三位決定戦控室。
その一角の雰囲気は明らかに沈んだ物だった。その原因は言うまでもなく奈楽に負けた鈴花である。
彼女は控室の隅っこで蹲っていた。
「…負けた…。」
それが事実。
「負けた」という事のみが鈴花に重くのしかかる。
今までのデュエルの中で何よりも楽しかった。―――正直に言うならもっと続けていたかった。
だがもう終わってしまった。
楽しかったからこそ、虚しい。あの瞬間が終わってしまった事が。
「…もっと長く続けられたんだろうか…。」
「考えても仕方がねぇよ…。切り替えろ…ったってお前にゃ無理か。」
悶々と悩み続ける鈴花に対してディアベルスターはどう言葉を返せばいいのか分からなかった。
あれだけ熱望していたこれだけの大舞台での霊使との決闘。それを阻まれてしまったのだから、気が抜けてしまうのも仕方が無いような気がする。
ずっと気が抜けたままなのは張り合いがない―――が、ここまでコテンパンにされたのも久しぶりだ。
(オレもまだ慢心があったか…。)
鈴花はどうか分からないが―――ディアベルスターの中には確かに「勝てる」という慢心があった。
たかが植物と虫―――自身の力で簡単に御せると思っていた。
(…オレもまだまだだったか。)
「悔しいぃ!くーやーしーいー!」
(オレもあれだけ気楽になれりゃあ楽なんだろうがなぁ。)
といっても鈴花の中にも悔しいと思う気持ちはあるのだろう。
負ければ悔しい―――そんな当たり前のことも当たり前と思えなかった自分がどれだけ大きかったのか。
ここまで来たのに、頂に挑むことなく散っていった挑戦者たちは一体何を思っているのか。
どこまで行っても勝負は残酷だ。一度倒してしまえばそんな事を知る機会などはもうなくなってしまうのだから。
「今すぐカチコミかけてリベンジするー!」
「少しは落ち着けって!今それをやったら今後に迷惑がかかるだろうが!」
「終わるの待ってられないって!」
一方の鈴花はもう一戦やりたいとじたばたしている。いつの間にかいじけからは立ち直ったようだ。
ディアベルスターがいくら落ち着けと宥めても鈴花の癇癪は止まらなかった。―――それほど悔しかったのだろうが、だからといって控室でじたばたするのは如何なものなのだろうか。
本当に人がいなくてよかったと思う。
「絶対リベンジするからなぁーッ!」
いつかは必ずリベンジする。だが、今戦ったところでそれはもうさっきの戦いの二の舞を演じるだけだ。
とにかく、それはもう決定事項だ。変えるつもりはないし、一つ目標が出来たのもいい。
「うるせぇ!少しは落ち着けぇ!」
「悔しいだもん!」
「ああくそ…!凪!凪―ッ!当て身頼む!」
それはそれとして一度ぐずりだした鈴花はなかなか止まらない。
結果として、凪の当て身によって鈴花はその意識を刈り取られるのであった。
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(あっぶなかった…!)
奈楽は内心ひやひやしていた。自分の自覚していない油断や慢心で負けたとあったらフレシアの機嫌は急降下するところだっただろう。きっと今晩は「お仕置き」があったに違いない。
普段は優しい人のようにふるまうフレシアだが、こういう所で彼女本来の性質が見え隠れしている。
「むぅ…。」
当のフレシア本人は頬を膨らませていた。
今回は自分の非に気付いて何とか修正することができた。だが彼女からすれば「お楽しみ」が一つなくなってしまったという事になる。
それが原因なのか、それとも【俱利伽羅天童】の効果でなすすべなくリリースされたことがよほど悔しいのか、彼女は控室に戻ってからずっと不機嫌なままだ。
「勝ったんだからいい…とはいえないんだよね…。」
【俱利伽羅天童】―――今後は常にこのカードの存在を頭に入れてプレイすることになるだろう。【原始生命態ニビル】と違って発動する効果ではない【俱利伽羅天童】は【墓穴ホール】で効果を無効にすることはできない。
今後は不倶戴天の仇という事になってくる。
しかし問題はそのカードを忘れていたことで、「相手は使わないだろう」という妄想からその確信をしてしまった事である。
「反省しなくちゃあね…。」
今回の一件で自分がどれだけ驕っていたかを知ることができた。
「フレシアと一緒なら負けない」―――それだけでは足りないのだ。
「むぅ…。」
「一体なんでフレシアは頬を膨らませてるのさ…。」
