撃力。
「…バトル!【俱利伽羅天童】で【アトラの蟲惑魔】を攻撃!」
「攻撃宣言時墓地の【ホールティアの蟲惑魔】を除外して効果発動!」
「そうはいくか!【墓穴の指名者】!効果で墓地の【プティカの蟲惑魔】を除外!」
「…そうくるだろうね!【ティオの蟲惑魔】を守備表示で特殊召喚!【ティオの蟲惑魔】が特殊召喚に成功したため墓地の【狂惑の落とし穴】をセット!」
ここは何としても【俱利伽羅天童】の攻撃を通したい場面だ。本来の使い方ではないとはいえ、【プティカの蟲惑魔】の効果を発動する隙を与えるわけにはいかない。
万が一にでも【プティカの蟲惑魔】の特殊召喚を許せば【俱利伽羅天童】の攻撃力は1500に戻ってしまう。
というか、そもそも【俱利伽羅天童】は自身の効果でしか特殊召喚出来ないので、引きずり出されるのは強制的に【蛇眼の炎龍】となるのだ。
「バトル続行だよ!【アトラの蟲惑魔】を攻撃!」
少女がアトラの蟲惑魔に目を向ける。それと同時に少女の後ろに鎮座していた銅剣にそれに巻き付いた竜が同化する。
―――そして銅剣の刀身は激しく燃え上がった。
少女―――【俱利伽羅天童】はゆっくりと右腕を上げた。
それに連動するように燃える銅剣もゆっくりと動き出す。
鈴花も【俱利伽羅天童】に倣うようにして左腕を天に掲げる。
そして二人は掲げた腕を振り下ろした。
「一回叫んでみたかったんだ、これ!必殺!『ガルガンチュア――――』」
『まてまてまてまておぬしらは何故そんな危ない橋を渡りたがる!?』
「それはゲームが違うよ!?だからそれは叫んじゃダメぇ!」
『消される!消される!!』
その時に鈴花が叫んだ言葉は少しばかり危ないものであったせいで周囲からツッコミが殺到した。【俱利伽羅天童】が漏らしていた言葉から母も同じような事を叫んでいたらしい。
―――何とも締まらない形になったがバトルは続行。
鈴花の叫び声に呼応するように振り下ろされた銅剣はアトラの蟲惑魔の抵抗虚しく、全てを切り裂いた。
奈楽 LP8000→2300
アトラの蟲惑魔のささやか抵抗でほんの少しだけ勢いを落とした銅剣が奈楽のライフを大きく削る。
これが現実だったら今鈴花の目の前には肉塊に変わった奈楽がいることだろう。幻影であると分かっているのに、振り下ろされた剣から出る熱気が妙に生々しく感じられた。
「エンドフェイズ!【俱利伽羅天童】の第二の効果発動!貴方の墓地の【白銀の城のラビュリンス】を私の場に特殊召喚!」
「げぇ、
鈴花 手札1枚 LP8000
モンスターゾーン ①俱利伽羅天童
②白銀の城のラビュリンス
③なし
④なし
⑤なし
魔法・罠ゾーン なし
今の鈴花の場には単純な高攻撃力を持つ【白銀の城のラビュリンス】と、全てをひっくり返してくれた【俱利伽羅天童】が居る。
いくら展開力が上昇した【蟲惑魔】といってもこのフィールドを簡単にひっくり返せるわけが無い。
「…私はこれでターンエンド!」
伏せカードがないというのと、たった一枚の手札が相手にすけているという事。
この二枚の事実が鈴花の心から余裕をなくす。
それは彼女自身の「勝ちたい」という気持ちの表れであり―――彼女の弱点でもあった。
登場人物紹介
・鈴花
黒魔女と炎の蛇と天童が搭載されたデッキ。
モンスターを用いて制圧盤面を作る事は彼女にとってはただの餌でしかない。
・奈楽
伏せカードや手札のカードが何なのか分からないからね、しょうがないね。
それはそれとしてこの状況を突破できる手段はあると確信しているようだが…?
というわけでこれがやりたかっただけだろシリーズです。次回で準決勝は決着です。
水樹君のデッキ強化
-
ネクロス
-
リチュア