「むすー…。」
本人もそれを自覚しているのか知らないが頬を膨らませたりと忙しそうにしている。
―――どうにかして彼女の機嫌を取る方法はないものだろうか。
「なんでそんなに不機嫌なのさ…?」
「なんでもないですよー。」
「あからさまに不機嫌なんだよねぇ。」
「別に…無理矢理リリースされたとか活躍の場をあの雌猫に奪われたとか…そういう事で怒ってるんじゃないですもん。」
どうやら彼女は自分の活躍の場が奪われたことに相当ご立腹のようだった。特に【俱利伽羅天童】の効果での蘇生先に選ばれなかったことに腹を立てているらしい。
だがフレシアはX素材を持つことで初めて機能するモンスターだ。X素材をもっていないフレシアは正直に言ってちょっと硬いかなー?くらいの壁でしかない。
「…何か失礼なこと考えてませんか?」
「何も?…さて、決勝だよ?」
これ以上追及されたら変なことをうっかり漏らしてしまいそうなので話を無理矢理変えることにした。
「露骨に話を逸らしましたね…。でもまあ、はい。」
話を変えたのはさすがにバレバレだったようだ。内容が内容だったおかげで彼女にこれ以上追及されることもなさそうなのが幸いではあるのだが。
それに、彼女も決勝と聞いて相当興奮しているようだ。
「くす…ええ、楽しみですとも。」
「それは良かった。」
彼女の目には既に
フレシアの顔は何処まで行っても捕食者としてのそれだった。
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時は少し戻って鈴花と奈楽のデュエルが決着したころ。
霊使は控室では無く、観客席の目立たないところで二人の戦いを観戦していた。
「…勝ったのは、やっぱり奈楽か。」
「分かってたの?」
結果を見て霊使は「やはり」と言葉を漏らす。ウィンはそれに対してまるで分っていたかのようだった、とびっくりしていた。
「簡単な話なんだよ。【スネークアイ】は単純に【蟲惑魔】と相性が悪いんだ。というか【蟲惑魔】と【ラビュリンス】の混合デッキに先攻を取られてまともに戦えるデッキの方が少ないと思う。どっちも先攻特化のデッキなわけだからな。」
「そっか。」
「あとはまあ…久しぶりだからかな。俺は…奈楽と戦いと思ったんだ。」
「うわぁ個人的な理由。」
いいだろ別に―――と霊使は恥ずかしそうに顔を逸らした。別に鈴花とデュエルしたくないわけでは無い。彼女にも勝ってほしかったとも思っている。
だが、それ以上に久しぶりに、奈楽とデュエルをしてみたいと強く思ったのだ。
「さて、行くか。」
「三位決定戦は?」
「鈴花さんが勝つ、絶対に。」
この後少しの休憩をはさんで、三位決定戦と―――クライマックスの決勝が行われる。
霊使いは心の底から楽しんでやると決めていた。
勝ち負けは問わない。まだ、人生には余裕があるのだから。
「行くか。」
「…ん。」
自然と距離が縮まる。
ウィンが傍にいるだけで心強いと思える。
そして、彼女とみんなと共に戦えることがこんなにも楽しい。
「さあ、決勝だ。」
口角が自然と上がっていく。
心臓が早鐘をうち、呼吸の感覚は少しずつ短くなっていく。どうやらこれからのデュエルの事を考えて少し興奮してしまったようだ。
「興奮してるね?」
「そりゃあ、まあ…そうだろ。強敵との戦いはいつだって血沸くものだろ?」
「少しも霊使は変わらないね。…楽しみなのは私も一緒だよ。だからね、霊使―――」
ウィンは少し走って霊使の前へと回り込む。
「今日も頑張ろうか?」
「ああ。いつも通りに勝利に導いてやるさ。」
「…ありがとう。」
そうして、霊使とウィンはいつもの通りに会場へと向かって行く。
これが二人のいつも通り。
そして―――決戦の舞台への扉は開かれたのであった。
登場人物紹介
・鈴花
じたばたしている
・ディアベルスター
心の何処かに慢心があったのかと疑っている。
・奈楽
フレシアの御機嫌を取っている
・フレシア
むくれている
・霊使
戦意ギラギラ
・ウィン
いつも通りに霊使のそばに
というわけで決勝戦、始まります
水樹君のデッキ強化
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ネクロス
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リチュア